蜜雨

※最後まで致してないけど、特殊性癖のため注意






 なんと素晴らしいのだろうか。
 の小さな身体を抱きしめ、朝日と共にせり上がってくる幸福を噛み締めた。
 普段は互いに大佐と中佐というある程度の地位にいて、私は東、は北といった物理的な距離に阻まれている。だが今は私のベッドで、私の腕の中でが安心しきった顔で寝ていた。ヒューズ以上の惚気が出てしまいそうになるのを許してほしい。

「はは、口なんか開けて……かわいいな」

 眠りが浅い私と違って、は一度寝たらなかなか起きないタイプであった。曰く、あんなうるさい家族に囲まれて物音一つで起きてたら一生眠れない、だそうだ。だからなかなか寝つきが悪い私をよくは心配してくれるが、私にしてみれば、の寝顔を堪能できるから悪くないと思っている。
 相変わらず緩み切った口元からよだれでも垂れているんじゃないかと、自身の親指での唇に触れた。すると、あろうことかはそのまま私の指を口に含んだ。

「ッ?!」

 ちゅぱちゅぱと指を舐める行為自体にいやらしさはなかった。どちらかというとその様は、赤ん坊が母親のおっぱいを吸ったり、自分の指をおもちゃにしているのに近い。だが、いくらの方に性的な意味合いが含まれていなくとも、される側の私がすっかり興奮してしまっていた。

「ん……ちゅ……っ、ふ……」

 瞬きすらも惜しい位を見つめ、時々漏れ出る吐息と微かな声に耳を傾け、先っぽだけ入っていた指を少しずつ侵入させていく。すぐに歯に当たると、今度は甘やかに私の指を噛みつつ、ちょんちょんと舌先で舐め上げていた。いまだには起きる気配はない。気づけば朝勃ちしていた自分の愚息を扱いていた。私はもう夢中だった。

「ぅ……っく……!」

 とうとう射精まで致してしまったら、どっと罪悪感が押し寄せて頭がクリアになってきた。同時に口の中に無遠慮に入れていた指を引き抜く。そこまでしても起きないに更に自己嫌悪に陥った。こんな精神状態でこの場に居てはおかしくなりそうだ。今すぐ冷水を頭から浴びたい。






 一週間あるの休暇に合わせてこちらも一週間休暇を取れればよかったのだが、生憎そうもいかず。しかし、なんとか二連休まではもぎ取れた。もちろんと熱い夜を過ごす予定であったが、たまたま中央から出張で来ていたヒューズが私の家に泊まることとなった。

「(で、結局こうなる訳だ……)」

 案の定酒盛りして雑魚寝。やってる事は士官学校時代となんら変わらない。変わった事と言えば、ヒューズがひげ面になったってくらいか(不本意ながら私とはいまだに学生時代と顔が変わらないと言われる)。
 隣の酔っぱらって寝こけている悪友に背を向ければ、もう一方の隣で可愛い寝顔を晒しているがいた。またも無防備に開いているの口元に指を持っていけば、いつものように器用に指が舐められ、時には吸われる。
 あの日以来、が寝ていたら口に指を突っ込むのが習慣化されていた。まるでパブロフの犬だ。今や私の下半身はの口に指を持っていくだけで反応するようになっていた。いや、自身も唇に指をあてるだけで吸いついてくるのだから、彼女もまたパブロフの犬だ。ただし、犬にしたのは私だが。

「指を舐める行為は安心感が得られるんだとよ」

 我を忘れて一心不乱に指を舐めさせる行為に耽っていたら、いやに冷静な声が私の背中を突き刺した。みるみるに氷漬けされたように身体が固まっていく。

「すまん。見て見ぬ振りしようと思ったんだが、どうにもおっ始まりそうだったんで邪魔者は退散しようと思って先に声掛けた」

 癖とは恐ろしいもので、私は無意識のうちにいつものように欲望ぶちまけようと下半身に手を持っていっていた。そのあからさまな衣擦れの音で、さすがのヒューズも危険を察知して声を出したのだろう。

「そうそう……仕事ができる奴ほど赤ちゃんプレイにハマるらしいぞ」

 なんかの本で読んだといういい加減な情報を言い残し、ヒューズは客間として使っている部屋へと引っ込んだ。






 仕事で疲れて帰ってきた私を、はベッドの上に迎え入れた。
 もれなくまるごと全身を愛しているが、その中でも特段愛おしいフトモモに頭を乗せれば、が優しく髪を梳いてくれる。その手が、指が私の唇に触れた。思わず逃げられないようにの指先を口に含む。は少しだけ吃驚した様子であったが、私の好きにさせていた。

「っ、ん……ロイ……赤ちゃんみたい……」

 ちゅうちゅうと指を吸い上げ、軽く歯を立てながら更に奥へ奥へと指を咥え込む。唾液を含ませてねっとりと舌を絡ませると、艶めかしく眉を寄せ、興奮するように短く息を漏らした。

もやってごらん(ほら、いつもみたいに)」

 私が指を差し出して、ゆっくりと口元に持っていけば、誘われるようにぱくりとその至高の唇で食まれた。が眠っている間だけの低俗な行為が、ついに現実となった。思っていたよりもずっと最高だ。ご馳走を目の前にした時のようにうっとりと細められた瞳は明らかに欲情していて、随分と美味しそうに私の指を一生懸命ぺろぺろと舐めている。

「ふぁ……ぅ、ん……」
「あぁ、すごく上手だ……イイよ」

 ぢゅ、と卑猥な水音が更に私を煽る。

「ふふふ、よかったぁ……毎晩ロイと練習したおかげだね」

 まるで本当の赤ん坊のようにえな笑いを浮かべるは、もう一本私の指を口に含み始めるのだった。






BACK / TOP