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作品ID:423
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約3075文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚
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「悲しみと嬉しさと憎悪と」を読み始めました。
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / R-15 /
悲しみと嬉しさと憎悪と
作品紹介
またこの手のものを書きたいと思ったので久々に書きます。
「はい。……はい。ありがとうごさいました」
がちゃん、と受話器を置いた。憂鬱な面持ちでリビングに戻った。
「……意識、戻ったか?」
「いいえ……」
ソファーに座って項垂れていた少年が短く声をかけた。上げた顔は涙を流して真っ赤に腫れていた。
少女も似たような顔だ。疲れたような、真っ青な顔でソファーの隅に座った。
「……何でこうなっちゃったの?」
「知るかよ。恨み言言ってもそれだけだし」
「お兄ちゃん!」
「俺だって、混乱してんだ。だけど……これが現実だ」
少女――妹が咎めるように叫ぶが兄である少年もぶっきらぼうに言い返す。
「認めるしかねえんだ……俺たちは何も出来なかった。無力で、ちっぽけな存在なんだ」
「っ」
少年は妹にそれだけ言うと立ち上がる。
「……何処行くのよ?」
「……寝る。あいつ、おきてきたら起こして。殺すから」
ふらふらした足取りで自室に彼は戻っていった。リビングに少女一人が残される。が、奥のドアが唐突に開いた。
「?」
「姉さん? 今、兄さんが部屋に戻ったようですが……」
「……」
彼女は唯一泣いていない彼女を睨んだ。
「空気読んでよ」
「そう睨まないで下さい。私だけじゃないですか、身内での部外者は」
と重い空気に似合わない苦笑をしてキッチンの方に歩いていく。しゃら、しゃらと長い髪の毛が歩くたび揺れる。
そもそもの発端は今朝だった。折角の休みだったので、3人の兄弟たちは家で遅くまで眠っていた。
やかましく鳴り響く電話の音で、まず兄が目を覚ました。のろのろとした動きで受話器を上げ、一分後には大パニックを起こして家中大騒ぎになった。
両親が、事故を起こして意識不明の重体に陥ったのだ。落ち着いた兄は妹たちが心配だった。特に長女。パニックに弱かったのだが……。
案の定、長女は取り乱し、家を飛び出して病院に向かった。兄も慌ててついていった。末っ子だけはいつも通りの日程で生活を続けていた。
病院に到着、二人の目に入ったのは、ぐしゃぐしゃに潰れた車、そして集中治療室で治療されている両親。その時点で長女は失神、兄は残酷な現実から目を背けようとして、警察の一人に怒られた。
「坊主! 目を逸らすな! これが現実だ」
一発顔を殴られてブチ切れかけたが、すぐに冷静になった。殴られた頬が熱い。だが頭は平常心に戻る。警察の話によると、真正面からの衝突事故だという。相手方は即死、原因は相手方の余所見。
「……相手方は即死って言いましたけど。乗っていたの、運転手だけですか?」
「ああ。大型のトラックでな」
荷物を運ぶ長距離トラックだと言う。それが突っ込まれれば、まず命はない。
「……」
あまりに突発的なことで少年は言葉を失った。初老の刑事はぽん、と肩に手を置いた。
「坊主……さっきは殴って悪かったな。だが、しっかり目を開け、涙で視界が見えなくても目だけはしっかりと開くんじゃい。そうしないと、また失うぞ」
「……」
少年は、徐々に現実を受け入れる。
「……刑事さん、殴ってくれてありがとうございました。おかげで、目の前のことを見ること出来ました」
「ん? ん、ん……」
初老の刑事は苦い顔で言った。
「どうなるかは……医者から聞いたか?」
「はい……。いつ死ぬか分かんないらしいです」
「坊主、いくつだ?」
「俺は17、妹は16と15です」
「妹さん、もう一人いるんか?」
「はい……。ただ末の妹は……」
「……なにかあるんか?」
「刑事さんなら、家族構成とか多分調べますよね?」
「お、おお。まぁな」
「じゃあ話ときます。末の妹は、血のつながりは無い……養子なんです」
「ほぉ」
「それで……」
少年は場所を移したい、と言って病院の前にあるベンチに座った。刑事の一人が男性に声をかけるが初老の刑事が一睨みしたら逃げるように去っていった。
「末の妹は、今の両親とは仲が悪いんです」
「……悲しい話だの。どういう経路で?」
「プライベートなんで、他言無用でお願いできます?」
「分かった。任せろ」
と買ってくれたコーヒー缶を渡しながらニッと笑った。その顔は頼もしかった。
「あいつは……家族になってから、まず妹と対立しました。それは、どうやら根本的に相容れぬ存在だったようで……」
「なにかあったんか?」
「さぁ……詳しいことは本人たちも語ろうとはしなかったから」
「ほぉ」
初老の刑事は頷いた。
「その次は、何故か両親でした。あからさまな拒絶とか」
「……」
「あいつにとっては、両親は単なる他人で、嫌な人間なだけだったみたいです」
「……それで?」
「さっきも、私は関係ないって言って出かけました。だから今いないんです」
「……」
「俺にだけは心を開いてくれているようでしたが、俺はあいつが許せない」
「……」
「帰ったら、問い詰めるつもりです」
「純粋な怒りか、それは?」
「え?」
訥々と語った少年の顔を、刑事は険しい顔で尋ねた。
「今感じてる感情は多分、間違ってるぞ坊主。なんであろうが、家族は家族。手ぇ出したら、それで終わりだ。間違っても殺意を抱いちゃいかん」
「……」
ずばり、図星だった。殺したい衝動が少年に中に膨らんでいることを、刑事は見抜いていたのだ。
「…いけませんか、そういう黒い感情を抱いちゃ?」
「いかんな、とワシは思う。崩壊したら、もう戻ってこんぞ? 両親はまだ生きてる。帰ってきたその時、おまいさんの手で壊された家族をみたら、悲しむぞ」
「……刑事さんの言うことが正しいと思います。だけど」
と少年は飲み終わった缶をその場に置いた。
「俺はこの感情を殺せるほど大人じゃありません。だから、自分の思うように行動します。それが間違いだろうが、それが俺の正義です」
と黒い憎しみの炎を宿らせた瞳で刑事に告げ、ごちそうさまでした、とだけ言って走って戻って言った。刑事はその少年の去る姿をみて、悲しそうな顔をしていた。
「姉さん、あの人たち本当に危篤状態なんだね」
「……」
彼女は立ち上がった。近くにあった、鈍器らしいものを探し、手に持ち質感をチェック。重さは丁度いい。
末の彼女は両親を「あの人」と呼ぶ。
「まぁ、死ななかっただけよかったんじゃない? まだ希望はあるんだから」
「……」
この言葉で、彼女の中の何かが音を立てて壊れた。黒い感情が頭を支配する。
ゆっくり、歩き出す。彼女は冷蔵庫の中身を除いているため気付かない。
「こんなこというの、なんだけどさ。別にそこまで悲観的にならなくてもいいじゃない」
「……」
ゆっくり、一歩づつ静かに黒い死神は近付く。手には鈍器。やることは一つ。
「死んでないのはアレだけど」
アレ、という言葉に彼女のなかでまた一つ壊れる。こいつの言いたいことはつまり。
(しぶとい連中……)
と考えてるに違いない。お兄ちゃんには罪は背負わせない。業は、私が背負う。この憎しみと共に。
「だから姉さんもそんな沈んだ顔しないで――」
「ああああああああああああ!!!!!!!」
感情が爆発した。振り返った顔目掛けて手に持った鈍器を、一杯の力で振り下ろした。死んでしまえ、こんな馬鹿な妹!
後書き
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