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作品ID:422
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約1735文字 読了時間約1分 原稿用紙約3枚
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ある秋の日に。
作品紹介
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竹箒が、地面をこする音が響く。
町外れのこじんまりとした家の大きな庭には、数本の巨木が生えている。そこから、大量の枯葉が落ちてきている。
それを地道に掃いているのは、中学生くらいの少女だった。
黒いワンピースに、大きなエプロンを見につけた、華奢な少女。
足元まで伸びようかという黒髪をきっちりお下げにして、垂らしている。風に吹かれたり、少女が動くと、そのたびに合わせて動く。
もうすでに、庭の隅に溜められた枯葉が少女の腰に届こうかというくらいに掃き集められている。
それでも、少女は黙々と、とめどなく落ちてくる枯葉を掃いている。
茶色の明るい目に生気はなく、ただそこにあるだけのように冷えていた。
顔も凍りついたような無表情。
その様子は、機械仕掛けの人形に見える。
少女は、しばらくそうやって枯葉を掃いていた。
陽も傾きかける時間になって、突然、辺り一帯に汽笛が遠く響いた。
ふ、っと顔を上げる。
秋の冷たい風が、少女のスカートと、お下げを揺らす。
風は吹き抜け、谷状になった山がちな地形の開けた土地を駆け抜けた。
何を感じたのか、甘く降り注ぐ夕日を見た少女は。
庭から走り出て、坂道に飛び出すと、すぐ横の崖に向かって走り出す。
走りながら、持っていた竹箒にまたがった。
そのまま、崖のふちを蹴って、空に向かって跳躍。
少し落ちながら、風に乗ってふんわりと浮かび上がった。
スカートがいい感じに広がって、ぱたぱたと揺れながら踊る。少女は気にする様子もなく、空を風と一緒に駆け抜けた。
崖の下には、町があった。
小さ過ぎず、大きすぎない町だ。街と書いたほうがいいかもしれない。
そこに向かって、山からのびてきた一本の黒い線が引かれている。
今まさに、山の間から汽車がやってきた。
それを見る少女に、やはり表情はない。だが、少し・・・・・・ほんの少しだけ、目に光が差したように見えた。
夕日のせいだったかもしれない。
そのとき、ゆるく巻かれたお下げのリボンが風にあおられて飛んでいった。
片方だけ癖のある髪が広がり、少女はそれをちらりと見やり、しょうがない、というようにもう一方のお下げのリボンをつかんだ。
とたん、黒いさざ波が空に広がった。
少女は、だんだん高度を下げていった。
細い路地にうまく降り立った少女は、カラフルなタイルをカツカツと鳴らせながら、走って川沿いの道に出た。
荷車が立ち往生していたので、すぐ横の家の塀に飛び乗って走った。
すぐに大きく跳んで地面に降り立つと、また走り出す。
その様子を、荷車の持ち主の老人や、家の住民たちがほほえましそうに見送った。
そんな危険なことをくり返しながらも、少女は駅前に着いた。
さっきの汽車が、発車するところだった。
少女は、駅前の時計台の下で、両手で竹箒を持ち、駅のほうを見つめていた。
少しうつむき加減になると、長い前髪が顔を大きく隠してしまう。風が吹くたび、少女の髪が大胆に揺れた。汽笛の音が、遠ざかっていく。
駅から出てきた人々は、四方八方に散りじりになり、少女は一人残された。
それでも、少女は待っていた。待ち人が、必ず来ると信じきった様子で――。
改札から、若い、まだ少年といっていい年頃の人物が出てきた。少女の姿を確認すると、まっすぐそちらに歩いていった。目の前に立った人物を見上げるように、少女が顔を上げる。
「カタリ、待ってたの?」
少年が少女、カタリと呼ばれた少女に言った。
「はい。今日は金曜日ですので、四時の汽車であなたが来ると分かっておりました」
「そうかい。――一週間ぶりだね」
「はい。しかし、カタリにとってこの一週間は、短いものでありました」
「僕は長かったよ」
そのまま、二人は少し見つめあった。
「行こう、カタリ」
「はい」
機械人形なのは相変わらずなのに、なんとなく、少女に心が入ったような、作り手の思いが人形に伝わったかのような、そんな不思議な雰囲気が漂った。
町外れのこじんまりとした家の大きな庭には、数本の巨木が生えている。そこから、大量の枯葉が落ちてきている。
それを地道に掃いているのは、中学生くらいの少女だった。
黒いワンピースに、大きなエプロンを見につけた、華奢な少女。
足元まで伸びようかという黒髪をきっちりお下げにして、垂らしている。風に吹かれたり、少女が動くと、そのたびに合わせて動く。
もうすでに、庭の隅に溜められた枯葉が少女の腰に届こうかというくらいに掃き集められている。
それでも、少女は黙々と、とめどなく落ちてくる枯葉を掃いている。
茶色の明るい目に生気はなく、ただそこにあるだけのように冷えていた。
顔も凍りついたような無表情。
その様子は、機械仕掛けの人形に見える。
少女は、しばらくそうやって枯葉を掃いていた。
陽も傾きかける時間になって、突然、辺り一帯に汽笛が遠く響いた。
ふ、っと顔を上げる。
秋の冷たい風が、少女のスカートと、お下げを揺らす。
風は吹き抜け、谷状になった山がちな地形の開けた土地を駆け抜けた。
何を感じたのか、甘く降り注ぐ夕日を見た少女は。
庭から走り出て、坂道に飛び出すと、すぐ横の崖に向かって走り出す。
走りながら、持っていた竹箒にまたがった。
そのまま、崖のふちを蹴って、空に向かって跳躍。
少し落ちながら、風に乗ってふんわりと浮かび上がった。
スカートがいい感じに広がって、ぱたぱたと揺れながら踊る。少女は気にする様子もなく、空を風と一緒に駆け抜けた。
崖の下には、町があった。
小さ過ぎず、大きすぎない町だ。街と書いたほうがいいかもしれない。
そこに向かって、山からのびてきた一本の黒い線が引かれている。
今まさに、山の間から汽車がやってきた。
それを見る少女に、やはり表情はない。だが、少し・・・・・・ほんの少しだけ、目に光が差したように見えた。
夕日のせいだったかもしれない。
そのとき、ゆるく巻かれたお下げのリボンが風にあおられて飛んでいった。
片方だけ癖のある髪が広がり、少女はそれをちらりと見やり、しょうがない、というようにもう一方のお下げのリボンをつかんだ。
とたん、黒いさざ波が空に広がった。
少女は、だんだん高度を下げていった。
細い路地にうまく降り立った少女は、カラフルなタイルをカツカツと鳴らせながら、走って川沿いの道に出た。
荷車が立ち往生していたので、すぐ横の家の塀に飛び乗って走った。
すぐに大きく跳んで地面に降り立つと、また走り出す。
その様子を、荷車の持ち主の老人や、家の住民たちがほほえましそうに見送った。
そんな危険なことをくり返しながらも、少女は駅前に着いた。
さっきの汽車が、発車するところだった。
少女は、駅前の時計台の下で、両手で竹箒を持ち、駅のほうを見つめていた。
少しうつむき加減になると、長い前髪が顔を大きく隠してしまう。風が吹くたび、少女の髪が大胆に揺れた。汽笛の音が、遠ざかっていく。
駅から出てきた人々は、四方八方に散りじりになり、少女は一人残された。
それでも、少女は待っていた。待ち人が、必ず来ると信じきった様子で――。
改札から、若い、まだ少年といっていい年頃の人物が出てきた。少女の姿を確認すると、まっすぐそちらに歩いていった。目の前に立った人物を見上げるように、少女が顔を上げる。
「カタリ、待ってたの?」
少年が少女、カタリと呼ばれた少女に言った。
「はい。今日は金曜日ですので、四時の汽車であなたが来ると分かっておりました」
「そうかい。――一週間ぶりだね」
「はい。しかし、カタリにとってこの一週間は、短いものでありました」
「僕は長かったよ」
そのまま、二人は少し見つめあった。
「行こう、カタリ」
「はい」
機械人形なのは相変わらずなのに、なんとなく、少女に心が入ったような、作り手の思いが人形に伝わったかのような、そんな不思議な雰囲気が漂った。
後書き
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