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作品ID:23
こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約5588文字 読了時間約3分 原稿用紙約7枚
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクおよび性的な表現・内容が含まれています。18歳未満の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 批評希望 / 初級者 / R-15&18 /
未希との遭遇
作品紹介
みなさんどうも初めまして。
今まで趣味で文章を書いたりしてきましたが、今回初めてこのような場をお借りすることにしました。皆さんのご指摘ご感想を頂いて幾らか成長できれば、と思います。
正直題名から入りましたのでテーマというテーマやメッセージなんていう大それたものはありません。
不器用で自意識過剰。ねじ曲がった空想がちの主人公である吉田少年が現実との折り合いに苦しみ、失恋を機に少し成長するとか、そんな感じです。
非常に幼稚な文章ですが、何か感じていただけたら嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました。
今まで趣味で文章を書いたりしてきましたが、今回初めてこのような場をお借りすることにしました。皆さんのご指摘ご感想を頂いて幾らか成長できれば、と思います。
正直題名から入りましたのでテーマというテーマやメッセージなんていう大それたものはありません。
不器用で自意識過剰。ねじ曲がった空想がちの主人公である吉田少年が現実との折り合いに苦しみ、失恋を機に少し成長するとか、そんな感じです。
非常に幼稚な文章ですが、何か感じていただけたら嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました。
高校三年生にもなると、僕はいつだって窓際の席を引き当ててみせた。
これはもう大宇宙の御意思だとか、席替えの神様かなにかそんなものが、そちは汚のうて、臭くてかなわん故、とこしえに其処におれ、と言っているのだと思っている。僕はそれを甘んじて招致し、誰にも正体を悟られないよう、息を殺して御伽話ばかり読み、時たまに空を見上げた。
肌寒い十月の空に青空が広がっているのが、この教室からは見える。すぐ隣の窓から素朴で清潔な、それでいてトイレでにおってきそうな主張の強い匂いが教室へ漂い流れてきた。教室の傍に小さなキンモクセイの垣根が花を咲かしているのが見える。これのおかげで僕の汚い心の臭いが、いくらか誤魔化せて、救われているのだ。しかし、そんな愛らしいキンモクセイの花たちも、しだいに枯れ始め、いくつかは毒で腐った葡萄のように情けなく垂れ下がって僕を失望させた。もう駄目なのかもしれない。いくら体を洗ってみても、着飾ってみても、歯を磨いて眉毛を整えてみても、この魂の心棒から腐りだした腐臭は隠せないのだ。
気付かれてしまう、僕の正体が。責めたてられてしまう、誰よりも汚い心を。一体、心の綺麗な人に心の汚い者の気持ちがどれだけ分かるだろうか。僕は窓際で、いつだっておびえている。おびえているぞ……
「おい、吉田」
そう言って背後から僕の震える肩を掴む人がいる。恐る恐る振り返ると、クラスメイトの三浦君であった。
「オレ、今日超腰痛サイヤ人なんだけど、何でだか分かる?」
「え、なんで?」
「セックス、やりすぎた。デヘヘ!」
僕が今この三浦君をどうしたいと思ったか、心の綺麗な人に分かるだろうか。僕は今、この糞ったれ交尾猿を地中に埋め、ペニスだけ青空の下にさらけ出す形にし、その尿道に花を刺し込んで玉袋に根を張るまで水をやり続けるという仕事を園芸係に加えようじゃないかと思ったのだ。三浦のチンポ草と名づけられたその花は奇草として有名になる。そのエピソードというのが、ある女生徒が水をやっている時、水圧の強いホースシャワーで水をやると、たちまち成長するという出来事があり、それをヨーロッパの学会で……
自分の歪みきった思考に気づき、ハッと我にかえり頭を抱え伏せた。
(マズイ!)
息が荒くなる。深い自己嫌悪に陥ると同時に、どくどくと溢れ出した心の腐臭が周りに気づかれはしまいかとおびえる。
(まただ、またやってしまった!)
僕はいつだって何処からともなく湧いて出る意味のわからない屈折した怒りに、ついつい頭の中が虜にされてしまうのだ。そんな自分が嫌で、今年の夏休みは四国のお寺を廻ったりしてみたのだけれど結局一つも我慢できない。こんな個性は、まるでゆくゆくは社会の敵に育つ、危険分子の狂人思考ではないか!
僕の心は汚い。中東で武器を持って走りまわる子供や、アフリカで泥水ばかり飲んでいる子供に流してやれる涙もなければ、ほんの数一〇〇km先で孤独に死んだ童女の報道を聞きながら晩御飯をオカワリしようと言う、鬼畜生である。それどころかセックスで腰を痛めたクラスメイトの三浦君を労わってやる事もできないのだ。僕は三浦君と三浦君のお父さんとお母さんに土下座したくなっていた。
「大丈夫!? 保健室行く!?」
「え? あ、いや、だ大丈夫だよ、あはは……」
三浦君はそういうと、何か猟奇的なものを見るような眼をしながら苦笑いをし、向こうへ行ってしまった。僕は再度頭を抱え込む。嗚呼、また一人、僕の心を見透かして去って行った。僕はいつだってそうだ、人を不快にさせてばかりいる。それでいてやはり懺悔の涙もなにも流してやれない。ほうら、僕の謝意など自分の罪悪感をいくらか減らしたいだけの、ずっとつまらない誤魔化しのようなものなのだ。傷ついているようでいて、実は何も感じちゃいない。
近頃は人の痛みを量る想像力なんかは、涙腺のゆるさに比例するのかもしれないと思い始めている。だって、僕が最後に泣いたのは、きっと産まれ落ちた時ではないだろうか。あんな清い水が、はたして現在の僕の身体に流れているのだろうか。やっぱり、どうやら、僕の正体は、決してこの星の人間ではないんだ―――
「はぁーい皆さん、おこんばんはぁ?ん!」
クラスのムードメーカーである今野君が、教壇に立って英語の谷川先生のモノマネをしている。何人もの女子に囲まれ、笑われ、気持ちよさそうにしている。その中に僕が入学当初から好きでいる秋野未智さんも一緒にいた。
秋野さんはこのクラスで唯一僕に話しかけてくれる女子であり、緊張した僕のまとまらない、それでいて一つも面白くない話を最後まで一生懸命聞いて、最後には決まって笑顔をくれる、この学校で一番心の綺麗な人である。彼女は、白くて細い指の第三関節なんかがほんのりさくら色に染まった手を口に当てて、にこにこと品よく笑っていた。
「おーミス秋野ぉ。制服の下にカラーティシャツ着てきちゃ駄目ダメよぉ??」
「あ。先生、ごめんなさーい」
今野君の黄色い左手が秋野さんの小さな肩にとまり、あまった右手は彼女の芸術みたいに華奢な鎖骨を通り過ぎて、黒いセーラー服の胸元から顔を出す青いTシャツをつまんでみせた。その時の今野君の顔ときたら、なんと無理やりの、腐った爽やか笑顔だろう。
秋野さんは最初少し驚いた顔をして、すぐに、あら、いけないわ……といったようにハッとし、慌てて、また、にこにこと照れ笑いを返した。
(仕方がない)
僕はそっと目を瞑った。
僕は彼を責めることが出来ない。僕も今野君の気持ちが苦しいほどに分かってしまうのだ。今野君も秋野さんをずっと好きでいるのだ。きっと自分はお調子者だから、面白い人で終わってしまって恋愛対象として見てもらえていない、自分はピエロなのだ、そう言って今野君が悔しそうに話したいつかの放課後を思い出した。しかし、そうやって切なくなりながらも、必死にお調子者に徹して秋野さんに近づき、ときめき止まぬうちに急いで家へ帰って、そのほっこりとした彼女の温もり残る右手でスコスコと彼女を汚しながら、悔し涙で枕を濡らしているのだろう。そんな下心の奴隷野郎が朝起きるとペニスがなんと稲穂になっていた! セックスもオナニーも出来ず、性欲と比例して、ただ米が実るばかり。煮詰まった末「千歯コキー!」という身体を張った新ギャグを披露するも秋野さんを泣かせてしまい、その後行方をくらました。いつの頃からか、三浦のチンポ草の隣に不味そうな稲が一本生えており、その米を食べると妊娠するという噂が流れ、後々ヨーロッパの学会で……
僕はもう、死んでしまった方が世のためかもしれない。僕は溜息をつきそうになって、咄嗟に息を止めた。
(きっと今の僕の息は生ゴミのようだぞ……)
そして懇願するように窓際から空を見上げる。
(早く、はやく来てほしい)
空は唾を吐きたくなるほど、くだらない群青を連ねて映していた。
夕暮れが、街と空と、ついでに僕の心なんかも赤く染めていく。判子屋や、ちんけな自転車屋が並ぶ廃れた商店街からは、あんこの匂いと哀愁が漂う。山に半分隠れた夕陽が、見た事もない八月六日の原子爆弾を彷彿とさせ、僕の眼玉を焼いた。僕は夕陽を見ると何とも言えない心持になってしまう。今日という日に何か忘れ物をしてきたような気がしたり、あの火の玉が何か罪の塊のように後ろめたく見えてしまったりする。だから業の深い僕の心が、何の抵抗もなく真っ赤に黄昏てしまうのだろう。
こんなに悲しい帰り道はこれで何度目だろうか。慣れてしまえば痛くないというのは多分嘘だろうと思う。僕の心が汚い限り、いつだって帰り道は、又は行き道や寄り道だって悲しく見えてしまうのだろう。仕方がない、人権問題がなくならないのも、キリストが十字架に架けられたのも、間違いなく僕のせいなのだ。
自分で自分の浅ましさを誤魔化しきれなくなった時、僕は、きっと、皆もそんなものじゃないかと信じたくなっている。僕と同じ、いびつで黒いナイフを、ずっとずっと心の底に沈めて隠し持っておいて、お互いが卑しいおべっか売りのようにして腹を探り合って生きているのなら良いのにと思ってしまうのだ。もし、そうならば、僕はどれだけ嬉しいだろう。一〇年後、同窓会をした時、全員がブタ箱にいて集まれないという事態になったならば、どんなに可笑しくて、どんなに救われるだろう。自分の罪深さに気づいているだけ、僕の方が幾らかましだとしたら、どんなに楽しくなるだろう。
西の空に一本の飛行機雲がどこまでも伸びている。茜色の空に沈む、大きくて優しい夕陽に、大好きな秋野さんの顔が重なってしまい、僕はゆっくりと首をたれて、力なく横に振った。
汚い僕にいつだって笑顔をくれる秋野さん。肩まで伸びたさらさらの黒髪から、気取らない、柔らかな匂いのする秋野さん。食パンのように白い足で飛んで跳ねて僕を悩ませる秋野さん。二月十四日生まれの水瓶座、身長一五七cm、体重三八・四Kg、好物はお寿司のサーモン、異性のタイプは好きになった人、の秋野さん。そんな素敵な秋野さんがブタ箱にいてくれたら嬉しいだなんて、もう本当に僕は人間じゃねえに決まっている。
いつからか僕はそれに気づいてしまった。僕はきっとこの星の人間ではないのだ。校庭の隅の陰気な兎小屋の床のように地面が固まった糞で形成されているような、惑星ヨシーダだとか、そんなろくでもない星の王子が本当の僕なのだろう。そこの人々は皆心が汚く、卑怯さと臆病さによって地位が決められる。僕はその中でもエリートでいたのだけれど、あまりの優秀さに妬まれ、罠にはめられてロケットで地球へ飛ばされた末に記憶をなくしてしまった悲劇の糞ったれなのだ。そうしてこうやって涙も流せない自分と美しい地球人との心の違いに苦みながら、毎日教室の窓際で空を見上げて迎えの船をまっている。
僕はもう秋野さんを好きでいる資格さえも、勝手に無くしてしまいそうだった―――
夕陽はさらに、ずんずんと山の端へ沈んで、僕の気持ちも同じように沈ませた。段々と寒くなりだした秋の風に、刃物屋はシャッターを降ろし、道行く人々は疲れた顔をして首をかばいながら歩いて行く。沈みきった僕に遠慮なく、恋人たちは自転車に二人乗りをして、幸せそうな顔で軽快に僕を追い越してゆく。爽秋の北風に挫けぬよう、ひしと身を寄せ合って愛の力を確かめ合っている。それが、憐れな者には古い活動写真のようにうっとりと映ってしまうのだ。そうして恋人たちは一〇〇m先の駅で止まり、男は彼女を降ろすと、人目もはばからず別れのキスをせがむ。彼女も初めは断っていたのだけれど、あまりにしつこいものだから、周りをきょろきょろと用心深く見まわしてから仕方なく一つくれてやった。三浦君は大満足と言った顔で自転車にまたがり、手を振りながら帰っていき、残された彼女は夕焼けに照らされた真っ赤な頬を更に真っ赤に染めて恥ずかしそうに、しかし満更でもない顔でしばらく俯いてから、いつもより多めのにこにこ顔で改札へと浮足で歩いて行った。ちょうど、五時の刻を告げる海のメロディが寂れた商店街に流れる中、僕は阿婆擦れ変態女、秋野未智の幸せそうな顔を消えるまで見ていた。
そうか、そうだ。秋野さんがブタ箱に入る事なんて、なんにも可笑しなことではなかったのだ。おかしいどころか、雌ブタビッチである肉便器秋野未智は正真正銘のブタ箱にすら入れてしまう。ソーセージになる価値もない、僕のようなどこまでも汚い雄ブタばかり集まるブタのブタ箱でブタの性欲処理係を時給二四〇円でやってもらおう。糞ブタ共が腰痛をもよおすほどの素敵な働きぶりにオーナーも大満足であろう。いやあ、何も、一つだって自分を嫌う必要はなかったのだ。やっぱり、皆も僕と同じように心の中は乱れ腐っていたのだ。ただ僕は少し真面目すぎたのだなあ。嗚呼万事解決、世界平和が訪れた!
そうして気分の良くなった僕が歩いて行くと、触覚のついたカチューシャをして、わざとらしい全身銀色タイツを履いた秋野未智が夕昏の路地にピロリロリンと佇んでいた。僕が銀色タイツの秋野に、君は秋野かと尋ねると、自分は未智ではなく未希という名前で、宇宙人だと返した。そして同時に、僕を迎えにきたのだと説明した。惑星ヨシーダではなかったけれど、やはり僕の本当の居場所は、太陽の裏に確かに存在しているらしいウユキチ星のポンジャ王国という処なのだと、彼女は簡単に教えてくれた。これから二人はその星へ行き、一緒に暮らすのだ。
「もうこの星には戻ってこられないけど、それでも良い?」
「うん、早くこんな星からは出て行こう」
僕と未希を乗せた銀色のマカロンのような宇宙船は夕陽に向かって真っすぐ飛び、ワープを繰り返して大宇宙へと飛び出した。真っ暗闇の中、眩しく輝いている悲しみの沈む場所、罪の塊、あの太陽の裏に僕の本当の居場所がある。次のワープエネルギーが貯まり、準備完了と言う風に緑のボタンがチキチキと点滅した。一面に散らばって片付かない星たちが二人の希望のように美しく見えて、僕達は顔を見合せて笑う。僕は彼女にキスをねだり、彼女はしかたなく一つくれた。
(嗚呼、そうだ、この、たった今暖かい処。ここにきっと、心というものがある)
―――そうだったら良いなと、僕は思った。夕陽のなかに彼女の宇宙船を捜そうと頑張るのだけれど、肝心の夕陽がぐにゃぐにゃと揺れるのでそれは難しかった。
完
これはもう大宇宙の御意思だとか、席替えの神様かなにかそんなものが、そちは汚のうて、臭くてかなわん故、とこしえに其処におれ、と言っているのだと思っている。僕はそれを甘んじて招致し、誰にも正体を悟られないよう、息を殺して御伽話ばかり読み、時たまに空を見上げた。
肌寒い十月の空に青空が広がっているのが、この教室からは見える。すぐ隣の窓から素朴で清潔な、それでいてトイレでにおってきそうな主張の強い匂いが教室へ漂い流れてきた。教室の傍に小さなキンモクセイの垣根が花を咲かしているのが見える。これのおかげで僕の汚い心の臭いが、いくらか誤魔化せて、救われているのだ。しかし、そんな愛らしいキンモクセイの花たちも、しだいに枯れ始め、いくつかは毒で腐った葡萄のように情けなく垂れ下がって僕を失望させた。もう駄目なのかもしれない。いくら体を洗ってみても、着飾ってみても、歯を磨いて眉毛を整えてみても、この魂の心棒から腐りだした腐臭は隠せないのだ。
気付かれてしまう、僕の正体が。責めたてられてしまう、誰よりも汚い心を。一体、心の綺麗な人に心の汚い者の気持ちがどれだけ分かるだろうか。僕は窓際で、いつだっておびえている。おびえているぞ……
「おい、吉田」
そう言って背後から僕の震える肩を掴む人がいる。恐る恐る振り返ると、クラスメイトの三浦君であった。
「オレ、今日超腰痛サイヤ人なんだけど、何でだか分かる?」
「え、なんで?」
「セックス、やりすぎた。デヘヘ!」
僕が今この三浦君をどうしたいと思ったか、心の綺麗な人に分かるだろうか。僕は今、この糞ったれ交尾猿を地中に埋め、ペニスだけ青空の下にさらけ出す形にし、その尿道に花を刺し込んで玉袋に根を張るまで水をやり続けるという仕事を園芸係に加えようじゃないかと思ったのだ。三浦のチンポ草と名づけられたその花は奇草として有名になる。そのエピソードというのが、ある女生徒が水をやっている時、水圧の強いホースシャワーで水をやると、たちまち成長するという出来事があり、それをヨーロッパの学会で……
自分の歪みきった思考に気づき、ハッと我にかえり頭を抱え伏せた。
(マズイ!)
息が荒くなる。深い自己嫌悪に陥ると同時に、どくどくと溢れ出した心の腐臭が周りに気づかれはしまいかとおびえる。
(まただ、またやってしまった!)
僕はいつだって何処からともなく湧いて出る意味のわからない屈折した怒りに、ついつい頭の中が虜にされてしまうのだ。そんな自分が嫌で、今年の夏休みは四国のお寺を廻ったりしてみたのだけれど結局一つも我慢できない。こんな個性は、まるでゆくゆくは社会の敵に育つ、危険分子の狂人思考ではないか!
僕の心は汚い。中東で武器を持って走りまわる子供や、アフリカで泥水ばかり飲んでいる子供に流してやれる涙もなければ、ほんの数一〇〇km先で孤独に死んだ童女の報道を聞きながら晩御飯をオカワリしようと言う、鬼畜生である。それどころかセックスで腰を痛めたクラスメイトの三浦君を労わってやる事もできないのだ。僕は三浦君と三浦君のお父さんとお母さんに土下座したくなっていた。
「大丈夫!? 保健室行く!?」
「え? あ、いや、だ大丈夫だよ、あはは……」
三浦君はそういうと、何か猟奇的なものを見るような眼をしながら苦笑いをし、向こうへ行ってしまった。僕は再度頭を抱え込む。嗚呼、また一人、僕の心を見透かして去って行った。僕はいつだってそうだ、人を不快にさせてばかりいる。それでいてやはり懺悔の涙もなにも流してやれない。ほうら、僕の謝意など自分の罪悪感をいくらか減らしたいだけの、ずっとつまらない誤魔化しのようなものなのだ。傷ついているようでいて、実は何も感じちゃいない。
近頃は人の痛みを量る想像力なんかは、涙腺のゆるさに比例するのかもしれないと思い始めている。だって、僕が最後に泣いたのは、きっと産まれ落ちた時ではないだろうか。あんな清い水が、はたして現在の僕の身体に流れているのだろうか。やっぱり、どうやら、僕の正体は、決してこの星の人間ではないんだ―――
「はぁーい皆さん、おこんばんはぁ?ん!」
クラスのムードメーカーである今野君が、教壇に立って英語の谷川先生のモノマネをしている。何人もの女子に囲まれ、笑われ、気持ちよさそうにしている。その中に僕が入学当初から好きでいる秋野未智さんも一緒にいた。
秋野さんはこのクラスで唯一僕に話しかけてくれる女子であり、緊張した僕のまとまらない、それでいて一つも面白くない話を最後まで一生懸命聞いて、最後には決まって笑顔をくれる、この学校で一番心の綺麗な人である。彼女は、白くて細い指の第三関節なんかがほんのりさくら色に染まった手を口に当てて、にこにこと品よく笑っていた。
「おーミス秋野ぉ。制服の下にカラーティシャツ着てきちゃ駄目ダメよぉ??」
「あ。先生、ごめんなさーい」
今野君の黄色い左手が秋野さんの小さな肩にとまり、あまった右手は彼女の芸術みたいに華奢な鎖骨を通り過ぎて、黒いセーラー服の胸元から顔を出す青いTシャツをつまんでみせた。その時の今野君の顔ときたら、なんと無理やりの、腐った爽やか笑顔だろう。
秋野さんは最初少し驚いた顔をして、すぐに、あら、いけないわ……といったようにハッとし、慌てて、また、にこにこと照れ笑いを返した。
(仕方がない)
僕はそっと目を瞑った。
僕は彼を責めることが出来ない。僕も今野君の気持ちが苦しいほどに分かってしまうのだ。今野君も秋野さんをずっと好きでいるのだ。きっと自分はお調子者だから、面白い人で終わってしまって恋愛対象として見てもらえていない、自分はピエロなのだ、そう言って今野君が悔しそうに話したいつかの放課後を思い出した。しかし、そうやって切なくなりながらも、必死にお調子者に徹して秋野さんに近づき、ときめき止まぬうちに急いで家へ帰って、そのほっこりとした彼女の温もり残る右手でスコスコと彼女を汚しながら、悔し涙で枕を濡らしているのだろう。そんな下心の奴隷野郎が朝起きるとペニスがなんと稲穂になっていた! セックスもオナニーも出来ず、性欲と比例して、ただ米が実るばかり。煮詰まった末「千歯コキー!」という身体を張った新ギャグを披露するも秋野さんを泣かせてしまい、その後行方をくらました。いつの頃からか、三浦のチンポ草の隣に不味そうな稲が一本生えており、その米を食べると妊娠するという噂が流れ、後々ヨーロッパの学会で……
僕はもう、死んでしまった方が世のためかもしれない。僕は溜息をつきそうになって、咄嗟に息を止めた。
(きっと今の僕の息は生ゴミのようだぞ……)
そして懇願するように窓際から空を見上げる。
(早く、はやく来てほしい)
空は唾を吐きたくなるほど、くだらない群青を連ねて映していた。
夕暮れが、街と空と、ついでに僕の心なんかも赤く染めていく。判子屋や、ちんけな自転車屋が並ぶ廃れた商店街からは、あんこの匂いと哀愁が漂う。山に半分隠れた夕陽が、見た事もない八月六日の原子爆弾を彷彿とさせ、僕の眼玉を焼いた。僕は夕陽を見ると何とも言えない心持になってしまう。今日という日に何か忘れ物をしてきたような気がしたり、あの火の玉が何か罪の塊のように後ろめたく見えてしまったりする。だから業の深い僕の心が、何の抵抗もなく真っ赤に黄昏てしまうのだろう。
こんなに悲しい帰り道はこれで何度目だろうか。慣れてしまえば痛くないというのは多分嘘だろうと思う。僕の心が汚い限り、いつだって帰り道は、又は行き道や寄り道だって悲しく見えてしまうのだろう。仕方がない、人権問題がなくならないのも、キリストが十字架に架けられたのも、間違いなく僕のせいなのだ。
自分で自分の浅ましさを誤魔化しきれなくなった時、僕は、きっと、皆もそんなものじゃないかと信じたくなっている。僕と同じ、いびつで黒いナイフを、ずっとずっと心の底に沈めて隠し持っておいて、お互いが卑しいおべっか売りのようにして腹を探り合って生きているのなら良いのにと思ってしまうのだ。もし、そうならば、僕はどれだけ嬉しいだろう。一〇年後、同窓会をした時、全員がブタ箱にいて集まれないという事態になったならば、どんなに可笑しくて、どんなに救われるだろう。自分の罪深さに気づいているだけ、僕の方が幾らかましだとしたら、どんなに楽しくなるだろう。
西の空に一本の飛行機雲がどこまでも伸びている。茜色の空に沈む、大きくて優しい夕陽に、大好きな秋野さんの顔が重なってしまい、僕はゆっくりと首をたれて、力なく横に振った。
汚い僕にいつだって笑顔をくれる秋野さん。肩まで伸びたさらさらの黒髪から、気取らない、柔らかな匂いのする秋野さん。食パンのように白い足で飛んで跳ねて僕を悩ませる秋野さん。二月十四日生まれの水瓶座、身長一五七cm、体重三八・四Kg、好物はお寿司のサーモン、異性のタイプは好きになった人、の秋野さん。そんな素敵な秋野さんがブタ箱にいてくれたら嬉しいだなんて、もう本当に僕は人間じゃねえに決まっている。
いつからか僕はそれに気づいてしまった。僕はきっとこの星の人間ではないのだ。校庭の隅の陰気な兎小屋の床のように地面が固まった糞で形成されているような、惑星ヨシーダだとか、そんなろくでもない星の王子が本当の僕なのだろう。そこの人々は皆心が汚く、卑怯さと臆病さによって地位が決められる。僕はその中でもエリートでいたのだけれど、あまりの優秀さに妬まれ、罠にはめられてロケットで地球へ飛ばされた末に記憶をなくしてしまった悲劇の糞ったれなのだ。そうしてこうやって涙も流せない自分と美しい地球人との心の違いに苦みながら、毎日教室の窓際で空を見上げて迎えの船をまっている。
僕はもう秋野さんを好きでいる資格さえも、勝手に無くしてしまいそうだった―――
夕陽はさらに、ずんずんと山の端へ沈んで、僕の気持ちも同じように沈ませた。段々と寒くなりだした秋の風に、刃物屋はシャッターを降ろし、道行く人々は疲れた顔をして首をかばいながら歩いて行く。沈みきった僕に遠慮なく、恋人たちは自転車に二人乗りをして、幸せそうな顔で軽快に僕を追い越してゆく。爽秋の北風に挫けぬよう、ひしと身を寄せ合って愛の力を確かめ合っている。それが、憐れな者には古い活動写真のようにうっとりと映ってしまうのだ。そうして恋人たちは一〇〇m先の駅で止まり、男は彼女を降ろすと、人目もはばからず別れのキスをせがむ。彼女も初めは断っていたのだけれど、あまりにしつこいものだから、周りをきょろきょろと用心深く見まわしてから仕方なく一つくれてやった。三浦君は大満足と言った顔で自転車にまたがり、手を振りながら帰っていき、残された彼女は夕焼けに照らされた真っ赤な頬を更に真っ赤に染めて恥ずかしそうに、しかし満更でもない顔でしばらく俯いてから、いつもより多めのにこにこ顔で改札へと浮足で歩いて行った。ちょうど、五時の刻を告げる海のメロディが寂れた商店街に流れる中、僕は阿婆擦れ変態女、秋野未智の幸せそうな顔を消えるまで見ていた。
そうか、そうだ。秋野さんがブタ箱に入る事なんて、なんにも可笑しなことではなかったのだ。おかしいどころか、雌ブタビッチである肉便器秋野未智は正真正銘のブタ箱にすら入れてしまう。ソーセージになる価値もない、僕のようなどこまでも汚い雄ブタばかり集まるブタのブタ箱でブタの性欲処理係を時給二四〇円でやってもらおう。糞ブタ共が腰痛をもよおすほどの素敵な働きぶりにオーナーも大満足であろう。いやあ、何も、一つだって自分を嫌う必要はなかったのだ。やっぱり、皆も僕と同じように心の中は乱れ腐っていたのだ。ただ僕は少し真面目すぎたのだなあ。嗚呼万事解決、世界平和が訪れた!
そうして気分の良くなった僕が歩いて行くと、触覚のついたカチューシャをして、わざとらしい全身銀色タイツを履いた秋野未智が夕昏の路地にピロリロリンと佇んでいた。僕が銀色タイツの秋野に、君は秋野かと尋ねると、自分は未智ではなく未希という名前で、宇宙人だと返した。そして同時に、僕を迎えにきたのだと説明した。惑星ヨシーダではなかったけれど、やはり僕の本当の居場所は、太陽の裏に確かに存在しているらしいウユキチ星のポンジャ王国という処なのだと、彼女は簡単に教えてくれた。これから二人はその星へ行き、一緒に暮らすのだ。
「もうこの星には戻ってこられないけど、それでも良い?」
「うん、早くこんな星からは出て行こう」
僕と未希を乗せた銀色のマカロンのような宇宙船は夕陽に向かって真っすぐ飛び、ワープを繰り返して大宇宙へと飛び出した。真っ暗闇の中、眩しく輝いている悲しみの沈む場所、罪の塊、あの太陽の裏に僕の本当の居場所がある。次のワープエネルギーが貯まり、準備完了と言う風に緑のボタンがチキチキと点滅した。一面に散らばって片付かない星たちが二人の希望のように美しく見えて、僕達は顔を見合せて笑う。僕は彼女にキスをねだり、彼女はしかたなく一つくれた。
(嗚呼、そうだ、この、たった今暖かい処。ここにきっと、心というものがある)
―――そうだったら良いなと、僕は思った。夕陽のなかに彼女の宇宙船を捜そうと頑張るのだけれど、肝心の夕陽がぐにゃぐにゃと揺れるのでそれは難しかった。
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