塵の音をも許されぬ森がある。前世にゆく森だ。人も植物も動物も、命あるものの前世に行くのだ。
それも、おそろしいくらい、それこそ世界をぐるりと見渡せるくらい、ゆっくりと時間をかけて前世にさかのぼるのだ。
それはある意味万物を癒し、それはある意味絶望を味あわせる。哀惜の念にしばられて時間がゆっくりと経過していくんだそうだ。
嘘か真か摩耶かしかそれは知る由もない。
「蟲の音がする」
ギンコの瞳から、瞼の裏の裏からさらさらと蟲が、いや蟲に近い音がする。接吻を落とせば、また音が近づく。
歩けど歩けど森は深まるばかり。わたしたちはどこへ彷徨うのだろうか。
もしくは世界の成り果てを、この眼前に焼き付けたいのだろうか。
世界が奏でる調べを、地球の皮膚を、わたしはギンコへと捧げたい。蟲たちがざわめく。
ああ、ここの森もじきに変わってしまう。また移動しなければ。
「、いこう」
「そうね。ギンコ、この世界はうつくしいのかしら?ギンコの眼には世界はどううつっているの?」
「・・・すくなくとも、この森はうつくしいよ・・・」
「そう・・・」
音を喰う蟲はこのときばかりはわたしたちの声を喰わなかった。わたしにはそれすらうつくしく思えた。
耳をすます、蟲を呼ぶ(ギンコ)
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