俺は先輩が嫌い。でもは好き。先輩なは嫌い。だから先輩は嫌い。俺はが好き。は甘い。とにかく吐きたくなるような甘さだ。そんな甘さなんていらない。けどのだから、いる。そんな矛盾。
「靴下とパンツだけってエロいな」「ば、っか…ぁ!」
本当に息が出来ない時がある。お祭りの出店で取った金魚を水槽に入れて海藻入れ忘れてそのまま一夜を明かしたら金魚がぷかぷか浮いてたなんてよくある話で、でも金魚からしたら苦しくて苦しくて死にそうで結局死んじゃって、息ができなくって死んじゃって。
私は今そんな状況だ。「あ、っふ、…ぁ」酸素を抜き取られて吸っても吸ってもどこかに穴があるみたいに抜けていく。そんな感じ。「は‥ら、だくっ」そんな私がまともな声を出せるわけもなく、喉の奥でだんだんと言葉が溶けていった。「巧って呼べって、言ってるだろ」原田くんが上から言葉をすとんと落としてきた。
私はそれをうまくキャッチできずにもう一度「はら、だ、くん…っ」と呼んだ。そうしたら原田くんは忌忌しそうに私に身体を撃ち付けてきた。甘い衝動と呼吸困難。まともな呼吸なんてせずに私は口をパクパクと開けて迫り上がってくる何かに必死に耐えた。「顔、隠すなよ、せんぱ…っ」原田くんの必死の抵抗。ああ、そっか。私は原田くんの先輩でもましてや友達でもないんだ。
だからこうやって熱と酸素と精神と肉体を交えてるんだ。魂すらも。「たく、み」目をつむると巧の手の感触が鮮明になる。それが絶頂の近道だというのに私はこのふわふわした感覚に酔ってしまっていた。
こんな時私はガガーリンが言った「地球は青かった」という実際は見た時もない青を思い出したり、イヴ・クラインの創り出したインターナショナル・クライン・ブルーという魅惑のブルー一色に目の前が染まったりとめまぐるしく視界に青が錯乱するのだ。
それは巧が私をどこかへと連れていってしまうから。例えなんて母なる海でも無限の宇宙でもいい。とにかく私をどこかに還しちゃうの。
キャンベル・スープ缶、コカ・コーラの瓶、M・ジャクソン、マリリン・モンロー、ミック・ジャガー、電気椅子、最後の晩餐。ポップアートでアンディ・ウォーホルがやったように大量生産したい。けれど、人間はたったひとつの存在。だからこそ生命に光沢が生まれる。
バニラソルト
(ああ、しょっぱい。ああ、甘い。そんな矛盾。)
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