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作品ID:287
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2740文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚
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誰もいない
作品紹介
悪夢、鏡、反復、変貌、盲目的な安心。
なんとなく思い立って、短時間で書いたものです。
なんとなく思い立って、短時間で書いたものです。
反復されるリズム。
整合された升目の中で響き渡る規則性。
なのに、徐々に変貌していくメロディ。
地を這うような。
それでいて、空高く舞い上がるような。
火照った身体と冷めきった精神。
緊張と静穏。
絶叫と沈黙。
憎悪に潜む愛。
無機質な温もり。
喧騒の中の安心。
そんな混沌が僕の身体を支配している。それに自覚的になれたのはいつ頃だろうか。
これは成長だろうか? それとも退行だろうか?
夢の中で僕は誰かに追われていた。なぜ逃げなければならなかったのか、その必然性は判然としなかったが、捕まってはいけないという意識だけは屋根に垂れ下がる氷柱のようにはっきりとしていた。
息を切らしながら暗闇の中を小さな光に向かって走る。それが出口だとわかっていた。つまりは、夢から醒められる方法だということを僕は知っていた。
しかし、僕は一体、誰を恐がっているのだろうか。他者に恐怖したことなど一度も無い。それは確実。なのに、何故こんなにも必死で遠ざけようとしているのだろうか。
この不快感から、分類すればこれが悪夢であることは間違いないのだが、僕の不安を裏切って光は近づいてくる。やがて、その光に包まれると、僕の意識は一度途切れる。
そうして、僕は深夜に目覚めた。
カーテンが引かれた寝室の中は宇宙の果てのように暗く、温度という概念は大気中に飛散してとっくに消え果てている。僕のベッドの横には誰もいないし、もちろん僕を監視している者もいない。
軋むマットのご機嫌を取りながらゆっくり起き上がって、床に足を降ろす。フロアリング加工の床は、目覚めた僕をよそに眠ってしまったように冷たい。そこで初めて「冷たい」という感覚を思い出す。
妙な夢だった。身体の内側はひどく冷静だったが、それによってストレスという実害物質の存在が驚くほど鮮明に認識できる。それが原因で少し気分が悪かった。
木製の軽い扉を開けて、隣にある洗面所へと入る。室内はやはり凝縮された闇に覆われて暗かったが、蛇口の位置を僕は覚えている。それに触れて栓を捻ると、水が噴出する音が響いた。遅れて排水溝が吸い込む音もついてくる。
ひんやりと冷たいその水を顔に何度か当てる。急激な低温に僕の皮膚はびっくりして、軽い麻痺状態に陥る。やがて、その刺激は爽快という伝達に変わり、完全な覚醒に繋がっていくのだ。
僕はふと顔を上げる。
誰かの視線を感じた気がした。
小さな針でつつかれたような、何気ない、しかし鋭い印象を残す視線。
水を流したまま、僕はしばらく息を潜める。暗闇。きっと僕の目の前には鏡がある。そういう構造の洗面台だ。
いったい、誰が……。
気のせいではない。はっきりと感じた違和感がまだ残っている。
僕の心臓は思い出したように早鐘を打ち出す。闇に潜む何者かの存在。気味が悪い。気がつくと、僕の指先は震えていた。
耳を澄ますと聞こえるのは自分の鼓動と、水の流れる音、それに静寂に染みついた空気の微動だけ。でも、神経を集中させると他人の息遣いまで聞こえてしまいそうで僕は怖かった。
他者に恐怖したことなど一度も無い?
確かに、そうだったはずなのに、これはいったいどうしたことだろうか……。
もしかして、まだ夢の中なのだろうか。だとすると絶望だ。これから、酷いオチが待っているに違いない。
僕の手が、勝手にゆっくりと上がり。
洗面台に備えられた照明のスイッチに触れる。
僕は息を小さく吸い。
一度目を閉じる。
そして、恐怖を威圧し。
目を開く。
スイッチが音を立てて、入る。
広がる、乏しい光。安っぽい光。そう、これは安物の、切れかかった電球なのだと一瞬思い出す。
次には思考すら停止して。
僕は照らされた鏡を、そして、そこに映る顔を見た。
――女。
女が立っている。
青白い痩せた顔。
虚ろな目をこちらに向けて、僕を見つめている。
唇は鮮烈に赤く、まるで熟れた苺のよう。
人形のような不自然な美しさ。
僕の全身の細胞が、警告を発して震える。
あぁ、やはり、これは夢。
声を上げる為に口を開いたけど、緊張の為に音は出ない。
溢れ出てくる恐怖。
悲鳴。
そう、それのやり方を思い出す。
僕は、悲鳴を上げた。
そこで、また僕の意識が一度途切れた。
今度こそ、僕はベッドの上に戻ってきた。目をひん剥くように開けると、映るのはぼんやりとした天井。しばらく息を止めていたように思う。
傍には電源を入れっぱなしだったCDプレーヤーがあって、その鮮明な光が部屋の中に広がっている。とっくにディスクを再生し終わっていたようで、僕の指で電源を切られるのを静かに待っている。
僕はゆっくりと起き上がる。再開した呼吸は荒かった。寝間着の胸元にはじっとりと汗の感触があって、額に触れるとそちらにも濡れた感触があった。
なんという夢だろう……。
酷く気分が悪かった。僕の身体は平静を取り戻し始めて、乱れた内面の波長もゆっくり平衡を保ち始めているようだったが、しかし、嫌悪感と恐怖感だけは居座り続けていた。
目に見えない秩序がやがて空気に漂い始めて、僕は安心を実感する。ここは見慣れた自分の部屋だ。防護壁の最深部と言えるだろう。ベッドの隣には誰もいない。
あの女……。
なんて嫌味な夢だろう。
あの女は、僕だった。
僕?
僕だって?
誰だそれは……。
わたしは壊れたように、くすくす笑いだす。どうやら混乱している。可笑しいという感覚にヒビが入ってしまったようだ。
でも、夢の結末に、悪夢の果てに用意されたのが自分の顔だなんて。
こんな可笑しなことがあるだろうか。自虐的なのも考えものかもしれない。
まだ胸にしこりがあったものの、わたしはベッドの上ですっかり余裕を取り戻す。今は何時だろうか、と思ったが、その前にCDプレーヤーを操作して中のディスクを取りだした。近くに開いたままのケースがあって、それに収納しようとする。
何気なく、わたしは、ディスクの鏡面に映った自分の顔を見た。
暗闇の中、無機質な光に照らされた顔。
そこに映り込む、見知らぬ男の顔。
こちらを見下ろす黒い目。長い前髪。華奢な顎の輪郭。
反復される夢。
徐々に変貌していく現実。
鏡の中で、彼は凍りついたような薄ら笑いを浮かべていた。
後書き
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