蜜雨

「今日の最下位は…ごめんなさい、かに座のあなたです!」
「やるべきことがたまっていても、効率良く片づけられない日。小さい子と一緒にいると運気が上がるかも!気分転換に外食をするのも吉」
「そんなあなたのラッキーアイテムはボードゲームです!」

ボードゲームは赤司と指そうと思ってた将棋があるからいいとして、小さい子とは年齢のことなのか身長のことなのかはっきりさせてくれおは朝占い。
だが幼い子供だった場合いろいろと問題があるからきっと身長的に小さいという解釈でいいのだろう。
うちの学校で最も小さい人間を捜し、今日一日俺と一緒にいてくれるよう頼むしかないな。朝練ついでにバスケ部の誰かに聞いてみるか。

「うちの学校で一番ちっせー奴?」
「ああ。小さければ小さいほどいいのだが…」
「緑間が珍しくオレに話しかけてきたと思ったらまたあの変な占いか?」
「変ではない。おは朝占いだ!…それで、誰か思い当たる人間を知らないか?」
「あー…そうだな。とんでもなくチビでバスケがうめー奴ならひとり知ってるな」

ほう。アホと思っていたが青峰もたまには役に立つものだな。
こんな早くに朝練に来ていたのは青峰のみだった。他の部員はあともう少し時間が経たなければ来ないだろう。
本当にバスケに関しては真面目というかただのバスケバカというか、そこだけは青峰を見直す点である。

「けど…」
「けど?」
「名前しらねー。一年の髪の長い女ってのは確実なんだけどよ」

そういやあんとき聞くの忘れてたわ、と呟く青峰をこれほど殴りたいと思ったことはない。だからお前はアホなのだよ青峰!

「学校で一番身長が小さい人間、か…」
「お前なら知っているだろうと思ってな、赤司」
「…残念ながら俺は知らないな。他をあたってくれ」

あの赤司でも知らないことがあるのだな。だが、いつもよりもやけに声が冷たく聞こえたのは気の迷いだろうか。
これ以上追及するのは無意味なので、ぞくぞくと朝練に顔を出す他の部員に聞くとする。

「えー?ちっちゃい子ー?オレからしたらみんなちいさいし」
「そういうことを言っているのではないのだよ。その中でも群を抜いた小さい人間を探しているのだよ」
ちん」
「は?」
ちんはちっちゃくてかわいーオレにお菓子くれたし」

あまり期待もせずに紫原に聞いたが、他の人間よりは幾分かマシな情報を得られた。
紫原の興味のあることなんてお菓子以外にないと思っていたが、まさか紫原から女子の名前が出るとは思わなかった。

「それで、そのという女子の名字は?」
ちんはちんー」
「…つまり覚えてないのだな…クラスはわかるか?」

クラスと名前さえ教えてもらえばこちらもすぐに探すことができる。

「えーしんない。赤ちんに聞けばわかるんじゃない?ちんと仲良さそうだったし」
「赤司が…?」

あの赤司が女子と仲が良いというのはあまり想像ができないが、紫原から見てもそう見えるのだったら嘘ではないのかもしれない。
それよりも、赤司め。やはり知っていたではないか。それともそのという名の女子は学校で最も小さいわけではないのか。

「赤司」
「っち。敦も余計なことを…」
「…ということはそのという女子が校内で一番小さいのか?」
「さぁ?それは自分で調べるんだね、真太郎」

さっきのは気の迷いではなかったらしく、本当に赤司の声は冷たかった。
このままでは埒が明かないので大人しく朝練に専念することにする。第一候補はとりあえずという女子にして、あとはクラスの人間にも聞くしかない。

「池ちゃん!ほんっとごめん寝坊した!!!」

あまり調子の上がらない状態での朝練はあまりいいものではなく、シュートの成功率も悪かった。早く学校一低身長な人間を捜さなくては。
一足先に着替え終わって靴を履き換えようと体育館の入口に行ったら、バスケ部と同じく朝練に来ていたバレー部らしき女子と小柄な女子が喋っているのが見えた。
本当に小さい。理想的な小ささだ。もしかしたらこの女子がというのではと淡い期待を抱く。

「いいよいいよ、これから学校一のねぼすけチビって呼ぶから」
「いいよいいよって全然よくないし!だからごめんってば!!」
「朝練までにサポーター届けてくれるって言ったのはどこの誰だっけ~?」
「はいはい学校一チビでねぼすけなですよっ!」

まさか本当にそうだとは。やはりこの女子に運気上昇の傾向があるから俺の目の前に自ら訪れてくれたのではないかとあまりの自分の幸運に思ってしまった。
俺は迷わずそのに歩み寄り、じっと全身を見た。この小ささに勝てる者がこの学校にいるはずもないと確信を持てるほどの小ささだ。
下手すると俺や紫原なんかの視界に映らないかもしれない。

「お前が学校で一番小さいか」
「は?」
「っぷ…あっははは!ちょ、あんたどんだけちっこいので有名なの?!」
「池ちゃんうっさい!…ちょっと!喧嘩売ってんの?!でかいのがそんなにえらいか!チビに人権が必要ないとでも?!」

話しかけただけでいきなり睨みつけられてしまった。隣にいる女子にしては背の高い奴はいまだにひーひー笑っている。なぜ俺はあんな一言でこんなにも怒られているのだ。

「いや、俺が人事を尽くす為にはお前のその奇跡的な小ささが必要なのだ。小さければ小さいほど幸運なことはない。別に恥じることはないのだよ、今日の俺にとってお前のその他者を圧倒するまでの小さ「それ以上喋ったらその下睫毛引きちぎる」
「なっなんなのだよ!俺はいかにお前のその小ささが人の役に立っているということを「よーしそこを動くな今からその眼鏡を割って下睫毛引きちぎる」
「こらこら、やめなって。アンタが怒っても校内一小さい称号はゆるぎないもんなんだから……ぷふっ」
「池ちゃん…腰から上と下、どっちをわたしにくれるの?」
「…目が、マジなんだけど…」

なぜああも怒り狂っていたのか理解できなかったが、小池(というらしい)がを抑えつけてくれて、落ち着いて話ができるようになった。

「…つまり、おは朝占いで最下位だったから運気を上げるために小さい人を捜してて、ちょうどわたしを見つけたってことね」
「その通りなのだよ」
「事情はわかったけど…なんでそこまでするの?」
「人事を尽くして天命を待つ、という言葉がある。万全を尽くせばそれに見合う結果が付いて来るというわけだ。だから俺のシュートは絶対に落ちん!」

は俺の言葉を口を開けて聞いていたが、やがてにっと笑った。


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