蜜雨

時々あなたの背中が小さく見える。きっと私の気のせいだと思っていた。けれど、違かった。

…………っ」

こんなにもあなたは泣きそうになっているのに、みんなの前じゃ無敵を演じている。無敵になればなるほど、あなたは私の前で弱く脆くなってゆく。

……オレを、……っ、オレだけを見てくれ……!」

無敵のダンデに決して迷いはないけれど、ただの男のダンデには迷いに揺れる弱く潤んだ双眸が在る。

「頼むからオレだけを愛してくれ」

縋るような声と、数々の勝利を掴んできた指で私は拘束され、ダンデは勝ち続ける伝説に妄執されていた。

「オレを受け入れてくれ」

誰が見放すものか。たとえあなたの元から勝利の女神が去ろうとも、世界中のトレーナーの憧れが崩れ去ろうとも、私はあなたを捨てたりなど決してしない。



どうしてもあなたは繋ぎとめようとするように私の名を呼ぶ。



ひとつになろうと繋がりを求める。それが愚かな行為であろうとも、ダンデは隙間を埋めるように私を自身に流し込もうとする。



逞しい器に強靭な魂が入っている。それでも、絶対的な無敵を誇示するには足りないのだ。無敵を強調するために生やした髭も、無敵の象徴として君臨する決めポーズも、絶対に負けられないと常に追い詰められるスポンサー付きのマントも、こんなダンデを知っている私には強がりにしか、今にも壊れてしまいそうにしか見えない。



愛の神託(あなたはただ、挑戦者になりたかっただけなのにね)






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