僕はそのときはじめて僕たちが貧乏だったことに今更ながら気づいた。
普通の中流家庭ではたくわん一枚で白いご飯の一杯は軽く食せるのだとばっかり思っていた。
でもそれはどうやら僕の常識知らずだったらしく、僕は酷く自分の不甲斐無さに失望した。
僕の妻は一本何銭だかもわからないくらいのこまかなちりちりとした造花づくりのアルバイトをしているのだがどうやらそれも貧乏暇なしということをひっきりなしに伝えているようだ。
僕たちはちゃぶ台をはさんで向かい合って座っていた。音は近くにある冷蔵庫のごうんごうんという無機質で不気味な唸り声と、時々上からがたんがたんと電車が走る音で騒がしく僕たちの世界を壊そうとしていた。
もちろん冷蔵庫の中身はいつものたくわんが入っているだけだ。なんて冷蔵庫に優しいんだろうね、最近の人は冷蔵庫に物を入れすぎなんだよ、それに比べて僕たちはなんて偉いんだろうね、人間の手本になれるくらいだ。
どうしてだか無性にむなしくなった。どうしてだ。僕たちはこんなにも輝いているのに。(それはさながら地上の星のように)かぜのなかのすーばるー♪
僕たちは大富豪の中の大貧民だっていうのか、失敬だな。豆腐屋からもらってきたおからはおいしいことを知らない奴らにそんなことを言われる筋合いはないよ。
僕はとても耐えかえ難い羞恥をうけているみたいではないか。そんな馬鹿な!もくもくと作業を続けていた僕の妻のが顔を上げた。やけに頬がこけて見えた。顔がきゅうに見れなくなった。
こんなことは一度もなかったのに。だって僕はがだいだいだいだいだいすきだ。それなのに僕は。きゅうに頬なんてこけるはずないのに。それじゃあ前からの頬がこけていたのだろうか、そして少なからずの手は、働く女の手になっていた。
あってはならない罪悪感が僕をどうしようもなく冷や汗をかかせるのだ。僕たちは極貧?このあいだタンスの間に落とした10円玉をまだ気にしていたから僕はのことがまともに見れなかったのだろうか。それが10円でなく1円であればよかったのに。
そうしたら僕は妻を救えたかもしれないのに。
俗世間(雲雀)
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