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作品ID:347
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2294文字 読了時間約2分 原稿用紙約3枚
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初級者 / R-15 /
絶望の謳 奪う方の謳
作品紹介
夜、一人の少女が歌を歌っていた。美しいソプラノで、歌っていた。悲しそうに、泣きながら。
月の綺麗な夜だった。今も真上に三日月が浮いている。その周りに星の光がぽつぽつと光る。煌々と月光が降り注ぐ場所で、一人の少女が歌っていた。何処にでもある屋上、仕切りのためのフェンスの上に座って足をぷらぷらさせながらただ歌い続ける。何故だろう、彼女は泣いていた。涙が出ていることを気にすることもなく、ひたすら歌う。涙が一滴、瞳から落ちて服に染みこんだ。泣きながら歌い続ける彼女の姿は、とても綺麗だった。誰もいない場所で、この世界には彼女しかいないと、錯覚させるような感覚。
――――今日は貴方を、殺しました。
歌う、その歌詞は悲しすぎる。虚しすぎる。そんな歌詞を、ただただ紡ぎ続ける。まるでそこに意味を意味を見つけたいように。
――――昨日は貴方の大切な人を、殺しました。
――――なんで殺したんでしょう?
――――何で殺してしまったのでしょう?
――――私には分かりません。殺せ、と言われたのに。指示に従っただけなのに。
――――何故、こんなにも胸が締め付けられるのでしょうか?
よく聞けば歌詞、というより懺悔のような内容だった。泣きながら続ける歌詞には、強い後悔だけしかない。
――――悔いても悔いても分かりません。間違っていたのでしょうか? 私は、間違っていたのでしょうか?
――――私は、殺して壊すことしか出来ません。私は、元よりそのように造られた物。それ以外に、何が出来るのでしょうか…?
彼女は月を見上げる。自分の顔を照らす月光は、とても優しかった。
――――ごめんなさい。折角、貴方が私にそれ以外を教えてくれると言ったのに。約束したのに。約束してくれたのに。
――――私は貴方を殺しました。裏切りました。約束を、破りました。この罪は、どうやっても償うことは出来ません。
涙に月光が煌く。そこで初めて彼女は自分が泣いていることに気付く。そして泣く資格なんてないと自嘲する。
――――せめて、貴方がそちらの世界で苦しまぬように。死するその瞬間まで、私を信じてくれた貴方のために。私もお供いたします。貴方の、お傍で、永久に貴方を守るために。貴方に一度は向けてしまったこの刃、今度は永遠に貴方を裏切らぬことを誓います。この命を、もって。
何時しか現れた透明な刃。それは彼女の右手と一体化していた。その透明な刃を、自分の首元に向ける。彼女の着ている服は、月の光で照らせた時にしか分からなかったが、錆色だ。赤黒い。長い後ろ髪も、顔の一部も、飛び散ったように赤黒い何かがこびり付いている。
「…………ごめんなさい、主。私が奪ってしまったその命、私の命を持って償います。どうか、あちらでも可愛がってください」
歌い終わった少女は、呟き、刃を己の喉に突き刺そうと――
「やめろ! 何してるんだお前は!?」
突如屋上の扉が乱暴に開かれた。そして一人の若い男性が飛び込んできた。
「…!?」
少女は振り返り、驚愕で顔が覆われる。
「ある、じ…? 何故……何故……?」
だらりと下げた右手、一瞬で刃が消える。
「何故主が生きているのですか!? 主、貴方は私が殺したはず!」
少女は怒ったように、困惑したように叫ぶ。どうすればいいのか、どう対処すればいいかわからない。頭が、思考回路が真っ白にショートして。
「馬鹿野郎がっ! 気付かなかったのか! 今のお前に人を殺せる力が残っている訳がないだろう!」
「…」
主と呼ばれた男性も負けないレベルで怒鳴る。その顔には安堵やら悲しみやらでごちゃごちゃに混じる。
「……所詮、私は旧式。そのような力など残っているはずもない、と貴方はおっしゃるのですか」
少女は怒った。主が生きていたことが信じられない。誰かが造った、主の出来損ないの模造品だ。確かに、自分の記憶の中には、主を切り裂いた時の感触が記憶されている。許せない。自分ならまだしも、主を侮辱するその行為!
「貴方は主ではない。私は、確かにこの手で主を殺した。殺してしまった。確実に。だから、主がここにいる訳が無い。これが現実なら、貴方は単なる主の模造品。我が主を侮辱したその行為、ただで終わると思うことはありません」
フェンスから飛び降り、ゆっくりとした足取りで敵対者に向かって歩き出す。凄まじい殺気を纏い、鬼のような形相をしながら。
「待て! 僕は確かにお前の主だ! 話を」
「聞くと思いますか」
少女は右手の刃を発現、それを向けながら進む。
「いくら私が一番古い旧式だとしても、貴方一人くらいは殺せます。いいえ、殺します絶対に。貴方は、私にとって一番大切なものを汚した。貶した。許せません、その行為を命で払ってもらいます」
ぺたり、ぺたりとはだしで歩く乾いた音。ゆらり、ゆらりと。確実に進んでくる。
「馬鹿言うな! 何で勝手に殺したとか思ってるんだ馬鹿! お前まさか、認識能力に何かバグがあったのか!?」
「貴方には関係ない」
「止まれ! まずは落ち着け!」
「黙りなさい」
走り出す。あの開けっ放しの扉から、逃げられる前に!
「!」
いきなり少女が視界から消えたことに、男性は驚き。
「……あっ…?」
後悔する前に、視界がブラックアウトした。
後書き
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