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作品ID:365

こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約2791文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚


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ハローこちら踏切前

作品紹介

大学生の女性の話。


 ハローハローこちら踏切前。





私の声はちゃんとあなたに届いているかな?





黒色が赤かった空を染め上げ、きらきらと輝く星が空を彩っている。





 夏の蒸し暑い空気が私を包み込み、耳にはうるさいほどにないているセミの声。





 汗ばんだ長い黒髪を払い踏切のわきに、そっと花を置いた。





今日はスターチスという花。





これは今の私の気持ち。





 あなたはまだ引きずってるのか、早く立ち直れよとかそんなことを言うと思う。





だけどね、そんなこと無理。





「会いたいな…」





 好きだよ、大好きだよって何回言ったらあなたまで届くんだろう?





ううん。きっと何回言ったってあなたに届くことはもう永久にないのだろう。





 宗教上の天国や地獄なんてものがあるならば伝えられるのかもしれない。





いや、もしあったとしても彼はきっと天国にいるのではないだろうか。





だから気持ちは伝えられない。





だって私はきっと地獄へ落ちるから。





なぜかって?





彼を殺してしまったのは私だから。





 ―――カンカンカン。





 電車の訪れを知らせる音が鳴り響く。





電車が通ったことにより、ちっとも涼しくない風が私の長い髪とスカートを揺らす。





 スターチスを置いた場所にそっと腰を下ろす。





本来ならば車など通るし危ないだろう。





しかし、ここはもう全然車どころか人も通らない。





 つまり簡潔に言えばここは田舎という訳だ。





「今日ね、アラタがすごくおかしかったのよ。運命の人を見つけたっ!!とか言って…」





 アラタとは、私と彼の幼馴染。





「ふふ…アラタは毎回可愛い女の子を見つけるとその言葉を言ってるわよね」





 毎日この踏切へきて、今日おこったとりとめもないことを話す。





花は一週間に一回の割合で供える。





「しかもね、アラタ真面目な顔してこういったのよ。お嬢さん、君との運命を感じたんだぜひとも結婚してください!」





「おかしいわよね。ツッコミどころがありすぎて、どこからつっこめばいいのか困るほどよ」





 ふふ、と笑って話すが返事が返ってくることは無い。





「あ、それとね。ユカリ彼氏が出来ちゃったのよ!若いっていいわね。まあ私もユカリと同い年だけど」





 ユカリは私の親友。よく相談に乗ってくれるし、可愛いし明るい。





私とは正反対。





 ユカリはもう完璧に出来すぎていて、皆から好かれている。





それなのに、告白されても全て断っていた。





だから今回告白を了承したのは驚きよね、と苦笑する。





「覚えてるかな?今日って私とあなたの記念日なんだよ?」





 首にかけた指輪のネックレスにそっと触れる。





本来ネックレスでは無かったのだが、私が鎖に通してネックレスにした。





 直接貰ったわけではないから、指につけることはなんとなくはばかられた。





これは、彼が亡くなった後に部屋から出てきたらしい。





 なぜこれが手元にあるかというと、彼の両親のおかげだ。





机の上にこの指輪が入った箱。





そして、カレンダーに大きく赤いマーカーで丸印と共に「記念日」という印があったらしい。





それでこれはあなたのじゃないかしら、とわざわざ彼の母が私の家まで来てくれたのだ。





 それ以来、これは肌身離さず持ち歩いている。





―――カンカンカン。





また、電車の訪れを知らせる音。





私はゆっくりと立ち上がり、踏切の真ん中まで行く。





 あなたを殺してしまった罰は、あなたを殺した場所で受ける。





 そう、私があのとき物を落とさなければよかったのだ。





あなたから貰った大事なクマのキーホルダー。





それを踏切で落としてしまったのだ。





そしてそれを取りにいった彼は電車にはねられた。





チェーンが線路に絡まったらしく、時間がかかったらしいのだ。





 電車のブレーキをかける音がする。でも止まりきれずに無常にも電車は彼へ向って突っ込んだ。





ゴオっと電車が通る音の変わりに、耳慣れない音。





あのときの私の耳にはぐしゃりという普段けして聞くことはない音を拾った。





「いやああああああああ!!!ユウイチ!!」





 ごめんなさい。ごめんなさいユウイチ。





今度は…今度は私も行くから。





 あのときのように、電車のブレーキをかける音。





摩擦で電車と線路がすれる耳ざわりな音。





 全てがどうでもよかった。





 そんな私の視界に、「彼」が映った。





「ユウイチ!!」





 私が彼の元へ駆け寄ろうと走ったのと、電車がぶつかったのはほぼ同時。





 すさまじい痛みの中で彼の声を聞いた気がした。













 私が目を覚ますと、そこは天国とか地獄なんかじゃなくて病院だった。





「…?」





 だるくて重い体をおこすと、頭が痛い。





 頭に手をやると同時に誰かが病室にはいってきた。





「大丈夫ですか?」





「…はい」





 白衣を着ているとういうことは医師なのだろう。





「とりあえず安静にしておいてくださいね」





 医師はすぐに部屋を出て行った。





 私は電車にはねられたとき、確かにユウイチを見たのだ。





そして彼は確かに…。





「ありがとう。君の声は届いてるよユウカ。生きろ」





 確かにそう聞こえたのだ。





 病院の白い布団の上に、私の目から流れた涙がぽつりぽつりとおちる。





首もとの指輪をぎゅっと握って、彼の名を呟いた。





 退院したなら、すぐに踏切前へ行こう。





きっと私から見えなくたって、彼はそこにいるって信じているから。













 ハローハローこちら踏切前。





 今日退院したんだよ。





今日からまた、毎日会いにいくから。





 ハローハロー今日もあなたが大好きです。





 入院中の話とか、そんなことを聞かせてあげるから。





楽しみにしていて欲しいと思う。





 ハローハロー今日の花は、ホワイトレースフラワーっていう花なんだよ。



後書き

未設定


作者 有栖ひゅう
投稿日:2011/07/02 12:46:53
更新日:2011/07/02 12:53:41
『ハローこちら踏切前』の著作権は、すべて作者 有栖ひゅう様に属します。
HP『未設定

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作品ID:365
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