蜜雨

公園のそばで出会った男は王子様でも、当たり屋でもなく、建設会社の社長さんだった――

「へ?」

眉尻を下げ、涙を湛えて潤んだ瞳は一見可愛らしくもあるが、情けなく鼻水を啜れば一気に台無しになった。

「だから、ワシんとこに来おへんかって言ったんや、ちゃん」

黒のレザーパンツのポケットから、キャッチから貰ったティッシュを数枚取り出し、男の風貌からは想像がつかない程優しい手つきで涙と鼻水を拭う。

「どういう…ことですか…?」
「ワシはこれでも真島建設言う会社の社長でな、今ごっついプロジェクト抱えとって人手不足なんや」
「っで、でも私こんなですし…きっと社長さんがっかりしてしまいます…」
「なぁに言うとんのや!あないにキレのある蹴りかましといてがっかりやと?!ちゃんこそ、真島建設が必要としていた最高の人材や!!」

の頼りない両肩を掴んだ真島の雄叫びがビリビリと真正面から襲い掛かる。建築知識があり、男顔負けの腕っ節の強さ、おまけにおっぱいも大きいときた。ただの気弱なお嬢ちゃんかと思ってさっさと助けて、求人票を作りに行こうと思っていた真島にとったら嬉しい誤算だった。

「ほっ本当ですか…?最高の人材だなんて…そんな身に余るお言葉…」

嬉しいとはにかんだに真島は心臓をキュッと掴まれた気がした。その鼓動には気付かないふりして、誤魔化すように口を開く。

「それに…えらい可愛らしゅうパンツ見せてもろた責任も取らなな!」

ニヤリと口角を上げた真島が顔を覗き込むと、はみるみる顔を赤くして先ほどと同じように叫びながら真島の顔面に綺麗に右ストレートを決めたのだった。2人の男たちに混ざって3人目の男として倒れた真島が最後に呟いた言葉はピンクってええなあ…である。






セクハラにも屈しません






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