蜜雨

『Happy birthday to you,Happy birthday to you,Happy birthday, dearTAIGAandALEX,Happy birthday to you!』

部屋を暗くして、ロウソクを灯して、歌を歌って、仕上げにロウソクの火を吹き消して拍手。 当たり前のことだけど、これをやるのとやらないのとじゃ誕生日らしさが全然違ってくるのだ。 ちなみにケーキはわたしとお兄ちゃんでつくりました。え?タツヤ?…見た目はね、それはもう美しい仕上がりなのに、絶対おいしいでしょってこれでおいしくなかったら詐欺だっていうくらいの出来栄えなんだよ。詐欺だよねアレ。食べたら気が遠くなった思い出はいまだに忘れられない。

「タイガにはわたしとタツヤからジャージ一式で、アレックスにはジャパニーズアニメーションのDVD-BOXとじいちゃんからおすすめ時代劇のDVD!」

はいっと渡すと2人の顔が嬉しそうに綻んだ。こっちまでそのハッピーが伝わってくるから誕生日ってしあわせ! 生まれてきてくれてありがとう、タイガ、アレックス!ほっぺにちゅーをしたらアレックスは唇にしてくれた。倍返しだそうだ。

「え…っと、っありがとな!」

アレックスの真似なのかタイガも唇にしてきてちょっとびっくりした。 あれぇ、タイガこういうのは苦手じゃなかったっけ。

「どっせーーーーーーーーい!!!!!!!!」
「うわっお兄ちゃんびっくりした!!ていうかほんとその掛け声好きだねみんな」

アレックスが言ってるの聞いたことないけど。 あれかな、男子にありがちのなんていうか、女子には理解できないけどなぜか男子はすごく楽しそうなくだらない遊びか何かなのかな。
わたしは後ろに飛ばされた所にちょうどソファがあったから助かったけど、タイガなんてテーブルに頭ぶつけて床にお尻もぶつけてダブルパンチだよ、せっかくのお誕生日様なのに。

「どいつもこいつも日本人らしい慎ましさはないんか…っっ!!!」
「なつるさん、郷に入っては郷に従え、ですよ」
「おっおうタツヤお前この間逮捕されてた殺人鬼みたいな顔してるぞあの16人も殺したっていう…」

えっなにそれこわいとタツヤの顔を覗きこめば、いつもとかわらない笑顔でいた。おお…イケメンだ。

「お兄の嘘つき。タツヤ変わらずイケメンだよ。なんだよ殺人鬼って」
「おまっほんっとおまっ男たぶらかすのもいい加減にしろよっ!?タツヤもう言葉で表現できる範疇を超える顔してるからな?!!」

なにそれ。
わたしはお兄をほっといて頭をさすってるタイガのところへ歩み寄った。

「タイガー、大丈夫?なんかごめんね、うちのバカ兄貴がとんだ粗相を…」
「あ…ああ…」
「Kiss it better.」

キスしたら良くなるよ。
これはアレックスの受け売り。少し硬めの髪を撫でつけてテーブルに打ちつけた頭にちゅっと音を立ててキスをする。 ケガをするたびにアレックスがよくやってくれたのだ。

「なつるさん、今すぐオレを殴って下さい。できるだけによく見えるように」
「むしろ俺はタイガを殴りたい」
「それは同感です。でも俺もに心配されながらあんな風にキスされたい」

2人して何か真剣な顔して喋ってるから放っておこう。
さっきのお詫びにタイガに大量の料理を取り分けてあげると、リスみたいにすごい勢いで食べるもんだから、こっちも作ったかいがあった。ほんと、おいしそうに食べるなぁ。 バスケやってるときのタイガもいいけど、食べてるときのタイガはなんだかかわいくて好きだ。

「なつる、そろそろ…いいんじゃないか?」
「えっえーあー…そうだな。今日報告しようって俺が言ったんだもんな」

なんかいろいろごたごたがあったけれど(あのあとザルのくせに酔っぱらったとか明らかに嘘ついてるアレックスがキス魔になって誰彼構わずチューするということがあったけれど)料理もケーキも全部空っぽになって、気がすんだのか大人しくワインを傾けているアレックスとお兄ちゃんがおもむろに口を開いた。

「報告?なに?」
「俺たち、結婚するんだ」


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