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作品ID:489
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約1785文字 読了時間約1分 原稿用紙約3枚
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ふらり
作品紹介
勢いの産物
気がついたら、ここにいた。
振り返ると、イチョウ並木の向こう側に、いつもの黒い影を見つけたので、よしとする。
私は、ふらふらと歩き始めた。
どこまでも続く、イチョウ並木。後ろに終わりは見えたけれど、前に入り口は見えない。私が進んでいるのか、それとも戻っているのかを知っているのは黒い影だけだろう。
声をかけてみようと思ったが、やめた。
影の声を聞いたことはない。
近づくと、離れていってしまうから。
それに、臆病者の私に、知らない人に話しかけるなんてことはできない。思わずため息が出てしまうほど、私は内気で、引きこもりだから。
考えながら、イチョウの葉を踏みしめた。銀杏をつける木はないらしく、特有のにおいもない。
ただただ、黄色い景色が広がっている。
私は、立ち止まって空を見上げた。
木の合間から、曇った空がちらほらと見えている。
今すぐにでも雪が降ってきそうな空だ。そのくせ、私の周りはほんわかと暖かい。
道に目を戻した。
決められた道が、行儀よくまっすぐに続いている。
私は、引きこもりではあるものの、型にはまるのは嫌いな人種である。
白くてもふもふした羊の集団の中にいたのなら、自ら泥沼に飛び込んで、まだら模様になろう。もしも道がどこまでも続くなら、私はこの道を外れよう。
足を、木と木の間に向けた。
向こうには、何があるだろう。
そのときだ。
「……は」
声が、聞こえた気がした。
向こう側には、人がいた。
「誰?」
こちらの質問には答えず、人、いや、人型の異種族が、私に問いかけた。
「あなたならわかるでしょう。この型にはまった道の続く、型にはまらぬ世界のどこに、隠し物をすればいいのか」
私は、それを見た。
異種族は、私の見慣れたものを持っていた。
私は、知っている。
隠し物を隠すには――。
私は、走った。
答えの場所はすぐそこだったけれど、すぐに忘れてしまいそうだったから。
「あそこ。あそこに隠したの」
そう、私は、隠し物をあそこに隠した。
振り返った私の視界が舞い散る薄桃色に支配されて、ゆがんで、遠くに見えた影が、どこかにいってしまった。
「――ソウ」
名前を呼ばれて、目を開けた。
静かにヘッドフォンをはずし、親友と向かい合う。
「カイ。西ブロックの自然公園の中だ」
「おいおい。一週間あっても探しきれないぞ、それじゃ。――正確な場所は?」
「万年桜の下」
「了解」
宙に出したボードに、すばやく答えを書いたカイは、ボードをガラスの向こうにいる仲間にサーブした。
それを見てから、前に目を戻した。
そこに、彼女がいる。
穏やかな、楽しげな顔で眠る少女。
「ユハもひどいことをしたもんだ。二十ある、超迎撃艦砲の制御装置を、それぞればらばらの場所に隠すとは」
「三十世界の使い手のユハのことだ。一つ一つ、別の世界に隠しているかとも思ったんだが」
「思い出の場所に隠していたね、彼女」
「失いたくなかったんだろう」
自分自身が最終セキュリティとして艦砲の一部となり、意識を失っているにもかかわらず。
黙っていると、親友が艦砲の概要図を出してきた。
全長十キロ。反動で倍くらい下がるらしい。
「最終セキュリティを解除したら、ユハはいなくなる。その代わり、三十世界のすべてが艦砲の射程範囲内に入る」
「皮肉なもんだ。一番、平和を望んでいたのはユハだろうに。平和のために死ぬんだから」
「殉教といえばいい」
「うちは仏教なんだがな」
その言葉に笑う親友のことは、よく知っているはずなのに、どこか、自分と違うものを感じていた。
同じ場所にいるのに、見据えているものはまったく違う。
「最後の最後に、ユハに関われるんだからいいじゃないか。影とはいえ、ユハの頭の中に入ることができるのは、隊長とお前だけなんだから」
「……ああ」
本当に、これでいいんだろうか。
「……本当に、平和を引き寄せるには、これしかないんだろうか」
カイの笑いが、止まった。
「当たり前だ。そんなことを考えているだけで反逆者だ」
真顔で、カイが答えた。実に堂々としている。
その言葉で、自分と親友に感じているずれがわかった。
その後カイが、先に部屋を出て行ったソウを見ることは、二度となかった。
振り返ると、イチョウ並木の向こう側に、いつもの黒い影を見つけたので、よしとする。
私は、ふらふらと歩き始めた。
どこまでも続く、イチョウ並木。後ろに終わりは見えたけれど、前に入り口は見えない。私が進んでいるのか、それとも戻っているのかを知っているのは黒い影だけだろう。
声をかけてみようと思ったが、やめた。
影の声を聞いたことはない。
近づくと、離れていってしまうから。
それに、臆病者の私に、知らない人に話しかけるなんてことはできない。思わずため息が出てしまうほど、私は内気で、引きこもりだから。
考えながら、イチョウの葉を踏みしめた。銀杏をつける木はないらしく、特有のにおいもない。
ただただ、黄色い景色が広がっている。
私は、立ち止まって空を見上げた。
木の合間から、曇った空がちらほらと見えている。
今すぐにでも雪が降ってきそうな空だ。そのくせ、私の周りはほんわかと暖かい。
道に目を戻した。
決められた道が、行儀よくまっすぐに続いている。
私は、引きこもりではあるものの、型にはまるのは嫌いな人種である。
白くてもふもふした羊の集団の中にいたのなら、自ら泥沼に飛び込んで、まだら模様になろう。もしも道がどこまでも続くなら、私はこの道を外れよう。
足を、木と木の間に向けた。
向こうには、何があるだろう。
そのときだ。
「……は」
声が、聞こえた気がした。
向こう側には、人がいた。
「誰?」
こちらの質問には答えず、人、いや、人型の異種族が、私に問いかけた。
「あなたならわかるでしょう。この型にはまった道の続く、型にはまらぬ世界のどこに、隠し物をすればいいのか」
私は、それを見た。
異種族は、私の見慣れたものを持っていた。
私は、知っている。
隠し物を隠すには――。
私は、走った。
答えの場所はすぐそこだったけれど、すぐに忘れてしまいそうだったから。
「あそこ。あそこに隠したの」
そう、私は、隠し物をあそこに隠した。
振り返った私の視界が舞い散る薄桃色に支配されて、ゆがんで、遠くに見えた影が、どこかにいってしまった。
「――ソウ」
名前を呼ばれて、目を開けた。
静かにヘッドフォンをはずし、親友と向かい合う。
「カイ。西ブロックの自然公園の中だ」
「おいおい。一週間あっても探しきれないぞ、それじゃ。――正確な場所は?」
「万年桜の下」
「了解」
宙に出したボードに、すばやく答えを書いたカイは、ボードをガラスの向こうにいる仲間にサーブした。
それを見てから、前に目を戻した。
そこに、彼女がいる。
穏やかな、楽しげな顔で眠る少女。
「ユハもひどいことをしたもんだ。二十ある、超迎撃艦砲の制御装置を、それぞればらばらの場所に隠すとは」
「三十世界の使い手のユハのことだ。一つ一つ、別の世界に隠しているかとも思ったんだが」
「思い出の場所に隠していたね、彼女」
「失いたくなかったんだろう」
自分自身が最終セキュリティとして艦砲の一部となり、意識を失っているにもかかわらず。
黙っていると、親友が艦砲の概要図を出してきた。
全長十キロ。反動で倍くらい下がるらしい。
「最終セキュリティを解除したら、ユハはいなくなる。その代わり、三十世界のすべてが艦砲の射程範囲内に入る」
「皮肉なもんだ。一番、平和を望んでいたのはユハだろうに。平和のために死ぬんだから」
「殉教といえばいい」
「うちは仏教なんだがな」
その言葉に笑う親友のことは、よく知っているはずなのに、どこか、自分と違うものを感じていた。
同じ場所にいるのに、見据えているものはまったく違う。
「最後の最後に、ユハに関われるんだからいいじゃないか。影とはいえ、ユハの頭の中に入ることができるのは、隊長とお前だけなんだから」
「……ああ」
本当に、これでいいんだろうか。
「……本当に、平和を引き寄せるには、これしかないんだろうか」
カイの笑いが、止まった。
「当たり前だ。そんなことを考えているだけで反逆者だ」
真顔で、カイが答えた。実に堂々としている。
その言葉で、自分と親友に感じているずれがわかった。
その後カイが、先に部屋を出て行ったソウを見ることは、二度となかった。
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