蜜雨

※現パロ






 死ぬために生きているのか、生きるために死ぬのかたまにわからなくなる。それでも人は朝起きてご飯を食べて生きている。毎日同じことを繰り返すということは、毎日同じだけ幸せを得ているということだ。

「ん……ひゃくくん、さむい……」

 少し体をずらすだけで被っている毛布の空いた隙間から、朝方特有の冷たい空気が流れ込んでくる。寒さに敏感なは寝惚けながらも眉を寄せ、俺に密着しつつ体を丸めた。はよく俺を猫のようだと揶揄するが、よっぽどの方が猫に近しく思う。だが、俺は決してを完全な猫にはさせない。猫は自分の死期を悟ると姿を隠してしまうからだ。そんなふざけた真似、俺が許すわけがない。

「ひゃくの、すけ……?」

 毛繕いをしてやるように柔らかな髪を梳けば、眠りが浅くなっていたの目蓋が薄っすらと開く。まだ寝ていろという意味を込めて薄い目蓋に唇を落とすと、へにゃりと力なく笑みを零して、また寝息を立て始めた。起きたら忘れてしまいそうなおぼつかない戯れを、これからも重ねていきたい。

、」

 す、き、だ。

 音を乗せず、ほんの僅かに口元を彷徨わせる。この言葉にどんな意味があるのか、いまだに俺はいまいちわからない。
 以前に好きだという明確な理由が言葉にできないくらい心の底から愛してると言われたことがあった。またこいつは何を言っているのだと思ったが、今ならそれが無償の愛だとわかる。惜しみなく与えられる愛情を受け取るだけの器は持ち合わせちゃいないが、俺の胸中に燻る重くどす黒く染まった愛情を一方通行にぶつけるくらいは出来る。

 人は生まれてくる前に神から寿命を教えられるらしい。自分の寿命を知ってもなお生まれ落ちる決意ができた赤ん坊だけがこの世に生を授かる。だからきっと俺はと一緒に死ぬのだろう。そうでなければここにはいない。臆病で慎重派である俺が、と死ぬ以外の運命を認めるはずがないのだから。






黎明(きれいな尾形)






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