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作品ID:218
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約16015文字 読了時間約9分 原稿用紙約21枚
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初級者 / R-15 /
99ぱーせんとの!プロローグ&第一章
作品紹介
俺の現在進行形で書いている作品です。(2010年現在)
他の所でも掲載しているのですが評価が少ないのでここの皆さんに評価してもらおうと思いまして。
あらすじ的には主人公霧島響介の周りで起こるハプニングを書いたストーリーです。
第一章はコメディ中心ですが後々は少しグロめになります。
バトル&コメディ in 学園モノって感じです。
読みにくいとは思いますがその点には触れないで下さるとうれしいです。
他の所でも掲載しているのですが評価が少ないのでここの皆さんに評価してもらおうと思いまして。
あらすじ的には主人公霧島響介の周りで起こるハプニングを書いたストーリーです。
第一章はコメディ中心ですが後々は少しグロめになります。
バトル&コメディ in 学園モノって感じです。
読みにくいとは思いますがその点には触れないで下さるとうれしいです。
プロローグ
この小さな町、案山子山町にある一つの学校、私立案山子山(かかしやま)学園。
普通の学校と比べても巨大に感じるこの学校の面積はこの町の面積の60%を占めており、通う生徒の数も普通の学校とは比べ物にならない数である。
その案山子山学園の巨大な校門の前に一つの人影。
赤髪に白い瞳、雨でもないのに黄のレインコートに赤い傘を持ち黒い長靴を履く、といった格好で立っていたのは一人の少女であった。
深夜十二時からずっと立っているために退屈そうな様子だ。
時刻は既に午前一時半。既に一時間半は経っている。
最近この周辺では「夜中に外出してはならない」という規則があるらしいため人っ子一人現れる気配がない。
しかし、規則というものはあっても守る人間は全体の六割程度だという事を少女は知っている。そのためひたすら待ち続ける。機会は必ずある。
それから10分程度たった頃だろうか。
人気のない夜の町の静けさ。点々とした街灯。そして、聞こえてくる喧騒。
声からして自分と同じくらいの歳だろうから、カッコつけて規則を破る高校生だと推測できる。距離は500メートル程度。
少女は笑みを浮かべ声の方へと走り出す。
所詮規則とは彼女との接触を避けるために作り上げられ、彼女によって利用されるだけのものでしかなかった。
そのためにこの地域では大量殺人気「アメフラシ」の被害が無くなることなどなかった。
そして今宵も夜の町に血の雨が降る。
第一章 99パーセントの危険信号
6月下旬。梅雨明けの案山子山学園高等部2年7組の教室にて。
「ってことで?、みんなも気を付けてね?」
と言ったのは案山子山高校の七不思議の一つに数えられる程のロリ教師、如月みいであった。
現時刻は8時50分で朝のホームルームの時間帯だ。
大まかな彼女の話の内容はこうだ。
夜の外出に気をつけろ、といった簡単な事である。
公立案山子山高校周辺では現在夜間外出禁止といった規制がある。
理由はただ一つ、大量殺人気「アメフラシ」の被害を避けるためのものである。
現在この町にはその殺人鬼によりたった一週間で23人もの被害者が出ている。
被害者は必ずバラバラの状態で発見され、まるで血の雨が降ってきたかのように近隣の家の屋根まで赤く染まる。
目撃者は無し。事件の時刻は深夜が多いようだ。
そのため警察も手を焼いているらしい。まぁ、夜に外出しない俺にはあんまり関係ないけど。
規律を守らない奴が悪いのにな。外に出なければ被害を受ける事なんてないのに。
とはいえ、夜に外出するなというのは絶対守らなければならない規則ではない。
夜に緊急の用事が入った。とか、病気になった、怪我をした。とかで病院やらなにやらで外出しなければならない事もあるからだ。
それでも、極力人通りの多いメインストリートに行けば被害には合わないのにな。
まあ、俺には関係のない事だしこの話にも飽きてきたな。欠伸が出る。
「こら?、欠伸するな霧島?。君もアメフラシに襲われちゃうかもよ?」
俺の欠伸の瞬間を捉えたロリ教師がそう言った。
「俺はいい子なので襲われません」
「本当に??いい子だったら昨日の現代文、なんでサボったの??」
「えと・・・後ろの馬鹿に連れ出されました」
と言って俺は後ろの席にいる馬鹿な幼馴染の城山雪乃(しろやまゆきの)を指さした。
しかし雪乃は俺の言葉を聞くなり
「へ?何でアタシが?昨日の現文は寝てたはずだけど」と言った。
てか寝てたのかよ。真面目に授業受けろって。まぁ、俺が言える事じゃないけど。
とりあえず話を作ろう。
「お前実は寝ているときには、こう・・・第二の人格が発動するんだよ」
「え?!そうなの?」
「そうだ、そして昨日はいきなり立ち上がるなりこう言った。案山子山第137地区にて兎の群れが現れた、ってさ。そしたら俺の手を引いて教室から出て行った」
「兎?なんか可愛い光景しか浮かばないんだけど」
「あ、ついでに兎は八頭身な」
「気持ち悪っ!」
「ポケ○ンだとカ○リキー。ドラ○ンボールだと天○飯」
「手が4本?!でムキムキかよ!」
「お前は応戦したがな、数が多すぎた。なんせ666体いたし」
「数が不吉!しかも多すぎだろ!!」
「ああ、多かったよ。だけどお前の実力は奴らと互角だった」
「第二の人格強っ!!つーかアンタはどこ行ったのよ」
「あ、俺実況だから」
「戦えよ!アタシの代わりに戦えよ!!」
「いや、お前が俺の獲物に手を出すなって・・・・」
「一人称変わるの?!つーかアタシそんなに強かったの?!」
「ああ、一撃で500体位ふっ飛ばしてた」
「二発で終わりじゃん!互角じゃないじゃん!」
「あ、最終的には核でふっ飛ばした」
「衝撃のラスト?!核使う意味無くない?」
「核のボタン押したの俺な」
「アンタは何者だ!」
「俺はこう言ったんだ。お前の手をそれ以上汚したくなかったんだ、と」
「既に500体殺ったのに何を今更」
「で、お前は言った。助かった、実況ありがとう。と」
「助ける必要無いし、実況いらねーよ!」
「んで明日ジュース奢るって言ってた。ほらジュースは?」
「奢るかよ!つーかんな話信じるか!!」
どうやら嘘と気付かれたらしい。流石にこれは駄目だったか。
クラスメイトは「またやってるよ」とか「流石にバレるだろ」とか「霧島もアホだよな」言ってやがる。あ、言い忘れたけど霧島ってのは俺ね。
「いや、嘘じゃないよ」
「嘘つけ!普通核が出てきた時点で嘘だと気付くわ!!」
「・・・・・」
教室内から喧騒が消える。え?今何て言ったの、この子。
普通は第二の人格の時点で気付くわ!!
「は?い、そこ?。も?すぐじゅぎょー始まるから?、静かにね?。後、雪ちゃんは第二の人格の時点で嘘だと気づいてね?」
「え?第二の人格嘘?!それと八頭身の兎だけは本当かと思ってたのに?」
「八頭身の兎はほんとーです?。じゃ、じゅぎょー始めるよ」
キーン、コーン、カーン、コーン。という普通のチャイムの音が鳴る。
今日は月初めの月曜日。そう思うとまた退屈な日常が始まるんだなーと思ってしまう。
どうしよう。今日はだるい授業しかないし、帰った方が面白い事あるかな。
と思ったところで、俺の頭の中で一つの違和感が沸いた。
そう言えばさっきのロリ教師の話、おかしくないか?
俺は周りを見渡す。数人程と目があった。俺の他に気付いている者もいるようだ。
やはり俺の違和感は間違っていなかった。
この違和感を解決する方法は一つ、このロリに直接聞く事だろう。
俺は勢いよく挙手し、「質問です!」と大声を張り上げた。
「なんですか??まだ何も言ってませんよ?」とロリ教師は振り返った。
「いえ、さっきのホームルームの話、少し不明な点があったもので」
「不明な点?」
「ええ」
と俺はスッと息を吸い込んで言った。
「八頭身の兎は実在するんですか?」
キーン、コーン、カーン、コーン。
授業の終わりのチャイムが鳴る。
あのような質問はこれからはしない方向で行こう。
今日の授業の内容はロリ教師の八頭身兎についての解説だった。作業用BGMの常に後ろの席から聞こえて来るぼそぼそと連続的に聞こえてくる「チュパカブラinピザまん」は凄すぎてよくわからなかった。UMA入りのピザまんて何?おいしいの?
「じゃあ、次の授業は美術だから移動だよ?。遅れないようにね?」
ロリ教師如月はそう言うと教室から出て行き、次の教室へと言ってしまった。
「美術、か・・・」
俺は憂鬱な気分だった。美術教師は俺の苦手な教師の一人だ。なぜか他の生徒からは人気があるが。
「おい、どうしたんだよ。ボーっとして」
「ああ、『うさ』か」
「その名で呼ぶな。名字で呼べ」
と言ったのはこれまた幼馴染の白百合兎斗(しらゆりうさと)(男)だ。
両親が兎好きだったためこの名前にされたらしい。ついでに女の子だったら兎一文字で「うさ」にしようとしたらしい。そのため「うさ」と呼んでいるが本人は名字で呼んでほしいらしい。仮に名字で呼んでも白百合は女の名前にしか聞こえないが。
つーか諦めた方がいいと思う。外見も明らかに女っぽいし。男子からの人気高いし。
「んで、どーしたんだ?そんなにだるそうな顔して」
「次が美術だから」
「ああ、『姉さん』ね」
「ああ、そうだよ」
姉さんと言うのは美術の教師の呼び名だ。なんでそんな風に呼んでんのかってのは・・・後から説明する。
「はあ、だる」
「いいじゃん、いいじゃん。姉さんにハグしてもらえるんだから」
「やだ。並大抵の人間では死ぬんじゃね?って感じのパワーで締め上げられる」
「そうか、それほど愛されているのか。俺は足蹴にされた事しかないんだが」
そっちの方が生存率は高いと思う。
そう思うと不意にうさが何かを思い出したかのように時計を見て叫んだ。
「ってああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「うさ、うるさい」
うるさい。騒々しいのでシャーペンで首の裏を刺してみようかな。
グシャ。
「って痛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!って刺すな!!」
「いや、うるさいから」
「うるさいじゃねーよ!!効果音もなんかヤバいし!!」
「だからうるさいって」
「いや!!授業!!時間!!後2分!!」
「少しくらい遅れても平気だよ」
「お前だけな。俺ん場合はボコボコにされ、挙句に逆さに吊るされるんだよ」
「あ、だったらいいや。遅れても。どうせうさがてるてる坊主になるくらいだし」
「それ冗談じゃねーよ!!俺は行く!!死にたくないから!!」
「あ、ちょっと」
待て、と言う前にうさは脱兎のごとく走り去ってしまった。そこで無慈悲にチャイムが鳴る。同時に妙な奇声が聞こえてきた。
明日には等身大てるてる坊主が新聞部やら生徒達やらを騒がせる事だろう。
「はあ、つまんねーな」
今教室にいるのは俺と後ろで寝ている馬鹿だけか。馬鹿は気持ちよさそうに寝息を立てている。机には紙が置かれ、「起こしたらアタシの睡眠時間分の寿命を頂く」と書いてある。
どうやら起こしたらその分の未来が消え去るらしい。武力行使で。
起こさない方が身のためだ、と考え俺は夢の内容が気になりながらも、教室を後にした。
つーかよくうさの声で起きなかったな、アイツ。
まぁ、いいや。
「やっぱサボりの定番はここだな」
透き通った空気。爽やかな風。こんな場所は学校には一つしかないだろう。
そう、屋上である。
この学校は現代にしては珍しく屋上が解放されてあるのだ。まあ、柵は大きめに作られているが。
そのため、昼休みなどでは生徒のたまり場となっていて混雑している。
広く作られているとはいえ、生徒の多い場所には極力行きたくないのが俺だ。
だから、授業中などの屋上は最高と言える。
たまに喧嘩に巻き込まれる事もあるが、それを踏まえても最高の場所だと言える。
なんせ人がいないのだから。
ああ、そう言えば自己紹介忘れてたな。
俺は霧島(きりしま)響(きょう)介(すけ)。探偵、じゃないよ。
案山子山学園高等部2年7組所属の白髪で白い瞳のクールな美少年さ。
幼馴染共からは死んだ目。やる気無さそうな顔とか言われるが。なぜだろう?まあいいや。
幼馴染の雪乃、うさと共に学校音通っている。いつも登校時は変な視線を感じるが。
そして家ではお袋、妹と共に暮らしている。周りからは「美人な義母にクーデレ美少女な義妹と暮らしてて実に羨ましい」などと言われるが実際そうでもない。
現にお袋は暴力魔、妹は常に罵ってくる事しかしないし、俺としては散々な目に会っている。
まぁ、それでも家を出ようと思わないのは居心地がいいからか。二人とも嫌いなわけでもないしな。
まぁ、俺の周りはそんな感じだ。自己紹介よりも周りの紹介になっているが、俺はそんなに紹介できるものを持ってないしな。
そんな事を考えていると心地よい風に煽られたせいか急な眠気が襲ってくる。
「ひと眠りしようかねって、俺、独り言多いよな」
俺はごろんと寝ころぶと風の音に耳を貸す。
この瞬間が一番好きだ。なんつーかたまんねーよな。
後、たまらないってのは風の心地よさと静かなこの雰囲気の事だから。
いやらしく聞こえるようだが違うからね。
俺は心の中でそう言い聞かせる。なぜか必死に。
ああ、寝るつもりだったのに眠れねーよ。目がギンギンしちゃってるし。あ゛あ゛あ゛ああ゛!!!
そのおよそ2分後にはもう意識が途絶えていたけど。
「!!」
目を覚まし始めに見たものはどんよりと曇った空だった。
「うはー、曇ってやがる。湿気が凄いし、降るかな?」
せっかくいい気持ちで寝てたのに台無しだ。
いったい何時間寝たのだろうか。俺は腕に付けた腕時計を確認する。
11:24
思ったより寝てなかったな。今は3時限目か。今日は月曜だから英語か。
英語は嫌いだ。何一つ分からないから。んで教師の田中ティーチャーも嫌いだから行きたくない。
しゃあねえ、とりあえず校舎に入ろうかな。雨降りそうだし。
俺は溜め息をつき立ち上がろうとした瞬間、降ってきた。
ざざざざざ・・・
はあ、降ってきちゃったよ。
空を見上げると、ああ、降ってる降ってる。けどちょっと大きいな。
雹か?いや、違う。いろんな形でカラフルだ。
雹じゃないとすれば・・・まさか、ギャグじゃないよね。
その瞬間に走り出す。正体が分かると同時に恐怖が込み上げてきたからだ。
降ってきたのは「あめ」だった。
「雨」じゃなくて「飴」。
まるでおとぎ話のような、子供が見たらはしゃぐような光景だ。
冗談じゃないってーの!!!
この高さから飴が降ってくるとかヤバいだろ!!
間違いなくおとぎ話ではあってはならない事になるわ!!
体に当たれば貫かれ、脳にあたれば(ピー)で(ピー)な事になるだろう。
「ぎゃああああああああ!!!!」
フルスピードで走る。恐らく、いや確実に今までの人生で一番早く走っているだろう。
現在世界で一番早く走っているといっても過言ではないだろう。
スピードを落とさず扉に体当たりをかまし、扉をあける。
ごがしゃっ!
扉ごとふっ飛ばし最速スピードのまま階段を転げ落ちる。
踊り場の壁に激突した時点でようやく止まった。
「う、うう・・・」
何が起きた?なんかぼんやりする。
痛い。特に頭が。
階段か?
なんで階段にいるんだ?
なんで屋上の扉があるんだ?
階段?屋上?何ソレ?おいしいの?
あれ?転げ落ちたんだっけ?
頭が痛い。なんでだ?
えーと、壁?少し赤い。
壁に頭を打ったのか。血が出てるし。
だけど死んではいないな。
頭を打っただけですんだのか。
「た、助かった」
ホッと一息つく。えーとなんで階段転げ落ちてたんだっけ?
「そうだ!!」
思い出した!
階段から転げ落ちて頭を打った。その前に屋上の扉を粉砕した。
んで、その前に飴が降った!
「飴!!」
俺はさっき見たものが本当なのかを確かめるため、階段を這い上がった。
あと一歩で屋上と言うところで俺は動けなくなった。
なぜならそこにはあるはずのないものがあったから。
突如現れたものを近い順に見てみようか。
えーと、上履き。ハイソックス。しなやかな肢体・・・
って女子?!
「う、うおあぁ!!」
ごろごろ、どさ。
再度階段から転げ落ちる。実際はこんなに可愛い効果音ではないが。
だが今は階段から転げ落ち、壁に衝突する事よりも重大な事があった。
なんで屋上から女子が出てくるんだよ!
飴が!飴が降ってきたってのに普通は無事なわけがない。
超能力者?宇宙人?そんなわけない。有り得ないというわけでもないが。
俺は混乱しながらも思考を張り巡らせ、やがて一つの答えにたどり着いた。
もしかして、こいつ・・・
俺はサーっと血の気が引くのを感じた。
もしかして・・・幽霊?
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!!」
俺は叫ぶしかなかった。だって怖いもん。
誰か来れば助かるかもしれない、そう思って必死に叫んだ。
誰も来ない。まあ、そんなにうまくいくわけないとは思ってたけど。授業中だし、教室から離れてるし。
とりあえず、落ち着け俺!まずは深呼吸だ。
すー、はー、すー、はー、と呼吸を整える。
よし、落ち着いた。
まずはこの娘に質問だ。
階段の最上段にいる女子を見る。
顔立ちは幼く色白、背は俺よりも10?くらい小さい。150前後と見た。
んで、胸も小さく、スカートも短い。後、パンツ見えてる。うん、縞パンだ。
表情から察するに、この少女は俺の叫び声に驚いたようで目を丸くしている。んでパンツ丸見えなのにも気付いていない。
よし、観察終了。次は質問だろ。
「あの、えーと、お前、どこから、来たの?」
俺は軽くビビりながらも問いかける。
すると少女はこれまた驚いた感じで見つめてきた。そして無表情になり口を開く。
「屋上」
屋上は飴が降って大変だったはずだ。やはり幽霊なのか!
「えっと、飴、降ってたはずだけど」
「飴?頭打ったか?」
いや、打ってな・・・くない、です。
「打った。転げ落ちて」
「お前、階段落ちるの好きか?」
「いや、嫌いだよ。つーかお前何?幽霊か?宇宙人か?何者だよ!いきなり現れて!」
俺は目の前の少女に、今自分が抱えている疑問すべてをぶつけた。
少女は少し間を空けて口を開いた。
「転校してきた」
「はい?天候?飴の事?」
という俺の疑問には答えず少女は無表情のままこう言った。
「マボの名、マボだ。よろしく頼む」
「・・・・はい?」
これが俺と不思議な転校生マボとの出会いだ。
この時は思いもしなかったが、ここから俺の人生全てが変わったのかもしれない。
ついでに俺はこの後病院に運ばれた。原因は腕の骨折と危険な言動。
6月27日。俺が病院に運ばれてから3日たったある日の昼休みの教室。
俺は驚異的な回復力で骨折を直し、頭も正常だという事で精神科からも解放された。
「おい、響介。お前ホントに大丈夫なわけ?」
うさが俺の心配をしたらしく声をかけてきた。
「ああ、問題ねぇよ。ほら」
そう言って俺は元気に腕を振り回してみる。うむ、問題ない。
この驚異の回復力は幼い時の虐待を耐えた俺に与えられた奇跡の力と言えようか。我ながらすばらしい。
「いや、頭の方な」
「おい、表出ろや」
「いや、だってお前、接骨院3時間で出た後、2日間精神科にいたらしいじゃん」
「うぐ・・・」
確かに本当の事だ。「飴が降った」という俺の言葉は誰一人として信じなかった。
屋上にも飴などはなく、明らかにただの気違いだと思われてしまい、そのまま入院。
2日で何とか解放されたが、転校生にはおかしい人と認識され、幼馴染には馬鹿だと笑われ、お袋には恥さらしと殴られ、妹には変態と罵られた上に避けられている。
「俺がいったい何をしたって言うんだーーーーーーー!!!」
頭を抱えて教室の真ん中で必死に叫ぶ。
クラスの視線がより一層冷たくなるのを感じ、叫ぶのを止め席に着いた。
「おい、普通腕の方を心配しない?」
俺はいきなり叫んだ俺を見て驚いて目を丸くしているうさに言った。
「いや、だってさ、なんかお前不死身じゃん」
「不死身じゃねぇよ。死ぬ時は死ぬ」
「ふーん、まあ不死身じゃなくとも、お前の事だしな。な、「おきあがりこぼし」様」
「その名で呼ぶな!」
「おきあがりこぼし」というのは俺の事だ。この町人工の大半は学生だ。そのため、少し強いものがいるならば「二つ名」をつけようとする中二病患者がいるという事だ。
俺の二つ名の由来は喧嘩によって付けられた。
もともと腕っ節の弱い俺は喧嘩に絡まれても勝てることなどなかった。
小さい時は気が弱く苛めなど当たり前の様だった。唯一人と違うところは傷がすぐになおる事だけ。しかし、その能力は苛めの証拠を消すためのモノでしかなく、俺はただただ苛めに耐える事しかできなかった。
家では本当の親から虐待を受け、外では他の子供からの苛め、そのため今は家出し現在に至る。
気付いてる人もいるとは思うが、現在の家族は義母と義妹ね。二人とも血が繋がってるわけじゃない。
ぶっちゃけ、家出した俺を引き取って育ててくれてるってとこ。ついでに俺の失踪届などは出されていないみたいだ。
ここに来た時の俺は7歳だったが、家出する前と同じでおとなしい、というよりも暗い感じの性格で、またもや苛めに会っていた。んでまたぼろぼろにされて帰ってきたという事だ。
そん時に今のお袋が苛められ泣かされた俺を見るなり、今までに体感した事のないくらいの強烈な拳を頬にかましてきやがった。
拳の威力はものすごく、その時は頬骨が粉砕した。頬なら平手打ちの方が良かったのだが。
お袋は「喧嘩しても勝てないんだったら、せめて倒されても立ち上がるなりなんなりしろ!苛められて泣かされて、それで何もしないで帰ってくる。それでも男か!お前はピーーー(自主規制)ついてんのかテメェ!男だったら一発くらい殴って帰ってこい!」と言われて腹をぶん殴られた。今度は肋(あばら)が粉砕した。苛めを受けたというのにひどい扱いだ。妹からも「兄よ。お前はただの雑魚か?」と冷めた口調で言われた。正直お袋の拳よりも効いた。
そんなことで次の日、俺はまたも不良に遭遇、そして苛められた。
喧嘩慣れしていない俺は攻撃してもかわされ、逆に反撃してきた事によりキレた不良は何度も殴られたり倒されたりした。が、お袋に殴られたくないの一心で何度も立ち上がる俺は、倒されても立ち上がるの繰り返しにより何とか一発当てる事に成功。そのたった一発の拳は不良のリーダーらしき男の顔に綺麗にヒットし、そのまま倒してしまった。
それ以来、倒されても起き上る。まるで、「おきあがりこぼし」だと言われそのままそれが定着した。
でもお袋の反応は「もっとかっこいい二つ名がつけられればよかったのに」とがっかりし、妹は「カッコ悪い」との事。まぁ、二人ともまんざらではない様子だったけど。
そのため俺は「おきあがりこぼし」として通っているわけだ。
「おい、どうした?ボーっとしてよ」
「ん?ああ、何でもねぇよ」
「そうか?なんか間抜けな顔してたぞ」
と言って俺の顔真似らしき事をする。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
いきなりクラスの男子の大半が雄叫びを上げる。まるで教室そのものが轟いているような雄叫び。理性を失った者の咆哮。
こいつら・・・うさのファンクラブの会員か!
前の方で言ったと思うがうさは男子から人気があり、校内で10位以内にランクインする。この巨大な案山子山学園の中では凄いくらいの上位者である。そのためファンクラブがあってもおかしくはないのだ。
だが当の本人は何故いきなり雄叫びを上げたのか分からない様子で、目を丸くしてキョロキョロあたりを見回している。
ファンクラブの会長に言わせるとうさの行動のほとんどは「萌え」らしい。
恐らく俺の顔真似がこいつらの理性を狂わせたようだ。
「お、おい、何?何でみんなテンションあがってんの?」
「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
「って何?お、おい!や、やめ、やめろって。う、うわあああああぁぁぁ!!」
うさの行動に感情を押さえきれなくなったファンクラブ会員達はうさを胴上げすると、担いだまま教室から出て行ってしまった。
うさのファンクラブがいなくなり教室内には唖然とした生徒と騒動の後の静寂だけが残った。
「うさ。お前、オカマみたいだったけどいい奴だったよ」
俺はもう会う事のないだろううさに今生の別れを告げ、教室を後にした。
うさの事は忘れよう。そう、今俺にはやらなければならない事があるのだから。
「現時刻12時56分。ターゲットの来る時間まで、残り2分と14秒」
「了解。教職員玄関、待機を開始」
と言い職員玄関の前で待機するのは、謎の転校生こと天道マボだった。
ついでに現在は携帯を片手に、一日で仲良くなったクラスメイトの城山雪乃からの指示を受けて、待機している。
「城山隊長。ターゲット、発見」
「よし、今からサポートに向かう。ってアレ?ね、姉さん?!ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「隊長?!どうした?!」
「マボ二等兵、逃・・げ・・・プツッ」
「た、隊ちょーーーーーう!!!!」
電話が切れた。同時にどうしようもないくらいの恐怖がこみ上げる。
後ろを振り返るとそこには・・・
「骨折変態少年?!」
「違う!!」
そう、そこにいたのは骨折変態少年、もとい3日ぶりの霧島響介であった。
「お、お前か。びっくりしたぞ」
「俺もお前と初めて会った時びっくりしたぞ。幽霊かと思ったし」
「マボもびっくりした。飴は降らない」
「知るか!ホントに見たんだよ」
「うるさい、変態が。Fuck」
「ふう、俺はあの後階段から足を滑らせた貴様のおかげで右腕を骨折し、貴様の説得力ある説明のせいで精神科にもお世話になった」
「そうか、よかったな。じゃあまた病院行け」
「その後、俺の退院明けの学校では俺は頭のおかしい馬鹿、という事になっていたんだが」
「そうか、マボは知らない」
「あ、そう言えばお前さ、昨日の美術サボったらしいな」
「サボってないぞ。マボはお前とは違って真面目・・・いえ、サボりました。後、霧島君の事もマボが言っちゃった」
「そうか、素直だな。んで、口調変わってるぞ」
「うん。だから後ろのスタンドをどうにかしてくれ。いや、ほしいのだが」
「そうか、俺の後ろにいる女神様はお前とお話がしたいそうなんだが・・・」
「え、遠慮!する!」
「もう手遅れだ・・・」
と言うと俺の背後に立っていた破壊神・・・じゃなくて女神様は目の前の転校生に凄まじい視線を送っている模様。
大魔神鳳覇乃(おおとりはの)。俺の実母の妹、つまり叔母に当たる人であり、この町では唯一血の繋がった人である。
とはいえ叔母、と言っても俺との歳差は5歳差程度。俺は17歳で姉さんは22歳だ。
そんなことで姉さんと呼んでいる。
仮に叔母さん、などというものならば、今ここで俺が制裁を受ける羽目になるだろう。
まぁ、今回はクソ転校生の天道マボを制裁するために連れてきたのだが。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁあああああ!!」
おお!姉さんの得意とする絞め技の一つ、コブラツイストだ。
いつもであればうさや雪乃が被害者になるであろうこの技は、今回はこの少女に牙をむいたようだ。ま、俺が頼んだんだけど。ハグしてあげると言ったら、飛びつくように。
「じゃ、後は頼んだよ」
と言うと俺は校舎へと歩き出す。
姉さんのハグ・・・いやベアハッグと言えようアレを食らうと俺もひとたまりじゃないからな。
「ちょっと!響ちゃん!ハグは?お姉ちゃんへのご褒美はどうす・・・」
聞こえない聞こえない、俺には何も聞こえません。
「霧島響介・・・この恨み、忘れない」
聞こえない、恨みなんて言葉聞こえません。
俺は自分にそう言い聞かせると早々に走って逃げた。
キーン、コーン、カーン、コーン。予鈴のチャイムが鳴る。
「次の授業は体育か」
5時間目は体育。俺の苦手な科目の一つであるが、今日は持久走らしい。
「持久走かよ」「疲れるからやだなぁ」「走る前から心が折れた」と色々なところから話し声が聞こえる。
男子は教室で、女子は更衣室で着替えることになっている。
そのため女子は現在教室にはいない。はずなのに。
「何で貴様らがいるんだ」
俺は目の前に仁王立ちする幼馴染と転校生にそう言った。
「響介!アンタどうしてくれるのよ!」
「オ前サエイナケレバヨカッタノニ」
と雪乃とマボは言う。
「雪乃すまない。俺はこのアホを制裁するた」
ボコッ。腹を殴られた。せめて話を最後まで聞けよ。
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「土下座は?」
「この通り」
と俺は雪乃の足もとで土下座をする。俺って弱いなー。
「ほら、マボにも同じようにしなさいよ」
「だが断る」メギィ「嘘です、すみませんでした」
マボにも同じように土下座する。顔を見上げると優越感に浸っているようだ。少し視線を下げると顔面を踏みつけられた。
「って汚ねぇ足を乗せんな!」
「うるさい。パンツ見ようとしただろ。制裁しようと思った。けど時間がない。制裁は後にする」
「お前の言葉、すげー聞きづらい」
「口答エスルナ」
「何で片言?!」
「ジャ・ア・ナ。後デ覚エトケ」
と言うとマボと雪乃はそのまま教室を出て行った。
ふう、やっと危険人物が消え去ってくれた。ってまた後でヤバい状況になるだろうけど。
まぁいいや、俺は過ぎた事は気にしない性格なんだ。
難しく考えてはいけない。所詮アイツらも体育後で疲れて制裁とかしないだろうし。
難しく考えちゃだめだ。楽に考えよう。
しかも今日の授業は持久走だし、授業しない分楽だ。
走るだけで授業が終わると思うとテンションあがるね。
「うさ、持久走だぜ。楽な授業だぜ」
と机に突っ伏しているうさに話しかける。するとうさは顔をあげ
「らくなのは、おまえ、だけれす」
と言ってまた顔を伏せた。あの後いったい何が起きたのだろう。ま、俺の知った事じゃないよな。
俺は突っ伏すうさを無視し、ささっと体操服に着替える。んで、教室を出た。
とそこで廊下を歩く8組の生徒に出くわした。
「あ、響介君。次グラウンドだよね?僕も同じだから一緒に行こっ」
と言ったのは8組の夏目夕(なつめゆう)。
学園人気ランキング第二位。童顔でおとなしそうな顔立ち。身長は155?くらいでほっそりとした体形。現在は体操服にブルマと言った格好だ。アレ?何でブルマ?学校では禁止のはずじゃ・・・
「響介君が喜ぶと思ったから」
「喜ぶかっ!てか人の心読むなよ!」
「えと・・・どうかな?」
「お前が履くな!気持ち悪い!」
ブルマを履いているが、こいつは男だ。マジで気持ち悪い。似合ってはいるが。
しかもそれを認めた上に惚れてしまうこの学園の男子生徒はどうかしているのではないかと不安になる。
「気持ち悪い?・・・酷い・・・酷いよ、響介君!」
「お前は男だろ!男らしく生きろよ!」
「僕だって、僕だって男じゃなかったらよかったのにって、思ってるのに!」
「男に生まれたんだからしょうがないだろうが!だから俺の事は諦めろ」
「じゃ、じゃあ、性転換するから・・・」
「性転換してもお断りだ!」
「ひ、酷いよ。僕はこんなにも響介君の事、思ってるのに。きょ、きょ、響介君の、響介君のバカーーー!!!」
途中から半分泣いていた夕はそう叫んで廊下を走って行った。
「響介。お前はもっと乙女心を知るべきだ」
と復活したらしいうさが俺の肩に手を置いて真面目な顔つきで言ってきた。
「うさ・・お前・・・・・何言ってんの?気持ち悪」
「かっこいいセリフ言ったと思ったんだけどな、俺。せめて話合わせるくらいしろよ」
「無理。お前にかっこいいセリフは似合わない。気持ち悪いだけだ」
「ひ、酷い!きょ、響介のバカーーーーー!!」
と言うとうさも廊下を走って行った。
あいつに言われると更にキモいな。俺は半眼の状態でそう思った。
不意にポン、と肩に手を置かれた。クラスのうさのファンクラブの男達だ。
「まぁ、落ち込むなよ」「元気出そうぜ」「学園で人気の美少女に連続で振られるとはな、分かるぜその気持ち」「俺達仲間だろ?」
「いやいや、絶対に分かってない。お前達とは違うからね。俺はホモじゃないし、リアルでBL的な事する気も無いからね。止めて下さい。お願いします」
「まぁ、あんな事があった後だし否定したい気持ちは分かるよ。だけどさ俺らがいるじゃん。こう、分かり合える同士がいるじゃねえか」
「お、俺はお前らとは違うんだーーーーーー!!!!」
俺はうさファンの群れから抜け出すと一目散にグラウンドへと走って行った。
「では今日の持久走は、いつもよりも距離を長くする。ルートはこうだ」
と体育教師の曽根村はあらかじめ用意していたホワイトボードに黒いマジックで絵を描いていく。下手でよく理解できないが。
でも大まかなルートは分かった。この案山子山学園の高等部の外周を回ってくればいいだけだ。
距離にして5?くらい。制限時間は35分。全速力で走れば余裕でゴールできるかな。
しかし他の生徒は違うようだ。
「無理だろ」とか「怪我して走れません」とか「覚醒しないと無理だ」とか「白百合ハァハァ」とか「夏目可愛い」とか聞こえる。最後の二つは何なんだ。
「おい!高等部1周かよ!5,6キロあるんだぞ。流石に無理だよ!」
うさが騒ぐ生徒を代表して曽根村に反論した。
「お前らはそれでも男か!あ、白百合と夏目は違うか」
「俺は男だよ!夕は違うけど!」
と言い反論する。ついでに体育は隣のクラスと合同で男子と女子に分けられる。そのためうさと夕も一緒なのだ。
「と言うか、白百合と夏目は何故ここにいるんだ?早く女子の所に行って来い」
「俺は男だっつの!!」
「あの、僕も一応男ってことになってて・・・」
「おい、夕。お前は女だろ?」
「え?だって僕は、その・・・響介君と一緒に授業受けたいし」
おい、今言ってはならないこと言ったよね?しかも一応じゃなくて、完全に男だよね?
「っち霧島の奴め」「夏目を手名付けやがって」「あいつの様な危険因子は早急に消すべきか」「我が力を持って、全力で葬ってやる」
7組男子&8組男子の視線が俺に集中する。怒りと憎しみのこもった視線だ。
「おい、うさ。この学校の生徒はどうかしているのだろうか」
「同感だ。教師も含めおかしいと思う」
全くだ。この学園には生徒だけでなく教師もまともな人間がいない。
「おい、霧島。まともな教師がいないというのはどういう事だ?」
「そのセリフはうさが言ったんだけど」
「うるさい!お前は特別に10分遅れでスタートさせてやる」
「なっ?!ちょっと待て!俺じゃねーっての!」
「はい、それじゃースターット!!」
「いきなり?!」「俺まだストレッチとかやってないんだけど」「いや、これは先回りして霧島を消すチャンスか」「足ひねったああああぁぁぁぁ!!」「白百合ハァハァ」「響介君。もし僕が一番になったら・・・」
なんか全員いきなりのスタートで全員困惑してるし。しかも聞こえたくない事も聞こえてきた。
これに紛れてスタートするのもいいが、それでは後から制裁(罰ゲーム)を受ける事になるだろう。止めとくか。
やがて最後尾の背中も見えなくなり、その場には俺と曽根村の二人だけ残った。
「フフフ。大丈夫なのか?ゴールできなかったら罰を受けてもらうぞ」
「まぁ。何とかなるでしょ」
「今なら土下座すればスタートさせない事もないが。どうする?」
「別に。そんなことしなくても平気ですよ」
「フン。そんなに強がっても結果がすべてだからな。お前がどうなろうと知ったこっちゃないが」
「曽根村先生の心配なんかいらないですよ」
と俺はニコニコして言うと曽根村は顔をひきつらせて、そっぽを向いた。
フン。マジでテメェの心配なんかいらねえっての。
スタートから9分。
響介君は大丈夫なのか。心配だなあ。
あまりに心配なので隣を並走しているうさちゃんに聞いてみよう。
「ねえ、うさちゃん。響介君、平気かな?」
「うさちゃん言うな。しかも響介だったら全然平気だろ」
「だって25分で5キロって、計算すると5分で1キロ。分速だと200mで、秒速だと3.333333・・・・・・」
「割り切れないから言うな。しかし響介の事だから全然心配いらないだろ」
「へ?」
「だから、お前は自分の心配してろっての」
そう言うとうさちゃんは更に加速して走って行ってしまった。
心配だけど確かに自分の心配もしなくちゃいけないな。
そう思いながら僕も少しペースを上げた。
「9分経った。準備しなくていいのか?」
「9分もありましたから。準備はもういらないですよ」
「そうか、それじゃ、30秒前」
このクソ教師が。のんきにしやがって。後で覚えてろよ。
大魔神の召喚でアンタもマボと同じ運命に会わせてやるよ。
「ま、俺の予想だと、いつもの距離の倍以上にしたってことは、それほどうさや夕の汗まみれの体操着姿が見たかったのかな?」
「んなっ?!」
図星か。
お見通しだっつの。テメェがいつも女子更衣室覗いている事くらい知ってるし、うさや夕の事をいやらしい目で見ている事もな。
あの二人は見かけによらず体力あるから、いつもの距離(2キロちょっと)程度じゃあまり汗かかないし。
「くっ。10秒前だ」
俺の言葉で不機嫌になった曽根村はいらだちを押さえた様子でカウントを始める。
7、6、5、4、
そろそろ準備を。
3、2、1
ひと泡吹かせてやろうかね。
0
と同時に俺は全速力で走る。
不良に絡まれても、囲まれなければ逃げるといった行動によって培ってきた瞬発力と走力でぶちっぎってやるよ。
「騒々しいじゃねえか」
ここは廃工場群第8地区ゴミ留置場、通称クズ鉄通り。
案山子山学園と山を挟んだ所に存在する廃工場群であり、普通は誰も来ないような場所である。
そんな廃工場群で一人つぶやいたのは少女であった。
しかし格好は雨の日の格好であり、この場では逆に不気味ささえ感じられる。
少女はこの場でずっと待っているだけ。
日が落ちるのをただ一人待っているだけ。
そのような時に聞こえてきた声。疲れてバテている、そんな声だ。
「疼くじゃねえか」
少女は人の声に反応するように体を震わせ、それに伴い呼吸も荒くなる。
抑えなきゃ。抑えなきゃ。
少女は疼くその体を抱くように腕で押さえる。
そして不気味な笑みを浮かべて蹲る。
そうだ。今はまだ頃合いじゃない。
今はまだ、まだ抑えて、抑えて。
時が来たら
食べちゃおう。
この小さな町、案山子山町にある一つの学校、私立案山子山(かかしやま)学園。
普通の学校と比べても巨大に感じるこの学校の面積はこの町の面積の60%を占めており、通う生徒の数も普通の学校とは比べ物にならない数である。
その案山子山学園の巨大な校門の前に一つの人影。
赤髪に白い瞳、雨でもないのに黄のレインコートに赤い傘を持ち黒い長靴を履く、といった格好で立っていたのは一人の少女であった。
深夜十二時からずっと立っているために退屈そうな様子だ。
時刻は既に午前一時半。既に一時間半は経っている。
最近この周辺では「夜中に外出してはならない」という規則があるらしいため人っ子一人現れる気配がない。
しかし、規則というものはあっても守る人間は全体の六割程度だという事を少女は知っている。そのためひたすら待ち続ける。機会は必ずある。
それから10分程度たった頃だろうか。
人気のない夜の町の静けさ。点々とした街灯。そして、聞こえてくる喧騒。
声からして自分と同じくらいの歳だろうから、カッコつけて規則を破る高校生だと推測できる。距離は500メートル程度。
少女は笑みを浮かべ声の方へと走り出す。
所詮規則とは彼女との接触を避けるために作り上げられ、彼女によって利用されるだけのものでしかなかった。
そのためにこの地域では大量殺人気「アメフラシ」の被害が無くなることなどなかった。
そして今宵も夜の町に血の雨が降る。
第一章 99パーセントの危険信号
6月下旬。梅雨明けの案山子山学園高等部2年7組の教室にて。
「ってことで?、みんなも気を付けてね?」
と言ったのは案山子山高校の七不思議の一つに数えられる程のロリ教師、如月みいであった。
現時刻は8時50分で朝のホームルームの時間帯だ。
大まかな彼女の話の内容はこうだ。
夜の外出に気をつけろ、といった簡単な事である。
公立案山子山高校周辺では現在夜間外出禁止といった規制がある。
理由はただ一つ、大量殺人気「アメフラシ」の被害を避けるためのものである。
現在この町にはその殺人鬼によりたった一週間で23人もの被害者が出ている。
被害者は必ずバラバラの状態で発見され、まるで血の雨が降ってきたかのように近隣の家の屋根まで赤く染まる。
目撃者は無し。事件の時刻は深夜が多いようだ。
そのため警察も手を焼いているらしい。まぁ、夜に外出しない俺にはあんまり関係ないけど。
規律を守らない奴が悪いのにな。外に出なければ被害を受ける事なんてないのに。
とはいえ、夜に外出するなというのは絶対守らなければならない規則ではない。
夜に緊急の用事が入った。とか、病気になった、怪我をした。とかで病院やらなにやらで外出しなければならない事もあるからだ。
それでも、極力人通りの多いメインストリートに行けば被害には合わないのにな。
まあ、俺には関係のない事だしこの話にも飽きてきたな。欠伸が出る。
「こら?、欠伸するな霧島?。君もアメフラシに襲われちゃうかもよ?」
俺の欠伸の瞬間を捉えたロリ教師がそう言った。
「俺はいい子なので襲われません」
「本当に??いい子だったら昨日の現代文、なんでサボったの??」
「えと・・・後ろの馬鹿に連れ出されました」
と言って俺は後ろの席にいる馬鹿な幼馴染の城山雪乃(しろやまゆきの)を指さした。
しかし雪乃は俺の言葉を聞くなり
「へ?何でアタシが?昨日の現文は寝てたはずだけど」と言った。
てか寝てたのかよ。真面目に授業受けろって。まぁ、俺が言える事じゃないけど。
とりあえず話を作ろう。
「お前実は寝ているときには、こう・・・第二の人格が発動するんだよ」
「え?!そうなの?」
「そうだ、そして昨日はいきなり立ち上がるなりこう言った。案山子山第137地区にて兎の群れが現れた、ってさ。そしたら俺の手を引いて教室から出て行った」
「兎?なんか可愛い光景しか浮かばないんだけど」
「あ、ついでに兎は八頭身な」
「気持ち悪っ!」
「ポケ○ンだとカ○リキー。ドラ○ンボールだと天○飯」
「手が4本?!でムキムキかよ!」
「お前は応戦したがな、数が多すぎた。なんせ666体いたし」
「数が不吉!しかも多すぎだろ!!」
「ああ、多かったよ。だけどお前の実力は奴らと互角だった」
「第二の人格強っ!!つーかアンタはどこ行ったのよ」
「あ、俺実況だから」
「戦えよ!アタシの代わりに戦えよ!!」
「いや、お前が俺の獲物に手を出すなって・・・・」
「一人称変わるの?!つーかアタシそんなに強かったの?!」
「ああ、一撃で500体位ふっ飛ばしてた」
「二発で終わりじゃん!互角じゃないじゃん!」
「あ、最終的には核でふっ飛ばした」
「衝撃のラスト?!核使う意味無くない?」
「核のボタン押したの俺な」
「アンタは何者だ!」
「俺はこう言ったんだ。お前の手をそれ以上汚したくなかったんだ、と」
「既に500体殺ったのに何を今更」
「で、お前は言った。助かった、実況ありがとう。と」
「助ける必要無いし、実況いらねーよ!」
「んで明日ジュース奢るって言ってた。ほらジュースは?」
「奢るかよ!つーかんな話信じるか!!」
どうやら嘘と気付かれたらしい。流石にこれは駄目だったか。
クラスメイトは「またやってるよ」とか「流石にバレるだろ」とか「霧島もアホだよな」言ってやがる。あ、言い忘れたけど霧島ってのは俺ね。
「いや、嘘じゃないよ」
「嘘つけ!普通核が出てきた時点で嘘だと気付くわ!!」
「・・・・・」
教室内から喧騒が消える。え?今何て言ったの、この子。
普通は第二の人格の時点で気付くわ!!
「は?い、そこ?。も?すぐじゅぎょー始まるから?、静かにね?。後、雪ちゃんは第二の人格の時点で嘘だと気づいてね?」
「え?第二の人格嘘?!それと八頭身の兎だけは本当かと思ってたのに?」
「八頭身の兎はほんとーです?。じゃ、じゅぎょー始めるよ」
キーン、コーン、カーン、コーン。という普通のチャイムの音が鳴る。
今日は月初めの月曜日。そう思うとまた退屈な日常が始まるんだなーと思ってしまう。
どうしよう。今日はだるい授業しかないし、帰った方が面白い事あるかな。
と思ったところで、俺の頭の中で一つの違和感が沸いた。
そう言えばさっきのロリ教師の話、おかしくないか?
俺は周りを見渡す。数人程と目があった。俺の他に気付いている者もいるようだ。
やはり俺の違和感は間違っていなかった。
この違和感を解決する方法は一つ、このロリに直接聞く事だろう。
俺は勢いよく挙手し、「質問です!」と大声を張り上げた。
「なんですか??まだ何も言ってませんよ?」とロリ教師は振り返った。
「いえ、さっきのホームルームの話、少し不明な点があったもので」
「不明な点?」
「ええ」
と俺はスッと息を吸い込んで言った。
「八頭身の兎は実在するんですか?」
キーン、コーン、カーン、コーン。
授業の終わりのチャイムが鳴る。
あのような質問はこれからはしない方向で行こう。
今日の授業の内容はロリ教師の八頭身兎についての解説だった。作業用BGMの常に後ろの席から聞こえて来るぼそぼそと連続的に聞こえてくる「チュパカブラinピザまん」は凄すぎてよくわからなかった。UMA入りのピザまんて何?おいしいの?
「じゃあ、次の授業は美術だから移動だよ?。遅れないようにね?」
ロリ教師如月はそう言うと教室から出て行き、次の教室へと言ってしまった。
「美術、か・・・」
俺は憂鬱な気分だった。美術教師は俺の苦手な教師の一人だ。なぜか他の生徒からは人気があるが。
「おい、どうしたんだよ。ボーっとして」
「ああ、『うさ』か」
「その名で呼ぶな。名字で呼べ」
と言ったのはこれまた幼馴染の白百合兎斗(しらゆりうさと)(男)だ。
両親が兎好きだったためこの名前にされたらしい。ついでに女の子だったら兎一文字で「うさ」にしようとしたらしい。そのため「うさ」と呼んでいるが本人は名字で呼んでほしいらしい。仮に名字で呼んでも白百合は女の名前にしか聞こえないが。
つーか諦めた方がいいと思う。外見も明らかに女っぽいし。男子からの人気高いし。
「んで、どーしたんだ?そんなにだるそうな顔して」
「次が美術だから」
「ああ、『姉さん』ね」
「ああ、そうだよ」
姉さんと言うのは美術の教師の呼び名だ。なんでそんな風に呼んでんのかってのは・・・後から説明する。
「はあ、だる」
「いいじゃん、いいじゃん。姉さんにハグしてもらえるんだから」
「やだ。並大抵の人間では死ぬんじゃね?って感じのパワーで締め上げられる」
「そうか、それほど愛されているのか。俺は足蹴にされた事しかないんだが」
そっちの方が生存率は高いと思う。
そう思うと不意にうさが何かを思い出したかのように時計を見て叫んだ。
「ってああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「うさ、うるさい」
うるさい。騒々しいのでシャーペンで首の裏を刺してみようかな。
グシャ。
「って痛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!って刺すな!!」
「いや、うるさいから」
「うるさいじゃねーよ!!効果音もなんかヤバいし!!」
「だからうるさいって」
「いや!!授業!!時間!!後2分!!」
「少しくらい遅れても平気だよ」
「お前だけな。俺ん場合はボコボコにされ、挙句に逆さに吊るされるんだよ」
「あ、だったらいいや。遅れても。どうせうさがてるてる坊主になるくらいだし」
「それ冗談じゃねーよ!!俺は行く!!死にたくないから!!」
「あ、ちょっと」
待て、と言う前にうさは脱兎のごとく走り去ってしまった。そこで無慈悲にチャイムが鳴る。同時に妙な奇声が聞こえてきた。
明日には等身大てるてる坊主が新聞部やら生徒達やらを騒がせる事だろう。
「はあ、つまんねーな」
今教室にいるのは俺と後ろで寝ている馬鹿だけか。馬鹿は気持ちよさそうに寝息を立てている。机には紙が置かれ、「起こしたらアタシの睡眠時間分の寿命を頂く」と書いてある。
どうやら起こしたらその分の未来が消え去るらしい。武力行使で。
起こさない方が身のためだ、と考え俺は夢の内容が気になりながらも、教室を後にした。
つーかよくうさの声で起きなかったな、アイツ。
まぁ、いいや。
「やっぱサボりの定番はここだな」
透き通った空気。爽やかな風。こんな場所は学校には一つしかないだろう。
そう、屋上である。
この学校は現代にしては珍しく屋上が解放されてあるのだ。まあ、柵は大きめに作られているが。
そのため、昼休みなどでは生徒のたまり場となっていて混雑している。
広く作られているとはいえ、生徒の多い場所には極力行きたくないのが俺だ。
だから、授業中などの屋上は最高と言える。
たまに喧嘩に巻き込まれる事もあるが、それを踏まえても最高の場所だと言える。
なんせ人がいないのだから。
ああ、そう言えば自己紹介忘れてたな。
俺は霧島(きりしま)響(きょう)介(すけ)。探偵、じゃないよ。
案山子山学園高等部2年7組所属の白髪で白い瞳のクールな美少年さ。
幼馴染共からは死んだ目。やる気無さそうな顔とか言われるが。なぜだろう?まあいいや。
幼馴染の雪乃、うさと共に学校音通っている。いつも登校時は変な視線を感じるが。
そして家ではお袋、妹と共に暮らしている。周りからは「美人な義母にクーデレ美少女な義妹と暮らしてて実に羨ましい」などと言われるが実際そうでもない。
現にお袋は暴力魔、妹は常に罵ってくる事しかしないし、俺としては散々な目に会っている。
まぁ、それでも家を出ようと思わないのは居心地がいいからか。二人とも嫌いなわけでもないしな。
まぁ、俺の周りはそんな感じだ。自己紹介よりも周りの紹介になっているが、俺はそんなに紹介できるものを持ってないしな。
そんな事を考えていると心地よい風に煽られたせいか急な眠気が襲ってくる。
「ひと眠りしようかねって、俺、独り言多いよな」
俺はごろんと寝ころぶと風の音に耳を貸す。
この瞬間が一番好きだ。なんつーかたまんねーよな。
後、たまらないってのは風の心地よさと静かなこの雰囲気の事だから。
いやらしく聞こえるようだが違うからね。
俺は心の中でそう言い聞かせる。なぜか必死に。
ああ、寝るつもりだったのに眠れねーよ。目がギンギンしちゃってるし。あ゛あ゛あ゛ああ゛!!!
そのおよそ2分後にはもう意識が途絶えていたけど。
「!!」
目を覚まし始めに見たものはどんよりと曇った空だった。
「うはー、曇ってやがる。湿気が凄いし、降るかな?」
せっかくいい気持ちで寝てたのに台無しだ。
いったい何時間寝たのだろうか。俺は腕に付けた腕時計を確認する。
11:24
思ったより寝てなかったな。今は3時限目か。今日は月曜だから英語か。
英語は嫌いだ。何一つ分からないから。んで教師の田中ティーチャーも嫌いだから行きたくない。
しゃあねえ、とりあえず校舎に入ろうかな。雨降りそうだし。
俺は溜め息をつき立ち上がろうとした瞬間、降ってきた。
ざざざざざ・・・
はあ、降ってきちゃったよ。
空を見上げると、ああ、降ってる降ってる。けどちょっと大きいな。
雹か?いや、違う。いろんな形でカラフルだ。
雹じゃないとすれば・・・まさか、ギャグじゃないよね。
その瞬間に走り出す。正体が分かると同時に恐怖が込み上げてきたからだ。
降ってきたのは「あめ」だった。
「雨」じゃなくて「飴」。
まるでおとぎ話のような、子供が見たらはしゃぐような光景だ。
冗談じゃないってーの!!!
この高さから飴が降ってくるとかヤバいだろ!!
間違いなくおとぎ話ではあってはならない事になるわ!!
体に当たれば貫かれ、脳にあたれば(ピー)で(ピー)な事になるだろう。
「ぎゃああああああああ!!!!」
フルスピードで走る。恐らく、いや確実に今までの人生で一番早く走っているだろう。
現在世界で一番早く走っているといっても過言ではないだろう。
スピードを落とさず扉に体当たりをかまし、扉をあける。
ごがしゃっ!
扉ごとふっ飛ばし最速スピードのまま階段を転げ落ちる。
踊り場の壁に激突した時点でようやく止まった。
「う、うう・・・」
何が起きた?なんかぼんやりする。
痛い。特に頭が。
階段か?
なんで階段にいるんだ?
なんで屋上の扉があるんだ?
階段?屋上?何ソレ?おいしいの?
あれ?転げ落ちたんだっけ?
頭が痛い。なんでだ?
えーと、壁?少し赤い。
壁に頭を打ったのか。血が出てるし。
だけど死んではいないな。
頭を打っただけですんだのか。
「た、助かった」
ホッと一息つく。えーとなんで階段転げ落ちてたんだっけ?
「そうだ!!」
思い出した!
階段から転げ落ちて頭を打った。その前に屋上の扉を粉砕した。
んで、その前に飴が降った!
「飴!!」
俺はさっき見たものが本当なのかを確かめるため、階段を這い上がった。
あと一歩で屋上と言うところで俺は動けなくなった。
なぜならそこにはあるはずのないものがあったから。
突如現れたものを近い順に見てみようか。
えーと、上履き。ハイソックス。しなやかな肢体・・・
って女子?!
「う、うおあぁ!!」
ごろごろ、どさ。
再度階段から転げ落ちる。実際はこんなに可愛い効果音ではないが。
だが今は階段から転げ落ち、壁に衝突する事よりも重大な事があった。
なんで屋上から女子が出てくるんだよ!
飴が!飴が降ってきたってのに普通は無事なわけがない。
超能力者?宇宙人?そんなわけない。有り得ないというわけでもないが。
俺は混乱しながらも思考を張り巡らせ、やがて一つの答えにたどり着いた。
もしかして、こいつ・・・
俺はサーっと血の気が引くのを感じた。
もしかして・・・幽霊?
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!!」
俺は叫ぶしかなかった。だって怖いもん。
誰か来れば助かるかもしれない、そう思って必死に叫んだ。
誰も来ない。まあ、そんなにうまくいくわけないとは思ってたけど。授業中だし、教室から離れてるし。
とりあえず、落ち着け俺!まずは深呼吸だ。
すー、はー、すー、はー、と呼吸を整える。
よし、落ち着いた。
まずはこの娘に質問だ。
階段の最上段にいる女子を見る。
顔立ちは幼く色白、背は俺よりも10?くらい小さい。150前後と見た。
んで、胸も小さく、スカートも短い。後、パンツ見えてる。うん、縞パンだ。
表情から察するに、この少女は俺の叫び声に驚いたようで目を丸くしている。んでパンツ丸見えなのにも気付いていない。
よし、観察終了。次は質問だろ。
「あの、えーと、お前、どこから、来たの?」
俺は軽くビビりながらも問いかける。
すると少女はこれまた驚いた感じで見つめてきた。そして無表情になり口を開く。
「屋上」
屋上は飴が降って大変だったはずだ。やはり幽霊なのか!
「えっと、飴、降ってたはずだけど」
「飴?頭打ったか?」
いや、打ってな・・・くない、です。
「打った。転げ落ちて」
「お前、階段落ちるの好きか?」
「いや、嫌いだよ。つーかお前何?幽霊か?宇宙人か?何者だよ!いきなり現れて!」
俺は目の前の少女に、今自分が抱えている疑問すべてをぶつけた。
少女は少し間を空けて口を開いた。
「転校してきた」
「はい?天候?飴の事?」
という俺の疑問には答えず少女は無表情のままこう言った。
「マボの名、マボだ。よろしく頼む」
「・・・・はい?」
これが俺と不思議な転校生マボとの出会いだ。
この時は思いもしなかったが、ここから俺の人生全てが変わったのかもしれない。
ついでに俺はこの後病院に運ばれた。原因は腕の骨折と危険な言動。
6月27日。俺が病院に運ばれてから3日たったある日の昼休みの教室。
俺は驚異的な回復力で骨折を直し、頭も正常だという事で精神科からも解放された。
「おい、響介。お前ホントに大丈夫なわけ?」
うさが俺の心配をしたらしく声をかけてきた。
「ああ、問題ねぇよ。ほら」
そう言って俺は元気に腕を振り回してみる。うむ、問題ない。
この驚異の回復力は幼い時の虐待を耐えた俺に与えられた奇跡の力と言えようか。我ながらすばらしい。
「いや、頭の方な」
「おい、表出ろや」
「いや、だってお前、接骨院3時間で出た後、2日間精神科にいたらしいじゃん」
「うぐ・・・」
確かに本当の事だ。「飴が降った」という俺の言葉は誰一人として信じなかった。
屋上にも飴などはなく、明らかにただの気違いだと思われてしまい、そのまま入院。
2日で何とか解放されたが、転校生にはおかしい人と認識され、幼馴染には馬鹿だと笑われ、お袋には恥さらしと殴られ、妹には変態と罵られた上に避けられている。
「俺がいったい何をしたって言うんだーーーーーーー!!!」
頭を抱えて教室の真ん中で必死に叫ぶ。
クラスの視線がより一層冷たくなるのを感じ、叫ぶのを止め席に着いた。
「おい、普通腕の方を心配しない?」
俺はいきなり叫んだ俺を見て驚いて目を丸くしているうさに言った。
「いや、だってさ、なんかお前不死身じゃん」
「不死身じゃねぇよ。死ぬ時は死ぬ」
「ふーん、まあ不死身じゃなくとも、お前の事だしな。な、「おきあがりこぼし」様」
「その名で呼ぶな!」
「おきあがりこぼし」というのは俺の事だ。この町人工の大半は学生だ。そのため、少し強いものがいるならば「二つ名」をつけようとする中二病患者がいるという事だ。
俺の二つ名の由来は喧嘩によって付けられた。
もともと腕っ節の弱い俺は喧嘩に絡まれても勝てることなどなかった。
小さい時は気が弱く苛めなど当たり前の様だった。唯一人と違うところは傷がすぐになおる事だけ。しかし、その能力は苛めの証拠を消すためのモノでしかなく、俺はただただ苛めに耐える事しかできなかった。
家では本当の親から虐待を受け、外では他の子供からの苛め、そのため今は家出し現在に至る。
気付いてる人もいるとは思うが、現在の家族は義母と義妹ね。二人とも血が繋がってるわけじゃない。
ぶっちゃけ、家出した俺を引き取って育ててくれてるってとこ。ついでに俺の失踪届などは出されていないみたいだ。
ここに来た時の俺は7歳だったが、家出する前と同じでおとなしい、というよりも暗い感じの性格で、またもや苛めに会っていた。んでまたぼろぼろにされて帰ってきたという事だ。
そん時に今のお袋が苛められ泣かされた俺を見るなり、今までに体感した事のないくらいの強烈な拳を頬にかましてきやがった。
拳の威力はものすごく、その時は頬骨が粉砕した。頬なら平手打ちの方が良かったのだが。
お袋は「喧嘩しても勝てないんだったら、せめて倒されても立ち上がるなりなんなりしろ!苛められて泣かされて、それで何もしないで帰ってくる。それでも男か!お前はピーーー(自主規制)ついてんのかテメェ!男だったら一発くらい殴って帰ってこい!」と言われて腹をぶん殴られた。今度は肋(あばら)が粉砕した。苛めを受けたというのにひどい扱いだ。妹からも「兄よ。お前はただの雑魚か?」と冷めた口調で言われた。正直お袋の拳よりも効いた。
そんなことで次の日、俺はまたも不良に遭遇、そして苛められた。
喧嘩慣れしていない俺は攻撃してもかわされ、逆に反撃してきた事によりキレた不良は何度も殴られたり倒されたりした。が、お袋に殴られたくないの一心で何度も立ち上がる俺は、倒されても立ち上がるの繰り返しにより何とか一発当てる事に成功。そのたった一発の拳は不良のリーダーらしき男の顔に綺麗にヒットし、そのまま倒してしまった。
それ以来、倒されても起き上る。まるで、「おきあがりこぼし」だと言われそのままそれが定着した。
でもお袋の反応は「もっとかっこいい二つ名がつけられればよかったのに」とがっかりし、妹は「カッコ悪い」との事。まぁ、二人ともまんざらではない様子だったけど。
そのため俺は「おきあがりこぼし」として通っているわけだ。
「おい、どうした?ボーっとしてよ」
「ん?ああ、何でもねぇよ」
「そうか?なんか間抜けな顔してたぞ」
と言って俺の顔真似らしき事をする。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
いきなりクラスの男子の大半が雄叫びを上げる。まるで教室そのものが轟いているような雄叫び。理性を失った者の咆哮。
こいつら・・・うさのファンクラブの会員か!
前の方で言ったと思うがうさは男子から人気があり、校内で10位以内にランクインする。この巨大な案山子山学園の中では凄いくらいの上位者である。そのためファンクラブがあってもおかしくはないのだ。
だが当の本人は何故いきなり雄叫びを上げたのか分からない様子で、目を丸くしてキョロキョロあたりを見回している。
ファンクラブの会長に言わせるとうさの行動のほとんどは「萌え」らしい。
恐らく俺の顔真似がこいつらの理性を狂わせたようだ。
「お、おい、何?何でみんなテンションあがってんの?」
「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
「って何?お、おい!や、やめ、やめろって。う、うわあああああぁぁぁ!!」
うさの行動に感情を押さえきれなくなったファンクラブ会員達はうさを胴上げすると、担いだまま教室から出て行ってしまった。
うさのファンクラブがいなくなり教室内には唖然とした生徒と騒動の後の静寂だけが残った。
「うさ。お前、オカマみたいだったけどいい奴だったよ」
俺はもう会う事のないだろううさに今生の別れを告げ、教室を後にした。
うさの事は忘れよう。そう、今俺にはやらなければならない事があるのだから。
「現時刻12時56分。ターゲットの来る時間まで、残り2分と14秒」
「了解。教職員玄関、待機を開始」
と言い職員玄関の前で待機するのは、謎の転校生こと天道マボだった。
ついでに現在は携帯を片手に、一日で仲良くなったクラスメイトの城山雪乃からの指示を受けて、待機している。
「城山隊長。ターゲット、発見」
「よし、今からサポートに向かう。ってアレ?ね、姉さん?!ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「隊長?!どうした?!」
「マボ二等兵、逃・・げ・・・プツッ」
「た、隊ちょーーーーーう!!!!」
電話が切れた。同時にどうしようもないくらいの恐怖がこみ上げる。
後ろを振り返るとそこには・・・
「骨折変態少年?!」
「違う!!」
そう、そこにいたのは骨折変態少年、もとい3日ぶりの霧島響介であった。
「お、お前か。びっくりしたぞ」
「俺もお前と初めて会った時びっくりしたぞ。幽霊かと思ったし」
「マボもびっくりした。飴は降らない」
「知るか!ホントに見たんだよ」
「うるさい、変態が。Fuck」
「ふう、俺はあの後階段から足を滑らせた貴様のおかげで右腕を骨折し、貴様の説得力ある説明のせいで精神科にもお世話になった」
「そうか、よかったな。じゃあまた病院行け」
「その後、俺の退院明けの学校では俺は頭のおかしい馬鹿、という事になっていたんだが」
「そうか、マボは知らない」
「あ、そう言えばお前さ、昨日の美術サボったらしいな」
「サボってないぞ。マボはお前とは違って真面目・・・いえ、サボりました。後、霧島君の事もマボが言っちゃった」
「そうか、素直だな。んで、口調変わってるぞ」
「うん。だから後ろのスタンドをどうにかしてくれ。いや、ほしいのだが」
「そうか、俺の後ろにいる女神様はお前とお話がしたいそうなんだが・・・」
「え、遠慮!する!」
「もう手遅れだ・・・」
と言うと俺の背後に立っていた破壊神・・・じゃなくて女神様は目の前の転校生に凄まじい視線を送っている模様。
大魔神鳳覇乃(おおとりはの)。俺の実母の妹、つまり叔母に当たる人であり、この町では唯一血の繋がった人である。
とはいえ叔母、と言っても俺との歳差は5歳差程度。俺は17歳で姉さんは22歳だ。
そんなことで姉さんと呼んでいる。
仮に叔母さん、などというものならば、今ここで俺が制裁を受ける羽目になるだろう。
まぁ、今回はクソ転校生の天道マボを制裁するために連れてきたのだが。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁあああああ!!」
おお!姉さんの得意とする絞め技の一つ、コブラツイストだ。
いつもであればうさや雪乃が被害者になるであろうこの技は、今回はこの少女に牙をむいたようだ。ま、俺が頼んだんだけど。ハグしてあげると言ったら、飛びつくように。
「じゃ、後は頼んだよ」
と言うと俺は校舎へと歩き出す。
姉さんのハグ・・・いやベアハッグと言えようアレを食らうと俺もひとたまりじゃないからな。
「ちょっと!響ちゃん!ハグは?お姉ちゃんへのご褒美はどうす・・・」
聞こえない聞こえない、俺には何も聞こえません。
「霧島響介・・・この恨み、忘れない」
聞こえない、恨みなんて言葉聞こえません。
俺は自分にそう言い聞かせると早々に走って逃げた。
キーン、コーン、カーン、コーン。予鈴のチャイムが鳴る。
「次の授業は体育か」
5時間目は体育。俺の苦手な科目の一つであるが、今日は持久走らしい。
「持久走かよ」「疲れるからやだなぁ」「走る前から心が折れた」と色々なところから話し声が聞こえる。
男子は教室で、女子は更衣室で着替えることになっている。
そのため女子は現在教室にはいない。はずなのに。
「何で貴様らがいるんだ」
俺は目の前に仁王立ちする幼馴染と転校生にそう言った。
「響介!アンタどうしてくれるのよ!」
「オ前サエイナケレバヨカッタノニ」
と雪乃とマボは言う。
「雪乃すまない。俺はこのアホを制裁するた」
ボコッ。腹を殴られた。せめて話を最後まで聞けよ。
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「土下座は?」
「この通り」
と俺は雪乃の足もとで土下座をする。俺って弱いなー。
「ほら、マボにも同じようにしなさいよ」
「だが断る」メギィ「嘘です、すみませんでした」
マボにも同じように土下座する。顔を見上げると優越感に浸っているようだ。少し視線を下げると顔面を踏みつけられた。
「って汚ねぇ足を乗せんな!」
「うるさい。パンツ見ようとしただろ。制裁しようと思った。けど時間がない。制裁は後にする」
「お前の言葉、すげー聞きづらい」
「口答エスルナ」
「何で片言?!」
「ジャ・ア・ナ。後デ覚エトケ」
と言うとマボと雪乃はそのまま教室を出て行った。
ふう、やっと危険人物が消え去ってくれた。ってまた後でヤバい状況になるだろうけど。
まぁいいや、俺は過ぎた事は気にしない性格なんだ。
難しく考えてはいけない。所詮アイツらも体育後で疲れて制裁とかしないだろうし。
難しく考えちゃだめだ。楽に考えよう。
しかも今日の授業は持久走だし、授業しない分楽だ。
走るだけで授業が終わると思うとテンションあがるね。
「うさ、持久走だぜ。楽な授業だぜ」
と机に突っ伏しているうさに話しかける。するとうさは顔をあげ
「らくなのは、おまえ、だけれす」
と言ってまた顔を伏せた。あの後いったい何が起きたのだろう。ま、俺の知った事じゃないよな。
俺は突っ伏すうさを無視し、ささっと体操服に着替える。んで、教室を出た。
とそこで廊下を歩く8組の生徒に出くわした。
「あ、響介君。次グラウンドだよね?僕も同じだから一緒に行こっ」
と言ったのは8組の夏目夕(なつめゆう)。
学園人気ランキング第二位。童顔でおとなしそうな顔立ち。身長は155?くらいでほっそりとした体形。現在は体操服にブルマと言った格好だ。アレ?何でブルマ?学校では禁止のはずじゃ・・・
「響介君が喜ぶと思ったから」
「喜ぶかっ!てか人の心読むなよ!」
「えと・・・どうかな?」
「お前が履くな!気持ち悪い!」
ブルマを履いているが、こいつは男だ。マジで気持ち悪い。似合ってはいるが。
しかもそれを認めた上に惚れてしまうこの学園の男子生徒はどうかしているのではないかと不安になる。
「気持ち悪い?・・・酷い・・・酷いよ、響介君!」
「お前は男だろ!男らしく生きろよ!」
「僕だって、僕だって男じゃなかったらよかったのにって、思ってるのに!」
「男に生まれたんだからしょうがないだろうが!だから俺の事は諦めろ」
「じゃ、じゃあ、性転換するから・・・」
「性転換してもお断りだ!」
「ひ、酷いよ。僕はこんなにも響介君の事、思ってるのに。きょ、きょ、響介君の、響介君のバカーーー!!!」
途中から半分泣いていた夕はそう叫んで廊下を走って行った。
「響介。お前はもっと乙女心を知るべきだ」
と復活したらしいうさが俺の肩に手を置いて真面目な顔つきで言ってきた。
「うさ・・お前・・・・・何言ってんの?気持ち悪」
「かっこいいセリフ言ったと思ったんだけどな、俺。せめて話合わせるくらいしろよ」
「無理。お前にかっこいいセリフは似合わない。気持ち悪いだけだ」
「ひ、酷い!きょ、響介のバカーーーーー!!」
と言うとうさも廊下を走って行った。
あいつに言われると更にキモいな。俺は半眼の状態でそう思った。
不意にポン、と肩に手を置かれた。クラスのうさのファンクラブの男達だ。
「まぁ、落ち込むなよ」「元気出そうぜ」「学園で人気の美少女に連続で振られるとはな、分かるぜその気持ち」「俺達仲間だろ?」
「いやいや、絶対に分かってない。お前達とは違うからね。俺はホモじゃないし、リアルでBL的な事する気も無いからね。止めて下さい。お願いします」
「まぁ、あんな事があった後だし否定したい気持ちは分かるよ。だけどさ俺らがいるじゃん。こう、分かり合える同士がいるじゃねえか」
「お、俺はお前らとは違うんだーーーーーー!!!!」
俺はうさファンの群れから抜け出すと一目散にグラウンドへと走って行った。
「では今日の持久走は、いつもよりも距離を長くする。ルートはこうだ」
と体育教師の曽根村はあらかじめ用意していたホワイトボードに黒いマジックで絵を描いていく。下手でよく理解できないが。
でも大まかなルートは分かった。この案山子山学園の高等部の外周を回ってくればいいだけだ。
距離にして5?くらい。制限時間は35分。全速力で走れば余裕でゴールできるかな。
しかし他の生徒は違うようだ。
「無理だろ」とか「怪我して走れません」とか「覚醒しないと無理だ」とか「白百合ハァハァ」とか「夏目可愛い」とか聞こえる。最後の二つは何なんだ。
「おい!高等部1周かよ!5,6キロあるんだぞ。流石に無理だよ!」
うさが騒ぐ生徒を代表して曽根村に反論した。
「お前らはそれでも男か!あ、白百合と夏目は違うか」
「俺は男だよ!夕は違うけど!」
と言い反論する。ついでに体育は隣のクラスと合同で男子と女子に分けられる。そのためうさと夕も一緒なのだ。
「と言うか、白百合と夏目は何故ここにいるんだ?早く女子の所に行って来い」
「俺は男だっつの!!」
「あの、僕も一応男ってことになってて・・・」
「おい、夕。お前は女だろ?」
「え?だって僕は、その・・・響介君と一緒に授業受けたいし」
おい、今言ってはならないこと言ったよね?しかも一応じゃなくて、完全に男だよね?
「っち霧島の奴め」「夏目を手名付けやがって」「あいつの様な危険因子は早急に消すべきか」「我が力を持って、全力で葬ってやる」
7組男子&8組男子の視線が俺に集中する。怒りと憎しみのこもった視線だ。
「おい、うさ。この学校の生徒はどうかしているのだろうか」
「同感だ。教師も含めおかしいと思う」
全くだ。この学園には生徒だけでなく教師もまともな人間がいない。
「おい、霧島。まともな教師がいないというのはどういう事だ?」
「そのセリフはうさが言ったんだけど」
「うるさい!お前は特別に10分遅れでスタートさせてやる」
「なっ?!ちょっと待て!俺じゃねーっての!」
「はい、それじゃースターット!!」
「いきなり?!」「俺まだストレッチとかやってないんだけど」「いや、これは先回りして霧島を消すチャンスか」「足ひねったああああぁぁぁぁ!!」「白百合ハァハァ」「響介君。もし僕が一番になったら・・・」
なんか全員いきなりのスタートで全員困惑してるし。しかも聞こえたくない事も聞こえてきた。
これに紛れてスタートするのもいいが、それでは後から制裁(罰ゲーム)を受ける事になるだろう。止めとくか。
やがて最後尾の背中も見えなくなり、その場には俺と曽根村の二人だけ残った。
「フフフ。大丈夫なのか?ゴールできなかったら罰を受けてもらうぞ」
「まぁ。何とかなるでしょ」
「今なら土下座すればスタートさせない事もないが。どうする?」
「別に。そんなことしなくても平気ですよ」
「フン。そんなに強がっても結果がすべてだからな。お前がどうなろうと知ったこっちゃないが」
「曽根村先生の心配なんかいらないですよ」
と俺はニコニコして言うと曽根村は顔をひきつらせて、そっぽを向いた。
フン。マジでテメェの心配なんかいらねえっての。
スタートから9分。
響介君は大丈夫なのか。心配だなあ。
あまりに心配なので隣を並走しているうさちゃんに聞いてみよう。
「ねえ、うさちゃん。響介君、平気かな?」
「うさちゃん言うな。しかも響介だったら全然平気だろ」
「だって25分で5キロって、計算すると5分で1キロ。分速だと200mで、秒速だと3.333333・・・・・・」
「割り切れないから言うな。しかし響介の事だから全然心配いらないだろ」
「へ?」
「だから、お前は自分の心配してろっての」
そう言うとうさちゃんは更に加速して走って行ってしまった。
心配だけど確かに自分の心配もしなくちゃいけないな。
そう思いながら僕も少しペースを上げた。
「9分経った。準備しなくていいのか?」
「9分もありましたから。準備はもういらないですよ」
「そうか、それじゃ、30秒前」
このクソ教師が。のんきにしやがって。後で覚えてろよ。
大魔神の召喚でアンタもマボと同じ運命に会わせてやるよ。
「ま、俺の予想だと、いつもの距離の倍以上にしたってことは、それほどうさや夕の汗まみれの体操着姿が見たかったのかな?」
「んなっ?!」
図星か。
お見通しだっつの。テメェがいつも女子更衣室覗いている事くらい知ってるし、うさや夕の事をいやらしい目で見ている事もな。
あの二人は見かけによらず体力あるから、いつもの距離(2キロちょっと)程度じゃあまり汗かかないし。
「くっ。10秒前だ」
俺の言葉で不機嫌になった曽根村はいらだちを押さえた様子でカウントを始める。
7、6、5、4、
そろそろ準備を。
3、2、1
ひと泡吹かせてやろうかね。
0
と同時に俺は全速力で走る。
不良に絡まれても、囲まれなければ逃げるといった行動によって培ってきた瞬発力と走力でぶちっぎってやるよ。
「騒々しいじゃねえか」
ここは廃工場群第8地区ゴミ留置場、通称クズ鉄通り。
案山子山学園と山を挟んだ所に存在する廃工場群であり、普通は誰も来ないような場所である。
そんな廃工場群で一人つぶやいたのは少女であった。
しかし格好は雨の日の格好であり、この場では逆に不気味ささえ感じられる。
少女はこの場でずっと待っているだけ。
日が落ちるのをただ一人待っているだけ。
そのような時に聞こえてきた声。疲れてバテている、そんな声だ。
「疼くじゃねえか」
少女は人の声に反応するように体を震わせ、それに伴い呼吸も荒くなる。
抑えなきゃ。抑えなきゃ。
少女は疼くその体を抱くように腕で押さえる。
そして不気味な笑みを浮かべて蹲る。
そうだ。今はまだ頃合いじゃない。
今はまだ、まだ抑えて、抑えて。
時が来たら
食べちゃおう。
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