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作品ID:203
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約3493文字 読了時間約2分 原稿用紙約5枚
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告白
作品紹介
二作目の投稿となりますが、前作と違い、年齢制限は
ありません。
今回も一人称の小説ですが、またもや主人公の独白と
いう感じになってるような。
次の小説では会話の場面を入れたいものです。
ありません。
今回も一人称の小説ですが、またもや主人公の独白と
いう感じになってるような。
次の小説では会話の場面を入れたいものです。
うららかな日曜日の午後。
先日、桜が開花して、部屋のテレビからは花見で賑わう様子が流れていた。
天気が良いので桜を見に行きたいと思ったが、昼過ぎまで寝ていたため、出かけるには時間がない。
明日の仕事に備え、今日はのんびりと家で過ごすことにした。
とりあえず、パソコンの電源を入れる。
《メールを受信しました》
しばらくして、メールソフトからの受信通知が画面に現れた。
受信していなかったメールが十通ほど。情報メールと迷惑メールがほぼ半々。
それらのメールを手動で振り分けていたところ、一つのフォルダが目に留まった。
それは「mai」と書かれたフォルダ。
(マイさんか――)
***
マイさんと知り合ったのは三年前の三月。とあるメール友達募集のサイトがきっかけだった。
その頃の僕は、二十歳の大学生。競馬に興味があったものの、友人たちに競馬好きがいなかったため、競馬の話題で楽しく盛り上がれるようなメル友を探していた。
そんなとき、僕はマイさんの書き込みを見つける。
『メールでお話できる人を探してます。メールお待ちしてます』
ただ、それだけの書き込みだったが、趣味の項目に「競馬」とあったので、とりあえずメールを送ってみた。
彼女も僕と同じく、二十歳の学生。都道府県は書かれてなかったが、どこに住んでいても関係ない。ただ、返事が来ることを願っていた。
翌日の夜、マイさんからメールが来た。
『コウさん、はじめまして。メールありがとうございます』
「コウ」というのは僕の名前「浩平」から付けたハンドル――つまり、メールでの名前だ。
そう書き始められたメールだが、募集の書き込みと違って、かなり長文のメール。
僕が送ったメールには、自己紹介と競馬などの関心事をはじめ、マイさんの好きなことに関する質問などを書いたものの、そのメールを遥かに上回る長さで丁寧に書かれたメールだった。彼女のメールには、「メールをもらえてうれしかった」とあったが、その気持ちはメールの長さと文面から読み取ることができる。
返事がもらえてうれしいのは僕も同じ。その気持ちをこめて、マイさんと同じように丁寧に書いたメールを返す。こうして、マイさんとのメール交換が始まった。
それから一年後、翌年の四月中旬。
僕とマイさんのメール交換は続いていた。競馬の話題もあったが、むしろそれ以外の話題――主に互いの日常のこと――を書くことが大半だ。それでも、メール交換が楽しく、彼女からの返事を心待ちにしている日々。
メールの間隔はほぼ二、三日。バイトや大学の勉強などで忙しい時期には、僕からのメールが滞ることもあったけれど、
『お疲れさま。無理しないでくださいね。メール遅れてもいいですから』
と、マイさんはメールで僕を気遣う。そんな彼女の気遣いがうれしくもある。
メールを続けている中で、マイさんが岩手に住んでいることを知った。僕は東京に住んでいるが、彼女に会えなくてもいい、メル友の関係をこれからも続けたいんだ。
そう思っている僕に、マイさんからメールが届く。
『今度の週末、東京に行きます』
週末を利用して、東京に出てきている友人のところへ遊びに行くとのこと。
次の日曜日は中山競馬場で皐月賞という大きなレースが行われるが、中山競馬場を訪れたことのない彼女は、時間があれば皐月賞を観戦したいと書いている。僕も皐月賞を直に見たいが、その日は外せない用事ができてしまった。
『皐月賞、現地で見たいなぁ。行けなくて残念だ』
そんなことをメールに書いて、マイさんに送信した。
しかし、その日曜日が過ぎ、十日ほど経っても、マイさんからのメールがない。
(何かまずいこと書いたかなぁ……)
前回送信したメールを読み返してみると、「皐月賞に行けなくて残念だ」の部分が気になった。
自分では、「現地で見られないことが残念」の意味で書いたつもりだったのだが、「マイさんと一緒に見られなくて残念」の意味にも取れる。
男と違い、女性は異性のメル友と会うことに抵抗感があり、「会おう」の一言でメールが来なくなることも珍しくないと聞く。
そういうメル友事情に当てはまるかどうかはわからないが、マイさんに誤解されて、メール交換が終わってしまうのは悲しい。
だが、前回のメールとは関係なく、マイさんが忙しくなった可能性もある。
だから、あえて、メールのことには触れずに、
『そちらが落ち着いたらでいいので、メール待ってます』
こう書き添えて、メールを送った。
相変わらず、マイさんからのメールが来ないまま。
一ヶ月あまりが過ぎ、六月がもう目の前。
『ごめんなさい』
件名にそう書かれたメールが届いた。マイさんからのメールだ。
件名を見て、メールが遅れたことのお詫びだろうと、軽い気持ちでメールを開く。
メールを数行読んで、時間が止まったような気がした。
『コウさんに嘘をつき続けたことを謝らなくてはいけません』
メールによれば、マイさんの年齢は僕と同い年ではなく「三歳年上」の二十四歳。学生ではなく会社員とのこと。
彼女と知り合ったメル友募集サイトは、十代後半から二十歳くらいの学生が多く、つい嘘をついてしまったという。
嘘をつかれたことは気持ちの良いものではないが、そのくらいの嘘なら、さほどショックではない。
むしろ、後に書かれている告白に目を奪われた。
『先日の東京行き、友達ではなく、実は彼に会いに行ったんです』
もともと、マイさんには交際中の男性がいたそうだが、その男性が東京に転勤。
はじめのうちは、お互いに連絡を取り合っていたものの、男性側が多忙を理由にあまり連絡をしなくなった。彼女が寂しさを感じていたところに、件のメル友募集サイトを見つけたらしい。
僕とのメール交換を通じ、マイさんは寂しさが少し紛れた一方で、半年以上も男性と会ってないことで不安が募り、東京行きを決心。そこで不安を払拭するはずの彼女だったが、些細なことで口喧嘩。それがきっかけで男性から別れを切り出されてしまい、そのまま彼と別れることになったそうだ。
『このままメールを止めようとも思いましたが、コウさんには本当のことを書きたいと思い、メールを送りました』
マイさんの言うように、このままメールを止めていたほうが楽だったはず。悲しい思い出を蒸し返さずに済むのだから。
彼女は嘘をついていたが、そのことを打ち明けたのは、彼女なりの誠意と信じたい。
そんな彼女のメールを読んで、かすかな怒りがこみ上げる。彼女にではない、自分にだ。
不安の素振りも見せず、メールを続けていた彼女に、何もできなかった自分が悔しかった。
事前に不安を打ち明けて欲しかったが、彼女の立場になってみると、お互いの関係がメル友であるうえに、三つも年下の者――しかも学生――に悩みを打ち明けるのは難しかっただろう。
――自分がもう少し大人だったら、彼女の力になれたのだろうか。
いや、大人であるかどうかという以前に、僕は「楽しく」メール交換をすることばかり考えていた。僕のメールにもそれが現れていたと思う。そんな子供の僕に悩み事を打ち明けられるはずはない。彼女が悩みを隠し続けたのも当然だ。
『こんな私にコウさんとメールを続ける資格はありません。本当にごめんなさい。どうかお元気で』
彼女は、メールをそう締めくくっていた。
しかし、嘘をつかれた僕より、悩みと嘘を隠し続けていた彼女のほうが遥かに辛かったはず。
僕は彼女に申し訳なかった。
***
マイさんが真実を告白したメールから、もうすぐ二年。
それまでに送られてきたメールも読み返して、当時のことを懐かしく思い出している。
実は、あのメールを受け取った後、少しして、僕は彼女に一度だけメールを送った。
『これからは本音で話し合えるメル友になりたい』
彼女へのお詫びとともに、メールにそう書いたが、彼女からの返信はもちろんない。
できれば、彼女の現況を知りたい気持ちはあるが、それは叶わぬ望みだろう。
彼女が幸せになっていることを信じながら、僕はメールを閉じた。
先日、桜が開花して、部屋のテレビからは花見で賑わう様子が流れていた。
天気が良いので桜を見に行きたいと思ったが、昼過ぎまで寝ていたため、出かけるには時間がない。
明日の仕事に備え、今日はのんびりと家で過ごすことにした。
とりあえず、パソコンの電源を入れる。
《メールを受信しました》
しばらくして、メールソフトからの受信通知が画面に現れた。
受信していなかったメールが十通ほど。情報メールと迷惑メールがほぼ半々。
それらのメールを手動で振り分けていたところ、一つのフォルダが目に留まった。
それは「mai」と書かれたフォルダ。
(マイさんか――)
***
マイさんと知り合ったのは三年前の三月。とあるメール友達募集のサイトがきっかけだった。
その頃の僕は、二十歳の大学生。競馬に興味があったものの、友人たちに競馬好きがいなかったため、競馬の話題で楽しく盛り上がれるようなメル友を探していた。
そんなとき、僕はマイさんの書き込みを見つける。
『メールでお話できる人を探してます。メールお待ちしてます』
ただ、それだけの書き込みだったが、趣味の項目に「競馬」とあったので、とりあえずメールを送ってみた。
彼女も僕と同じく、二十歳の学生。都道府県は書かれてなかったが、どこに住んでいても関係ない。ただ、返事が来ることを願っていた。
翌日の夜、マイさんからメールが来た。
『コウさん、はじめまして。メールありがとうございます』
「コウ」というのは僕の名前「浩平」から付けたハンドル――つまり、メールでの名前だ。
そう書き始められたメールだが、募集の書き込みと違って、かなり長文のメール。
僕が送ったメールには、自己紹介と競馬などの関心事をはじめ、マイさんの好きなことに関する質問などを書いたものの、そのメールを遥かに上回る長さで丁寧に書かれたメールだった。彼女のメールには、「メールをもらえてうれしかった」とあったが、その気持ちはメールの長さと文面から読み取ることができる。
返事がもらえてうれしいのは僕も同じ。その気持ちをこめて、マイさんと同じように丁寧に書いたメールを返す。こうして、マイさんとのメール交換が始まった。
それから一年後、翌年の四月中旬。
僕とマイさんのメール交換は続いていた。競馬の話題もあったが、むしろそれ以外の話題――主に互いの日常のこと――を書くことが大半だ。それでも、メール交換が楽しく、彼女からの返事を心待ちにしている日々。
メールの間隔はほぼ二、三日。バイトや大学の勉強などで忙しい時期には、僕からのメールが滞ることもあったけれど、
『お疲れさま。無理しないでくださいね。メール遅れてもいいですから』
と、マイさんはメールで僕を気遣う。そんな彼女の気遣いがうれしくもある。
メールを続けている中で、マイさんが岩手に住んでいることを知った。僕は東京に住んでいるが、彼女に会えなくてもいい、メル友の関係をこれからも続けたいんだ。
そう思っている僕に、マイさんからメールが届く。
『今度の週末、東京に行きます』
週末を利用して、東京に出てきている友人のところへ遊びに行くとのこと。
次の日曜日は中山競馬場で皐月賞という大きなレースが行われるが、中山競馬場を訪れたことのない彼女は、時間があれば皐月賞を観戦したいと書いている。僕も皐月賞を直に見たいが、その日は外せない用事ができてしまった。
『皐月賞、現地で見たいなぁ。行けなくて残念だ』
そんなことをメールに書いて、マイさんに送信した。
しかし、その日曜日が過ぎ、十日ほど経っても、マイさんからのメールがない。
(何かまずいこと書いたかなぁ……)
前回送信したメールを読み返してみると、「皐月賞に行けなくて残念だ」の部分が気になった。
自分では、「現地で見られないことが残念」の意味で書いたつもりだったのだが、「マイさんと一緒に見られなくて残念」の意味にも取れる。
男と違い、女性は異性のメル友と会うことに抵抗感があり、「会おう」の一言でメールが来なくなることも珍しくないと聞く。
そういうメル友事情に当てはまるかどうかはわからないが、マイさんに誤解されて、メール交換が終わってしまうのは悲しい。
だが、前回のメールとは関係なく、マイさんが忙しくなった可能性もある。
だから、あえて、メールのことには触れずに、
『そちらが落ち着いたらでいいので、メール待ってます』
こう書き添えて、メールを送った。
相変わらず、マイさんからのメールが来ないまま。
一ヶ月あまりが過ぎ、六月がもう目の前。
『ごめんなさい』
件名にそう書かれたメールが届いた。マイさんからのメールだ。
件名を見て、メールが遅れたことのお詫びだろうと、軽い気持ちでメールを開く。
メールを数行読んで、時間が止まったような気がした。
『コウさんに嘘をつき続けたことを謝らなくてはいけません』
メールによれば、マイさんの年齢は僕と同い年ではなく「三歳年上」の二十四歳。学生ではなく会社員とのこと。
彼女と知り合ったメル友募集サイトは、十代後半から二十歳くらいの学生が多く、つい嘘をついてしまったという。
嘘をつかれたことは気持ちの良いものではないが、そのくらいの嘘なら、さほどショックではない。
むしろ、後に書かれている告白に目を奪われた。
『先日の東京行き、友達ではなく、実は彼に会いに行ったんです』
もともと、マイさんには交際中の男性がいたそうだが、その男性が東京に転勤。
はじめのうちは、お互いに連絡を取り合っていたものの、男性側が多忙を理由にあまり連絡をしなくなった。彼女が寂しさを感じていたところに、件のメル友募集サイトを見つけたらしい。
僕とのメール交換を通じ、マイさんは寂しさが少し紛れた一方で、半年以上も男性と会ってないことで不安が募り、東京行きを決心。そこで不安を払拭するはずの彼女だったが、些細なことで口喧嘩。それがきっかけで男性から別れを切り出されてしまい、そのまま彼と別れることになったそうだ。
『このままメールを止めようとも思いましたが、コウさんには本当のことを書きたいと思い、メールを送りました』
マイさんの言うように、このままメールを止めていたほうが楽だったはず。悲しい思い出を蒸し返さずに済むのだから。
彼女は嘘をついていたが、そのことを打ち明けたのは、彼女なりの誠意と信じたい。
そんな彼女のメールを読んで、かすかな怒りがこみ上げる。彼女にではない、自分にだ。
不安の素振りも見せず、メールを続けていた彼女に、何もできなかった自分が悔しかった。
事前に不安を打ち明けて欲しかったが、彼女の立場になってみると、お互いの関係がメル友であるうえに、三つも年下の者――しかも学生――に悩みを打ち明けるのは難しかっただろう。
――自分がもう少し大人だったら、彼女の力になれたのだろうか。
いや、大人であるかどうかという以前に、僕は「楽しく」メール交換をすることばかり考えていた。僕のメールにもそれが現れていたと思う。そんな子供の僕に悩み事を打ち明けられるはずはない。彼女が悩みを隠し続けたのも当然だ。
『こんな私にコウさんとメールを続ける資格はありません。本当にごめんなさい。どうかお元気で』
彼女は、メールをそう締めくくっていた。
しかし、嘘をつかれた僕より、悩みと嘘を隠し続けていた彼女のほうが遥かに辛かったはず。
僕は彼女に申し訳なかった。
***
マイさんが真実を告白したメールから、もうすぐ二年。
それまでに送られてきたメールも読み返して、当時のことを懐かしく思い出している。
実は、あのメールを受け取った後、少しして、僕は彼女に一度だけメールを送った。
『これからは本音で話し合えるメル友になりたい』
彼女へのお詫びとともに、メールにそう書いたが、彼女からの返信はもちろんない。
できれば、彼女の現況を知りたい気持ちはあるが、それは叶わぬ望みだろう。
彼女が幸せになっていることを信じながら、僕はメールを閉じた。
後書き
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