蜜雨

「ここがナックルスタジアム……すごく強大なエネルギーを感じる……」
「きりゅ……」
「オマエも感じるの?」

アローラ地方からここガラル地方までの長い空中飛行で疲れただろうレックウザを休ませるついでに、はまるで龍のように天に向かって伸びる要塞の頂上でナックルシティ全体を見下ろしていた。ここがかつて兄も修行したと言っていたナックルシティ。ドラゴン使いがジムリーダーを務めていると聞いて、文字通り飛んできたというわけだ。

「お兄ちゃんのように強くて誠実な人かしら」

ここから遥か遠い地で今も尚チャンピオンとして君臨している兄に想いを馳せていると、思わず口元が緩む。の隣で巨体を器用に折り畳んで地に伏せているレックウザもに呼応するように頬を擦り寄せてきた。
穏やかな時間が流れる。

「よう! ここらじゃ見たことねーポケモン連れてんなあ!」

そんなとレックウザの柔らかな雰囲気をぶち壊すチャラい奴がフライゴンに乗りながら声を掛けてきた。本能で下手に関わっちゃいけないとは悟り、即座に目を逸らして無視を決め込む。

「おいおいなんだよその態度! 人の話は目を見て聞くもんだぜ?」

キバナはフライゴンから降りると、の両肩を引っ掴んで無理やり顔を突き合わせた。ごうと強い風に遊ばれる朱色の髪の隙間から琥珀色の瞳と少し幼さが残る綺麗な顔立ちが見え隠れした。
キバナの心臓にはかいこうせんが打ち込まれた。
そう、いわゆる一目惚れだった。

「あの……」

呆然と口を開けているだけのキバナの様子に耐えきれなかったのか、自ら声を掛けまいとしていたもさすがに口を開いた。
涼やかな声にキバナはハッとする。

「なっなんだ?」

どもったー!!!かっこわりー!!!
超高速で自己嫌悪に陥るキバナは辛うじて感情を顔に出さないことに成功した。

「はなしてもらえません? なにか用ですか?」

棘のある声と顔つきでキバナを睨めつける。
これはまずい。

「悪ぃ! オレはただここのジムリーダーとして、このスタジアムに見慣れないポケモンがいるって聞いて様子を見に来たんだ」
「ここの……ジムリーダー……?」
「おう! オレはここナックルシティのジムリーダー! ドラゴンストームのキバナさまだ!」
「ドラ、ゴン……まさかアナタがあの……?!」

決まった。
限りなくカッコいい。
これで先程の失態は確実に払拭されたはずだ。
最強のジムリーダーに出会って感動に震えているに、キバナは出来るだけクールで優しい眼差しをくれてやる。

「信じらんない!! こんなチャラ男がドラゴン使い? 冗談やめてよ」

どうやら感動に震えていたわけではなく、怒りの余り震えていたらしい。
線の細い華奢な体からは想像が出来ないくらい低い声で吐き捨てるように言われた。
言葉の処理が追いつくと、淡い恋慕の炎が急速に冷えて砕かれていくのがわかった。






イチ






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