蜜雨

今日はとてつもなく最悪な日だ。
学校行く前にコンビニに寄って新発売のまいう棒を買おうと思ったらなかったし、授業で当てられるし、お菓子は没収されたし、日直の雑用は押し付けられるし、なんかもういろいろ最悪。
これから教室でひとり黙々と資料作成とかマジやってられないし。つかお菓子もないのにそんな拷問やらされたらオレ死ぬかも。

「ふわっ?!!」

あれ、なんか蹴った。っていうかぶつかった?ふっとんだ?
少し先にはちっちゃい女子が転んでいて、そのまわりには見たことがない色とりどりのお菓子が散乱してた。おかし!
無意識にお菓子に手を伸ばしていたみたいで、今度は資料が廊下にべしゃあと広がった。

「あ」
「えええええっ今度はなに?!!」

転がっていた女子は突然オレにぶつかられるし、頭上に紙が降ってくるしで起き上れずにいた。

「…どうしてこうなった…」

紙の襲来が終わるとちっちゃいのはゆらりと起き上ってこの惨状を目にしてそう呟いた。

「ねー、このお菓子アンタの?」
「は?」

足の踏み場もないくらいに廊下に紙が散らばっていたけど、それをよけて歩くつもりはなく、オレはそのままちっちゃいのに近づいて目の前にずいっとお菓子を見せた。
ちっちゃいのは面食らったのかちょっと後ずさりをしてオレを見上げた。どうでもいいけどその首の角度めっちゃつかれそう。

「わたしのだけ、ど…あの…あげる?(よだれときらきらの目が…わかりやすいなぁ)」
「わー!まじ?ありがとー」
「あの、それはいいんだけど…ここ片づけない?」
「おかし食べながらでいいんだったら手伝うー」
「(えっ手伝うとかじゃなくてこうなったのお前のせいじゃね?)」

結局紙袋に入ってたお菓子を全部もらうことに成功して、オレがどれから食べようかとお菓子を吟味している間にぜんぶちっちゃいのが紙を集めてまとめてくれていた。

「これでぜんぶかな。それじゃ、わたしはかえ「ねぇー、名前なんていうの?」
…だけど」
「じゃあちんね。オレ紫原敦ー」
「むりゃ…?え?なに?てかちんてなに?」
「むらさきばらあつしー」
「むらっ…むらしゃ……アツシくんでお願いします」

ちんにむらさきばらは難易度が高かったみたい。

「それでねアツシくん、わたしかえ「ちんも一緒にオレとお菓子食べよーよー」
「は、えっ、ちょ、っとおおぉぉおお!!!!!」

なんか言ってるちんを脇に抱えてお菓子の入った紙袋を手首にぶら下げ、ちんの集めてくれた資料を両手に持って教室に向かった。

「…どうしてこうなった…」

本日2回目の呟きだった。
机を向かい合わせにくっつけてオレは自分の席に座って、その向かいにちんを座らせて資料は別の席によかしてまずはお菓子を広げた。あぁ~しあわせ。

「アツシくん、その資料なんかしないといけないんじゃないの?」
「えー?あー…うんー?」
「お菓子取り上げるよ?」
「えぇー?ちんまで赤ちんみたいなこと言うー」
「赤ちん?なにそれ?」
「赤ちんは赤ちんだよー」
「………日本語って…難しい…っ」

なんか目の前でうなだれてるからとりあえず汚れてない方の手で頭を撫でといた。
ちんは背もちっちゃければ頭も手もちっちゃいなぁ。

「これって全部外国のお菓子?オレはじめて食べるかもー」
「そうなの?あっそれおいしくない?マーブルチョコが入ったクッキー」
「あ、ほんとだこれおいしー」

普段食べてるのとは違った味がしてこれはこれでおいしい。ちんもなんだかんだいいながらつまんでいる。よかった、また資料がうんにゃらとか言い出したらめんどくさいもんね。

「アツシくんてそんなお菓子好きなの?」
「お菓子は正義ー」
「?? うん…?(なんだろう…アツシくんの言葉には高度な読解力を要求されている気がする…)」
「これでまいう棒の新味が食べれたらなぁ…」
「まいう棒の新味?それってこれ?」

ちんはポッケからオレの探し求めていたまいう棒(ピクルス味)を取り出した。

「今日友だちからもらったのまだ食べてなかったからあげる」
「まじちんだいすきっっっっ!!!!!!!!!!」

身を乗り出してちんを抱きしめたらぱきって音がした気がしたけどたぶん気のせいきっと気のせい。ついでにぐえってカエルがつぶれたような声も聞こえたけどそれも気のせい。

「けどっ!まずはその資料どうにかしてからね」
「ええーちんのおにーばかーちびー」
「よし、いただきます」
「ちょっ、オレにくれるっていったじゃん!!!!!!」
「黙れでかぶつお前の足を切ってわたしの足にくっつけるぞ」
「…えぐい」

今後滅多なことでちんにチビは言わないでおこう。本当にまいう棒食べられるとこだったし。目がマジだったもん、ちん。

「いまさらだけど、アツシくんて部活とか入ってないの?これ終わるの結構遅くなりそうだけど大丈夫?」

ぱちん。
資料を順番通りに重ねてホチキス止めをする。オレも手伝おうとしたけど、お菓子のカス落としたり手がべたべただったりと問題があったのでちんがてきぱきと作業してくれた。
オレはそれを眺めながら甘いチョコとしょっぱいポテチを交互に食べていた。

「んー…まぁだいじょぶ?いざとなったら赤ちんがなんとかしてくれるっしょ」
「だからその赤ちんてなに…」
「オレと同じバスケ部のひとー」
「アツシくんバスケ部かぁ。……赤ちんて征く…もしかして赤司征十郎ってひとのことだったりする?」
「あれ?ちん赤ちん知ってんの?」
「知ってるもなにも「敦…ここで何してるんだ?」

教室のドアを開けて真っ直ぐとオレを見据える赤い瞳がちん越しに見えた。

「赤ちん…っ!」
「敦…ただ雑用を頼まれていただけならまだ許せる…が、なぜそれをにやらせているんだ?」
「…ごめんなさい…」

赤ちんこっわ!こっわ!

「せ、征くんっ雑用はあたしがやらなくていいってアツシくんに「は敦を甘やかしすぎだ。だいたい練習を無断で遅刻という時点で大問題だというのに…」
「…ごめんなさい…」

ちんは小さい身体をさらに小さくちぢこませてしゅんとしてる。オレが悪いのにちんまで怒られちゃった。ちょっとざいあくかん。

「頼まれた雑用すらのん気にお菓子を食べてサボっているなんて2軍に降格ものだな」
「えっそれはやだ!!!!!赤ちんオレまじめにやるからゆるしてっっ」
「じゃあまずお菓子を片づけて手を洗ってこい」
「うんわかったー!」

急いでお菓子を片づけて廊下の水道で手を洗いに行く。

「…征くん、なんかごめんね…」
「いや、悪いのは敦であってじゃないよ。それよりも俺はがアツシくんと呼んでいるのが気になったんだけど」
「それはわたしがアツシくんの名字が言えなかっただけで…」
「あっちに行って帰ってきたらまた日本語が不自由になったな」
「うん…日本語って、ほんと難しい…」


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