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作品ID:259
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約7199文字 読了時間約4分 原稿用紙約9枚
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直属部隊員と人間プログラム。
作品紹介
本当は先日投稿する予定だった作品。
タイトルは、とっさな思いつき。
とある国の直属部隊員と戦場都市の人間プログラム。
それは既に決定付けられたもの。
これしか紹介がないです〈^^;
タイトルは、とっさな思いつき。
とある国の直属部隊員と戦場都市の人間プログラム。
それは既に決定付けられたもの。
これしか紹介がないです〈^^;
白黒のモノトーンのステッキを持った小さなシルクハットを被ったまだ10歳ぐらいの少女がブーツを履き、地面を踏みしめる。
小さく息を吐くと憂鬱な気分になるが、そんなこと考えてる暇などない。
会わなきゃいけない人物がいる。
いや、人物と言っていいのかわからない。
人の手で造られた人間プログラム。
名をポルティア・オヴ・ジャッジメントという。
20××年。もうすぐ冬という10月。クリスタルと呼ばれる魔法の結晶体が世界の中心エネルギーとして出回るようになって久しい。
そしてここメリアデソッドと呼ばれる国ではそのクリスタルの量産国となっている。
そのクリスタルの膨大な量を求め、対外からのクリスタルを狙ったテロも頻繁に起きる。
常に危険に晒されているメリアデソッド国民は、しかしクリスタルを扱う直属部隊によって護られている。
直属部隊隊員の募集が始まって約5年。
自分、ミルネ・フォークネスも直属部隊の一因となって同じ5年目。
そんな自分が国境での戦闘を終えて、やっと1週間の任務期間も終わって報告書を書くためにメリアデソッド直属部隊が集まるクリスタル関連の研究を行う40階建ての高層ビル、1階に行ったらいきなり女性部隊長から笑顔で次の任務を言い渡された。
休みはないんですか! と言ってみたが、笑顔でスルーされたためにこちらも引き受けた。
それに家に帰ってもどうせ訓練をするはめになる。
それならば任務について体を動かしてた方がいい。
……決してビルに留まれば溜まりに溜まった書類整理が終わってないから留まりたくないというわけではない。決して。絶対に。
そうして言い渡された任務は直属部隊募集してからずっと部隊に入っている自分にとっては楽な仕事だった。
――今すぐ戦場都市レーモベラリエールへ赴き、研究施設視察という名目で人間プログラムの研究成果を掴んでこい。
正直、部隊長に問い直そうかと思った。
てっきりまた戦闘にかりだされるのかと思えば……。
人間プログラムの研究成果? そんなの既に入手してるはずだろう。
それに戦場都市には人間プログラムを造るだけの研究施設はなかったはずだが……。
しかし、引き受けてしまったものは断るわけにはいかない。
よって、自分・・ミルネ・フォークネスのレーモベラリエールでの出会いは決定付けられた。
戦場都市レーモベラリエールはメリアデソッドと比較的メリアデソッドと交流と外交関係は良いコゥフェントという国との国境にある都市である。
この都市の安全性を図ってメリアデソッドとコゥフェントの外交関係は保たれてると言ってもいい。
しかしのどかな都会とはかけ離れた都市が何故、戦場都市と呼ばれるに至ったのか。
それは一人の少年が暴走して都市を壊滅状態にまで追いやったことからついた。
〈えーと。研究施設、研究施設は〉
ミルネはモノトーンステッキをアスファルトで鳴らして、腕組をする。
〈見つけた。研究施設〉
レーモベラリエール中心地から少し離れた、どちらかというとまだメリアデソッド寄りのところにその研究施設は建っていた。
「ここにあの人間プログラムが……」
人間プログラム。生きながらにして実験台にされて実験の成功者となった人間。
肉体機能を低下させ頭脳を鍛え上げた人間は既に人間ではないというが。
それにこの研究施設に居る人間プログラムは確か妹も居たはずだ。
だが大体の人間プログラムは人間としての感情も失い、肉親すらも肉親として扱わない。
しかし。
それがこの研究施設に置いている人間プログラムに当てはまるかどうか。
人間プログラム、ポルティア・オヴ・ジャッジメントに当てはまるか。
重たい鉄製の扉を手動で開けて、入る。
中は白熱電球の明かりで薄暗かった。
〈何だ?〉
ミルネが入ると何らかのセンサーがミルネを捉えたのだろう。
一気に研究施設内が明るくなる。
〈あれか〉
ミルネは天井の角に視線を動かす。
自分も実験台にされたため、その突然変異により眼球が常に赤く染まっている。
その赤い双眸が小型のセンサーを映す。
〈まぁ、攻撃型じゃなくって良かったか〉
溜息をついて、持ってきた書類を抱え直してブーツを鳴らし歩く。
あのセンサーが攻撃タイプであれば両足に装着したホルダーからすぐさま剣を取り出し攻撃態勢に入ったが、攻撃タイプのセンサーじゃなくて良いことに変わりはない。
「早く、こんな任務終わらせて寝たい……」
眠気で落ちてくる、まぶたを強引に開き瞬きを数回繰り返す。
寝たい。とにかく寝たい。ふっかふかのベッドで寝たい。クッションが効いたベッドで寝たい。
〈えーと研究員は?〉
研究施設だから研究員の一人でも居るだろう、と捜すが研究員の姿はどこにもない。
1階しかない研究施設を歩いていくうちに、不審な点を見つけた。
〈……地下か〉
1階、北ブロックのひんやりと冷たい場所にソレはあった。
かなり旧い階段。それは下に続いていた。
赤い両目を細めて、剣に手を伸ばす。
裾が長いコートが地下から入る風でわずかに揺れる。
〈まさか、人間プログラムも下か?〉
エナメルブーツのベルトを締め直し、気合を入れなおす。
〈人間プログラムが、攻撃しないとは限らない〉
注意しながらも旧い階段を下りていく。
辿り着いたのは広い空洞だった。
何も置いていない灰色のコンクリートの空間には何もなく電気の類が一切ないこの地下での暗闇に目が慣れてくるとまっすぐ進んだ突き当たりにパスワード式の扉があった。
〈……やけに頑丈だな。あの向こうに人間プログラムがあるのか?〉
いつどこに敵が存在するかも分からない、この場所で声を出すわけにもいかない。
精神を研ぎ澄ましたミルネは扉へと近づいて、やめた。
〈アタシ、知らないじゃん。パスワード〉
しかしパスワードがないと開けられない。周りにはパスワードが書いてあるような紙はないしあったらあったでそれは研究施設としてどうかとも思う。
研究施設は常に機密保持に力を入れないと、いつ情報が漏れるか分からない。
〈いや、適当にっていうわけにもいかないかぁ……〉
目にあわせた赤色の髪を掻く。
適当に打って扉が開かなくなったらどうするか? こういった研究施設のパスワード付の扉には特定回数、パスワードを間違えると数時間か数日開かなくなったり、もしくは侵入者用の装置等が起動して攻撃を加える可能性もある。
〈考えられるだけのパスワードを〉
パスワード。考えられるだけ考えろ。
〈可能性としては、ポルティア・オヴ・ジャッジメントか……ん?〉
よくパスワードを打つためのぼんやりと光で浮かびあがっているパネルを見るとアルファベット形式になっている。パスワードっていうものだからてっきり数字かと思ったんだが。
〈ってことはPOJ、ポルティア・オヴ・ジャッジメントの頭文字か?〉
試しに打ってみた。
『パスワード……』
「ま、まさか」
『パスワード、認証……了・…解放・・します』
「あたっちゃった?」
小声で驚きを声にする。
機械が声を発して扉が開く。しかしかなり古い機械なのか、途切れ途切れに音声を発するのみ。
「い、行くしかないか……」
まさか本当にあのパスワードで開くとは思っていなかったため、緊張感が緩んでしまった。
パスワード付の扉を開け、歩いていくと先ほどと変わらない灰色の空洞があるだけだった。
ちょうど、部屋の中央に位置する地点にソイツが居た事だけが変化していた部分だった。
〈あいつが人間プログラムか……?〉
デスクチェアに座ってデスクの上に置かれたパソコンと向かいあっている蒼髪の少年が居た。
暗闇に慣れてしまった両目では少年とパソコンに太いコードがひいてあった。
〈間違いない。パソコンにUSBが差し込んであるということは人間プログラムの知識もしくはデータをパソコンにおとしてUSBに入れてるということか〉
少年はミルネに気づく素振りもせず、ただパソコンのキーボードとマウスを操作するだけ。
ミルネは溜息をついて、少年に近づく。
だがそれは叶わない。
〈障壁……バリアみたいなものか〉
苦笑して、さすがに人間プログラム自体の保管は厳重にしてあるみたいだ、と今更理解した。
少年とデスクを丸く囲む障壁は、電流を流していた。
少年に触れようとしたとき、ミルネの差し出した右手に電流が奔った。
接触を諦めて、ミルネは少年に声をかける。
「アンタが人間プログラム、ポルティア・オヴ・ジャッジメントさん?」
『……』
「ちょっと、聞いてますかー?」
『……』
少年は黙ったまま。
それにキレたミルネが、ステッキを床に叩きつけて、少年の操作しているパソコンを覗き込む。
「り、リルディア・オヴ・ジャッジメント?」
ミルネが見たパソコンはチャット画面だった。
そこには少年の名を示すアイコンともう一つ――。
記憶が確かであれば、その名は少年の妹の名だったはずだ。
人間プログラムとして人間の肉体機能を低下させ頭脳を鍛え上げた。
その過程で何度も此処の研究者たちに実験を繰り返されたはず。
それゆえに今までの人間プログラムは人間プログラムとして研究成果を残した事実上の実験の成功者として生きていても、人間の感情はなくなっていた。
だがこの少年は……。
幼くして両親を事故で亡くし、唯一の肉親である妹をまだ覚えていた。
まだ、妹のことを愛していた。
しかし人間プログラムとして完成してしまった少年は、妹と会うことさえ許されなかったのだろう。
人間と触れあってしまえば、忘れたはずの感情が思い出されるから。
それでも少年はパソコンという媒体で妹と出会っていた。
ミルネは、そのことに恐怖さえ覚えた。
今までの人間プログラムは人間の感情を忘れて、肉親すら殺すような奴らばかりだった。
でもこの少年は違った。その事実がミルネを困惑させた。
元々、ミルネにはもう一つ命令が下されていた。
〈もしも、人間プログラムが今までどおりの奴ならば殺せ〉
あのとき部隊長から下された命令。
それを今のミルネは遂行できない。
彼は、目の前に居る人間プログラムは決して今までの人間プログラムではない。
彼を殺す事はできない。
目を細めていまだパソコンを操作する少年に笑みを贈り、背を向けて去ろうとして。
「どうした?」
少年にとめられた。
「リル、どこに居る?」
黒い両目にまっすぐに見つめられ、一瞬言葉に困る。
「リル?」
「……俺の妹……」
「あぁ、リルディア・オヴ・ジャッジメントか」
彼の妹であるリルディア・オヴ・ジャッジメントとは人間プログラムとして他の人の手で造られた兄を支え続けた。
そして彼女はミルネも所属する直属部隊に入っている。
「彼女なら、きっと……私を送り込んだ理由も知ってるはずだ」
「理由?」
「あぁ。リルディアと同期で、結構話もしていたから……」
「……なんでお前が此処にきた? 今更、成功者にすがりつくようなことでもあったのか?」
「いや。人間プログラム、貴様の研究成果をもってこいと部隊長に言われたんで」
「……」
「心当たりでも?」
「いや、ずっとデータを送るのを忘れていた。といってもそんな大したデータはないが」
「確かに最近は貴様たち、人間プログラムが駆りだされるような大きな戦闘はない」
「それに、ずっとパソコンをチャットに使ってたから……」
「データ、ないんなら別に……っ!」
ミルネは目で追えるスピードギリギリで向かってきた何かからポルティアとともに身を遠ざける。
その何かにデスク一式とパソコンが粉々になっていた。
「大丈夫か?」
ミルネはステッキを引っ掴み、ポルティアの状態を確認する。
「……」
無言のポルティアにミルネは首を傾げる。
「なぜ、なぜすぐに俺を破棄しなかった……!」
恨みと憎悪が篭った黒い両目がミルネを串刺しにする。
炎を纏った何かが空けた空洞は上まで一直線に続いていた。
天井も何もかも破壊したソレは、上から放たれたものだとはじめて気づいた。
そして。
ソレに見覚えがあったミルネは、本日二度目の恐怖を覚えた。
「プログラムとしての価値を見直した」
真っ黒な布で顔をグルグル巻きにして、目しか見えていない人物にミルネの記憶は遡る。
〈ターゲッツ・クリスタル始動〉
心中で冷静に決断をするミルネと表では慌てているミルネの2人が居て。
どこかですでに諦めたミルネも居て。
横に居るポルティアが憎悪に燃えた真っ黒な両目を見開いていて。
ただ、ミルネはクリスタルを始動するしか現れた人物には勝てないとそう思った。
「カーキ・ヴィヴィッド・クリスタル始動」
カーキとヴィヴィッドの混沌がミルネから渦を巻いてグルグル巻きにした人物に向かっていく。
そしてその人物の真っ黒な布が剥がれ落ちて。
ミルネは5歳の頃から入った直属部隊を恨んだ。
〈こんなときに、泣く事はできない。それまでそんな環境に居なかったから〉
それでもミルネは金色に近い髪で現実から目を逸らす。
「アタシは、今まで誰よりも自分らしくと、貴女に近づきたいと願っていた……」
ミルネは震えながらも言葉を紡ぐ。
人物はまだ何も言わない。
「ですがそれすらも無駄だったというのですか……」
人物の顔に巻かれたグルグル巻きの布が風に吹かれる。
見上げて喋り続けるミルネをどこか冷静に見下ろしていた人物は嘗て戦女神とまで崇められた女性だ。
いや。今も崇められている。戦女神、そう呼ばれ続けている。
「お答えください、今この答えを、今こそこの答えをください!」
金色の髪を振り回し、ミルネは悲しみを浮かべた赤い双眸で人物を見上げる。
「答えてください、レオナルド・フォースフェイス!!」
言いようがない悲しみによってミルネも想像できないほど言葉は紡がれていく。
「何で貴女が此処に居るんですか、レオナルド!」
いつのまにか。
ミルネが忘れていたと思っていた涙が溢れ出していた。
人物、戦女神とも崇められるレオナルド・フォースフェイスはミルネから目をはなし、ポルティアに目を向ける。
「ポルティア・オヴ・ジャッジメント。人間プログラムでありながら、人間としての感情を覚えたままのいわば不完全体ともいえる成功者」
無感情な声が響く。
レオナルドはクリスタルを埋め込んだロッドを取り出した。
シルバーのロッドはポルティアに向けられた。
「感情を覚えたままの不完全体のプログラムなど要らん」
ロッドがシルバーの輝きを纏う。日差しの影響も受けてさらに輝きが増す。
ロッドに装着された青色のクリスタルがポルティアに向かって始動される。
クリスタルというのはプログラムの一種である。
ゆえにポルティア・オヴ・ジャッジメントという戦闘経験もなく元々の肉体機能が低下している彼がそのクリスタルの攻撃を止めたのは、ミルネもレオナルドも予想外だった。
「ポルティア。ほら。リルディアが待ってる」
「わ、分かってるよ。お前に言われなくたって。リルディアを呼んだのは俺だ」
「ふん。心の奥底ではびびってるくせに」
鼻で笑うミルネにイラついたポルティアがもう一度気を入れなおして、リルディアが待つエントランスに向かう。
「ポルティア・オヴ・ジャッジメント、リルディア・オヴ・ジャッジメント、かぁ」
いい兄妹だと思う。
あの戦場都市レーモベラリエールでの戦女神レオナルド・フォースフェイスによる攻撃とそれを止めたのがポルティア。
「それからリルディアは……兄をどう受け止めたのかな?」
ミルネはアスファルトで覆われたメリアデソッド中心街へと足を踏み入れた。
そこでは、ポルティアとリルディアが仲良く歩いている様子があった。
「きっとプログラム対プログラムの攻撃だったからこそ、ポルティアが受けた攻撃だからこそ、彼しかとめれなかったのかもしれないな」
あの攻撃を止めたのは人間プログラムであるポルティアだった。
そして攻撃はプログラムの一種であるクリスタル。
プログラムの相殺が起きて、そこは大爆発した。
しかし直属部隊で訓練を受けたためか。
無意識に体がガード用のクリスタルを始動させていた。
〈いや。あるいは〉
ミルネは首を振って、兄妹から目を逸らす。
〈もしかしたら、妹思いの兄がアタシも護ってくれたのか……も?〉
苦笑して、ミルネはステッキを鳴らして歩いていく。
プログラムとして、しかし人間の感情を忘れなかった妹思いの兄と兄を信じ続け、兄との連絡を欠かさなかった妹の後姿は、ミルネが見る限りとても楽しそうだった。
〈それでいい。それこそが兄妹のあるべき存在かもしれないな〉
小さく息を吐くと憂鬱な気分になるが、そんなこと考えてる暇などない。
会わなきゃいけない人物がいる。
いや、人物と言っていいのかわからない。
人の手で造られた人間プログラム。
名をポルティア・オヴ・ジャッジメントという。
20××年。もうすぐ冬という10月。クリスタルと呼ばれる魔法の結晶体が世界の中心エネルギーとして出回るようになって久しい。
そしてここメリアデソッドと呼ばれる国ではそのクリスタルの量産国となっている。
そのクリスタルの膨大な量を求め、対外からのクリスタルを狙ったテロも頻繁に起きる。
常に危険に晒されているメリアデソッド国民は、しかしクリスタルを扱う直属部隊によって護られている。
直属部隊隊員の募集が始まって約5年。
自分、ミルネ・フォークネスも直属部隊の一因となって同じ5年目。
そんな自分が国境での戦闘を終えて、やっと1週間の任務期間も終わって報告書を書くためにメリアデソッド直属部隊が集まるクリスタル関連の研究を行う40階建ての高層ビル、1階に行ったらいきなり女性部隊長から笑顔で次の任務を言い渡された。
休みはないんですか! と言ってみたが、笑顔でスルーされたためにこちらも引き受けた。
それに家に帰ってもどうせ訓練をするはめになる。
それならば任務について体を動かしてた方がいい。
……決してビルに留まれば溜まりに溜まった書類整理が終わってないから留まりたくないというわけではない。決して。絶対に。
そうして言い渡された任務は直属部隊募集してからずっと部隊に入っている自分にとっては楽な仕事だった。
――今すぐ戦場都市レーモベラリエールへ赴き、研究施設視察という名目で人間プログラムの研究成果を掴んでこい。
正直、部隊長に問い直そうかと思った。
てっきりまた戦闘にかりだされるのかと思えば……。
人間プログラムの研究成果? そんなの既に入手してるはずだろう。
それに戦場都市には人間プログラムを造るだけの研究施設はなかったはずだが……。
しかし、引き受けてしまったものは断るわけにはいかない。
よって、自分・・ミルネ・フォークネスのレーモベラリエールでの出会いは決定付けられた。
戦場都市レーモベラリエールはメリアデソッドと比較的メリアデソッドと交流と外交関係は良いコゥフェントという国との国境にある都市である。
この都市の安全性を図ってメリアデソッドとコゥフェントの外交関係は保たれてると言ってもいい。
しかしのどかな都会とはかけ離れた都市が何故、戦場都市と呼ばれるに至ったのか。
それは一人の少年が暴走して都市を壊滅状態にまで追いやったことからついた。
〈えーと。研究施設、研究施設は〉
ミルネはモノトーンステッキをアスファルトで鳴らして、腕組をする。
〈見つけた。研究施設〉
レーモベラリエール中心地から少し離れた、どちらかというとまだメリアデソッド寄りのところにその研究施設は建っていた。
「ここにあの人間プログラムが……」
人間プログラム。生きながらにして実験台にされて実験の成功者となった人間。
肉体機能を低下させ頭脳を鍛え上げた人間は既に人間ではないというが。
それにこの研究施設に居る人間プログラムは確か妹も居たはずだ。
だが大体の人間プログラムは人間としての感情も失い、肉親すらも肉親として扱わない。
しかし。
それがこの研究施設に置いている人間プログラムに当てはまるかどうか。
人間プログラム、ポルティア・オヴ・ジャッジメントに当てはまるか。
重たい鉄製の扉を手動で開けて、入る。
中は白熱電球の明かりで薄暗かった。
〈何だ?〉
ミルネが入ると何らかのセンサーがミルネを捉えたのだろう。
一気に研究施設内が明るくなる。
〈あれか〉
ミルネは天井の角に視線を動かす。
自分も実験台にされたため、その突然変異により眼球が常に赤く染まっている。
その赤い双眸が小型のセンサーを映す。
〈まぁ、攻撃型じゃなくって良かったか〉
溜息をついて、持ってきた書類を抱え直してブーツを鳴らし歩く。
あのセンサーが攻撃タイプであれば両足に装着したホルダーからすぐさま剣を取り出し攻撃態勢に入ったが、攻撃タイプのセンサーじゃなくて良いことに変わりはない。
「早く、こんな任務終わらせて寝たい……」
眠気で落ちてくる、まぶたを強引に開き瞬きを数回繰り返す。
寝たい。とにかく寝たい。ふっかふかのベッドで寝たい。クッションが効いたベッドで寝たい。
〈えーと研究員は?〉
研究施設だから研究員の一人でも居るだろう、と捜すが研究員の姿はどこにもない。
1階しかない研究施設を歩いていくうちに、不審な点を見つけた。
〈……地下か〉
1階、北ブロックのひんやりと冷たい場所にソレはあった。
かなり旧い階段。それは下に続いていた。
赤い両目を細めて、剣に手を伸ばす。
裾が長いコートが地下から入る風でわずかに揺れる。
〈まさか、人間プログラムも下か?〉
エナメルブーツのベルトを締め直し、気合を入れなおす。
〈人間プログラムが、攻撃しないとは限らない〉
注意しながらも旧い階段を下りていく。
辿り着いたのは広い空洞だった。
何も置いていない灰色のコンクリートの空間には何もなく電気の類が一切ないこの地下での暗闇に目が慣れてくるとまっすぐ進んだ突き当たりにパスワード式の扉があった。
〈……やけに頑丈だな。あの向こうに人間プログラムがあるのか?〉
いつどこに敵が存在するかも分からない、この場所で声を出すわけにもいかない。
精神を研ぎ澄ましたミルネは扉へと近づいて、やめた。
〈アタシ、知らないじゃん。パスワード〉
しかしパスワードがないと開けられない。周りにはパスワードが書いてあるような紙はないしあったらあったでそれは研究施設としてどうかとも思う。
研究施設は常に機密保持に力を入れないと、いつ情報が漏れるか分からない。
〈いや、適当にっていうわけにもいかないかぁ……〉
目にあわせた赤色の髪を掻く。
適当に打って扉が開かなくなったらどうするか? こういった研究施設のパスワード付の扉には特定回数、パスワードを間違えると数時間か数日開かなくなったり、もしくは侵入者用の装置等が起動して攻撃を加える可能性もある。
〈考えられるだけのパスワードを〉
パスワード。考えられるだけ考えろ。
〈可能性としては、ポルティア・オヴ・ジャッジメントか……ん?〉
よくパスワードを打つためのぼんやりと光で浮かびあがっているパネルを見るとアルファベット形式になっている。パスワードっていうものだからてっきり数字かと思ったんだが。
〈ってことはPOJ、ポルティア・オヴ・ジャッジメントの頭文字か?〉
試しに打ってみた。
『パスワード……』
「ま、まさか」
『パスワード、認証……了・…解放・・します』
「あたっちゃった?」
小声で驚きを声にする。
機械が声を発して扉が開く。しかしかなり古い機械なのか、途切れ途切れに音声を発するのみ。
「い、行くしかないか……」
まさか本当にあのパスワードで開くとは思っていなかったため、緊張感が緩んでしまった。
パスワード付の扉を開け、歩いていくと先ほどと変わらない灰色の空洞があるだけだった。
ちょうど、部屋の中央に位置する地点にソイツが居た事だけが変化していた部分だった。
〈あいつが人間プログラムか……?〉
デスクチェアに座ってデスクの上に置かれたパソコンと向かいあっている蒼髪の少年が居た。
暗闇に慣れてしまった両目では少年とパソコンに太いコードがひいてあった。
〈間違いない。パソコンにUSBが差し込んであるということは人間プログラムの知識もしくはデータをパソコンにおとしてUSBに入れてるということか〉
少年はミルネに気づく素振りもせず、ただパソコンのキーボードとマウスを操作するだけ。
ミルネは溜息をついて、少年に近づく。
だがそれは叶わない。
〈障壁……バリアみたいなものか〉
苦笑して、さすがに人間プログラム自体の保管は厳重にしてあるみたいだ、と今更理解した。
少年とデスクを丸く囲む障壁は、電流を流していた。
少年に触れようとしたとき、ミルネの差し出した右手に電流が奔った。
接触を諦めて、ミルネは少年に声をかける。
「アンタが人間プログラム、ポルティア・オヴ・ジャッジメントさん?」
『……』
「ちょっと、聞いてますかー?」
『……』
少年は黙ったまま。
それにキレたミルネが、ステッキを床に叩きつけて、少年の操作しているパソコンを覗き込む。
「り、リルディア・オヴ・ジャッジメント?」
ミルネが見たパソコンはチャット画面だった。
そこには少年の名を示すアイコンともう一つ――。
記憶が確かであれば、その名は少年の妹の名だったはずだ。
人間プログラムとして人間の肉体機能を低下させ頭脳を鍛え上げた。
その過程で何度も此処の研究者たちに実験を繰り返されたはず。
それゆえに今までの人間プログラムは人間プログラムとして研究成果を残した事実上の実験の成功者として生きていても、人間の感情はなくなっていた。
だがこの少年は……。
幼くして両親を事故で亡くし、唯一の肉親である妹をまだ覚えていた。
まだ、妹のことを愛していた。
しかし人間プログラムとして完成してしまった少年は、妹と会うことさえ許されなかったのだろう。
人間と触れあってしまえば、忘れたはずの感情が思い出されるから。
それでも少年はパソコンという媒体で妹と出会っていた。
ミルネは、そのことに恐怖さえ覚えた。
今までの人間プログラムは人間の感情を忘れて、肉親すら殺すような奴らばかりだった。
でもこの少年は違った。その事実がミルネを困惑させた。
元々、ミルネにはもう一つ命令が下されていた。
〈もしも、人間プログラムが今までどおりの奴ならば殺せ〉
あのとき部隊長から下された命令。
それを今のミルネは遂行できない。
彼は、目の前に居る人間プログラムは決して今までの人間プログラムではない。
彼を殺す事はできない。
目を細めていまだパソコンを操作する少年に笑みを贈り、背を向けて去ろうとして。
「どうした?」
少年にとめられた。
「リル、どこに居る?」
黒い両目にまっすぐに見つめられ、一瞬言葉に困る。
「リル?」
「……俺の妹……」
「あぁ、リルディア・オヴ・ジャッジメントか」
彼の妹であるリルディア・オヴ・ジャッジメントとは人間プログラムとして他の人の手で造られた兄を支え続けた。
そして彼女はミルネも所属する直属部隊に入っている。
「彼女なら、きっと……私を送り込んだ理由も知ってるはずだ」
「理由?」
「あぁ。リルディアと同期で、結構話もしていたから……」
「……なんでお前が此処にきた? 今更、成功者にすがりつくようなことでもあったのか?」
「いや。人間プログラム、貴様の研究成果をもってこいと部隊長に言われたんで」
「……」
「心当たりでも?」
「いや、ずっとデータを送るのを忘れていた。といってもそんな大したデータはないが」
「確かに最近は貴様たち、人間プログラムが駆りだされるような大きな戦闘はない」
「それに、ずっとパソコンをチャットに使ってたから……」
「データ、ないんなら別に……っ!」
ミルネは目で追えるスピードギリギリで向かってきた何かからポルティアとともに身を遠ざける。
その何かにデスク一式とパソコンが粉々になっていた。
「大丈夫か?」
ミルネはステッキを引っ掴み、ポルティアの状態を確認する。
「……」
無言のポルティアにミルネは首を傾げる。
「なぜ、なぜすぐに俺を破棄しなかった……!」
恨みと憎悪が篭った黒い両目がミルネを串刺しにする。
炎を纏った何かが空けた空洞は上まで一直線に続いていた。
天井も何もかも破壊したソレは、上から放たれたものだとはじめて気づいた。
そして。
ソレに見覚えがあったミルネは、本日二度目の恐怖を覚えた。
「プログラムとしての価値を見直した」
真っ黒な布で顔をグルグル巻きにして、目しか見えていない人物にミルネの記憶は遡る。
〈ターゲッツ・クリスタル始動〉
心中で冷静に決断をするミルネと表では慌てているミルネの2人が居て。
どこかですでに諦めたミルネも居て。
横に居るポルティアが憎悪に燃えた真っ黒な両目を見開いていて。
ただ、ミルネはクリスタルを始動するしか現れた人物には勝てないとそう思った。
「カーキ・ヴィヴィッド・クリスタル始動」
カーキとヴィヴィッドの混沌がミルネから渦を巻いてグルグル巻きにした人物に向かっていく。
そしてその人物の真っ黒な布が剥がれ落ちて。
ミルネは5歳の頃から入った直属部隊を恨んだ。
〈こんなときに、泣く事はできない。それまでそんな環境に居なかったから〉
それでもミルネは金色に近い髪で現実から目を逸らす。
「アタシは、今まで誰よりも自分らしくと、貴女に近づきたいと願っていた……」
ミルネは震えながらも言葉を紡ぐ。
人物はまだ何も言わない。
「ですがそれすらも無駄だったというのですか……」
人物の顔に巻かれたグルグル巻きの布が風に吹かれる。
見上げて喋り続けるミルネをどこか冷静に見下ろしていた人物は嘗て戦女神とまで崇められた女性だ。
いや。今も崇められている。戦女神、そう呼ばれ続けている。
「お答えください、今この答えを、今こそこの答えをください!」
金色の髪を振り回し、ミルネは悲しみを浮かべた赤い双眸で人物を見上げる。
「答えてください、レオナルド・フォースフェイス!!」
言いようがない悲しみによってミルネも想像できないほど言葉は紡がれていく。
「何で貴女が此処に居るんですか、レオナルド!」
いつのまにか。
ミルネが忘れていたと思っていた涙が溢れ出していた。
人物、戦女神とも崇められるレオナルド・フォースフェイスはミルネから目をはなし、ポルティアに目を向ける。
「ポルティア・オヴ・ジャッジメント。人間プログラムでありながら、人間としての感情を覚えたままのいわば不完全体ともいえる成功者」
無感情な声が響く。
レオナルドはクリスタルを埋め込んだロッドを取り出した。
シルバーのロッドはポルティアに向けられた。
「感情を覚えたままの不完全体のプログラムなど要らん」
ロッドがシルバーの輝きを纏う。日差しの影響も受けてさらに輝きが増す。
ロッドに装着された青色のクリスタルがポルティアに向かって始動される。
クリスタルというのはプログラムの一種である。
ゆえにポルティア・オヴ・ジャッジメントという戦闘経験もなく元々の肉体機能が低下している彼がそのクリスタルの攻撃を止めたのは、ミルネもレオナルドも予想外だった。
「ポルティア。ほら。リルディアが待ってる」
「わ、分かってるよ。お前に言われなくたって。リルディアを呼んだのは俺だ」
「ふん。心の奥底ではびびってるくせに」
鼻で笑うミルネにイラついたポルティアがもう一度気を入れなおして、リルディアが待つエントランスに向かう。
「ポルティア・オヴ・ジャッジメント、リルディア・オヴ・ジャッジメント、かぁ」
いい兄妹だと思う。
あの戦場都市レーモベラリエールでの戦女神レオナルド・フォースフェイスによる攻撃とそれを止めたのがポルティア。
「それからリルディアは……兄をどう受け止めたのかな?」
ミルネはアスファルトで覆われたメリアデソッド中心街へと足を踏み入れた。
そこでは、ポルティアとリルディアが仲良く歩いている様子があった。
「きっとプログラム対プログラムの攻撃だったからこそ、ポルティアが受けた攻撃だからこそ、彼しかとめれなかったのかもしれないな」
あの攻撃を止めたのは人間プログラムであるポルティアだった。
そして攻撃はプログラムの一種であるクリスタル。
プログラムの相殺が起きて、そこは大爆発した。
しかし直属部隊で訓練を受けたためか。
無意識に体がガード用のクリスタルを始動させていた。
〈いや。あるいは〉
ミルネは首を振って、兄妹から目を逸らす。
〈もしかしたら、妹思いの兄がアタシも護ってくれたのか……も?〉
苦笑して、ミルネはステッキを鳴らして歩いていく。
プログラムとして、しかし人間の感情を忘れなかった妹思いの兄と兄を信じ続け、兄との連絡を欠かさなかった妹の後姿は、ミルネが見る限りとても楽しそうだった。
〈それでいい。それこそが兄妹のあるべき存在かもしれないな〉
後書き
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