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作品ID:335

こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約4762文字 読了時間約3分 原稿用紙約6枚


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小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし /

アキラ

作品紹介

失恋、雨、自殺、妄想、異常者。







勢いです。短いです。


 しきりに窓を伝う雨の雫を、ぼんやりと膝を抱えて眺める。

 街はほとんど日が落ちて、厚い雨雲もあってか、灰色に薄暗い。不吉な色だった。

 照明を落としたわたしの部屋の壁には、今はもういないアキラの肖像画が掛かっている。わたしが彼を座らせて描いたものだった。アキラは照れ臭そうに笑っていた。

 そう、アキラはもういない。

 彼は死んでしまった。

 あの娘を守る為に……。

 

 どうして?

 どうして、死ぬ必要があったの?

 わたしは幼いころから、アキラを知っている。

 彼は優しかった。

 心の底から誰かの為を思える、優しい人だった。

 笑顔が眩しくて、昔から背が高くて、かっこよくて。

 誰よりも優しい男の子だった。

 だから、死んでしまったの?

 優しいから?

 アキラみたいな優しい男の子が、簡単に死んでいいの?

 彼が死ぬなんて……。



 わたしは窓辺から立ち、落ち着かず、今度はベッドの上に腰を下ろす。

 雨の音が部屋の中に木霊している。

 強くなったり、弱くなったり。

 ざぁざぁと、ぱらぱらと。

 膝の上に両手を置き、しばらく俯いていると、もう枯れたと思っていた涙が滲んだ。

 それが、雨樋を伝う雫のように目頭に流れて、わたしの手の甲に降る。



「俺はあいつを守りたいんだ」



 そう言って、アキラはあっけなく死んでしまった。

 わたしの本当の気持ちになんか気付かないまま。

 もう永遠に会えない。

 もう永遠に伝わらない。

 あぁ……、どうして……。

 幼い時からずっと傍にいたのに。

 どうして、わたしは言えなかったのだろう?

 否、言えないに決まっている。

 アキラはずっと前から、あの娘のことが好きだったから。

 わたしも、いつからかそれに気付いて。

 後ろ手を組んで佇みながら、爪先で地面を蹴って。

 ちょっと恨めしく思いながら、見て見ぬふりしてたんだもんね。

 当然かな。

 あの娘はわたしと違って素直だから。

 わたしもあの娘、羨ましいって思うわ。



 でも。

 でも、死んじゃうなんて、誰が予想できたの?

 こんなのって……、あんまりじゃない!



 少し寒かったので、シーツを引っ張って頭から被った。

 絶え間ない雨音に耳を傾けながら、わたしは昔を回想する。

 時々、どこかで車のクラクション。

 そう、わたしがここでこうしていたって、世界は当たり前に進行している。

 死んだアキラを残したまま。



 昔、アキラをこの部屋に招いたことがある。

 まだ本当に、わたし達が子供だった時。

 アキラは物珍しそうに部屋の中を見回していた。

「女の子の部屋って、俺、初めて入ったよ」

 彼は屈託の無い笑顔を向けて言った。

 そう、ちょっぴりだけ、あの娘からアキラを独占できた気がして、わたしは意地悪な優越感に浸っていた。

 誰かに見せつけたいと思って、近所に住むユーコも呼んだ。

 ユーコはすぐにやって来て、二階にあるわたしの部屋まで上がると、驚いたように立ち尽くした。

「今日はね、アキラ君が来てるの」

 わたしは得意げに紹介した。

「こんにちわ」

 アキラも人懐っこい笑みを浮かべて、ユーコに挨拶した。

 ユーコは絶句したまま、少しだけ頬を引き攣らせ、肩を竦めた。

 あの頃が懐かしいな……。



 わたしは目許の涙を拭う。

 せめて、気付いてほしかった。

 こんなに好きだったっていうこと……。

 今も忘れられないんだよ?

 そりゃあ……、あの娘だって、わたしから見ても、すごい良い娘だと思うわ。

 でも、わたしはずっとあなたの傍にいたのよ。

 一緒に笑い合ったり。

 泣いたり。

 時々、喧嘩したかもしれないけど。

 あの日々が。

 なんでもない友達同士としての日々すらが、今ではとっても眩しいの。



 胸が苦しい。

 堪らない。

 誰か、助けて。

「アキラ……」

 わたしの口から、彼の名前が滑り出す。

 息苦しさに似た窒息感。

 愛する対象が消えてしまった者に残された道は何だろう?

 この苦しさを引き摺って生きることだろうか?

 きっと、そうなのだろう。

 わたしは声を上げて、泣いていた。

 子供のように。

 独り。

 暗い部屋で。

 あの娘も、わたしと同じ気持ちなんだろう。

 いえ、きっと、わたしよりも辛いに決まってる。

 それでも、あの娘は前を向いて生き続けるだろう。

 だって、アキラが救ってくれた命だもの。

 アキラにとってのヒロインは、あの娘だけだもんね。



 アキラが死んだ時。

 わたしやあの娘だけじゃない、皆、哀しんでた。

 ユーコだって、寂しそうにしていた。

 皆、彼のことが好きだったのだ。

 それが、今ではわかる。

 わたし、馬鹿みたい……。

 でも、今も抱き続けている想いに嘘はない。

 今でも、わたしはアキラを愛している。

 胸が張り裂けそうなくらい、苦しんで、彼を愛している。



 愛する人がいなくなった者に残された道は……。

 たぶん、あの娘のように生きることなんだよね。

 でも……。

 もう、疲れちゃった。

 わたし、あなたのいない世界になんて、興味無いわ。

 だから……。

 あなたは怒るかもしれないけど。

 こんなわたしを、許して。

 もう無理だよ。

 あなたを忘れて生きることのほうが、よっぽど辛いんだから。



 だから、わたしはテーブルに置かれた大量の錠剤を飲んだ。

 睡眠薬だった。

 致死量は飲んだはず。

 死ぬってどんな気持ちなんだろう?

 わたしは、ぼんやりと、シーツを被ったまま目を閉じる。

 いつの間にか体はベッドに倒れていた。

 気が遠くなっていく。

 独りで。

 涙を残したまま。

 暗い部屋の中。

 雨音が続いている。

 死ぬ時って……、やっぱり怖いのかな?

 でも……、きっと向こうにはアキラがいる。

 だから、たぶん、怖くはない。



 ただ、少し、寂しいだけ。

 何か、大事な事を忘れていた気もするんだけど……。

  

 あぁ、眠い。

 泣き疲れちゃった。

 もう、誰もわたしを起こさないんだろう。

 いいけどさ。

 早く……。

 会いたいなぁ……。

 あなたに……。

 そう、そしたら。

 今度こそ、あなたに……。

 伝え……。



 ――――。











 優子は高校からの帰りに警察から事情聴取を受けていた。

 冷たい雨の降る日の事で、もう辺りはすっかり闇に包まれていた。その暗闇に沈んだ住宅街を街灯とパトカーの回転するランプが照らしている。

 幼馴染の夏美が自殺を図った。未遂に終わったものの、搬送された病院ではまだ目を覚まさないらしい。

「何か動機に心当たりはありませんか?」 刑事が手帳を片手に尋ねる。

「さぁ……」 優子は首を傾げて答える。 「最近、全く会ってなかったし……」

 夏美は去年から自室に引き籠ったきり、外を出歩かなくなってしまったのだった。彼女の両親が手を尽くしたものの、外界との接触を拒み、とうとう学校も留年する羽目になってしまったのだ。会えるはずがない。

 彼女が引き籠っていたという情報は刑事達も認識していたようで、その引き籠りの理由を気にしているようだった。事実、夏美の周囲の人間、彼女の両親すらも引き籠った理由を知らなかったのだった。

「でも、学校でいじめられていたわけでもないんでしょう?」 刑事はくどい口調で訊いた。

 優子は頷きながらも、表情を少しだけ崩した。

「それはそうなんですが……、ただ、あいつね、なんというか……、思い込みの激しい娘で」 優子は言葉を選びながら話す。

「というと?」 刑事が片眉を吊り上げる。

「その、去年ですね、アキラが死んだんです」

「アキラ?」 刑事はますます解せない顔だ。そして、少し目線を宙に漂わせ、「あぁ、そうか、あのアキラですか」と得心がいったように頷いた。

 きっと、同じような奴がいるんだな、と優子は察した。

「それからですね、あいつが引き籠り始めたのは……」 優子は苦笑いを浮かべて言った。





 事情聴取は結局、十分ほどで終わった。

 夏美の家の近所に住むあたしは、すぐに自室に帰ることができた。

 部活用のスポーツバッグを適当に放り投げ、ベッドに寝転んで一息つく。



 そうか……、あいつ、とうとう自殺にまで……。



 幼馴染で、なおかつ同じ高校に通っているものの、夏美が引き籠って以来、あたし達はまったく出会わなかった。

 一年半くらいか?

 もっと経つか……、アキラが死んでからだもんなぁ。

 夏美は、アキラのことが大好きだった。

 叶うはずがないのに、恋心まで抱いていた。

 そりゃ、あたしもまぁ、嫌いではなかったけどさ……。

 でも、それは一線を越えていないレベルでの話だ。

 立ち上がって、自室の窓から外を眺める。

 まだ現場に傘を持った野次達が残っているのが見えた。

 おじさんとおばさんはきっと大変だろう。



 あたしはふと思い立って、本棚に並ぶ単行本の一冊を手に取る。

 ページを開くと、アキラの顔が現れる。

 彼はこの漫画のサブキャラクターで、ストーリーの途中で死んだものの、根強い人気を未だに誇る青年だった。

 ヒロインを守る為に、彼は死んだのである。

 なんだか可笑しくなって、あたしは独り笑いを噛み締めていた。



 夏美。

 アキラなんて、存在しないんだよ。

 全部、あんたの妄想なんだから……。

 馬鹿なくらい好きだったもんね、この漫画。

 あたし達が子供の時から連載してる漫画でさ。

 アキラが出る度、二人でキャーキャー言ってたっけ。

 でも、あんたはちょっと異常だった。

 自分で描いた肖像画なんか飾っちゃってさ。

 一番びっくりしたのは、そう……、

 中学一年の頃のアレかな。

 電話で呼ばれて、あんたんちに行ったらさ。

 あんた、独りで喋ってんの。

 そんで部屋に入ったあたしに気付いて。

「今日はね、アキラ君がきてるの」

 だって。

 戦慄したね、あれは。

 あんたの笑顔、怖かったよ。

 それがあってから、なんか、あんたのこと苦手になってたんだよね。

 もう、昔の話だけどさ。

 あんたが熱狂的なファンだったのは認めるよ。



 でもね。

 こんなの、架空の話なんだよ?

 馬鹿みたい。

 どうかしてる。

 本当は、なんでもないことだったんだよ? これは。

 なんで、哀しむだけで満足できなかったの?

 なんで、作り物だと受け止めることができなかったの?

 ははっ。

 そりゃ、あたしだって、アキラのことは好きだったけどさ。

 だけど、漫画のキャラクターだもん、これは。

 あんたとは違うよ。

 でも……。

 気持ちはわかるかも。

 そう……、せっかく、忘れていたのに――。

 彼の死を。

 彼の笑顔を。

 彼の名前を。

 本当に、馬鹿みたい。





 気付くと、あたしは泣いていた。

 目頭から滴り落ちたその熱い透明の液体が、ページの中で微笑む彼の笑顔の上に落ち、染み、広がり、彼は人間と成り、あたしの肩に死神が降りる。

後書き

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作者 まっしぶ
投稿日:2011/05/27 01:26:25
更新日:2011/05/27 01:29:53
『アキラ』の著作権は、すべて作者 まっしぶ様に属します。
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