「はああああああああああ?!!」
なんなんだこのクソアマと辛うじて口に出さなかったのを称賛してほしいくらいであった。
言うに事欠いて初っ端暴言を吐いたはため息を吐いて頗る残念そうな表情をしている。こんなのがガラルが誇るドラゴン使いかと失望している顔だ。
至極失礼な話である。勝手に期待して勝手に落胆して、キバナはむしろ被害者側だ。
しかしこのちんちくりん(とキバナは呼ぶことにした)はちっとも自分が悪いと思っていない。それが余計にタチが悪い。こんな女に一瞬でも見惚れてしまった自分を殴りたい。確かにまだまだ女性と少女を行ったり来たりするような幼さが残っているが、風に舞う朱色の髪糸や琥珀色の光沢のある瞳はそれこそ万物を惹きつける不思議な輝きを放っている。それはキバナも認める。しかし口は悪いしおまけに表情も可愛らしさの欠片も見当たらない。
ないな。
キバナは少し勝気で快活な子も悪くないと思っていたが、やはり女はもっと可愛げのある方が良いに決まっていると今回の事件で思い知ったのだった。
「うるさい。もう少し落ち着いたら? ガラルのドラゴン使いさん?」
「っこんのちんちくりん、口の利き方に気をつけろよ?」
「はあ? ちんちくりんってわたしのこと? 女性の扱いがなってないわね。それにわたしは尊敬する相手にしか敬意を払わないわ」
「女性? どこに女性がいるってんだよこのちんちくりん。ここにいるのは寸胴みたいな幼児体型したおこちゃまだろ」
後輩からは慕われ、面倒見が良いともっぱら評判の兄貴肌のキバナも、の攻撃的な態度にはむかっ腹を立てた。普段ならば冷静に対処するような言葉にも、いちいち突っかかるような返ししか出来ない。
「最っ低!! アンタみたいな無神経男がドラゴン使いでしかもジムリーダーなんて……同じドラゴン使いでチャンピオンである兄が穢された気分だわ!!!」
「……っは?」
今なんつったよ、このちんちくりん。
「ドラゴン使いの……チャンピオン……だと?」
まさか。
確かにが持つその朱色の髪に琥珀色の瞳は、キバナが長年憧憬の念を抱いてやまないカントー地方のチャンピオンであるワタルに酷く似ている。嘘だろ。
「オマエ……ワタルさんの……妹、なのか?」
「へえ……さすが腐ってもドラゴン使いね。兄を知っているのなら、尚更その滲み出るチャラ男感どうにかしなさいよ。正直気に喰わない。見ているだけで不快」
容赦のない罵倒が浴びせられ続けるが、今のキバナには何を言っても無駄であった。
自分に多大なる影響を与えてくれた偉大な人物の妹がまさかこんなちんちくりんだなんて。
先程のの気持ちがわかった。そりゃ失望もするわ。
同様キバナもまた失礼な思考回路に陥っているが、そこに気づく余裕は今のところ持ち合わせていなかった。