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作品ID:431
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約5171文字 読了時間約3分 原稿用紙約7枚
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Snow Love Message
作品紹介
普段生活してる中で意外に見落としがちなことって、ありますよね?
例えば、感謝したことには素直にお礼を言ったり。嫌なことは嫌だといったり。
なのに、素直に言葉に出来ない人々もいます。違う言葉で誤魔化したり、言葉自体を失くしてしまったり。
この人の場合、切羽詰った状態でようやく、言葉にすることが出来ました。未来がどうなるか……それは分かりません。未定ですから。
例えば、感謝したことには素直にお礼を言ったり。嫌なことは嫌だといったり。
なのに、素直に言葉に出来ない人々もいます。違う言葉で誤魔化したり、言葉自体を失くしてしまったり。
この人の場合、切羽詰った状態でようやく、言葉にすることが出来ました。未来がどうなるか……それは分かりません。未定ですから。
この世界が時々、何かとんでもないドラマの舞台なんじゃないかって思うことがある。今も、初雪降り積もる中、曇り空を見上げながらはぁ……と溜め息を付いていたときもそうだ。溜め息は白い息になって消えた。毛糸の帽子にくっ付いた雪を軽く払って、また空を見上げる。
見事な曇りだ。こんな時は、うちでぬこたちと遊んで大人しく過ごしているのが一番正しいことを、僕は知っている。何で、こんなことをしているんだろう?
さっき道端で見かけた温度計は確か氷点下に近かったような気がする。天気予想でも今冬一番の寒さだと伝えていた。なのに愚かにも僕はこんな寒空のした、とある人を待ち続けて早1時間。完全にあの人は遅刻している。手はポケットの中で冷たくなってるし、毛糸の帽子は雪で濡れている。屋根の無いこんな公園で待たせるなんて、あの人はやっぱり僕を『所有物』としか見ていないのだろう。移動したくてもこの辺は住宅街からも外れている郊外の場所。屋根のある場所なんて、バス停くらい。近くにあるのは百円の自販機とぶっ壊れたブランコだとかそんなのばかり。
遅い。遅すぎる。
段々とイラついて来た。なんで自分から呼び出しておいて一時間も寒空のした待たせる?
そもそもの原因が昨日とどいた一通のメール。僕は普段携帯電話を使わない。メールだって一日か二日一回使うくらい。それが届いたときは母さんたちがぐうたら寝てるときに、僕一人でカレーを作ってるときだった。ポケットに入れ忘れていた携帯がぶるるっ、と震えた。僕はカレーを加熱していたコンロを止めて、携帯を取り出し中身を見た。差出人はあの人だった。僕がメールの相手するのは家族とあの人くらいだ。
仕方ない。僕はクラスでも幽霊というあだ名がつくくらい地味な奴だし。しょっちゅう「いたのか!?」なんて先生にすら言われるような、そんな存在。そんな奴だから友達もあんまりいない。いても「おい城之内、今日暇だったらまた女風呂覗き行こうぜ」なんて眩しい笑顔で親指を立てて、とんでもないことをいう斉藤君とか。「城之内、お前好きな奴いんの? いやいるわけねえか。幽霊だし、あいつの所有物だし。悪い、同士よ」なんて同情したように肩に手を置く白崎君とか。
ようするに変な人ばっかりだった。僕にとっては友人と言うより、悪ふざけの仲間として一緒に扱われている。だから女子に可哀相な目で見られる。それだけじゃない。原因はまだある。
あの人がいつも公言していたからだ。「こいつは私の所有物なの! だから私が管理して私が好きなように扱って何が悪いの?」と本人たる僕がいる前でなんとまぁ堂々と言ってくれちゃったわけでして。それ以来、女子には「大丈夫? 幽霊くん」だとか「嫌になったら逃げ出してもいいんじゃない?」だとか色々同情的なことを言われる立場に。男子には喜ばれていると後で白崎君がこっそり教えてくれた。
話がずれたけど、あの人の送ってきた内容は簡潔に述べるとこうだった。
――話がある。いつもの公園に一時集合。絶対きなさい。所有物は所有者に歯向かうことは許されません。
以上。言い訳が多くて解析に時間がかかったが述べればこれだけ短縮できるのだ。全く、彼女は言い訳が多くて困る。そのくせ肝心なことは一々遠まわしに言ってきて、察しないと怒る。理不尽だと思うけど、彼此こんな関係を7年続けている。高校まで一緒、しかも僕は受験を控えている。今日だってぬこと遊んでそれから勉強に使おうと思っていたのに。彼女のせいで全部台無しだ。
ぶちぶちと文句を言ってるときに、ようやく彼女が顔をみせた。慌てて走ってきたのか、荒い息が白く立ち昇り、ふらふらとした足取りになっている。ぜーぜーと言いながら、ふらふら、よろよろと千鳥足のようにゆっくり進んでくる。僕も焦って駆け寄る。
「大丈夫!? みお!?」
「う、うるさいなぁ……遅くなって、走ったから、疲れて、ふらふら、してるだけでしょー?」
彼女――みおはぎろっ、と三角になった目で僕を睨む。ひぃっ、と小さい悲鳴が僕の口から漏れる。いけない、と思ったときはもう遅かった。
「あきら……あんた、何怖がってんの?」
「え、えと、その」
「まさか、まだ私が怖いとか抜かしてんじゃないでしょうね?」
「……」
「目を見て答えろ」
「ひぃっ!?」
ゾンビのような動きで僕の頭をロック。帽子越しにギリギリと10本の指が僕のこめかみに食い込む。
「いだだだだだだ!!!」
「答えろ。誰が、怖いって?」
「僕は、何も、言ってない!」
「ひぃっって言ったの、誰よ?」
「ひぃっ!」
「ほらまた」
「怖!」
「誰だよ!」
ごんっ、と目の前に花火が散った。その後眉間が痛く大の字に仰向けにぶっ倒れた。拳で殴られた。痛い……。背中に感じる雪が冷たい。
「何するのさっ!?」
「誰が怖いだ!」
「だって動きといい顔といい雰囲気と言い怖すぎ!」
「……あきら、遺言はそれだけね?」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
悪寒を感じて四つんばいで逃げようとしたところ、腰辺りに体重を感じる。そして。
「ぶえっ!?」
「逃げんな。誰が怖いかもっぺん言ってみ?」
「……痛い」
「痛いようにしてるからねっ」
首だけ振り返ると腰の辺りにみおが乗っていた。
「痛い、主に股間のあたりが! みおやめて踵で蹴らないで潰れる!」
「あんたの貧相なあれ、使えなくしてあげようか?」
「な、何言って!? やめてよ死ぬ!死ぬから!」
「うっさい! 今ここで去勢してやる!」
「うぎゃあああああああああああああ!!!!」
股間のあたりに痛みと熱さの衝撃。容赦ないみおの一撃は、僕の急所を的確に射抜いていた。
「ごめんなさいごめんなさいみおは全然怖くないからいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「よろしい」
最後に股間をげしっ! と蹴飛ばしてみおは腰から降りた。
「ぎゃぉう?!」
そして僕は最後の一撃を甘んじて受けるハメになった。
「……ふんっ。所有物が所持者に歯向かうからいけないのよ」
「……みお」
「何?」
「帰っていい?」
「ダメ」
「一時間待たされてなんで蹴られて踏まれて罵倒されなきゃいけないの?」
「あんたが脱線させたから」
「そんな理由で!?」
「うるさい。今度は思いっきり蹴るわよ」
「やめて死ぬ」
「じゃあさっさと立て。遅れたお詫びにこれあげる」
股間を何気に押さえながら僕は逃げこしで抛られたものたちを受け取った。これは……。
「そこの自販機で買ってきた。ありがたく受け取りなさい!」
「あ、ありがと……」
何故か胸を張っていった。缶のココアだった。しかも3つ。
「いくらぶん買ったの?」
「1000円分」
「買いすぎでしょ!?」
「うるさい」
ポケットをみると不自然に膨らんでいた。まだ沢山のココアたちが眠っているのだろうか?
「自棄でボタン連打してたらこうなっただけ。それだけ」
「……はい」
ここでやぶへび行為をするのは自殺だ。だからやめる。
「で、話ってなに?」
随分と遊ばれてしまった。遠慮なしに、すっぱり聞いた。
「話?」
「みおが呼び出ししたんでしょ!」
「そうだっけ?」
「帰る」
「じょ、冗談よ冗談! まったく、それくらい察しなさいよ」
「本気で怒るよ?」
「潰すわよ?」
「ごめんなさい」
「よろしい」
雪がどんどん降って来た。寒さも加速しているような気がする。
それ以来、僕らの間に会話が途切れてしまう。周りは静寂、嫌でも空気が重くなる。
みおは俯き、僕は空を見上げる。曇っている。
「……あきら」
沈黙を破ったのはみおだった。みると顔が紅潮している。
「な、何?」
僕は何だか手負いの獣のような迫力を感じて一歩下がる。
「あんた、私に黙って進学しようとしてたって、ほんと?」
「……」
しまった、と思った。顔を逸らしてしまう。
「ほんとなのね?」
「……」
「無言は肯定と取るわよ」
「…………ほんと、だよ」
更に一歩下がる。彼女が一歩進む。
「何処に進学するつもりなの?」
「…………慶応大学」
「…………よりによって、名門中の名門じゃない」
慶応大学は頭がよくなければ入れないことで有名な大学だ。僕は成績が何とか合格ラインに到達したため、そこにしようと決めたのだ。先生にもお墨付きを一応貰っている。
そのことを僕は彼女に伝えてなかった。だってそうすると絶対言うから。僕を所有物扱いして、さらには同じ大学に来いとまで命令されていたことがあったから。僕の未来は僕が決める。僕の人生だから。決めなくちゃいけなかった。
「何で一々伝えなきゃいけないの?」
僕は遂にたまっていた想いをぶつけることにした。今言わないと、もういえないような気がした。
「僕は自分の未来を自分で決めて、それで進むことにしたんだ。何でみおにそこまで報告しないといけないのさ?」
「…………あんたは、私の所有物でしょ?」
「……悪いけどね、普段はよくても進学だけはみおの所有物でいるつもりはないんだよ。僕の夢がかかってるんだから」
伝えた。はっきり、自分の言葉で。僕の夢は小説家になること。自分の思いを、自分の形で、自分の納得行くことで示したかった。軽い気持ちじゃない。
みおは俯いてしまう。
「大学いかなくてもなれるでしょ?」
「ダメだよ。文章を書くには、沢山のことを経験することが重要だし、何より客観的に物事を見れて、尚且つ立場にたってみることも出来なきゃいけない。そのためには経験が必要なんだ」
「大学に行く理由は、それだけ?」
「それだけじゃない。僕は決めたんだ。みおに何時までも引っ張ってもらうわけじゃなくて、自分でいい加減決められるようにならないといけないって」
「え?」
意外な言葉に、みおは顔を上げた。
「僕はね、みお。君に感謝してるんだ。僕は今まで、何一つ自分の意思で決めてこなかった。全部、みおが僕に与えてくれた。今いる学校だって、僕はみおが来いって言ったから入っただけでしょ? それだけじゃない。みおが僕の、愚図な僕の手を叱咤しながら引っ張ってくれたおかげで僕は今ここにいられる。僕にとってみおは、頼れるリーダーみたいな存在だったから」
「……」
「僕は、今まで何も考えてなかった。夢だって、歩き出したのはごく最近。それまでは、また適当にやればいいかな、って思ってた。でも、みおが示してくれたじゃない。「夢はそんなことじゃつかめない! 努力して、願って、目指してようやく手に入る」って」
「……あきら」
「僕一人なら、ただ浮かんでる浮遊物みたいなもんなんだ。水の流れる方に、意思もなく流れていくだけ。だけど、もう決めた。自分の夢くらい、自分でつかむ。だから、ずっといえなかったけど……ありがとう、みお。それと、ごめん。もう、決めたから」
「……」
みおは呆けた顔で僕をみる。まさか僕がこんな風に思ってるとは思ってなかったのだろう。ましては感謝すらしてるような僕は、変人かもしれない。だけど紛れもない本心だった。
「……所有物が、随分言うようになったわね」
やがてみおは不敵な笑みを浮かべていった。
「遂に私無しでやってくことを学習したのね。よろしい、ならいいわ。そこまでの想いがあるならもうなにも言わない。私の所有物じゃないわ、あきら。あんたはもう、一人でやっていける」
「うん」
にぃっ、と笑った。だけど、その瞳には。
「みお……」
「そう。私も、一言言おうと思ってたんだけど。違うこと言葉になっちゃった。でも、まぁいっか。結果として聞けたし。あきらの本心」
泣いていた。涙が雪と一緒に地面に墜ちる。
「いい? 私の手が無くても、叶えなさいよ? 夢なんでしょ?」
「うん」
「私を振り切ったんなら、それだけの結果、みせてよね。じゃないと私……諦められないから」
涙を拭おうとしないでみおは泣き笑いをしながら言う。
「あんたのこと、結構好きだったんだけどね……まさか失恋するとは思ってもみなかったわ」
「……みお」
「いいわ。私抜きで、受験、頑張ってね」
とだけ告げ、空いた距離を縮める。その一連の動作がすごく早くて僕は硬直していた。
「へ?」
――――ちゅっ。
唇に柔らかい感触。ゼロ距離のみおの顔。
「これ、今まで私の所有物でいてくれたお礼。初めてだから、光栄に思ってね。あきら」
とだけ最後に言って、彼女は走って行ってしまった。
それからしばらくして。
「……あれ? 僕、みおにキスされた?」
と雪空のした、ぼけっとしているだけだった。唇の熱とココアの熱がまだ僕を温めていた。
見事な曇りだ。こんな時は、うちでぬこたちと遊んで大人しく過ごしているのが一番正しいことを、僕は知っている。何で、こんなことをしているんだろう?
さっき道端で見かけた温度計は確か氷点下に近かったような気がする。天気予想でも今冬一番の寒さだと伝えていた。なのに愚かにも僕はこんな寒空のした、とある人を待ち続けて早1時間。完全にあの人は遅刻している。手はポケットの中で冷たくなってるし、毛糸の帽子は雪で濡れている。屋根の無いこんな公園で待たせるなんて、あの人はやっぱり僕を『所有物』としか見ていないのだろう。移動したくてもこの辺は住宅街からも外れている郊外の場所。屋根のある場所なんて、バス停くらい。近くにあるのは百円の自販機とぶっ壊れたブランコだとかそんなのばかり。
遅い。遅すぎる。
段々とイラついて来た。なんで自分から呼び出しておいて一時間も寒空のした待たせる?
そもそもの原因が昨日とどいた一通のメール。僕は普段携帯電話を使わない。メールだって一日か二日一回使うくらい。それが届いたときは母さんたちがぐうたら寝てるときに、僕一人でカレーを作ってるときだった。ポケットに入れ忘れていた携帯がぶるるっ、と震えた。僕はカレーを加熱していたコンロを止めて、携帯を取り出し中身を見た。差出人はあの人だった。僕がメールの相手するのは家族とあの人くらいだ。
仕方ない。僕はクラスでも幽霊というあだ名がつくくらい地味な奴だし。しょっちゅう「いたのか!?」なんて先生にすら言われるような、そんな存在。そんな奴だから友達もあんまりいない。いても「おい城之内、今日暇だったらまた女風呂覗き行こうぜ」なんて眩しい笑顔で親指を立てて、とんでもないことをいう斉藤君とか。「城之内、お前好きな奴いんの? いやいるわけねえか。幽霊だし、あいつの所有物だし。悪い、同士よ」なんて同情したように肩に手を置く白崎君とか。
ようするに変な人ばっかりだった。僕にとっては友人と言うより、悪ふざけの仲間として一緒に扱われている。だから女子に可哀相な目で見られる。それだけじゃない。原因はまだある。
あの人がいつも公言していたからだ。「こいつは私の所有物なの! だから私が管理して私が好きなように扱って何が悪いの?」と本人たる僕がいる前でなんとまぁ堂々と言ってくれちゃったわけでして。それ以来、女子には「大丈夫? 幽霊くん」だとか「嫌になったら逃げ出してもいいんじゃない?」だとか色々同情的なことを言われる立場に。男子には喜ばれていると後で白崎君がこっそり教えてくれた。
話がずれたけど、あの人の送ってきた内容は簡潔に述べるとこうだった。
――話がある。いつもの公園に一時集合。絶対きなさい。所有物は所有者に歯向かうことは許されません。
以上。言い訳が多くて解析に時間がかかったが述べればこれだけ短縮できるのだ。全く、彼女は言い訳が多くて困る。そのくせ肝心なことは一々遠まわしに言ってきて、察しないと怒る。理不尽だと思うけど、彼此こんな関係を7年続けている。高校まで一緒、しかも僕は受験を控えている。今日だってぬこと遊んでそれから勉強に使おうと思っていたのに。彼女のせいで全部台無しだ。
ぶちぶちと文句を言ってるときに、ようやく彼女が顔をみせた。慌てて走ってきたのか、荒い息が白く立ち昇り、ふらふらとした足取りになっている。ぜーぜーと言いながら、ふらふら、よろよろと千鳥足のようにゆっくり進んでくる。僕も焦って駆け寄る。
「大丈夫!? みお!?」
「う、うるさいなぁ……遅くなって、走ったから、疲れて、ふらふら、してるだけでしょー?」
彼女――みおはぎろっ、と三角になった目で僕を睨む。ひぃっ、と小さい悲鳴が僕の口から漏れる。いけない、と思ったときはもう遅かった。
「あきら……あんた、何怖がってんの?」
「え、えと、その」
「まさか、まだ私が怖いとか抜かしてんじゃないでしょうね?」
「……」
「目を見て答えろ」
「ひぃっ!?」
ゾンビのような動きで僕の頭をロック。帽子越しにギリギリと10本の指が僕のこめかみに食い込む。
「いだだだだだだ!!!」
「答えろ。誰が、怖いって?」
「僕は、何も、言ってない!」
「ひぃっって言ったの、誰よ?」
「ひぃっ!」
「ほらまた」
「怖!」
「誰だよ!」
ごんっ、と目の前に花火が散った。その後眉間が痛く大の字に仰向けにぶっ倒れた。拳で殴られた。痛い……。背中に感じる雪が冷たい。
「何するのさっ!?」
「誰が怖いだ!」
「だって動きといい顔といい雰囲気と言い怖すぎ!」
「……あきら、遺言はそれだけね?」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
悪寒を感じて四つんばいで逃げようとしたところ、腰辺りに体重を感じる。そして。
「ぶえっ!?」
「逃げんな。誰が怖いかもっぺん言ってみ?」
「……痛い」
「痛いようにしてるからねっ」
首だけ振り返ると腰の辺りにみおが乗っていた。
「痛い、主に股間のあたりが! みおやめて踵で蹴らないで潰れる!」
「あんたの貧相なあれ、使えなくしてあげようか?」
「な、何言って!? やめてよ死ぬ!死ぬから!」
「うっさい! 今ここで去勢してやる!」
「うぎゃあああああああああああああ!!!!」
股間のあたりに痛みと熱さの衝撃。容赦ないみおの一撃は、僕の急所を的確に射抜いていた。
「ごめんなさいごめんなさいみおは全然怖くないからいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「よろしい」
最後に股間をげしっ! と蹴飛ばしてみおは腰から降りた。
「ぎゃぉう?!」
そして僕は最後の一撃を甘んじて受けるハメになった。
「……ふんっ。所有物が所持者に歯向かうからいけないのよ」
「……みお」
「何?」
「帰っていい?」
「ダメ」
「一時間待たされてなんで蹴られて踏まれて罵倒されなきゃいけないの?」
「あんたが脱線させたから」
「そんな理由で!?」
「うるさい。今度は思いっきり蹴るわよ」
「やめて死ぬ」
「じゃあさっさと立て。遅れたお詫びにこれあげる」
股間を何気に押さえながら僕は逃げこしで抛られたものたちを受け取った。これは……。
「そこの自販機で買ってきた。ありがたく受け取りなさい!」
「あ、ありがと……」
何故か胸を張っていった。缶のココアだった。しかも3つ。
「いくらぶん買ったの?」
「1000円分」
「買いすぎでしょ!?」
「うるさい」
ポケットをみると不自然に膨らんでいた。まだ沢山のココアたちが眠っているのだろうか?
「自棄でボタン連打してたらこうなっただけ。それだけ」
「……はい」
ここでやぶへび行為をするのは自殺だ。だからやめる。
「で、話ってなに?」
随分と遊ばれてしまった。遠慮なしに、すっぱり聞いた。
「話?」
「みおが呼び出ししたんでしょ!」
「そうだっけ?」
「帰る」
「じょ、冗談よ冗談! まったく、それくらい察しなさいよ」
「本気で怒るよ?」
「潰すわよ?」
「ごめんなさい」
「よろしい」
雪がどんどん降って来た。寒さも加速しているような気がする。
それ以来、僕らの間に会話が途切れてしまう。周りは静寂、嫌でも空気が重くなる。
みおは俯き、僕は空を見上げる。曇っている。
「……あきら」
沈黙を破ったのはみおだった。みると顔が紅潮している。
「な、何?」
僕は何だか手負いの獣のような迫力を感じて一歩下がる。
「あんた、私に黙って進学しようとしてたって、ほんと?」
「……」
しまった、と思った。顔を逸らしてしまう。
「ほんとなのね?」
「……」
「無言は肯定と取るわよ」
「…………ほんと、だよ」
更に一歩下がる。彼女が一歩進む。
「何処に進学するつもりなの?」
「…………慶応大学」
「…………よりによって、名門中の名門じゃない」
慶応大学は頭がよくなければ入れないことで有名な大学だ。僕は成績が何とか合格ラインに到達したため、そこにしようと決めたのだ。先生にもお墨付きを一応貰っている。
そのことを僕は彼女に伝えてなかった。だってそうすると絶対言うから。僕を所有物扱いして、さらには同じ大学に来いとまで命令されていたことがあったから。僕の未来は僕が決める。僕の人生だから。決めなくちゃいけなかった。
「何で一々伝えなきゃいけないの?」
僕は遂にたまっていた想いをぶつけることにした。今言わないと、もういえないような気がした。
「僕は自分の未来を自分で決めて、それで進むことにしたんだ。何でみおにそこまで報告しないといけないのさ?」
「…………あんたは、私の所有物でしょ?」
「……悪いけどね、普段はよくても進学だけはみおの所有物でいるつもりはないんだよ。僕の夢がかかってるんだから」
伝えた。はっきり、自分の言葉で。僕の夢は小説家になること。自分の思いを、自分の形で、自分の納得行くことで示したかった。軽い気持ちじゃない。
みおは俯いてしまう。
「大学いかなくてもなれるでしょ?」
「ダメだよ。文章を書くには、沢山のことを経験することが重要だし、何より客観的に物事を見れて、尚且つ立場にたってみることも出来なきゃいけない。そのためには経験が必要なんだ」
「大学に行く理由は、それだけ?」
「それだけじゃない。僕は決めたんだ。みおに何時までも引っ張ってもらうわけじゃなくて、自分でいい加減決められるようにならないといけないって」
「え?」
意外な言葉に、みおは顔を上げた。
「僕はね、みお。君に感謝してるんだ。僕は今まで、何一つ自分の意思で決めてこなかった。全部、みおが僕に与えてくれた。今いる学校だって、僕はみおが来いって言ったから入っただけでしょ? それだけじゃない。みおが僕の、愚図な僕の手を叱咤しながら引っ張ってくれたおかげで僕は今ここにいられる。僕にとってみおは、頼れるリーダーみたいな存在だったから」
「……」
「僕は、今まで何も考えてなかった。夢だって、歩き出したのはごく最近。それまでは、また適当にやればいいかな、って思ってた。でも、みおが示してくれたじゃない。「夢はそんなことじゃつかめない! 努力して、願って、目指してようやく手に入る」って」
「……あきら」
「僕一人なら、ただ浮かんでる浮遊物みたいなもんなんだ。水の流れる方に、意思もなく流れていくだけ。だけど、もう決めた。自分の夢くらい、自分でつかむ。だから、ずっといえなかったけど……ありがとう、みお。それと、ごめん。もう、決めたから」
「……」
みおは呆けた顔で僕をみる。まさか僕がこんな風に思ってるとは思ってなかったのだろう。ましては感謝すらしてるような僕は、変人かもしれない。だけど紛れもない本心だった。
「……所有物が、随分言うようになったわね」
やがてみおは不敵な笑みを浮かべていった。
「遂に私無しでやってくことを学習したのね。よろしい、ならいいわ。そこまでの想いがあるならもうなにも言わない。私の所有物じゃないわ、あきら。あんたはもう、一人でやっていける」
「うん」
にぃっ、と笑った。だけど、その瞳には。
「みお……」
「そう。私も、一言言おうと思ってたんだけど。違うこと言葉になっちゃった。でも、まぁいっか。結果として聞けたし。あきらの本心」
泣いていた。涙が雪と一緒に地面に墜ちる。
「いい? 私の手が無くても、叶えなさいよ? 夢なんでしょ?」
「うん」
「私を振り切ったんなら、それだけの結果、みせてよね。じゃないと私……諦められないから」
涙を拭おうとしないでみおは泣き笑いをしながら言う。
「あんたのこと、結構好きだったんだけどね……まさか失恋するとは思ってもみなかったわ」
「……みお」
「いいわ。私抜きで、受験、頑張ってね」
とだけ告げ、空いた距離を縮める。その一連の動作がすごく早くて僕は硬直していた。
「へ?」
――――ちゅっ。
唇に柔らかい感触。ゼロ距離のみおの顔。
「これ、今まで私の所有物でいてくれたお礼。初めてだから、光栄に思ってね。あきら」
とだけ最後に言って、彼女は走って行ってしまった。
それからしばらくして。
「……あれ? 僕、みおにキスされた?」
と雪空のした、ぼけっとしているだけだった。唇の熱とココアの熱がまだ僕を温めていた。
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