蜜雨

雨の音が耳に張り付いて、ついでに髪の毛も頬に張り付いて、絶望もついには張り付いてはがせなくなった。
空は仮縫いしたみたくほどけやすく、その裂け目からは天國か地獄かが顔を出した。
一体どんな顔だったんだろうか、考えにくいことこの上ない。だって天國と地獄に顔なんてないんだもの。
地獄の顔はあいの顔?それじゃあ愛らしすぎるわ。下手な冗談ではなく本当に。愛らしくはあるけれど、それでは少し易し過ぎる表現かしら。
ねぇ、あい。あなたのぞっとする髪の一筋と血の死を吸う瞳はもうすこし、それ相応の名をつけるべきかしら。
それじゃあ、天國の顔は誰だろう。本当のきれいな神様は地獄ではなく天國にいるからきっとそれなんだわ。
でも、その顔がどんな顔なのか、あたしの貧困な想像力では到底引き出せそうに無い。
ああ、雨の日はやっぱり欝だ鬱だうつだ。雨の線は絡まって何本の思考に成り代わり、その糸の多さにあたしの脳はなやまされる。
そんな愚かなあたしは一目連の瞳の形と色を記憶するようにじっと眼を凝らして凝視していた。

「人間の欲ってなんて砂糖みたいに甘いんだろうね。嗚呼、舐めまわしたい・・・!」
「そんなきたないもん舐めまわしたら犯されるぞお前。」
「欲に走りさえすればとびきり甘い死に方をさせてくれるじゃない。」
「俺はお前の中が一番甘いと思うがな」
「ねぇ。もっと健全に会話らしい会話しようよもっくん!」
「それじゃあは男らしい愛称でも一生考えてな。永遠にな。」
「それは出来ないわ。だってあたしの一生は一目連のものだもの。」






世界と君との離別






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