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作品ID:194
こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2953文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚
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ふたつとないこの世界で
作品紹介
初投稿です。
主人公(男)の気持ちが上手く表せているか心配です(??;)
少年と少女の変わった出会いです。
主人公(男)の気持ちが上手く表せているか心配です(??;)
少年と少女の変わった出会いです。
一年前に言われた彼女の言葉。
今も俺のどこかに突き刺さっている。
俺と高田さんが中学で同じクラスになったのは2年生のときだけで、3年生になった今はまた別々のクラスになってしまった。
同じクラスになるまで高田さんの存在は全く知らなかった。ここの学校は生徒が多いから、卒業まで名前も顔もわからない人だっている。アルバムを開いて「ああ、こんな人もいたんだ」程度で終わるだろう。そして俺のこともそういうふうにアルバムを開いて思う人もいるだろう。
たった1年だったのに、ほとんど喋ったりなんてしたことはなかった。
俺によく「優しい」とか「丁寧」などと人は言う。けれどそんなことはないんだ。友達はいるけど、それは社交辞令みたいなものだから“友達”より“知り合い”に近い。相手の動きに合わせて言葉を交える。
周りが思っているよりもずっと俺は冷めた人間だ。自分の奥底の気持ちなど誰にも言ったことがない。
部活のテニスだって、本当にやりたくてやっているわけじゃないかもしれない。ただ、何かスポーツくらいはと思ってラケットを握っているんだと思う。
わからない。自分が何をしたいのか、わからない。
なんとなくこの世をさ迷っているような生き方。
自分のことなのに実は自分のことを一番わかっていなかったのは俺自身なんだ。
しかし、高田さんと同じクラスになって3ヶ月が過ぎようとしていたときだった。
その日の放課後、俺は音楽室を通りかかったから、昔習っていたピアノを弾いていた。
今思えば俺の行動は全て、なんとなくで動いていたのかもしれない。そして高田さんも“なんとなく”で音楽室を通りかかった。
「へえ……誰が弾いてるのかと思ったら」
「高田さん」
「なんとなく、ね。ピアノの綺麗な音が聞こえてきたから。お邪魔だった?」
そこですかさず俺の社交辞令モードのスイッチが入る。
「そんなことないよ」
いつものように作り笑いを浮かべる。
「じゃ、聞かせてよ」
「え?」
最初は何を言われたのかわからなかった。
高田さんは俺と同じ属性の人間だと、話したこともないくせにそう思っていた。何事にも無関心で冷めていて、まるで俺のようだと。だってあまり感情を表に出すような人じゃなかったから。
高田さんは椅子を持ってきてピアノを弾く俺の隣に座った。小さな観客席の出来上がりだ。
「減るものじゃないし、聞かせてよ」
予想外の展開だったけれど俺はすんなり「いいよ」と言って止めてしまった続きを弾き始めた。俺のお気に入りの曲だった。
やがて弾き終わると、ふいに思い出したかのように高田さんは言った。
「綺麗だよね」
また俺は言葉に詰まった。何のことだか一瞬判断がつかなかった。
俺が何も言葉を発さなかったから、彼女は俺が聞いていなかったと思ったのだろう。もう一度同じ言葉を繰り返した。
「滝は綺麗だね」
綺麗?俺が?
「違うよ。そんなことない」
何度か言われたことはあった。その度に「ありがとう」と相手に返してきた。でも、初めてここで否定の言葉を使った。
どうしてだろう。いつものように返せばよかったのに。
俺は高田さんを残したまま、黙って音楽室を出た。
それから高田さんとは喋らなかった。喋らないまま3年生になり、高田さんとはクラスも変わってしまった。
あの日から高田さんも俺に近づくことはなかった。近づく理由もない。
だってあれは偶然だったのだから……。
ただなんとなく音楽室に入ったんだ。ただ、それだけ。
“運命”なんて甘い言葉を使うやつもいるかもしれないけれど、俺はそんな言葉は信じない。
★
「まさか、嘘だろ……」
「レギュラーの滝さんが負けるなんて!」
今日、俺は負けた。なんとなくで構成された俺は、テニスというものに特別な思いを込めている2年の島田に負けた。当然、実力がここでは全て。
「滝はレギュラーからはずす」
監督の低く、鋭い声が俺の頭の上で響いた。
「島田がレギュラー組に入れ」
島田の体は傷だらけだった。どれだけ努力をしたかがひと目でわかる。島田の瞳がテニスが好きだと訴えているようだった。
そういう瞳ばかり見てきた俺。
同じコートに、同じ場所に立っていたはずなのに……。
俺もあんなふうになりたかった。
あんなふうに生きてみたかった……。
「滝」
背後から聞き覚えのある声がして、俺は思わず振り向いた。
「高田さん」
コートの裏手にある水道で顔を洗っていた俺に彼女は持っていた白いタオルをすっと差し出した。
「使って。そのままだとジャージ、濡れちゃうよ」
「ありがとう」
俺は受け取ると柔らかなそのタオルで顔を拭いた。だが、そのまま顔を埋めてタオルを握り締め、情けなく俺は声を押し殺して泣いた。
高田さんは黙ってその場に立っていた。
なんだろう、この気持ち。イライラする。
嫉妬?
俺が島田を恨んでる?
まさか……。
だけど、この気持ちはなんだ?
ああ、そうか。
悔しいんだ。
俺にとってテニスは、泣くほど大切で大好きなものだったんだ。
コートが見える草むらに、2人で体育座りをした。このタオルは洗って返そう。
「滝、前にわたしが言ったこと……覚えてる?」
「……綺麗ってやつだよね」
「うん。やっぱり滝は綺麗だよ」
嫉妬して惨めに声を押し殺して泣いた俺をまだ綺麗だと言うのか?
「俺はすごく嫌なやつだよ。さっき泣いたのだって、俺を負かした島田が憎くて泣いたんだ。全然綺麗じゃない。なんとなく生きてるだけなんだよ、俺は」
だけど、高田さんは視線をコートに向けたまま首を横に振った。
「違う。滝は綺麗だから人の中にある汚い部分が目立ったんだ。本当にずるくて汚い人は自分の汚さで、汚れた感情に気づかないもの。きっと自分のことしているに対して何も思わない」
だから綺麗なんだよ、と言って初めて笑顔を見せてくれた。
声が……出なくなりそうになった。
「滝はなんとなくで生きてるって言ったよね。でもわたしはそんな人生もあっていいと思う」
俺は黙って高田さんの声に耳を傾けた。
「なんとなくを繰り返してしまうかもしれない。滝はその中で少しずつそうじゃない部分がきっと増えていくよ。わたしも……そうだから」
そして彼女は少し照れたように俯いて、
「滝は“運命”って信じる?」
と聞いてきた。
「運命……?」
「わたしがあの音楽室を通りかかったのは“偶然だよ”。でも……“運命”って置き換えてもいいかな?」
心臓が一瞬止まったような、そんな衝撃を受けた。
いつの間にか“運命”という言葉に期待をしている俺がいた。
「もちろん」
心からの笑顔で言った。
この日から俺の“なんとなく”は“運命”に変わった。
ふたつとないこの世界で?俺と彼女はであった?
終
今も俺のどこかに突き刺さっている。
俺と高田さんが中学で同じクラスになったのは2年生のときだけで、3年生になった今はまた別々のクラスになってしまった。
同じクラスになるまで高田さんの存在は全く知らなかった。ここの学校は生徒が多いから、卒業まで名前も顔もわからない人だっている。アルバムを開いて「ああ、こんな人もいたんだ」程度で終わるだろう。そして俺のこともそういうふうにアルバムを開いて思う人もいるだろう。
たった1年だったのに、ほとんど喋ったりなんてしたことはなかった。
俺によく「優しい」とか「丁寧」などと人は言う。けれどそんなことはないんだ。友達はいるけど、それは社交辞令みたいなものだから“友達”より“知り合い”に近い。相手の動きに合わせて言葉を交える。
周りが思っているよりもずっと俺は冷めた人間だ。自分の奥底の気持ちなど誰にも言ったことがない。
部活のテニスだって、本当にやりたくてやっているわけじゃないかもしれない。ただ、何かスポーツくらいはと思ってラケットを握っているんだと思う。
わからない。自分が何をしたいのか、わからない。
なんとなくこの世をさ迷っているような生き方。
自分のことなのに実は自分のことを一番わかっていなかったのは俺自身なんだ。
しかし、高田さんと同じクラスになって3ヶ月が過ぎようとしていたときだった。
その日の放課後、俺は音楽室を通りかかったから、昔習っていたピアノを弾いていた。
今思えば俺の行動は全て、なんとなくで動いていたのかもしれない。そして高田さんも“なんとなく”で音楽室を通りかかった。
「へえ……誰が弾いてるのかと思ったら」
「高田さん」
「なんとなく、ね。ピアノの綺麗な音が聞こえてきたから。お邪魔だった?」
そこですかさず俺の社交辞令モードのスイッチが入る。
「そんなことないよ」
いつものように作り笑いを浮かべる。
「じゃ、聞かせてよ」
「え?」
最初は何を言われたのかわからなかった。
高田さんは俺と同じ属性の人間だと、話したこともないくせにそう思っていた。何事にも無関心で冷めていて、まるで俺のようだと。だってあまり感情を表に出すような人じゃなかったから。
高田さんは椅子を持ってきてピアノを弾く俺の隣に座った。小さな観客席の出来上がりだ。
「減るものじゃないし、聞かせてよ」
予想外の展開だったけれど俺はすんなり「いいよ」と言って止めてしまった続きを弾き始めた。俺のお気に入りの曲だった。
やがて弾き終わると、ふいに思い出したかのように高田さんは言った。
「綺麗だよね」
また俺は言葉に詰まった。何のことだか一瞬判断がつかなかった。
俺が何も言葉を発さなかったから、彼女は俺が聞いていなかったと思ったのだろう。もう一度同じ言葉を繰り返した。
「滝は綺麗だね」
綺麗?俺が?
「違うよ。そんなことない」
何度か言われたことはあった。その度に「ありがとう」と相手に返してきた。でも、初めてここで否定の言葉を使った。
どうしてだろう。いつものように返せばよかったのに。
俺は高田さんを残したまま、黙って音楽室を出た。
それから高田さんとは喋らなかった。喋らないまま3年生になり、高田さんとはクラスも変わってしまった。
あの日から高田さんも俺に近づくことはなかった。近づく理由もない。
だってあれは偶然だったのだから……。
ただなんとなく音楽室に入ったんだ。ただ、それだけ。
“運命”なんて甘い言葉を使うやつもいるかもしれないけれど、俺はそんな言葉は信じない。
★
「まさか、嘘だろ……」
「レギュラーの滝さんが負けるなんて!」
今日、俺は負けた。なんとなくで構成された俺は、テニスというものに特別な思いを込めている2年の島田に負けた。当然、実力がここでは全て。
「滝はレギュラーからはずす」
監督の低く、鋭い声が俺の頭の上で響いた。
「島田がレギュラー組に入れ」
島田の体は傷だらけだった。どれだけ努力をしたかがひと目でわかる。島田の瞳がテニスが好きだと訴えているようだった。
そういう瞳ばかり見てきた俺。
同じコートに、同じ場所に立っていたはずなのに……。
俺もあんなふうになりたかった。
あんなふうに生きてみたかった……。
「滝」
背後から聞き覚えのある声がして、俺は思わず振り向いた。
「高田さん」
コートの裏手にある水道で顔を洗っていた俺に彼女は持っていた白いタオルをすっと差し出した。
「使って。そのままだとジャージ、濡れちゃうよ」
「ありがとう」
俺は受け取ると柔らかなそのタオルで顔を拭いた。だが、そのまま顔を埋めてタオルを握り締め、情けなく俺は声を押し殺して泣いた。
高田さんは黙ってその場に立っていた。
なんだろう、この気持ち。イライラする。
嫉妬?
俺が島田を恨んでる?
まさか……。
だけど、この気持ちはなんだ?
ああ、そうか。
悔しいんだ。
俺にとってテニスは、泣くほど大切で大好きなものだったんだ。
コートが見える草むらに、2人で体育座りをした。このタオルは洗って返そう。
「滝、前にわたしが言ったこと……覚えてる?」
「……綺麗ってやつだよね」
「うん。やっぱり滝は綺麗だよ」
嫉妬して惨めに声を押し殺して泣いた俺をまだ綺麗だと言うのか?
「俺はすごく嫌なやつだよ。さっき泣いたのだって、俺を負かした島田が憎くて泣いたんだ。全然綺麗じゃない。なんとなく生きてるだけなんだよ、俺は」
だけど、高田さんは視線をコートに向けたまま首を横に振った。
「違う。滝は綺麗だから人の中にある汚い部分が目立ったんだ。本当にずるくて汚い人は自分の汚さで、汚れた感情に気づかないもの。きっと自分のことしているに対して何も思わない」
だから綺麗なんだよ、と言って初めて笑顔を見せてくれた。
声が……出なくなりそうになった。
「滝はなんとなくで生きてるって言ったよね。でもわたしはそんな人生もあっていいと思う」
俺は黙って高田さんの声に耳を傾けた。
「なんとなくを繰り返してしまうかもしれない。滝はその中で少しずつそうじゃない部分がきっと増えていくよ。わたしも……そうだから」
そして彼女は少し照れたように俯いて、
「滝は“運命”って信じる?」
と聞いてきた。
「運命……?」
「わたしがあの音楽室を通りかかったのは“偶然だよ”。でも……“運命”って置き換えてもいいかな?」
心臓が一瞬止まったような、そんな衝撃を受けた。
いつの間にか“運命”という言葉に期待をしている俺がいた。
「もちろん」
心からの笑顔で言った。
この日から俺の“なんとなく”は“運命”に変わった。
ふたつとないこの世界で?俺と彼女はであった?
終
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