※痺れ薬使用。小スカあり。
「いい眺めだね、最高だ」
目の前の男は蕩けるような声を出した。何もかも狂っていやがる。
私はこの男【オリハライザヤ】に押し倒されていた。
私とこのオリハラの間柄は、殺し屋とその殺し屋に殺されるはずだったただの情報屋だ。
押し倒されていようが、それは決して甘い関係ではない。
私はのっぴきならない状態でほぞを噛むだけだった。
深夜2時33分。
何も知らずにぬくぬくと床に就いていたオリハラに銃口を向けた時間だ。
指をトリガーに引っ掛け、力を込めた。とここで、緊急事態発生。
いい子におねんねしていたオリハラが、いきなり目を開けて立ち上がったのだ。
ひるんだ私にタオルケットを頭から被せ、視界を奪った。
元から電気がついていなかった室内だが、オリハラの所為で更に暗闇が揺らぎないものとなった。
もがいている私の無防備な太腿に、ちくりと針が刺さった。オリハラが注射器で、ワケの分からない薬を私の体内に注入したようだ。
タオルケットを撥ね退け、注射器を抜く。だが薬はほとんど入り終わっていた。
舌打ちをして、オリハラに照準を定める。今度こそ殺してやる。
しかし、急に手足に痺れが襲った。みるみる全身を支配し、ついには立てなくなった。
商売道具のコルト・パイソンも滑り落としてしまう始末。
私は役立たずな女に成り下がった。
「すごい効き目だ。一瞬で人間を無力化しちゃったよ」
単調なトーンでオリハラは笑った。軽い足取りで室内の電気を付ける。
オリハラは床に眠るコルト・パイソンを遠くへと蹴飛ばし、座り込んでしまった私の肩を足で押した。
大した抵抗もできず、ごろんと亀のように冷たい床に背中を預けた。
オリハラは私の腹に跨って、乱暴に髪を引っ掴んだ。
「気分はどうだい、・さん?」
「さ、さぃ‥あくぉ」
最悪よ。
耳元で囁かれたのは愛でも罵詈雑言でもない。
ハウアーユー?How are you?ご機嫌いかが?日常会話だ。
日本語でするとひどく馬鹿にされている気分だ。いや、実際にしているのだろうこのオリハラは。
「口まで麻痺気味だね。赤ん坊と喋っているみたいだよ」
「しょ、…っそこ、までひゃ…じ、じゃないわ、ぉ」
「いや、それとも入れ歯の抜けた老人かな? まあ、どっちにしろ殺し屋じゃないけどね」
ムカつくほどよく舌が回る男だ。
オリハラは聞いてもいないのにべらべらと話を続けた。
私が来ることは四日前から知っていたということ。自分を殺す理由のこと。・という女のこと。その女の所属ファミリーのこと。
オリハラはよどみなく数日前から準備していた台本を読み上げた。
「・。性別女。生年月日1988年3月9日生まれ、22歳。身長164センチ、体重―――怖いなあ、そう睨まないでよ。
俺はただ脳に偶然刻まれていた君のプロフィールを言っているだけなんだからさ―――バスト88、ウェスト56、ヒップ87、ブラのサイズ…D。」
ポーカーフェイスをすでに捨て去っていた私は顔を真っ赤にして、力の抜けた腕を動かそうと躍起になっていた。
それを滑稽そうに悠然と見詰めるオリハラ。
「いやあ、君なかなか俺好みだよ、うん?」
「っぅ、ぐ、…ぃね、し、死ねノミ蟲!」
「やだなァ、シズちゃんみたいなこと言うね君」
「こぉす‥ろ、ッ殺、す!」
「…あ、怒った? なんでわかったかって?そりゃあ、情報屋じゃなくても男だったら女の顔色くらい読めなきゃね」
一人二役で芝居をやっているみたいだ。
オリハラは得意げに目を閉じ、私の髪を離した。地球の理に乗っかって、私の頭はまた床へと落ちた。
「ここまで見事に無力な女を見ると、男っていうのは何もせずにはいられないんだよね」
オリハラは喉の奥で笑いながら、私のジャケットのボタンを外し始めた。
…信じられない。こいつ、自分を殺しに来た女とセックスするつもりか?
オリハラはお粗末な鼻歌を歌いながら、ジャケットの下に着ていたキャミソールを捲り上げた。そのままブラも上へと押しやる。
「いい眺めだね、最高だ」
こっちは最低な気分だ。
外気に晒された頂きを躊躇なく口に含み、舌で捏ね繰り回された。
「ッ!‥ぅあ」
「萎えるなあ、我慢しないでよ」
唾液を含ませてぴちゃぴちゃと音を立て、執拗に右を攻める。
ねちっこい性格のオリハラは、案の定セックスもねちっこいようだ。
空いている手で、すでにぴんと上を向いている頂きをすり潰した。
「んぁ、っあ!」
「そうそう、その調子」
死ね死ね死ね死ね死ね…っっ!!
こんな状態でなければ即刻首の骨をへし折ってやるのに。
スカートのファスナーを丁寧におろされ、すっかり脱がせられた。オリハラはくたくたになった私の秘部に、慣らすこともせずに三本もの指を奥まで突っ込んだ。
「っああああああ!!!」
あっけなくイッてしまった。
赤信号青信号時時黄色。混濁した意識の中で点滅を繰り返す。星が一つ二つ、じゅ、と音を立てて散った。
オリハラもそして私自身吃驚してしまった。「痛がるのを期待したんだけど、まさかいきなりイッちゃうとはね」
それはそれで面白い。気を良くしたらしいオリハラは笑った。
「ずいぶんとお手軽な殺し屋だ。いや、娼婦の間違いかな」
オリハラは空気を含ませながら、ヂュプヂュプと指でナカを掻き乱す。
「ッひあ、!あぅ、は…ひゃめっ、ぁ!、やめなしぁ…ッ!!」
「ははっ、俺の指はよっぽどおいしいみたいだ。必死に締め付けてくる」
殺す殺す殺す殺す…っっ!!!
オリハラは殺意に満ちた私の瞳を見て、ただ嬉しそうに笑うだけだった。
「殺意というのは人間で最も醜く、最も美しい感情なんだ。君の殺意は合格だ。だが、身体の方は不合格だね。
だって俺を殺したいという気持ちがあるのならば、こんなに俺の指は汚れていないだろう?まあ、性欲とは人間の本質だから否定しないし、だからこそ俺は好きだよ。
率直にいえば気持ち良いしね。男も、いやいや女だって気持ち良くなれるだろう?」
「んひぃ、ッ!、…あぁあ!!」
オリハラは舌を振るって力説する。
その間もずっと指を動かし続け、私は喘ぎ声でほとんどオリハラの言葉を遮っていた。
「あっあ、っひあぁあぁああ!!」
今度は執拗に敏感になっている突起を弄られ、びくんと派手に仰け反ってイッてしまった。潮を吹いて。
「あっはははは、潮まで吹いちゃったよ! なに、そんなに気持ち良かったんだ?」
荒い息を繰り返すだけで返事はできなかった。
「ねえ、気持ち良かったの?」
ぐりぐりと突起を潰され「っや、あああ、んあっあ!…ひっ、ああぁぁあぁあ!!」ものの数秒でイッた。
「あれ、なにまたイッたの?これで何回目?ちょっとイキ過ぎなんじゃない?少しは耐えたら?」
やっと指を引き抜いたオリハラは、ぬらぬらと光る自分の指を見詰めた。
「おかしいな、アレは本当に痺れを催すだけのものだったのに―――間違って媚薬でも…ああ、いや参ったな君が淫乱なだけか」
わざとらしい台詞にカッと顔を紅潮させるが、オリハラはたいして気にした様子もなく、さっきまで私の下に突っ込んでいた指を口に無理矢理押し込んだ。
奥まで入れられた指に咽返るが、それで指を引っ込めるオリハラではない。そのことは十二分にわかっていた。
「どう、おいし?」
指を噛み切ってやろうかと思ったが、甘噛ぐらいにしかならなかった。
「あ、そうそう、さっきの注射―――あれ即効性の痺れ薬なんだけど…それには変な副作用があってねえ。
数分強い痺れを催した後、尿の排泄を促進する―――つまりは利尿作用なる効果が表れるんだってさ。そろそろなんじゃないかな」
そろそろって…どういうことだ。
本当に、これほどのキチガイには会ったことがない。きっとこれから先も、お目にかかることはないだろう。
「おしっこする頃には麻痺も弱くなっているはずだよ」
よかったね、と嘘くさい笑みを浮かべたこいつはとんだ変態だ。末期の方の。
呼吸をして、心臓を動かしている同じ人間だと思いたくない。
こいつは変態類ヘンタイ科だ。病院、もしくは葬儀屋を至急呼んできて欲しい。
オリハラは私に自分の指を咥えさせながら、下腹部を膝でぐりぐり押した。
「心優しい臨也クンが、ちゃあんとおしっこさせてあげよう」
子供のように無邪気な顔して人を地獄に落とす気だ。
感覚なんてすでに崩壊してしまっていた。噛みしめようとしても、口にはオリハラの指が入ったままだ。
力を溜めて我慢することは叶わない。
緩くなった入口に迫りくる尿意。ぐっぐ、と更に圧力が加えられる。
「だ、っだめ、ぇ!出ちゃ、…ああ、もっ、‥ぃやあ!!」
「人間、素直が一番だよ。大丈夫、誰だって排泄はするんだ。何を今更恥ずかしがってるんだい?」
「ひ、ッぐ…!死、ね、…っ死、死死ね死ね死ね死ねっっ!!!」
吼える。負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
滲む視界で薄っすらと、オリハラの厭らしい笑みが見えた気がした。
そして私はとうとうオリハラの前で―――失禁した。
「あっははははははは!!!すごい、すごくいい姿だ!最高だよ、、本当に、君は最高だ!!」
はじけた。頭がブッ飛んだ。オリハラは狂喜した。
「恥ずかしいかい?恥ずかしいのかい、ん?―――じゃあ止めてあげようか?」
オリハラはまだ排泄途中の私に、指を一本荒々しく突っ込んできた。
栓をされた私の穴は異物混入のため、排泄を強制的に中断させられた。
だが、麻痺した身体がそう簡単に言うことをきくはずもなく、その指の隙間から遠慮しがちにチロチロとまた尿を漏らし始めた。
「ッ!ぐ、ぅ…!!」
「ああ、もう我慢は終わり?見てみなよ、君のおしっこで俺は手首までぐっしょぐしょだよ」
収縮を繰り返し、呑み込んでいる指を優しく、時には激しく挟み込んでいた。「ん、っく、はぁ…あぅ…ッん!」
「いやあ、。気持ち良かったかい?」
「さ、さぃ‥てー」
この、ド変態が。
私が詰れば詰るほど、オリハラは恍惚とした表情で私を見詰めるのだ。
痺れが段々取れてきたのが分かる。あと数分でこいつの首を絞められる。いや、もっと痛めつけてやりたい。
殴って歯を折って、切り刻んで目ん玉くりぬいて、耳を削ぎ落として、そしてそして手足の爪全部剥がして、五臓六腑全て引き抜いてぐちゃぐちゃにして、脳みそもぶちまけて、原形を留めないように―――最後は消し炭にしてやる。
「痺れも取れてきたころだね。さて、じゃあ本題に移るとしよう。これを見るんだ」
本題?何のことだ。
眉を顰める私に、一枚の紙を目の前に突きつけた。
ミスターイザヤ・オリハラ。手書きの文字に、ボスの印まで押されている。
この筆跡も間違いなくボスのものだった。「どういう意味か、分かる?」
つまりはこういうことだ。
オリハラは私のファミリーの最高機密クラスの情報を入手した。
私の任務はその情報の漏洩阻止のため、オリハラを可及的速やかに抹殺し、そしてオリハラの持つ情報全てを焼き払うことだった。
その気配に逸早く気づいたオリハラは、その手の対処には慣れていた。その情報を盾に、上手くビジネスに持ち込んだのだ。
オリハラはファミリーに有利な条件を持ち出して取引をし、かつ定期的にファミリーに有益な情報を優先的に流すことも約束したのだ。
その行動はとても慎重で、丁寧であった。少しでも隙を見せれば、取引後すぐにでもファミリー総出でオリハラを消しにかかるだろう。だが、任務を任されたのは私ただ一人。
オリハラは両手を広げ、異臭を放つ室内を漫ろ歩きする。
「君はね、ファミリーに売られたんだ。俺は君のファミリーに聞いた。殺し屋で面白い女はいないか、と。そうしたら君が送られてきたのさ。
莫大な金と情報と引き換えに、俺が欲したのは君みたいな人間ただ一人。もちろん君のボスは快諾した。とても《優秀》な部下を送ると笑っていたよ」
俺の予想以上に優秀すぎて笑いが止まらないんだけどね。
オリハラは瞳を爛々とさせていた。「どうだい、面白い話だったろう?」
ちゃんちゃらおかしい。まるで猿芝居だ。
オリハラはなだらかな坂を滑るように、最後の結末まで演じて魅せた。
何も知らない振りをして、来訪した殺し屋の女とセックスをして、真実をきれいに語って魅せた。
さて、女はこれからどんな運命を迎えるのだろうか。しかしここで幕間。