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作品ID:515
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約4824文字 読了時間約3分 原稿用紙約7枚
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ぼくとサンタのリクエスト
作品紹介
クリスマスのはなし。少年と、お父さん。
ハロウィンが終わったあとから、街はクリスマスの準備をしはじめた。まだ一ヶ月以上も先だっていうのに。いくらなんでも早すぎる、とぼくは思う。
だけど道を歩くスーツの男の人が「早すぎるんじゃないですか」とツリーを飾るお店の窓をたたくことはなかったし、小学校の同じクラスの友達はわくわくした様子でクリスマス色にぬりあげられていく街を眺めるだけだった。
早すぎる気がするのはぼくしかいないみたい。なんだかんだ、みんなクリスマスが好きなんだ。
十二月に入り、クリスマスソングがあっちこっちからぼくの耳の中に入ろうとやっきになるころ、ぼくが起きだしてダイニングに入ると、パパの機嫌はやたらとよかった。
ぼくはパパとふたりぐらしで、ママはいない。ママはパパとお別れをしていて、どこか知らないところでぼくらとは違う生活を送っている。さびしくはない。パパがいるから。これはとくに見栄でも無理でもなかった。ぼくのほかにもパパだけやママだけの子は同学年に片手で数え切れないくらいにはいたので、からかわれることもない。
パパは会社でお仕事をしている。朝家をでて、夜おそくに帰る。その時間にはぼくはもう寝ている。だからぼくらが話しをするのは朝だけだ。朝ごはんを食べながら話をして、パパが会社にいくのを見送ったら、つぎに会えるのは明日の朝。
「勇太」パパが歯をみせてわらいながら、ぼくのなまえをよんだ。
「なに? パパ」返事をする。
パパがこんなにうれしそうにわらっているわけに心当たりはなかった。ただパパの両手がパパのせなかのうしろに回っていたから、なにかパパがかくしもっているのはわかった。
「じゃじゃーん」言いながらパパがうしろに回していた手をぼくの前につきだす。
赤くて、でっかくて、うすっぺらいものだった。
「…くつ下?」その名前を言うと、パパはおおきくうなずいた。
くつ下といっても、はくようなのじゃなかった。それにしてはでかすぎるし、
かたっぽだけしかない。ふつう足をつっこむ穴のとこをぐるっとかこむみたいに、白いふわふわしたものまでついている。クリスマスの、あれだ、お店にかざられるようなやつ。かざりである証拠に、ひっかるためにわっかになったヒモがついてる。
パパは得意げだった。
「これを勇太の部屋にかざるといい。それからこの中にクリスマスになにがほしいか書いた紙を入れるんだ、サンタさんに向けてな」
「まだ早くない?」
「えぇ、もう十二月だぞ? サンタさんは世界中の子どもにプレゼントをあげなきゃいけないから忙しいんだ。早くリクエストしとかないと、サンタさんもギリギリじゃあ用意が間に合わないかもしれない」
「ふうん」
「勇太ももう一年生だし、ひとりで書けるだろ?」
「うん」
くつ下をうけとると、パパはまたわらった。ごはんをたべたあと、じゃあもう会社に行く時間だ、と立ち上がる。ぼくはパパに玄関で手をふって、パパがいったあとドアの鍵をかけた。食パンをトースターにつっこんで、こんがり焼けたそれをのみこむ。お皿を洗ったあと、くつ下を手にじぶんのへやに行って、さてどこにかけるべきかと考えた。
くつ下は、ベッドの近くにあるタンスのひきだしの、まるい取ってにひっかけることにした。
その日の夕方、そういえばリクエストの紙を書かないと、と思いたった。
クリスマスにリクエストなんて書くのははじめてだ。去年は朝起きたらまくらもとに新品の本がつまれていた。おととしはオモチャ。その前は…、わすれたけど。とにかくクリスマスのプレゼントは朝起きるとそこにいて、初対面だった。まえから気になってたんだ、なんてことはなく、ほんとに初対面のモノたちと、そこで出会う。そういうものだと思っていた。出会うものが自分で決められるなんて知らなかった。でもきっと、これからそれが当たりまえになるんだろうな。
てきとうに白い紙とえんぴつを一本だして、つくえに向かった。なにか書こうと思ったけど、手は止まってしまった。書きたいものが思い浮かばなかった。ゲームはいまあるものでじゅうぶんで、新しいものがほしいわけでもないし、オモチャだって同じだ。今ない状態でへいきなんだから、いらない気がした。
ほしいものほしいもの…と五回くり返して、そういえば学校でつかう名前ペンがでなくなってきてた、と気づいたので、大きく「なまえペン」と書く。それから最近まるつけの赤えんぴつが短くなっていたので、それもつけたした。
ぼくは紙をくつ下の中に入れて、そのあと冷蔵庫のなかのごはんをあっためて食べて、お風呂にはいって、寝た。
次の日朝起きて、ぼくはちいさな変化に気がついた。
きのう紙をしっかりくつ下の中に入れたのに、今日みると白い紙のさきっぽがくつ下からとびだしている。ふしぎに思って紙をとりだすと、なんとぼくが入れた紙ではなかった。そこに書かれた文字は、ぼくの字じゃない。
「たったそれだけでいいのかい? もっとすごいものをたのんだって、ぼくはきみにあげられるよ」
下のほうには「サンタクロースより」。なるほど、サンタはリクエストにお返事をくれるらしい。
「なまえペン、あかえんぴつ」と書いた紙はサンタがもっていったらしく、くつ下の中から消えていた。
サンタの字はまるっこくてかわいくて、だけどちょっとムリしてそう書いたような字だった。
読むかぎり、サンタはぼくがエンリョしてると思ってるみたいだ。ぼくとしてはふたつも書いちゃったというきもちだったけど。名前ペンと赤えんぴつは、リクエストにふさわしくないのか。
その夜、サンタからのメッセージは引きだしにしまって、新しく書き直すことにした。なまえぺん、あかえんぴつに加えて、二年生になるときのために、がくしゅうちょう、と書いて、またくつ下にいれた。
次の日、またぼくの書いた紙はなくなっていて、かわりにサンタからの手紙があった。
「そういうものはいつでも買ってもらえるだろう? ゲームやオモチャはほしくないのかい?」
ぼくは二回ダメだしをされた気分になって、とほうにくれた。
いや、ダメだしというより、ゲームやオモチャをリクエストしてほしいというサンタからのリクエストだ。じゃあぼくの意見なんかきかないで決めてくれたほうが早いのに、と思った。面と向かえばすぐおわる話に何日もかけなきゃいけないのも、なんだかめんどくさいと思った。
「いまあるものでじゅうぶんなので思いつきません、すきによういしてください」
そう書いてくつ下にいれた。
朝になると返事がきていた。こうなるとくつ下はポストみたいだ。
「ごめん、おしつけたいわけじゃなかったんだ。きみがほしいものじゃないといみがない。きみのリクエストなんだ」
サンタはなんだかあせっていて、一通目とくらべてだいぶ字のかわいさがへっていた。
どうすればいいんだろう。
「ぼくのリクエスト…」
ぼくのリクエスト。ぼくのほしいもの。声にだしてとなえてみた。だめだ思いつかない。だけどそれぞれ十回くり返したところで、頭の中で豆電球がついたみたいに、ぱっとひとつ思いついたことがあった。
「ぼくの分のプレゼントを、パパのプレゼントにしてください。ぼくじゃなくて、パパのほしいものを、パパのよろこぶものをあげてください」
パズルがはまるように、ぼくにはしっくりくる答えだった。むねが気持ちよくすうっとした。これならサンタもなっとくしてくれるだろう。
次の日、くつ下に返事が入っていた。ぼくのそうぞうとはぜんぜんちがった。
「きみのパパは、ぼくにプレゼントをもらってもきっとよろこばない。ぼくにほしいものをきかれてもきっとうれしくない。きかれるなら、ぼくじゃなくてきみにきいてほしいと思っているはずだよ」
かわいさはどこかに忘れさられてしまったようで、きっちりした真剣な字がならんでた。
読んだとたん、ぼくの体はあつくなった。
なべを火にかけて、中の水がボコボコあわをたてるのと同じように、おへその下からボコボコと、大きな音とともにあつさがはいあがってきて、あっというまに頭のてっぺんにとうたつした。顔はぎゅっとかたくなって、むねがむかむかして、へんに力が入った。
怒りだった。
気づいたらぼくは新しい紙に、なぐりつけるように字をかいていた。
「それならぼくだってきいてほしかった」
ぼくがいままで書いたなかで、いちばんらんぼうな字だった。
ダイニングにいったけどパパはいなかった。そういえば今日は早くに出ると教えられていた。大きな音をたてながらパンにかじりついたけど、むかむかはなくならなかった。
いちおう言うけど、最近の小学一年生のほとんどは、もうサンタを信じてない。だれにいわれるわけでもなく、ぼくだってそのふんいきを感じとっていた。そんなもんだ。パパの字のくせだって覚えてるから、手紙だってパパからだとすぐわかった。子どもはそんなにバカじゃあない。
だけどパパが、ぼくがわかってると思ってないのもわかっていたし、くつ下もくれたから、ぼくは「サンタ」にリクエストしたんだ。
なのに。
”きみにきいてほしいとおもってる”
それならぼくだって。
「サンタ」じゃなくて、「パパ」にきいてほしかった。
次の日の朝、ぼくのなぐりがきはなくなっていたけど、返事もなかった。空っぽのくつ下を見てると、ぼくまで空っぽになりそうだと思った。
ダイニングにはパパがいて、ぼくに背をむけてすわってた。ドアを開けたけど、ふりかえらなかった。
「勇太」静かな中、こっちを見ないままパパはしゃべりだした。
「パパは、おまえにプレゼントをしたかった。なにかおまえの喜ぶすごいものをあげて、しあわせそうなおまえが見たかったんだ。勇太に喜んでほしいんだ」
パパがふり返った。まっすぐ目が合う。
「勇太がほしいものは、なんだ」
ふっとあつくなった。こんどは体じゃなくて目だった。パパのパパとしてのことばだった。
「ぼくは」声のはじめがうまく出ない。「ぼくは、いましあわせだよ、じゅうぶんしあわせ。ぼくはパパがすきだから。だからべつに、いらないんだ。ぼくはパパが、パパがよろこんでくれるのがいいんだ。パパがうれしいのがしあわせなんだ」
いったん口をとじて、もういちどひらく。
「パパが、ほしいのは?」
パパが顔をくしゃっとさせてわらった。
「困ったなあ。おれも勇太がしあわせなら、それでいいんだよ」
ああ、ほら。やっぱり何日もかけてサンタと手紙をこうかんするより、こっちのほうがずっとはやいよ、パパ。
その後パパはこういった。
「多分あれだよな、ものにしようとするからダメなんだよな」つづきはこうだ。「じゃあ勇太、クリスマスはどっかふたりでうまいもん食べにいくか!」
「えっ、パパ仕事は!?」
「超特急で終わらせて、七時前にはかえってくるよ」
「ほんと!?」
「それでいいか?」
「パパと一緒にごはん、たべたい!」
そのことばどおり、クリスマスの日、パパは七時前にかえってきて、ぼくらは中華をたべにいった。プレゼントのリクエストはあんなに悩んだけど、たべものだとすぐに決めることができた。料理はおいしくて、パパとの話もたのしかった。その思い出はぼくへのクリスマスプレゼントになって、ぼくからのクリスマスプレゼントになった。
ちなみにつけたすと、ぼくは大きくなっても、あのサンタからの手紙を引きだしの奥にだいじにとっておく。それもだいじな思い出の一部だから。
パパの部屋のほんだなで、かくすように本のあいだにそのときぼくの書いた紙たちがはさまれているのをみつけて、パパもだいじにとっといてるのかってぼくが思わずわらうのは、まだまだ先のことだけど。
だけど道を歩くスーツの男の人が「早すぎるんじゃないですか」とツリーを飾るお店の窓をたたくことはなかったし、小学校の同じクラスの友達はわくわくした様子でクリスマス色にぬりあげられていく街を眺めるだけだった。
早すぎる気がするのはぼくしかいないみたい。なんだかんだ、みんなクリスマスが好きなんだ。
十二月に入り、クリスマスソングがあっちこっちからぼくの耳の中に入ろうとやっきになるころ、ぼくが起きだしてダイニングに入ると、パパの機嫌はやたらとよかった。
ぼくはパパとふたりぐらしで、ママはいない。ママはパパとお別れをしていて、どこか知らないところでぼくらとは違う生活を送っている。さびしくはない。パパがいるから。これはとくに見栄でも無理でもなかった。ぼくのほかにもパパだけやママだけの子は同学年に片手で数え切れないくらいにはいたので、からかわれることもない。
パパは会社でお仕事をしている。朝家をでて、夜おそくに帰る。その時間にはぼくはもう寝ている。だからぼくらが話しをするのは朝だけだ。朝ごはんを食べながら話をして、パパが会社にいくのを見送ったら、つぎに会えるのは明日の朝。
「勇太」パパが歯をみせてわらいながら、ぼくのなまえをよんだ。
「なに? パパ」返事をする。
パパがこんなにうれしそうにわらっているわけに心当たりはなかった。ただパパの両手がパパのせなかのうしろに回っていたから、なにかパパがかくしもっているのはわかった。
「じゃじゃーん」言いながらパパがうしろに回していた手をぼくの前につきだす。
赤くて、でっかくて、うすっぺらいものだった。
「…くつ下?」その名前を言うと、パパはおおきくうなずいた。
くつ下といっても、はくようなのじゃなかった。それにしてはでかすぎるし、
かたっぽだけしかない。ふつう足をつっこむ穴のとこをぐるっとかこむみたいに、白いふわふわしたものまでついている。クリスマスの、あれだ、お店にかざられるようなやつ。かざりである証拠に、ひっかるためにわっかになったヒモがついてる。
パパは得意げだった。
「これを勇太の部屋にかざるといい。それからこの中にクリスマスになにがほしいか書いた紙を入れるんだ、サンタさんに向けてな」
「まだ早くない?」
「えぇ、もう十二月だぞ? サンタさんは世界中の子どもにプレゼントをあげなきゃいけないから忙しいんだ。早くリクエストしとかないと、サンタさんもギリギリじゃあ用意が間に合わないかもしれない」
「ふうん」
「勇太ももう一年生だし、ひとりで書けるだろ?」
「うん」
くつ下をうけとると、パパはまたわらった。ごはんをたべたあと、じゃあもう会社に行く時間だ、と立ち上がる。ぼくはパパに玄関で手をふって、パパがいったあとドアの鍵をかけた。食パンをトースターにつっこんで、こんがり焼けたそれをのみこむ。お皿を洗ったあと、くつ下を手にじぶんのへやに行って、さてどこにかけるべきかと考えた。
くつ下は、ベッドの近くにあるタンスのひきだしの、まるい取ってにひっかけることにした。
その日の夕方、そういえばリクエストの紙を書かないと、と思いたった。
クリスマスにリクエストなんて書くのははじめてだ。去年は朝起きたらまくらもとに新品の本がつまれていた。おととしはオモチャ。その前は…、わすれたけど。とにかくクリスマスのプレゼントは朝起きるとそこにいて、初対面だった。まえから気になってたんだ、なんてことはなく、ほんとに初対面のモノたちと、そこで出会う。そういうものだと思っていた。出会うものが自分で決められるなんて知らなかった。でもきっと、これからそれが当たりまえになるんだろうな。
てきとうに白い紙とえんぴつを一本だして、つくえに向かった。なにか書こうと思ったけど、手は止まってしまった。書きたいものが思い浮かばなかった。ゲームはいまあるものでじゅうぶんで、新しいものがほしいわけでもないし、オモチャだって同じだ。今ない状態でへいきなんだから、いらない気がした。
ほしいものほしいもの…と五回くり返して、そういえば学校でつかう名前ペンがでなくなってきてた、と気づいたので、大きく「なまえペン」と書く。それから最近まるつけの赤えんぴつが短くなっていたので、それもつけたした。
ぼくは紙をくつ下の中に入れて、そのあと冷蔵庫のなかのごはんをあっためて食べて、お風呂にはいって、寝た。
次の日朝起きて、ぼくはちいさな変化に気がついた。
きのう紙をしっかりくつ下の中に入れたのに、今日みると白い紙のさきっぽがくつ下からとびだしている。ふしぎに思って紙をとりだすと、なんとぼくが入れた紙ではなかった。そこに書かれた文字は、ぼくの字じゃない。
「たったそれだけでいいのかい? もっとすごいものをたのんだって、ぼくはきみにあげられるよ」
下のほうには「サンタクロースより」。なるほど、サンタはリクエストにお返事をくれるらしい。
「なまえペン、あかえんぴつ」と書いた紙はサンタがもっていったらしく、くつ下の中から消えていた。
サンタの字はまるっこくてかわいくて、だけどちょっとムリしてそう書いたような字だった。
読むかぎり、サンタはぼくがエンリョしてると思ってるみたいだ。ぼくとしてはふたつも書いちゃったというきもちだったけど。名前ペンと赤えんぴつは、リクエストにふさわしくないのか。
その夜、サンタからのメッセージは引きだしにしまって、新しく書き直すことにした。なまえぺん、あかえんぴつに加えて、二年生になるときのために、がくしゅうちょう、と書いて、またくつ下にいれた。
次の日、またぼくの書いた紙はなくなっていて、かわりにサンタからの手紙があった。
「そういうものはいつでも買ってもらえるだろう? ゲームやオモチャはほしくないのかい?」
ぼくは二回ダメだしをされた気分になって、とほうにくれた。
いや、ダメだしというより、ゲームやオモチャをリクエストしてほしいというサンタからのリクエストだ。じゃあぼくの意見なんかきかないで決めてくれたほうが早いのに、と思った。面と向かえばすぐおわる話に何日もかけなきゃいけないのも、なんだかめんどくさいと思った。
「いまあるものでじゅうぶんなので思いつきません、すきによういしてください」
そう書いてくつ下にいれた。
朝になると返事がきていた。こうなるとくつ下はポストみたいだ。
「ごめん、おしつけたいわけじゃなかったんだ。きみがほしいものじゃないといみがない。きみのリクエストなんだ」
サンタはなんだかあせっていて、一通目とくらべてだいぶ字のかわいさがへっていた。
どうすればいいんだろう。
「ぼくのリクエスト…」
ぼくのリクエスト。ぼくのほしいもの。声にだしてとなえてみた。だめだ思いつかない。だけどそれぞれ十回くり返したところで、頭の中で豆電球がついたみたいに、ぱっとひとつ思いついたことがあった。
「ぼくの分のプレゼントを、パパのプレゼントにしてください。ぼくじゃなくて、パパのほしいものを、パパのよろこぶものをあげてください」
パズルがはまるように、ぼくにはしっくりくる答えだった。むねが気持ちよくすうっとした。これならサンタもなっとくしてくれるだろう。
次の日、くつ下に返事が入っていた。ぼくのそうぞうとはぜんぜんちがった。
「きみのパパは、ぼくにプレゼントをもらってもきっとよろこばない。ぼくにほしいものをきかれてもきっとうれしくない。きかれるなら、ぼくじゃなくてきみにきいてほしいと思っているはずだよ」
かわいさはどこかに忘れさられてしまったようで、きっちりした真剣な字がならんでた。
読んだとたん、ぼくの体はあつくなった。
なべを火にかけて、中の水がボコボコあわをたてるのと同じように、おへその下からボコボコと、大きな音とともにあつさがはいあがってきて、あっというまに頭のてっぺんにとうたつした。顔はぎゅっとかたくなって、むねがむかむかして、へんに力が入った。
怒りだった。
気づいたらぼくは新しい紙に、なぐりつけるように字をかいていた。
「それならぼくだってきいてほしかった」
ぼくがいままで書いたなかで、いちばんらんぼうな字だった。
ダイニングにいったけどパパはいなかった。そういえば今日は早くに出ると教えられていた。大きな音をたてながらパンにかじりついたけど、むかむかはなくならなかった。
いちおう言うけど、最近の小学一年生のほとんどは、もうサンタを信じてない。だれにいわれるわけでもなく、ぼくだってそのふんいきを感じとっていた。そんなもんだ。パパの字のくせだって覚えてるから、手紙だってパパからだとすぐわかった。子どもはそんなにバカじゃあない。
だけどパパが、ぼくがわかってると思ってないのもわかっていたし、くつ下もくれたから、ぼくは「サンタ」にリクエストしたんだ。
なのに。
”きみにきいてほしいとおもってる”
それならぼくだって。
「サンタ」じゃなくて、「パパ」にきいてほしかった。
次の日の朝、ぼくのなぐりがきはなくなっていたけど、返事もなかった。空っぽのくつ下を見てると、ぼくまで空っぽになりそうだと思った。
ダイニングにはパパがいて、ぼくに背をむけてすわってた。ドアを開けたけど、ふりかえらなかった。
「勇太」静かな中、こっちを見ないままパパはしゃべりだした。
「パパは、おまえにプレゼントをしたかった。なにかおまえの喜ぶすごいものをあげて、しあわせそうなおまえが見たかったんだ。勇太に喜んでほしいんだ」
パパがふり返った。まっすぐ目が合う。
「勇太がほしいものは、なんだ」
ふっとあつくなった。こんどは体じゃなくて目だった。パパのパパとしてのことばだった。
「ぼくは」声のはじめがうまく出ない。「ぼくは、いましあわせだよ、じゅうぶんしあわせ。ぼくはパパがすきだから。だからべつに、いらないんだ。ぼくはパパが、パパがよろこんでくれるのがいいんだ。パパがうれしいのがしあわせなんだ」
いったん口をとじて、もういちどひらく。
「パパが、ほしいのは?」
パパが顔をくしゃっとさせてわらった。
「困ったなあ。おれも勇太がしあわせなら、それでいいんだよ」
ああ、ほら。やっぱり何日もかけてサンタと手紙をこうかんするより、こっちのほうがずっとはやいよ、パパ。
その後パパはこういった。
「多分あれだよな、ものにしようとするからダメなんだよな」つづきはこうだ。「じゃあ勇太、クリスマスはどっかふたりでうまいもん食べにいくか!」
「えっ、パパ仕事は!?」
「超特急で終わらせて、七時前にはかえってくるよ」
「ほんと!?」
「それでいいか?」
「パパと一緒にごはん、たべたい!」
そのことばどおり、クリスマスの日、パパは七時前にかえってきて、ぼくらは中華をたべにいった。プレゼントのリクエストはあんなに悩んだけど、たべものだとすぐに決めることができた。料理はおいしくて、パパとの話もたのしかった。その思い出はぼくへのクリスマスプレゼントになって、ぼくからのクリスマスプレゼントになった。
ちなみにつけたすと、ぼくは大きくなっても、あのサンタからの手紙を引きだしの奥にだいじにとっておく。それもだいじな思い出の一部だから。
パパの部屋のほんだなで、かくすように本のあいだにそのときぼくの書いた紙たちがはさまれているのをみつけて、パパもだいじにとっといてるのかってぼくが思わずわらうのは、まだまだ先のことだけど。
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