結局とキバナの言い合いは、キバナのショックが大きすぎて戦闘不能になり幕を閉じた。
目の前が真っ暗になったキバナがフライゴンの軽めのドラゴンクローによって強制的に起こされたときには、既にの姿は消えていた。キバナには胸糞悪さと憧れのワタルの妹に大人気なく喧嘩を売ってしまった後味の悪さと顔の引っ掻き傷だけが残った。
との最悪の出会いを果たして一晩過ぎたが、いまだに思い出すと頬の傷がつきつきと鈍い痛みを発して腹が立ってくる。そんな鬱憤を晴らすついでにジムトレーナーを鍛えようと思ったが、生憎ポケモンリーグ本部に呼ばれていてシュートシティに行かなくてはならなかった。意外とチャンピオンカップ期間外の時は雑務が多いのだ。ジムリーダーも楽な仕事ではない。昨日の今日でストレスが溜まりまくりだ。
この仕事が終わったらワイルドエリアにでも足を伸ばそうかと考えながら本部の廊下を歩いていたら、ダンデの声が聞こえるではないか。ついでに声を掛けて、あわよくばワイルドエリアに誘おうとキバナが口を開いた瞬間、あの忘れもしない声が耳に飛び込んできた。
「ダンデさんは本当に噂に違わぬ素晴らしいチャンピオンですね! きっと兄もアナタと戦えることを誇りに思うと思います!」
「こちらこそキミのお兄さんと戦えるなんて光栄だよ! それにしても……まさかあのワタルさんにこんな可愛らしい妹さんがいるとは驚いたな」
「わたしは兄と違ってあまりポケモンバトルもしませんし、公式戦にも出ないですから……」
「でも、キミもお兄さんのように強いのだろう?」
「……なぜそう思うのですか?」
「キミの頭に乗っているそのイーブイを見ればすぐわかるよ。深い愛情が注がれ、共に試練を乗り越えた絆が生まれている」
「さすが無敵のチャンピオンと言われるだけありますね。素晴らしい観察眼をお持ちで……」
昨日レックウザに乗って移動する際、落ちたら危ないと無理やり嫌いなモンスターボールの中に収めてから機嫌が悪いイーブイを宥めるのには骨が折れたが、無敵のチャンピオンを誇るダンデに相棒を褒められたのは素直に嬉しい。
「よお、ダンデに昨日のちんちくりん」
「ん?キバナじゃないか!」
「げっ」
キバナの声にダンデとは後ろを振り向き、ダンデは朗らかに、は苦虫を噛み潰したような顔で声を上げた。
あからさまなの態度にダンデは疑問を抱く。
先程まで年齢に見合わぬくらい大人びた対応をしていたあのが、キバナを目に入れた瞬間に表情を一変させて不遜な態度を取るではないか。
「キバナ、オマエになにかしたのか? ……っまさかが可愛いからって手を出したのか?! はオマエが長年憧れていたワタルさんの妹だぞ?!!」
「っちっげーよ!! 筋違いもいいとこだ、ダンデ! オマエはあのちんちくりんに騙されてんだよ! 昨日オレさまがどんだけコイツにコケにされたと思ってやがんだ!!」
「……そうなのか?」
キバナの憤慨に圧倒されたダンデは、小首を傾げるという大の男がするには少々可愛すぎる動作でを見遣る。
「なんかわかんないですけどその男気に喰わないんですよ。気が合わないというか……生理的に無理というか……」
「おまっ!! いくらワタルさんの妹だからって「まあまあもキバナも落ち着け。オレには二人の相性はそんなに悪くないと思うぞ!」
「「はあ?! どこが(ですか)(だ)!!?」」
「ははっほらな!」
ダンデの爽やかな笑顔に何も言い返せないとキバナはやはりお互いを睨みつけている。
「、キミはガラルの歴史について知りたいと言ったな? 丁度良い。キバナはガラルの歴史の核となる宝物庫の番人だ。案内してもらうといい。その後オレの幼なじみでもあるソニアという女性を紹介するよ。彼女はガラルのポケモン博士であるマグノリア博士の孫娘であり助手だ。きっとキミの力になれるはずさ」
「「ええっ?! なんで(わたし)(オレさま)がこんなヤツと!!」」
またも見事に言葉が被ったとキバナを微笑ましくダンデは見守っていた。
「それに、ドラゴン使いを兄に持つとガラルが誇るドラゴン使いの仲が悪いと知ったらワタルさんもいい顔はしないだろう」
その言葉に負けたとキバナは大人しくダンデに従うのだった。