夏休みに戦ったアイツは今日は緑間のラッキーアイテムを手にベンチに座ってバスケ部の練習を見ていた。
真剣な目をしてブツブツ何か言ったかと思えば、ディフェンスを切り込んでブロックを物ともせずシュートを決めれば立ち上がって笑顔でナイッシューと声を出して、バスケを見るアイツは本当に楽しそうだった。
バスケにかける情熱があってこそあんな表情ができるのだと思うと、他の着飾った女子とはまったく違う感じがした。
女子の場合誰がカッコいいとかしか眼中にねぇから、プレイを見てあーだこーだするはなんだか新鮮だった。
「あおみねあおみねっ!!!」
「あ?」
今日はさつきのまっずいスポドリが配られる日だから先に体育館外の水道に行って水分補給している時だった。
はひょっこりと体育館から顔を出してオレに駆け寄ってきた。
「やっぱりすごいね!征くんもあっくんも真ちゃんもすごかったけど、青峰がいちばん輝いてたよ!!さっきの先輩がブロックした時にしたフェイントが特に良かった!!あとね、あとねっ」
オレですらもうすでに忘れているプレイを逐一どこがどうだったか細かく分析して自分だったらこうしたとかあれは自分も今度試してみるとか、興奮しきった顔でぴょんぴょん飛び跳ねながら話す姿が素直にかわいいと思えてきて照れくさくなって思わずの顔を覆った。
ホントは口だけを覆うつもりがオレの手がでかかったのか単にの顔がちっさかったのか、顔全体を覆うことになった。だが、その方が都合がよかった。なんせオレはたぶん今顔が赤いから。
「ちょっ、なに手ぇ邪魔!」
「ぴーぴーぴーぴーうるっせぇんだよ!」
「だってほんとすごかったんだもん!この興奮を青峰に伝えずして誰に伝えるのさ!」
「オレがすげぇことなんざとっくの昔に知ってんだよ!」
「自意識過剰!でもすごい!」
「けなすか認めんのかどっちかにしろよ!」
「じゃあすごいっ!」
あーもーこいつなんなんだよ!夏休みオレと1on1したこと忘れてたくせにオレのプレイ見てこんだけ騒ぐし、すげぇすげぇ連呼してうぜーし…いや、自分のプレイを素直に評価してくれるのは嬉しくないわけじゃねぇけどこんだけ言われると照れるっつーかああああくそっ!
「ちーん、体育館の中まで声響いてるよ」
「えっうそ!」
今度は紫原が微妙に開いていた体育館のドアから顔を出して一直線にを後ろから抱きしめて、オレを睨みつけてきた。
「峰ちん…ちんに褒められたからって調子に乗んないでよね」
「乗ってねーよ!こいつが勝手に騒いでただけだろ!」
「えー?でもあっくんもすごかったよ?ちゃんと自分の役割わかってるし身長活かしたプレイもできてるし、ちょっと挑発に乗りやすい所が目立つけど、それをねじ伏せる実力もあるし」
「だってよ、峰ちーん」
「だからなんだよ!そのドヤ顔やめろすげぇムカつく!!」
の後頭部に顎を置いてニヤニヤと口元をゆるめてオレを小馬鹿にした声を出して紫原はオレとを遠ざける。
なるほど、そういうことか。こいつ今までお菓子ばかりで女子に見向きもしなかったが、は特別ってことか。
紫原は一度気に入ってしまうと子供のようにべったりと執着心を露わにするから厄介だが、生憎とオレも負けず嫌いで独占欲も強いんでな。の視界に入るのはオレだけで十分なんだよ。
「ちーん、さっちんのドリンクしょっぱかったから甘いの食べたい」
「えぇ?しょうがないなあ…征くんには内緒だからね?てかしょっぱい…?」
「ちんだいすきー早く食べさせてー」
「はいはい。あっくんは甘え上手なんだからもー」
ため息を吐きながらポケットからお菓子を取り出して袋を破り、うきうきとお菓子を待ち構えている紫原の口に入る前にオレはの指ごと口に突っ込んだ。
「………………」
「………………」
「………………」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
は叫びながらオレの口から指を引っこ抜いて水道で石鹸をつけて入念に手を洗っていたが、指に歯形もつけといたから少しの間だが痕は消えないだろう。
紫原はもお菓子もとられてわかりやすく不機嫌になっていたから、オレはザマーミロとでも言いたげに満足げな顔をして体育館に戻ろうとした、ら…
「大輝…に近づくなと言っただろう?」
「ちょ、まっ、あかGYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
間。
「真ちゃん、残って練習するんでしょう?」
「…いや、今日は早めに上がろうかと…」
「あれ?いつも遅くまでシュート練してるんじゃ…」
「………今日はおは朝占いで最下位だったから早く帰るのだよ」
「…もしかしてわたしに気遣ってるの?でも大丈夫だよ、わたしん家学校から5分もかからない所にあるし…わたし真ちゃんのきれいなシュート眺めてたい!」
「っっ!!!?」
赤司に紫原の次は緑間かよ。あいつどんだけ愛想ふりまけば気が済むんだよ。
免疫のない緑間がそんなバカみてーに思いっきり笑った顔なんざ直視したらまんざらでもなくなっちまうだろーが。
すました顔してあいつが一番むっつりなんだからよ(たぶん)。
「おい、オレと1on1やろーぜ」
の視界には当然たくさんのものが目に入っていて、それを遮るものなんてこの世に存在するのかも知らねぇ。
だから今は無理やりにでもオレに目を向けさせるしかできない。オレにはバスケしかないけれど、そのバスケでお前をオレで埋め尽くせるんなら、オレはやっぱバスケでお前の気を引くしかないんだろう。
「やだ」
「なっ!?…んでだよ!お前オレのバスケ好きじゃねーのかよ!」
「いや、好きとかゆー問題じゃなくて…とにかく青峰とはもうやらない!噛むし!」
噛むとか今そおゆうこと言ってんじゃねっだろが!
前も思ったけどこいつバスケめちゃくちゃうめーしめちゃくちゃ好きな割になんでバスケから離れてるんだ。
ふつーオレみたいな奴と1on1できるってなったらしっぽふってわんおんわんわおんわおんわんわんおとかなるだろ、っつーかなれむしろ自分からオレに挑んでこいよ。
「はっきりとした理由言わねぇとまた噛むぞ」
「じゃあ征くんにチクる」
「てっめ卑怯だぞ!」
「どっちが!」
こんなにも頑なに拒否る理由がわかんねぇ。
別にオレ嫌われて…ないよな?な?だって普通に喋ってるし、オレにだけツンツンしてるけど、嫌悪感とかは別に感じられねぇし、嫌いな奴にわざわざ話しかけにきたり褒めたりしねぇよな、ああだいじょぶだ嫌われてはいねぇ。
「そんな嫌々言ってると無理矢理暴きたくなっちまうのが男の性なんだよなぁ…」
「ひっ?!目が、目が据わってるんですけど…っ征くーん!!」
残念だったな、赤司は今しがた職員室に行ったぞ。
さて、どうしてやろうか。まずは軽くくすぐりの刑にでもして、吐き出させてやろうか。
「青峰、いい加減にするのだよ」
「真ちゃんっ!」
っち、絶妙なタイミングで緑間が現れやがった。を庇うように背に隠して、そこからはオレを睨みつけてくる。身長的に上目遣いになるからむしろ逆効果なんだっての。緑間ぜってーお前うしろ見んなよ。
「、アホは放っておいてシュート練するぞ」
「うんっ!」
「おい何勝手に決めてんだよ!」
「今日わたしは真ちゃんのためにいるのであって、青峰とバスケはしないの!他当たって!」
「やだ」
「え、いや、あの、やだとか言われても困るんですけど…」
緑間のためにとかそんなふざけたこと言う口を今すぐ塞いでしまいたい。
今日を逃したらお前はもうバスケ部に来ないだろうし、放課後だってすぐ帰っちまう。
だったらいまやらずしていつやるんだって話だろ。
「ちん一緒帰ろうよー」
「あっくんおーもーいぃー」
「っち、今度は紫原かよめんどくせぇな…」
こいつどんだけ変なのに好かれたら気が済むんだよ。まじありえねぇ。
緑間の背に隠れてたの背中にまた紫原が寄りかかっているからきっとのそこが紫原の定位置なんだろう。そんな密着されてなんでこいつはそんな冷静なのか理解できないが、とにかくムカつく。
紫原を男としてまったく意識していないからそんな態度なのかもわからない。
「紫原がつぶれるから離れろ」
「なーにミドチンちん抱きしめられて羨ましいって?」
「そんなこと一言も言っていないのだよ!とにかく離れるのだよ!」
「ごめんねあっくん。今日はとことん真ちゃんに付き合うって決めたから帰るのはまたの機会ね」
「えー…せっかくちんとマジバ行こうと思ったのにー」
「マジバ…?なにそれ?」
まじかよ、こいつバカか?今時マジバもしらねぇ女子中学生がいるのかよ。
「ハンバーガー屋さんだよーちんまじで知らないの?」
「あっちにもそんな感じのがあったけど…アメリカと日本じゃやっぱ違うのかな…」
「アメリカ?!」
「あ、あぁ…うん。わたし小6までアメリカいたからさ…」
なるほどあのバスケ技術はアメリカで身につけたわけか。あっちならストバスも盛んだろうし、オレと同じようなプレイを小さい頃からしてきたのかもしれない。
「あぁー、だからあっちのおかし持ってたんだ」
「まぁそんなとこ」
紫原はの頭に顎をのっけて髪をくるくるといじる。はその事についてあまり話したくなさそうで、硬い表情で相槌を打っていた。
「さって、真ちゃんシュート練しようか!」
「えぇーマジバはー?」
「うーん…行ったことないから行ってみたいんだけど…ごめんね」
「…今日おは朝占いでは外食は吉とあったのだよ」
「そうなんだ!今日真ちゃん学食だったよねー」
「…そういうことではなく、今日の礼を兼ねて奢ってやると言っているのだよ」
あの緑間の口から奢るなんて言葉が出てくるなんて今日あたり地球爆発すんじゃねぇかな。
紫原もポケットから取り出したまいう棒を落としていた。
「いやいやいや!いいよ、そういうの!そんなたいしたことしてないしっ!」
「人の好意は素直に受け取るのが礼儀というものなのだよ」
「そ、そうなの?…そっか、日本の礼儀って難しいんだね」
あ、こいつまじもんのバカだ。
「ずいぶんと楽しそうな話してるね」
「征くんっ!おかえり!」
おっまなんだよそのめちゃくちゃ嬉しそうな顔!オレん時とは天と地ほどの差があるじゃねぇか。
あーくっそすっげぇ悔しい。オレとバスケしねぇしあんま笑わないし、他の奴らに対してもそうなのかと思ったら、
征くんとかあっくんとか真ちゃんとかあだ名で呼んでたりと名前で呼ばせてたりしてでれでれとだらしない顔で駆け寄って、オレだけなんか何も許されてない。
あーそんなん気にするオレってもしかして女々しかったりするのか。
「みんなでマジバ、いいんじゃないか?今日は全面的に体育館の使用ができないわけだし」
オレも緑間もえ?という顔をしていたら、赤司が今日はステージの照明付け替えやらで早めに練習を切り上げなければならないらしい。
そういや今日誰かそんなこと言っていたような気もしたし、気がつきゃオレら以外誰も体育館に残っていない。
結局1on1もできなかったが、これはこれで一緒にいる時間が長くなったと思えばいいのか。
赤司に言われて着替えるために部室に行こうとぞろぞろとオレたちが歩いていると前方に女バレ軍団が歩いてくる。あーでけぇおっぱいの奴いねぇかなとつい胸元ばかりに目が行ってしまうのは男の本能ってやつだ。
「あっれじゃん!こんな時間まで緑間に付き合ってたの?」
「池ちゃん!部活お疲れ様ー。これから真ちゃんたちとマジバに行くとこなんだ!」
「そうなんだ。あたしらもこれからマジバ、に…っ!!?」
「っっ!!?」
「池ちゃん??あっくん??」
「あれ?いたんだ。あんまりにもでかいもんだから壁かと思ったわ。」
「はぁ?アンタこそ小さすぎて思わずひねりつぶすとこだったし。」
「てか何その髪うっざうっざ!お菓子のカスこぼさないでよね汚い。」
「男みたいな髪して何言ってんの?その猿みたいなアホ面見てるだけでムカつく。」
うわ、何だこいつら火花散ってんぞ。
もでかい2人に挟まれてあわあわしてっし、なんだこれ。
紫原に至ってはそんな早口で喋れたのかというくらい饒舌で、普段のゆるふわキャラとは大分違っていた。
「彼女は小池あき子。と同じクラスで女バレの期待のエース。そして敦の幼馴染らしい」
「池ちゃんとあっくんのあんな姿はじめて見た…」
険悪な2人の間からを引っ張り出して赤司はオレたちにわかるように説明をしてくれた。
あの2人は言い合いに夢中でがいなくなったことすら気づいていなかった。
「池ちゃんもう行くよー?」
「あっはい!、こんな奴とじゃなくてあたしらと一緒にマジバ行く?」
「大丈夫だよ!あっくんが誘ってくれたしまた今度行こう?」
「ふん。そーゆーことだからさっさと行けばぁ?」
「っち。天井に突き刺されムラサキ」
「っほらほら池ちゃん先輩たち呼んでるよ!」
「あーはいはい!じゃね、!ムラサキに喰われないようにねっ!」
「いやいや、ないから。じゃあね!お疲れー」
嵐が去っていった。
紫原は赤司に急かされて部室に入り、オレと緑間もそれに続き、は部室の外で待ってるねと手を振ってオレたちを見送った。
その後部室のドア越しにさつきのうるせー声が聞こえてきて、がさつきをマジバに誘っているようだった。なんだアイツら知り合いだったのか。
くっそ、さつきの奴いつと知り合ったんだよこりゃ今度いろいろ聞きださねーとな。こういう時に情報通なアイツを利用しねぇと。
それに今日は生憎とアイツは親戚の子どもが来るからとまっすぐ帰るはずだ。そう思った矢先さつきはドア越しに今日は先帰るねお疲れ様とオレたちに声をかけて帰って行った。これ以上めんどくせー奴が増えなくてよかったぜ。
「征くん…ちょっと家寄ってもいい?」
「冬樹さんかい?」
「うん。ご飯まで食べてくるとなると一言言っておかないと…」
「なになにちんの家?ちょー行きたーい」
「うんーお気軽にどうぞー」
いやいやなんだその返し。
そしてなんだこの超展開。いきなりの家とか知れちゃうのかオレ。
靴を履き替えて体育館を出て、正門くぐって横断歩道渡って、公園近くの治療院にが入っていった。
って、おいまじかよの家こんな近いってかわかりやすすぎだろ。
「ただいまー。じいちゃーん?」
「ちん家近くていいなー」
「というかここは帝光がお世話になっている病院ではないか」
「そう。ここはのおじいさんの病院でね。もその手伝いをしているんだ」
だからこいつ部活にも入らず放課後も寄り道せずにまっすぐ家帰ってんのか。かと言ってオレとバスケしない理由にはならないし何か他の理由がありそうだ。
は玄関で靴を脱いで奥に行き、紫原は相変わらずお菓子を手にしてきょろきょろとしているし、緑間もちらちらとの家の内部を見ているようだった。
赤司はの家は見慣れているようで、何もせずにいつも通り壁に寄りかかっての帰りを待っていた。
赤司は一体どこまでのことを知っているのだろうか。
「6時過ぎまで部活に付き合うのは構わんが、更に外食をしてくるとなると話は別だ。しかもその相手が全員男とは…っっ!!」
「大丈夫だよ征くんもいるし!マジバって所に行ってくるだけだし、久しぶりにハンバーガー食べたい!」
「…征十郎…男はみんなケダモノだからな。そこの変な色した野郎から孫を護ってくれ。絶対に手を出させるんじゃあないぞ」
「ふふ…冬樹さん俺がそんなヘマをするとでも?」
「…うむっ!任せた!」
なんだその拳突き合わせたポーズすげー腹立つ。だいたいオレも人のこと言えたもんじゃねぇが赤司も危険人物だからな。じいさんわかってんのかそこ。
「あ、あっくん。これうちの患者さんから頂いたの食べきれないから持ってって」
「わー!ありがとちんだいすきっ!!!!」
「だから重いってばあっくーん」
「だってちんおにんぎょさんみたいにちっちゃくてかわいんだもーん」
「いやもーんて…バカにされてるみたいなんだけど…」
じいさんを上手く説得して(帰り際めちゃくちゃ睨まれて孫に手を出したら殺すと耳元で囁かれるということはあったが)、俺たちは無事マジバに向かうことができた。
は家を出るときに持ってきた紙袋を紫原に渡すと、早速紫原はじいさんの言いつけを破りに抱きついてかわいいとか抜かしやがる。
清々しいまでの鈍さを誇るはそんな紫原の戯言も真に受けていないのが救いなのだが。
「敦明日外周10周追加」
「えー!!何それ赤ちんのおーぼー!!!!」
「さっきのおじいさんに釘を刺されただろう?それとも本当に釘を刺されたいのかい?」
うわ、顔がまじだ赤司の奴…
紫原はそれから少し大人しくなったが、またすぐににくっつこうとしていたら、隣にいた赤司がいつの間にかと手を繋いでいたらしく引っ張って紫原を避けるように誘導していた。
紫原だからそこまで重くないが、オレが同じことをしていたらもっと重い追加メニューを加えられただろう。
の家からものの数分でマジバに着いて、物珍しそうに店内を見回していたを緑間がレジまで連れて行く。
「、好きなものを頼むのだよ」
「真ちゃんほんとに奢ってくれるの?わたしお財布持ってるよ?」
「人の好意は素直に受け取っておけと言っただろう」
「えー…うーん申し訳ないなぁ…」
「こういう時はお礼を言えばいいのだよ」
「…ん、ありがと、真ちゃん」
あーまじその笑顔やべぇこのかわいくてちっさい生き物どうにかしてくれ。そして緑間そこかわれ。
は真剣な表情でメニューを見つめて、うーんうーんと悩んでいるようだった。
オレはさっさとてりやきを頼んでお金を払って商品を受け取ったが、緑間が注文し終わってもまだは悩んでいた。意外と優柔不断だなこいつ。今はピークが過ぎたのか割とすいてるから後ろに待っている客はいなかったが。
「このてりやきバーガーってなに?」
「あ?お前そんなうまいもんもしらねぇのかよ」
「あっちにはてりやきなんてなかったのっ」
「じゃあそれにしろ。てりやきセット一つ。ドリンクは?どうすんだお前」
「え、じゃコーラで」
「かしこまりましたー」
店員は注文を聞くと素早くレジを打って、バックに伝える。
会計は緑間に任せて先に行って席を取っている赤司と紫原の所へとの手を引いていく。
こいつの手ちいせぇな。身長相応なんだろうけど、傍目から見たらこいつがオレに1on1で勝ったことがあるなんて誰も想像がつかないだろうな。
「もーおそーいちん峰ちーん」
「こいつがすげー悩んでたんだよ」
「案外と優柔不断だからね、は。ほらここに座りなよ。あ、大輝は敦の隣でいいだろ?」
いいだろっていうか座れって意味だろそれ絶対。オレは渋々手を離して紫原の隣に座ったが、あの赤司のことだ緑間もきっとこっちに座らせるに違いない。
今だって何と手なんか繋いでるの?死にたいの?の隣に座れるとか夢みたいなこと思ってたの?そんな夢今すぐ俺が捨ててやるよみたいな恐ろしいアイコンタクトを寄こしてくる。
なんだってでかい3人が並んで座らなきゃならねーンだよ、そっちすかすかじゃねーか。そう思っていたら荷物はこっちの座席にまとめといてあげると言って荷物を取られた。ほぼ強制的に。
「真ちゃん、いただきますっ」
「ああ」
「どうだ?てりやきバーガーは?」
オレの好物をが食べてるってだけでなんか別物に見えてくるから不思議だ。
は小さい口を一生懸命開けてかじりついた。
「It's good!」
「、また英語が出てるぞ」
「…またやっちゃった…ほんとおいしい物食べてるときは我を忘れちゃって…久しぶりにハンバーガー食べたし」
は恥ずかしそうにコーラを飲んで長いポテトをもぐもぐと食べて俯いた。
「ちん英語話せるの??」
「どっちかっていうと英語の方が母国語で、まだ日本語は勉強中なの…」
「すごーじゃあちんとアメリカ行ったら困らないじゃん!」
「あはは、アメリカのハンバーガーとかすごい大きいし甘いお菓子もいっぱいあるからあっくん満足すると思うよ!」
あれ、こいつさっきアメリカの話嫌がってなかったか?オレの思い違いだったのか?あーもうまじこいつ意味わかんねぇ。
笑ったと思ったら嫌な顔してたり(あ、オレに対してだけか)、明るい奴かと思ったら無表情になったりしてどっか遠く見てるし、くるくる変わり過ぎてついていけねぇ。
そう思う反面そんな簡単に捕まりそうもなくてわくわくする自分がいるのも嫌になる。今日一日一緒にいるだけでだんだんとオレはこいつに夢中になって必死に追いかけて、バスケで勝負したくてたまらなくなった。
あの夏休み以来全中に向けて練習試合や追い込みもあって記憶の端にいたのに、今ではもう焼きついて離れないし離したくもなかった。
「あーっバスケしてぇ」
「…このあと家でしてく?」
「うおっ?!おっまびっくりさせんな!!!」
各々で食い終ったゴミを捨てていたら、ひょっこりとオレの後ろにいたらしいが姿を現した。こいつマジで冗談じゃなく視界に入らねぇ。
いや、確実にキレられて機嫌損ねるから口にしないけども。
「家にゴールあるから1on1くらいならできるけど…」
「!!!」
「でももう今日はおそ「っしゃ!おい早く行くぞ!!」
「えっちょはやっ!!」
の手を引っ掴んで適当にアイツらに声かけて、緑間が何か言ってけど聞こえない振りして赤司が何かこえぇ顔してたけどそんなの今気にかける余裕はなくて、オレはさっき来た道を戻っての家に向かった。
は玄関に入ってじいさんに声をかけて、オレを裏のゴールの所まで案内して、縁側に荷物置くように促した。
オレがセーターを脱いで軽く体を動かしていると、横でも制服を脱ごうとしてて思わずそのほっせー腕を掴んで止めてしまった。いや、生着替えを見たくないわけではないが確実に冷静にバスケができなくなる。
「おまっなんでここで着替えようとしてるんだよっ!!」
「え?下にジャージ着てるよ?」
そういう問題ではない。どっかずれてると思ったがこのオープンさはアメリカでの生活から来てんのか。オレがやめろと言ったら渋々スカートのチャックを上げて面倒になったのかそのままバッシュを履きだした。
「タイガと同じこと言うんだからもー…やっぱり似てる、かも」
「…おい、いまなんつった?」
「え?あ、いや、友だちに似てるなって…」
「タイガって誰だよ男か?」
「? 男だけど?」
なんっでこいつは男の前で男友達の話すっかな空気読めアメリカ育ち!!!!!
ぜんっぜん意識されてねーってのがもろわかるってのも辛いもんだ。
タイガって野郎はにとってどんな存在なのかもわかんねーけど、嬉しそうに懐かしそうに口にするタイガって名前が気にくわねぇ。
「っだーーー!!!くっそ!!!!!!!」
「うわっっぷ!!!?」
こんな感情どう処理していいかわっかんねーしとりあえず抱きしめちまったはいいがいやよくねーけど(オレの心臓が自分でもわかるくらいにうるせぇ)、うわなんだこれやわらかくて男とちげぇにおいがしてつむじがよく見えるくらいにちっさくて、でもこいつがバスケがアホ見てーにうまいって考えちまうとなんかわき上がるもんがあって、自分でもよくわかんなくなる。
「???」
首を傾げつつもはオレの背中に手をまわしてさらに密着度が増した。オレでも今こいつが何考えてるかわかる。
「日本でもハグする文化あるんだね」
やっぱりな。照れるとか恥ずかしがるとかそういう感情の類いが微塵も感じられねぇ。
「…なんで青峰とバスケしないかって聞いてきたよね?」
「…あぁ」
「本当は青峰ともっともっとバスケやりたいよ。青峰のバスケ大好きだし、やっててすっごい楽しかった。でも、だからこそ止まらなくなっちゃって本気出しちゃうから…だからダメ」
「なんでそーなるんだよ。もっとオレとバスケやりゃあいいじゃねーかっつかやれ」
「…これ、青峰だから話すんだからね。あんま人に言わないことにしてるんだけど…青峰には知っといてもらいたいって思ったから話すんだからね」
こいつすーげー殺し文句言ってんのわかってのか。
「わたしは生まれつき動体視力がすごい良くて…身長がない分わたしの武器はストバスでの経験、何千何万回と見た選手たちの行動パターンを瞬時に察知して、さらに筋肉の動きや呼吸をその動体視力で読み取る…でもそれは目に大きく負担を掛けていて、使いすぎると視力が落ちて失明する恐れがあるの」
「じいちゃんもお母さんもそれ気にしててあんまり本気でバスケするのいいと思ってなくて…このまま青峰とやってたらいずれゾーンに入っちゃうから青峰とのバスケはしちゃいけないって思って…」
「…ゾーン?」
「余計な思考感情が全てなくなってプレイに没頭する、ただの集中を超えた極限の集中状態のこと。きっと青峰は近いうちに経験すると思うよ」
「…フーン」
「うわー何その反応…話すんじゃなかったかな…」
ちっげーよなんかいろいろが喋りすぎて理解できねーから反応に困ってんだよ。完全キャパオーバーだわこれ。
「オレはよー頭悪ぃからあんま細けーことはわかんねぇけど…オレがお前だったら失明するまでバスケやるわ。オレにはバスケしかねーし、好きなことして失明するなんざ本望だよ」
「…ふふっ、青峰はカッコイイね!バスケだけしかないって言い切っちゃうとことか、ほんと、いい意味でバスケバカ」
「んなっ!??バカにしてんなお前っ!!」
カッコいーとか、んな気軽に言うなまじ襲うぞ。
はまだ笑っていて、それは少しだけ悲しげだったけど、儚くてうつくしくて、なんかもうどうでもよくなってきた。
「やっぱり青峰とバスケやるとわたしはバスケが死ぬほど好きなんだって思っちゃう。上手くセーブもできないし、すべてを投げ捨ててでもバスケを本気でやっちゃう。…けど、死んだお母さんと約束したから。光を見失ってまでバスケしないって」
お前の世界でまだオレの光は淡いのかもしれないけど、近いうちにもっと大きな輝きとなってお前の目に絶えることのない光を焼きつけてやる。
だから、バスケしようぜ。決してお前に光を見失わせはしねーよ、なんたって相手はこのオレなんだからよ。
「じいちゃんともお兄ちゃんとも約束したし。わたしもそう決めたから…だからっンむ?!!」
…あ、やべっちゅーしちまった。本能と衝動に任せ過ぎた。やべーちょーやーらけー。っつかいつ離せばいいんだこれもしかしてオレ離れるタイミング逃した?いや身体が勝手に動いちまったし今はうごかねーしどーなってんだオレの身体制御不可能だぞ。
「…っっ……っ…~~っっ!!?」
舌入れてるわけでもないからは口閉じたままで、鼻で呼吸もできずにオレの身体をバンバン叩いてきた。結構容赦なく。いや、にとっちゃ生きるか死ぬかの瀬戸際くらいの酸素不足なんだから必死になるのもわかるがちっといてぇ。
「っぷは…!!はーっ…はー…っはー………殺す気かっっ!!!!」
オレが言うのもなんだが…ムードもへったくれもねーな。
「なに?日本の文化ってキスもハグもするの?アメリカと違うって征くんから聞いたんだけど…てか征くんしてこないし……え、青峰ってもしかして…」
あー…さすがにでも気づくかオレがお前のこと好きだって…
「わたしがアメリカ育ちって知ったから気を遣ってるの…?そういうイメージあるのはわかるけど、実際あっちは家族とか親しい人にしかキスもハグもしないよ?してもあれはちゅってしてるフリであって、ましてや唇なんてめったにしないんだよ?」
と思ったが やっぱ違げーわ。
なに真剣にアメリカ事情話してんだよ。ちゅーしたオレがただただむなしくなるだけじゃねーか。
「っはー…バスケやっか」
「! うんっ」
今はまだ伝えるべきじゃねー。いまはまだその笑顔とバスケがありゃオレは満足だ。…また抱きしめるくらいは…いやいやちゅーくらいはしてーけど。
その先はまだお預けだ。けどちんたらはしてらんねぇ。お前を暴いてオレでいっぱいになるまでなんてあっという間にやってやっからよ。我慢するのは得意じゃねーンだ。
(青いの…よくもかわいい孫に手を出したな…)
(っげ!!!)
(あっじいちゃんまだ起きてたんだ)
(。そろそろバスケはやめておきなさい)
(えー…せっかく青峰とバスケしてるのに…)
(ちょっと青峰くんと話があってな…)
(? そっか。じゃあわたしちょっと飲み物取ってくるー!)
((ちょっ待てなんでそこだけ空気読むんだよっオレ殺されるっ殺されそうになってるっ!!!!気っづっけっっ!!!))
(言ったろう?孫に手を出したら………)
(オレ、まじで光になるかも………)
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