わたしは寂しいのだろうか。

　寂しくないと頑なに主張したところで、30歳をとうに過ぎて独身のわたしのことを、同窓会などで出会う友人は憐れむような目で見つめる。

　そんな時わたしは、ほとほと困ってしまう。彼、彼女らは、一体どんなリアクションを欲しているのだろうか。

　家で一人酒を飲む孤独さを語ればよいのだろうか。そうしたら、今が充実している彼、彼女らは、わたしを見て満足してくれるだろうか。





　同窓会の帰り道、わたしは、ふと高校時代の級友のことを思い出していた。

　彼は部活にも入らず、休み時間はいつも、アニメの絵が描かれた小説のようなものを読んでいた。成績も芳しくなく、クラスでの順位は、いつも下から数えた方が早かった。

　ある日わたしは、クラスの一人が彼に近づき、話しかけているのを見かけた。

　彼は近づいてくる一人を一瞥すると、また読んでいた本に目を戻した。



「いつも何読んでんの？」



　黙々と本を読んでいる彼に、クラスメイトは問いかけた。その言葉には、どこかしら蔑んだ語感が含まれていた。

　彼はといえば、めんどくさそうに、緩慢な動作で本の裏表紙を見せた。

　クラスメイトは、彼が見せた本にほとんど関心も示さず、小さくため息をついた。



「こんなんばっか読んでると、頭悪くなるよ？」



　既に用意していたかのような台詞を、クラスメイトは興味のなさそうな声で言った。

　距離が離れていたため、彼の表情をうかがい知ることはできなかったが、ぼそりと低い声が聞こえてきた。



「頭の良さと、テストで点を取れるのは違うよ」



　クラスメイトに目も合わせず彼が言った言葉に、わたしは思わずふきだしてしまった。

　確かに彼が言ったことは正しいかもしれないが、赤点ぎりぎりの点数しか取れない彼が言ったところで、何の説得力も無い。おそらく、彼の精一杯の強がりだろうことに、わたしは虚しさと憐れみを感じたのだった。





　彼は、今日の同窓会には来なかった。県外の、どこか知らない大学に進んだこと以外、彼のことは何も知らない。同窓会の中で彼の話題になることもなかった。

　わたしは、同窓会に出席し、ピエロになり、一人ぼんやりとした街灯の下を歩いている。

　冷たくなった手を息で暖めながら、わたしは、彼が今幸せであることを祈った。