「いっ!?タツヤ、もっと優しくしてよ」
「あ…ああ。うん、ごめん」
平常心平常心。冷静に、俺は、の傷に、消毒を、施している。そう、冷静に。
今日の海でしたバスケは始終試合を支配していたが、その所為か後半アイツらのラフプレーが目立った。
日本人の中でも小柄なは、当然こちらでは更に小さく見える。
そのが大柄な男とのぶつかり合いで勝てるわけもなく、ふっ飛ばされた時にできた膝の傷に軟膏を塗ってやる。
この傷の仕返しはもちろん俺とタイガできっちりとしたが、まだイライラする。
幼い頃からの兄であるなつるさんとアレックスが、の最大の弱点であるフィジカルの弱さを克服できるようにと荒々しいラフプレーもしてきたのだから慣れてはいるみたいだが、やはりこんな傷を作らせてしまった自分が情けない。
「久しぶりにあんな派手に転んだなぁ…前は鼻血出した程度だったし」
「…鼻血?」
「(出たっっタツヤの必殺氷の微笑み!!)え、ええと、そのう…」
大抵の事ははきはきと喋るだが、今回ばかりはどうも違うらしい。
「?」
「(ダイヤモンドダスト…っっ!!)たまたま男バスに勝負挑まれたとき接触プレーがあって…その、ちょっとだけね、鼻血がね、出たってだけで…ね」
尻すぼみに言葉が小さくなって、ちらちらとこちらの様子をうかがっている。
「その男ってまだ生きてるの?」
「何その確認!?多分ていうか確実に生きてると思うよっ?!!」
バスケに接触プレーなんて付きものだし、ある程度は黙認しなければならない。
でも、俺は大切な女の子が鼻血を垂らしてかつその男がそんなを見て万が一にも惚れてしまっていたらと思うとどうにも腹の虫がおさまらない。
ベッドに腰掛けて俺になんの警戒心も抱かずに惜しげもなく足をさらけ出しているの太腿にちゅっと音をたててキスを落とす。ああ、一秒でも早くを俺のものにしたい。
そんな衝動を抑えての隣に座って、があまり好きではないというバスケの所為で硬くなった掌にまた音をたててキスをする。
は不思議そうな顔をして俺のされるがままだ。その掌の硬い皮膚も、膝の傷も、まとめて愛してる。
「やっぱりタツヤ変」
「どうして?」
「前はこんなキスしてこなかった」
「俺にキスされるのイヤだった?」
「んーん、ただ珍しいなって思っただけ」
失って初めて気づくことがあるとよく言われるが、本当にその通りだと自覚したまでだ。
のご両親が亡くなってから、は生気のない顔でバスケもせずただぼうっと日々を過ごしていた。
そんなに対して俺は好きだとか愛してるだとか囁けるはずもなく、挨拶でする程度のキスやハグすらも憚られた。
俺とタイガでを必死になって立ち直らせて、さあこれからだと思った矢先にはご両親の故郷である日本へと行ってしまった。
長期休暇しかこっちに戻ってこれなくなった好きな女の子に対して、俺は今できる精一杯のアプローチをしているだけだ。
日本の、をよくも知らないような下郎にみすみすを渡すようなことは絶対に避けたい。
だからこそ俺はこうやって今までできなかったことをして、今まで言いたかったけど言えなかった言葉をたくさん言いたいんだ。
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