「あなたの赤毛とそばかす、とっても魅力的よ」
私は人通りの少ない廊下でリヴァイよりも小さいであろう自分の部下の頭を撫でながら、根気良く励まし続け、無駄な勇気を与える作業をしていた。数十分この作業を続けているが、未だに俯いてぐずぐずとまごついている彼女に向かってもう一度口を開いた。
「欠点は魅力の一つなのよ。隠そうとしないで、うまく使いこなせばいいの。あなたの赤毛と白い肌にそばかす、私好きよ」
私は今とても不毛な言葉をつらつら並べている気がする。それで彼女が満足して一歩でも踏み出してくれれば、この果てしない戦いもようやく終結を迎えられる。そろそろ私も疲れてきた。後でリヴァイに肩でも揉んでもらわないと割に合わない。
「そ、それじゃ、わた、わたしっ、いってきます!」
「ええ、がんばってね」
ひらひらと手を振ると彼女はぺこりとお辞儀をして、私が預けた書類を抱えてリヴァイのいる執務室へと向かった。
リヴァイは小柄な体格に似合わず態度は大きく、いつも無愛想な顔をして粗野な口調だが、精悍な顔つきにしなやかな筋肉、地位はもちろん人類最強に見合った自信や人望、意外と部下思いな所や仲間を信じる男らしい一面もある。そう、要はモテるのだ。
先程の彼女も好意を寄せるその一人で、調査兵団の事務処理を担っており、つい先日重い書類を持っていた所を半分といわず全部持って事務室まで運んでくれたリヴァイに一目惚れしたらしい。
単純で無垢な感情であった。退屈過ぎてため息がでる。
「私だったら迷わずエルヴィンを選ぶわ」
あれとまともに付き合える人間はごくわずかだと思う。
私は再びため息を吐いて、自室で残りの昼休みを本でも読んで過ごそうと思った。
リヴァイは休まずに仕事をして、あの子の話でも聞いてあげてるかな。まあ、もう私には関係ないけど。興味を失った私はあの子とは逆方向へと歩いた。
昼休み終了五分前だった。こつこつと軽快な足音が確実にこちらに近づいていた。何か目的があるような迷いの無い真っ直ぐな進み方だったため、すぐに誰かは察しがついた。音が止んで、ノックもせずにそれは入って来た。
「レディの部屋にノックなしで侵入とは随分な男ね、リヴァイ」
本から顔を上げずにコーヒーを啜る。リヴァイはまるで耳が付いていないような振る舞いで私の言葉を無視して足早に目の前まできた。まだ私は彼を瞳に映さない。
「何か用かしら?それとも書類に「不備があるのはお前の腐った脳ミソと性格だ」
「ただ私はかわいい部下の恋を応援しただけよ」
「っは!そりゃ部下もかわいそうなこったな。俺にこっぴどくフられるのわかっててわざわざ上司はご丁寧に戦地に送り出すんだもんな」
「あら、装備は完璧よ。赤毛のそばかすの可愛い女の子が私の書類を口実にリヴァイ兵士長様の所へ行き、慎み深い彼女はそっと手紙を書類とともに置いていく。決して絶望的ではないわ」
「目敏いリヴァイ兵士長様は手紙を早急に発見し、読みもせず赤毛の女の目の前で破り捨て、悪いが俺はお前にミジンコ程の興味もねぇと言って、泣き崩れたそいつを放ってそのまま自分の女の部屋に来たとしてもか?」
そんな酷いこと言ったの?、と私は肩を竦めた。本はとっくに取り上げられ、無残にも床に打ち捨てられていた。
顎を強引に掴まれ、強制的にリヴァイの方を見る羽目になった。椅子に座っているせいでこのミジンコ並みの男を見上げる形になっているが、本来ならば私と彼にはそれなりの身長差がある。もちろん私の方が高い。
「もったいない。かわいい子だったのに」
「本気でそう思ってるんだったら今すぐお前の顎を外して無様な姿にしてやるよ」
「軽蔑する?」
「何に対してだ」
「あの子がこっぴどくリヴァイにフられる様を想像して優越感でほくそ笑む私に対して」
リヴァイの表情から怒りや苛立ちといった色が消え、今度は生ゴミでも見るような瞳で私を見た。
「むしろお前はそういう女だろ、何を今更…」
心底呆れているようだった。私も真面目を取り繕った表情を崩す。
顎を掴んでいたリヴァイの親指が私の少しだけかさついた唇をなぞった。焦っていたのだろうか。リヴァイが私以外の女に興味を持つはずがないと、ましてや他の女に触れてキスやセックスをするなんてことは考えられない。まともな神経で私のねじ曲がった根性についてこれる人間なんてこの世にただ一人だけ。けれど、一抹の不安がよぎる時がある。そんな時に私は他の女をリヴァイに宛がって試すのだ。そうして理解する。ああ、やっぱり私にはこの人だけ、この人も私だけだ、と。
「ねえ、私って馬鹿でしょう?」
「ああ、馬鹿だ。気違いだ。狂ってる――だが、俺は以上の女を見た時がない」
「ええ、私もよ――リヴァイ」
潔く愛する(リヴァイ)
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