「嵐山先輩」肩がびくりと震える。やばい、やばい 。落ち着け俺!振り返るとが俺に向かって走ってきていた。俺と目が合うなりぱあっと顔を輝かせるものだから、胸の底が落ち着かなくなってしまう。心拍数が急上昇したせいで呼吸が上手くできない。一体どのくらい走ってきたのか、は息を切らしながら「よかった、まだ学校出てなくて」と言いながら俺を見上げる。その手には真っ白な紙袋が握られていて余計な期待をしてしまう。もしかして、「これ、迅先輩に渡しておいて貰えますか?」……ん? 「……迅?」 「はい、この前偶然会った時にお茶させてもらって……お礼したかったのになかなか会えなかったんですけど、今日迅先輩と嵐山先輩が会うって聞いたので渡してもらえないかなって思って」「あぁ……わかった、迅な、迅……」 「……?どうしたんですか先輩急にテンション下がってませんか?」「いや、大丈夫だ。だいじょうぶ……」が不思議そうな顔で俺を見る。……いや、わかってはいたけどさ……。どうせ俺の誕生日なんか知らないんだろうな……。は元々高校の時に迅を通じて知り合ったから俺よりも迅のほうがずっと仲が良いし、大学は同じといえど学部が違うからそこまで接点があるわけでもないし……。紙袋を受け取ってからボーダーに向かおうと体の向きを変えると、「あっそうだ」と着ている服の裾がくいっと引っ張られた。何事かと反射的に振り返る。はバッグに手を入れると何かを取り出して、俺の手を引っ張ってカラフルなものを乗せた。お菓子の袋だ。魚の形をしたグミの写真がプリントされている、カラフルなお菓子の袋。「……何だ?これ」 「さっき購買で見つけたんです。前に迅先輩から嵐山先輩はお魚が好きだって聞いたことがあって、いいお魚買うか迷ったんですけど流石に大学に持って来れなくて……これで許してください」「え、……え?」 「お誕生日おめでとうございます」急に重く感じたお菓子の袋から視線をに移動する。はにこにこ笑って「ボーダーのお仕事終わってから隊員の方とか迅先輩と一緒にお誕生日パーティーするって聞きました。楽しんできてくださいね!」と言うなり頭を下げて、手を振りながら図書館に向かって行く。薄い生地のスカートがひらひら揺れる。ふわふわ、ばくばく、どくどく。身体の至るところでいろんな音が、大きな音で響く。グミをもらったくらいで泣きそうなくらい嬉しくなるのなんか、生まれて初めてだ。たまらなくなって、小さく、小さく呟いた。
「好きだよ」