「菊の花ってね、暗闇のない場所では花はおろか蕾すらできないんだって」
狭苦しく薄暗い部屋で寄り添うように密着してしまえば、とふたり取り残された世界が出来上がる。彼女は生死を確認するように心臓へ耳を当てながら、先程まで俺が愛でていた唇を滑らせる。この静かで乾いた時間を俺はなかなかに気に入っていた。
「暗闇の長さで季節を感じて咲くのだけれど、ずっと暗闇にいるあなたはいつ花開くのでしょうね?」
俺が吸っていた煙草をひょいと摘み上げ、灰皿に押しつける。の冷たく細い指先がその煙草から離れると、まるで熱を失った死人のようにぱたりと倒れた。きっと俺も遅かれ早かれその無惨な姿になるだろう。
は煙草が嫌いだが、煙草を吸う俺のことは愛していた。果たして彼女は地獄の特等席まで花を手向けに来てくれるのだろうか。
死んでからの楽しみがあるなんて、上等な人生よ。
葬列(菊田特務曹長)
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