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作品ID:290
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2626文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚
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閑古鳥の鳴く風景
作品紹介
風、日射し、檻、ロミオとジュリエット。
息抜き程度に、合間に書いたものです。短いです。
息抜き程度に、合間に書いたものです。短いです。
窓辺から入り込む風に涼んでいると、ふと、外にいる彼の気配に気がつく。
「まぁ……、非常識なお方!」
「声は弾んでおられますよ、マドモアゼル」
「弾みますとも。レディの寝室を覗く不届きな輩が目の前にいるんですもの!」
「それは失礼。どうかお許しください」 彼は控えめに頭を垂れる。
「あぁ……、ロミオ!」 わたしは抑えられなくなって、窓辺に駆け寄る。 「会いにきてくださって嬉しい!」
「僕も嬉しいです……、ジュリエット」 彼もこちらに顔を近づけて囁くように言う。
でも、その手が触れ合うことはない。
わたしは、窓の外へ手を差し伸ばすこともできない身。
「本当に、退屈で退屈で死にそうだったんです。今ではあなたの訪れだけが唯一の楽しみなんですから!」
「ええ、僕もです。あなたの麗しいお姿をこうして目に映すことだけが、今の僕の生き甲斐です」
「嘘ばっかり……、外はさぞ楽しいことに満ちているんでしょう?」
「いえいえ、そんな……、あなたのように美しいお方は外の世界にはおりません」
彼は微笑みながら首を振る。
その屈託の無い彼の笑窪が堪らなく愛おしい。
「お願い、ロミオ……、丁寧な物言いはやめましょう。ここには誰もいないから……」
「……わかった」 彼は頷いて、わたしを見つめる。 「好きだよ、ジュリエット」
「わたしも……、愛してる」
でも、ここからは出られない。
彼と触れ合うことは許されない。
「この檻さえなかったら……、今すぐ、わたしはあなたの胸に飛び込んでみせるのに」
「僕も、飛び込んできた君をこの腕で強く抱きしめたい」
わたしは少し哀しくなった。
自由な彼が羨ましくて、そして自分の境遇が恨めしかった。
わたしは彼と話す度に、決して抗えない二人の運命を呪いたくなる。
いつもいつも同じことを思う。
この身が自由だったら、なんと素晴らしいことだろう!
「わたしはあなたが羨ましい」 わたしの目から涙が零れた。泣き顔を見せられる相手は、彼だけだ。 「あなたの自由な翼が、空に羽ばたける大きな翼が欲しい」
「僕だって、君を閉じ込めるこの冷たいお城を打ち壊して、君を連れ出したいさ。でも、できない。非力な自分が情けないよ」
「いいえ、あなたは情けなくなんかないわ。こうしてわたしに会いに来てくれる。わたしはあなたに助けられてるのよ」
「違う。僕が望んでいるのは、君と一緒に外を巡る世界だ。僕はこうして君の姿を見て、何もできない自分をごまかしているだけだ」
「やめて、ロミオ……」 わたしは嘆息をつく。
「あぁ、やめる」 彼も哀しそうに頷く。
しばらく、沈黙した。
外は白い陽射しが地面を照らして、きっと暑い。
風が穏やかに流れて、遠くの茂みのざわめきが心地よい調べだった。
その中で、誰かの声が響いているのに気付いた。
「あの声は?」
「あれは、閑古鳥の鳴き声だよ」
「閑古鳥? 鳥なの? 随分、変な鳴き方ね」
「あぁ、カッコウ、カッコウってね。うるさい連中だよ」
「どんな姿をしているの?」
「姿か……、うーん」 彼は首を捻る。 「どう言えばいいのかな……、なんだか、陰気臭い奴らだよ」
「変なの」 わたしは可笑しくて笑った。頬に流れていた涙を拭った。
「そう、変なんだよ、すごく」 彼も安堵したように微笑む。
「わたし、見たいわ。外の世界を」
「見せてあげたい」
「あぁ、ロミオ、ロミオ……、どうしてあなたは檻の外にいるの?」
「ジュリエット……、どうして君は檻の中にいるんだい?」
わたし達の間にはまた沈黙。
互いの目を見つめ合い、終わらない静寂に身を委ね続ける。
「あなたと一緒に自由に飛び回りたい」
「僕もさ、ジュリエット。君を連れて羽ばたきたい」
「この城を、この檻を、壊して、ロミオ」
「いや……、僕にはできない。どうしてもできないんだ」
「なぜなの?」
「もし、この檻を壊せたとしても、結局、僕は君と一緒になれないから……、その事実を突き付けられるのが最も怖いんだ」
「どうして? どうして、一緒になれないの?」
でも、わたしは答えを知っていた。
わたしと彼は違う部族の者同士。
散々躊躇した後に、彼は口を開いた。
「だって、君はカナリヤじゃないか」
「あなたは、セキレイね?」
「そうだ」
「そんなの、関係無いわ……、わたしを愛してるって言葉は嘘だったの?」
「それは違う。君への愛は神に誓って本物だ」
「ありがとう……、わたしもあなたのことを愛してる」
「ジュリエット……」
「ロミオ……」
「なに独りでぶつぶつ言ってるの?」
隣に座る彼女が怪訝な顔つきでこちらを覗いた。
僕の目線はバス停の先、道路を挟んだ向かい側に立つ古びた骨董屋の店頭。その歪みかけた軒下に吊るされた鳥籠の中にあるカナリヤの剥製と、それに寄り添うようにして吊るされた枝木に留まるセキレイの剥製を見つめていた。二羽は互いを見つめるようにしたまま、当然のことだが動かない。
気温は三十度を既に超えていて、いよいよ夏本番の案配だ。風はまだほんの少しだけ涼やかで、陽射しに焼かれた路面の熱を吸収する前の状態。照らされた白いコンクリートの逆光が眩しかった。
「ねぇってば!」 彼女はバス停の屋根の下、掴んだ僕の腕を無邪気に振る。
「練習だよ」 仕方なく僕は答える。
「何の?」
「小説を書く練習」
「んー?」
「頭の中で、だよ」 僕は微笑む。
ふぅん、と彼女は興味を無くしたかのようにそっぽを向く。
「あ、バス来たよ!」 彼女は途端に笑顔になる。
彼女の言葉通り、重たげな車体の市営バスが路線からはみ出て、専用のスペースに滑り込んでくる。僕達はベンチから立ち上がって、アナウンスを聞き流しながら乗り込んだ。
車内は冷房が効いていて涼しい。彼女が着ているワンピースではきっと数分後に寒くなってしまうだろう。
僕達は最後尾に近い座席を選ぶ。僕は窓際の方に座って、向かい側の骨董屋を眺めたが、しかし角度が悪く、もうロミオとジュリエットの二人は見えなかった。
後書き
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