蜜雨

数を数えるのはそれほど苦ではなかった。私は死体の凄惨な姿よりも、臭いに顔をしかめた。本当に、この時期は死体の腐食が早い。巨人ではない、人間の話だ。

蒸発する前にできる限り巨人の死体の数を把握し、記録することが最近の私の専らの仕事であった。ひとつひとつ、巨人は顔が違う。死んでいる場所と顔を覚え、まだ数えていない巨人ともう数えた巨人を区別して、立体機動装置を駆使してただひたすらに可及的速やかに数を数える。
人影を見つけた。ただの人影ではない。自由の翼と人類の希望を背負った大きくて、小さな背中の持ち主だった。私が隣に着地するとすぐに気付いた。
人間を分類し区別するのは得意だし、趣味でもあったと思う。彼は私にとってとても近しく重要でそれでいて唯一だった。

「それ、とあれ、どちらもリヴァイ兵長が殺った巨人ですね」
「…そんなの知るか」
「案外簡単に分かるものですよ、傷の角度とか深さや鋭さとか。特にリヴァイ兵長のなんて特徴的でわかりやすい」
「そんなので分かる奴なんざお前ぐらいだ」

そうですかね、と私は笑った。死体だらけで、ぎょろりとした複数の巨人の眼球は目蓋に隠されることなく私たちを光のない瞳で見ている気がした。多分、気のせいだとは思うけれど。

、あとどれぐらいで終わりそうだ」
「そうですねえ…あと二日くらいかと」
「遅い。あと一日でやれ」
「む、無茶振りはよして下さいよ!最低でも一日半は…」
「じゃあ一日半でやれ。あとの半日は休みにしてやるぞ」
「…っ頑張らせて頂きます…」

うまく兵長に言いくるめられた気もするが、しかし睡眠が私を待っている。

「お前は数ばかり数えて気が狂わないのか?」
「兵長が珍しく私の心配を「悪い。元から気は狂っていたな」
「…死体の臭いは大っきらいですけど、何かをきっちりとまとめたい性分なので別に苦だと思ったことはありませんよ?それに、巨人の多彩な死に顔は興味深いですし」
「前々から思っていたが、ハンジに似てきたなお前…」
「失礼な!真性のマッドであるハンジと一緒にしないでください!!」
「お前も大概にして失礼だぞ」

日が暮れてきた。この薄汚れた世界にもうつくしい太陽と月は交互に顔を出し、私たちを嘲っている。
この人は何をうつくしいと思い、何におそれるのだろうか。どこか遠くを見つめる兵長の瞳を私は簡単に美しいと思ってしまう。
思わず見詰めていたら兵長がいきなりこちらを振り返って顔を顰めていた。

「…なんだ?」
「なんでもありません」
「可笑しな奴だな」



いのちの初夜(リヴァイ)






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