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作品ID:551
こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約7730文字 読了時間約4分 原稿用紙約10枚
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悪ガキだって恋をする
作品紹介
悪ガキこと伊吹の物語です。
学園恋愛系を書こうと思ってこうなりましたが、
キャラ・ストーリー共に問題点が多いと思います。
ぜひご指摘を下さい。
学園恋愛系を書こうと思ってこうなりましたが、
キャラ・ストーリー共に問題点が多いと思います。
ぜひご指摘を下さい。
ゴーン、ゴーン。授業終了の鐘が鳴り、生徒が一斉に教室から飛び出て行く。その様子が屋上からははっきりと見える。監視官にでもなった気分だ。この霧早中学校は私立の中学校で、公立の中学校とは明らかに異なったような時間割である。8:30の一斉登校から一日が始まり、そこからは一時間の授業が三回ある。その後は、昼食をはさみ、四時間目。これが終わると休息時間になり、皆が外で遊びだす。ちょうど今である。生徒らは元気よく昇降口を駆け抜け、校庭へと出て行く。校庭には遊具こそないものの、市内で最も広い校庭らしい。そのおかげかはわからないが、この学校の生徒は三年連続「元気な中学校グランプリ」の一位に輝いているらしい。やたらと無駄なグランプリが多いのが、この市の特徴である。
さて、俺が何者かというと実はこの学校の関係者である。関係者の中でも、相当深い関係だ。そう、俺はこの学校の生徒なのだ。そして、生徒の中でも特殊な存在、「悪ガキ」を名乗っている。今も教室で昼食を食べ終わった後、こうして屋上で四時間目をさぼり、さらにはのんびりと急速時間を過ごしているというわけだ。たまに、女優の話や漫画の話など悪友との会話も楽しんでいる。しかし、この屋上に煙が連なることは一度もない。何を隠そう、俺らはタバコを吸っていないのだ。「屋上でたむろしている学生」というとタバコを吸っていたり、制服を着崩していたり、といわゆる「不良」のイメージがつきものだ。しかし、俺らは違う。「不良」ではない。タバコを吸っていなければ、制服もしっかりと着ている。部活にも所属しているし、定期テストもしっかりと受けている。授業も半分くらいは聞いているし、人に迷惑をかけるような悪いことは滅多にしていない。だから、俺らは「不良」ではない。あくまでも「悪ガキ」なのである。
そんな悪ガキである俺らのお気に入りの場所はこの屋上だ。。別にこの学校では屋上への侵入が許可されているわけではない。むしろ禁止されている、と思う。というのは、入口の扉に鍵がかかっているからだ。それなのに、なぜ俺らが入れているのか。それは鍵を持っているからだ。鍵はあるとき、俺の悪友の一人が生徒会の用事で入った会長を尾行していて、会長がカギを置きっぱなしにしていたので、いただいてきたのだ。現在、そのカギは合鍵を二つ作り、俺と悪友二人の計三人が所持している。ちなみに、そのあと生徒会長は先生方に怒られ、生徒会長職の没収まで話が言ったが、なんとかセーフになったようである。もし、そのせいで会長がクビになっていたらさすがに、俺らにも罪悪感がこみ上げてきて非常に嫌な思いをするところであった。俺たちもその時は一安心したものである。まあ、そんなこんなで俺たちは屋上に出入りができる。ここは、涼しいし、先生らになかなか見つからないし、何よりも景色が綺麗だ。遠くに見える山々とその先にかすかに見える海。青い空に真っ白な雲が広がり、清々しい世界を映しだしている。この景色がなくならない限り、卒業しても俺は忍び込んででも、ここに来るだろう。
「そろそろ戻ろうぜ」
悪友の一人-真岡尊が俺ら二人-俺と立花葵に声をかける。気付くと、時間は2時半。休息時間の終了時刻であった。
「次の時間は国語だ。あの盛岡先生だぞ。さすがにサボれないよな。また二時間も説教を受けるのは嫌だぜ。」
と、葵。そう、国語の盛岡は怖いのである。何度、説教を受けたことか。急いで俺らは教室に戻った。すると、入り口には二人の女子が立ちふさがっていた。江上と最上だった。なぜか怒っている。急いで、教室に入りたいのに。こういうときに限って、クラス委員と生活委員が説教に来るのだ。
「あなたたちはなんでいつもそうなの!授業直前にのこのこと戻ってきて!早く席に着きなさいよ!」
最上がかすれた声で叫ぶ。が、それが悪かった。授業のためにやってきた盛岡に見つかった。「廊下で騒いだ」という理由により、まったく喋っていない俺らと、興奮気味の女子二人-江上と最上の計五人は三十分程度廊下で説教を受けた。廊下で騒いでいるのはどちらだろうか…。よく分からなくなってくる。そうして、早めに屋上を出たものの、結局盛岡の説教を受けてから国語の授業が始まるのだった。
明くる日、教室に入るといつもよりもざわざわとしていた。席に座り、近くにいた前の席の真岡に「何かあったの?」と尋ねる。すると、真岡ではなく、なぜか近くにいた菅田が、「実は転校生が来るらしいんですよ」とやけに丁寧に答えた。いや、そういう口調のやつなのだ。なんかイラつく。理由は特にない。俺はこの菅田が苦手なのだ。
「伊吹、その転校生かわいいといいなー。」
と、真岡が俺に声をかけてくる。言ってなかったかもしれないが俺の名は八十島伊吹だ。出席番号29番。このクラスの最後だ。
「伊吹、転校生って空いてる席に来るからお前の隣じゃね?かわいいといいな。俺にも喋らせろよ。」
そう、このクラスは女子が14人。男子が15人。俺は男子の最後で、なぜか担任が席に関して「出席番号で」とこだわったため、俺の隣はいなかった。真岡の言う通り、そいつの名前に関係なく、俺の隣が、そいつになるだろう。しかし、何かを勘違いしている気がする…。のどの上まで来ているのに、何かが分からない。ひっかかる。
「おーい、なんの話をしてるのー」
そう言いながら俺の席にやってきたのは立花。席は少し遠いが、おしゃべりをする為に、朝はいつもここに来る。
「転校生が来るらしいから伊吹の隣に座るだろう、って話。かわいいといいなー。」
「転校生がかわいいなんて、アニメと小説の中だけの話じゃないか?」
「でも、一応願うのが男というものよ。」
「真岡が男を語るとはな。驚きだぜ。」
真岡と立花の会話が弾む。そして、何かが引っかかる。うーん。…。あ、わかった。俺も真岡も立花も転校生は女だと勝手に勘違いしていた。女子の人数が少ないから、きっと女子が転校してくるという予想を持っていた。あぁ、ばかだ。男子かもしれなかった。隣に来るのは男子かも…。ノリが悪いやつだといやだな。そう思いつつ、「男かもしれない」ということを真岡と立花に伝えると、二人とも今気づいたと大きく驚き、悲しみの表情を浮かべた。
「そう、だった…。無念。」
真岡はそう言って、床に倒れた。その頭を江上が、またいで前へと歩いていった。あやうく踏みそうな感じだった。
「江上がスカートだったら良かったのにな。」
その様子を見て立花が真岡にそう声をかけるが真岡は立ち上がりながら「江上だから興味なし」と答えた。そして、三人でけたけたと笑っていた。すると、チャイムが鳴った。急いで、立花が自分の席に向かい走っていった。途中で教室に落ちていたバナナの皮に滑って転んでいた。謎の光景である。菅田もすでに戻っていたらしい。そういえば、途中からいなかったかもしれない。チャイムが鳴り終わると同時に先生とこの学校の制服を着た女の子が入ってきた。彼女は堂々とクラスを見ながら、自己紹介をした。悠月明日香、というそうである。悠月、ゆうづき。夕月じゃないんだな、珍しい名前だな、なんて思いつつ彼女のことをよく見ると…かわいい。この学校の女子はどうも、静かな奴が多い。転校生でありながら、堂々と入ってきた彼女の様子に驚いていてその美貌に気づかなかった。肩あたりまで伸びた美しい茶髪。目線は少し強く、勇ましく、でもどこか不安を帯びている。そんな表情だと思う。ああ、いい。そして、悠月はこちらへとやってきた。こんな理想的な美少女が隣だなんて…。そのとき、俺は彼女に惚れてしまったのだ。恋をしたのだ。
別にこの学校にかわいい子がいないわけではない。いや、むしろ多いと思う。でも、全員大人しすぎる。大概の男子にはこれがまたたまらないようであるが、俺は強気な女子の方がいい、と思う。少し変わっているかもしれない。でもそんなことは関係ない。自分のタイプは人に決められたくない。さて、その日から授業を受けていくと、彼女の強気な様子は明らかだった。発表の回数も随一。大きな声で、全体に。「発表が少ない」と怒られることが極端に減った気がする。席が隣ということもあり、たくさん話した。言葉にとげがある。悪口が入ってくるのだ。ちなみに、「不良」ではなく、「悪ガキ」だ、と述べたときには「子供っぽい」「幼稚だ」「馬鹿のすること」などと返された。しかしそれすらも苦ではなく、「彼女について、もっと知りたい」と思うようになっていた。その日、久々に部活に行くと、他のクラスのやつらが、悠月に関して噂をしていたようだった。ボールを取りに行く最中に少し耳に入ってきた会話が、
「一組に来た転校生の悠月ってやつ、すげーかわいいらしいぜ。」
「らしいな。でも、性格がとげとげしいらしいよ。発表回数も多いとか。」
「あぁ…。それは残念だな。やはり、石野が一番だな。あいつの女の子っぽさは完全体だな。」
やはり、一般人には彼女の良さが分からないらしい。でも、それでいい。彼女に好意を抱くのは俺でいい。彼女にとげとげしく当たられるのも、時折見せる柔らかい笑顔も俺だけのものになればいいのに。あぁ、これが独占欲というやつか。俺も恋をするようになったんだな。
その日の夜、俺はなかなか寝つけなかった。頭にどうしても彼女の顔が浮かんでくる。そして、ふと笑みがこぼれる。かわいい。そして、顔を強く横に振る。寝る前まで考えているとなんだか気持ち悪い。さっさと寝よう。目を閉じ、必死に脳内から「悠月」を振り払った。
次の日、朝教室に入ると隣に悠月がいた。普通におはよう、と声をかけると、「うるさい」と返ってきた。ふ、予想通りのかわいい子だこと。そのまま、いつも通り、真岡や立花としゃべっていた。今日の四時間目は音楽、だから屋上でさぼるか。なんて、悪友2人に声をかけてると悠月から「さすが、不良」と言われた。それに対して、俺は「不良じゃねーよ。ただの『悪ガキ』だ。」とだけ返した。そして、周りの皆は驚いている。なぜかって?それは俺が「不良」って言われると、いつも問答無用で相手を殴るからだ。たとえ、先生でも殴る。反射的に身についたものだから殴らない、というのは難しい。それが殴らなかったというのだから驚きだ。たぶん、これだけでみんなは-転校してきたので俺の生態を良く知らない悠月以外は俺が彼女に好意を抱いていることに気づいてしまうだろう。まあ、いっか。そんなこんなで、一から三時間目を受け、(二時間目は国語だったからまじめに受けた、彼女はその様子を笑っていた。)昼飯の後は屋上でさぼり、そのまま、休息時間は景色を見ながら過ごし、その景色をいつか悠月に見せたいな、なんて思っていた。勘のいい真岡からは「今、この景色をあいつに見せたいとか思ってるだろ」と、核心を突かれてしまった。明日には、学年中に俺の気持ちが広まっていそうだな。なんだか、俺の生活が彼女で染まりつつあるな。恋ってこんなに大変なのか。面倒くさいといつもなら感じそうだ。どうもそれを感じないのが『恋』というものらしい。
彼女が来て何日か経って。真岡や立花と共に屋上で授業をさぼっているときだった。屋上の扉が開いた。立花と真岡に鍵をかけてないのか小さく聞くと、真岡が忘れたかも、と答えた。真岡を軽く殴りつつ、急いで貯水塔の陰に隠れる。先生だったらまずい。鍵を没収されるかもしれない。そう、びくびくしていると屋上に現れたその人間はこちらに向かってきて、その本性をさらけ出した。そいつは最上だった。席が真岡の隣、俺の斜め前、悠月の前である。先日、盛岡に起こられた原因の張本人でもある。彼女は俺と互いによく見える位置まで来ると、話を始めた。単刀直入に。
「いつになったら、あなたは悠月さんに告白をするの?」
「…。」
予想していなかった、というか考えていなかった。告白をするなんて。俺は今回初めて恋をした。初恋だ。だから、そういうことに疎いのだ。
「彼女のことを好きなんでしょ。だったら、思いを伝えればいいじゃない。」
確かに、そうかもしれない。明らかに俺は彼女に惚れている。出会ったその日から。しかし、告白…。告白って…。だって、告白、だろ?うーん…。
「そんなことも伝えられないの?この不良が!」
彼女の頬が赤くなった。とっさに俺が彼女を殴ってしまっていたようだ。「不良」といわれると体が敏感に反応して、相手のことを殴るという習性がしっかりとできているようだ。癖だから仕方ない。謝ろうとすると、それより先に彼女が話し出した。
「前、いつか彼女が不良ってあなたのことを読んだとき、あなたは不良じゃねーよとしか言わなかったわよね。でも、あたしに対しては殴った。他の子に対しても殴る。あの森岡先生にだって殴った。あの子だけ、特別。」
ああ、そうだ。
「思いを伝えることは悪いことじゃないと思うわよ。あの子に告白してみればいいじゃない。」
「…。」
さっきから俺は一言も発していない気がする。いや、この雰囲気がそうさせているのだ。
「言いたかったことはこれだけよ。じゃあね、不良さん。」
また、体が反応して殴りかかったがそこにすでに、彼女は居なく、空を殴っていた。気づくと彼女は扉を出て行くところだった。少し沈黙。最上も立花も俺を気遣ってか、無言でいる。そうして五分くらいして、待つのは得意じゃない真岡がしびれを切らして「で、どうするんだ、伊吹?告るのか?」とからかい気味に聞いてくる。それに俺は答えられなかった。確かに俺は好きだ。彼女のことが、悠月のことが大好きだ。でも、告白をして振られて彼女に嫌われたらどうだろう。俺は生きていけるだろうか。否。そんなみじめな姿で生きていたくはない。決してプライドが高いわけではないが、「振られる」ことにはどうも体が拒絶反応を示すようだ。初体験だからかもしれない。
次の日。最上とも、悠月とも話しにくかった。どちらも席が近いのに。悠月は落ち着かない様子の俺に、「どうしたの?」と珍しく優しい声をかけてくれた。しかし、「告白」に戸惑う俺は適当に返事をし、屋上でサボる時間を徐々に増やしていた。告ると、振られるかもしれない。でも、OKされるかもしれない。俺は何日か経ったある夜に心を決めた。告白を振る常套句があるじゃないか。「友達でいようよ」、たとえふられても、「友達」でいられるなら、十分幸せだ。告白するか。屋上で。俺の聖地、「屋上」で。あの景色を見れば悠月もOKしてくれるかもしれない。そこまで考えて、その日は眠りに就いた。
次の日は土曜日だった。告白の緊張で朝早く起きようとしたのが失敗だった。緊張しすぎて、曜日を確認していなかった。のんびりと過ごしつつ、告白の文句を考える。「好きです、付き合ってください。」「初めて見たときから好きでした!」「あなたの全てに惚れました。僕と付き合いましょう。」。現代風の「つ、つきあってあげてもいいんだからね。」とか…。いや、これは男子のせりふではないな。一人で苦笑いをする。色々と考えたが、どれも合わない気がする。あのとげとげしさに、これでは勝てない。と、色々と一日かけて迷いに迷った。なんと、自分でも驚くことに、一日では足りず、日曜日も考えることになった。そして、結論は…。色々考えるより、直球勝負で、「好きです。付き合ってください。」に決めた。最上も思いを伝えろ、としか言っていなかったわけだし。色々と考えるのは得意ではないのだ。
そんなこんなで、緊張しながら迎えた月曜日。ついに告白当日だ。朝、彼女に「おはよう」と声をかけた後に少し近づき、「休息時間に屋上に行く扉に来て」と耳打ちした。彼女は小さくうなずき、なぜか睨んできた。そして、悪友二人に今日も四時間目はさぼろうぜ、なんて声を掛けといた。二人とも快諾してくれた。それからの三時間は緊張しかしなかった。これから告白するとなると、授業になんか全く集中できない。(いつもは集中しているの?という質問は禁止でお願いします。)さぼった四時間目の間は告白の練習を立花・真岡と共に行っていた。少しでも緊張をほぐしたい、と思ったが逆効果だった。どんどん緊張してきた。振られたらどうしよう。四時間目が終わった後の休息時間には悪友2人には隠れていてもらい、彼女を迎えた。もう、これ以上後戻りはできない。泣いても笑ってもこれで終わりだ。彼女がやってきて、正面に立つ。目を合わせる。笑顔をつくる。
「どうしたの?変な顔をして。」
笑顔が失敗したようだ。口を戻して、真顔。
「何?変顔大会?変なことに巻き込むのね。」
もう、決めた。顔なんて関係ない。言ってしまおう。
「実は、俺はあなたのことが好きです。付き合ってください。」
「…。」
やはり、ふられたか、と思っていると、
「何冗談言っているの?」
と笑われた。俺はその笑い声を遮って、
「本気なんだよ!俺は本当にあなたのことが好きなんだ!悠月、付き合ってくれ。」
悠月は黙っていた。少し俯いているから、顔は良く見えない。
「へ、返事は?」
おどおどと俺は尋ねる。緊張の一瞬、長く感じるものだ。彼女は顔を上げた。その顔の目にはうっすらと水が溜まっていた。もしかして、笑い泣き…。馬鹿にされているのか…。それも仕方ないか…。
「眠くて泣いちゃった。」
「え?」
「いや、冗談だよ。」
彼女はそう言って、また黙った。なぜこんなに焦らすのだろうか。
「結論、もらえないかな?」
俺はもう一度声をかける。すると、彼女の顔は赤くなっていた。そして、その真っ赤な顔がコクリとうなずいた。どういうことだ。ダメ、ということか。やはりそうか。あたり、ま、…。心の声を遮って、悠月が言う。
「い、いいよ。」
「…。」
や、やったぞ。遂に彼女が…。
「よっしゃああああ!」
あまりの嬉しさに俺は叫んだ。校庭にいた何人かがこちらに視線を移していたらしいがそのときの俺はそんなことは気にしていなかった。俺のその様子に彼女は照れたようにうつむき、そして顔をあげたときにはもう、いつものとげとげしい悠月に戻っていた。
「うるさい、教室に戻るわよ、伊吹。」
「え?伊吹?伊吹って呼んだ?」
これまで彼女は名字でさえ、俺のことを名指ししたことがなかった。すべて、「あなた」か「おまえ」だったのだ。それがいきなり下の名前だ。さすがに、それは照れる。けれど嬉しい。
「うーるーさーいーよ。帰るの?帰らないの?どっちなの?」
「わかった、帰ろう、明日香。」
空は青く澄んで、明るく二人を照らしていた。そして、僕らの学校生活は新しく始まるのだった。
さて、俺が何者かというと実はこの学校の関係者である。関係者の中でも、相当深い関係だ。そう、俺はこの学校の生徒なのだ。そして、生徒の中でも特殊な存在、「悪ガキ」を名乗っている。今も教室で昼食を食べ終わった後、こうして屋上で四時間目をさぼり、さらにはのんびりと急速時間を過ごしているというわけだ。たまに、女優の話や漫画の話など悪友との会話も楽しんでいる。しかし、この屋上に煙が連なることは一度もない。何を隠そう、俺らはタバコを吸っていないのだ。「屋上でたむろしている学生」というとタバコを吸っていたり、制服を着崩していたり、といわゆる「不良」のイメージがつきものだ。しかし、俺らは違う。「不良」ではない。タバコを吸っていなければ、制服もしっかりと着ている。部活にも所属しているし、定期テストもしっかりと受けている。授業も半分くらいは聞いているし、人に迷惑をかけるような悪いことは滅多にしていない。だから、俺らは「不良」ではない。あくまでも「悪ガキ」なのである。
そんな悪ガキである俺らのお気に入りの場所はこの屋上だ。。別にこの学校では屋上への侵入が許可されているわけではない。むしろ禁止されている、と思う。というのは、入口の扉に鍵がかかっているからだ。それなのに、なぜ俺らが入れているのか。それは鍵を持っているからだ。鍵はあるとき、俺の悪友の一人が生徒会の用事で入った会長を尾行していて、会長がカギを置きっぱなしにしていたので、いただいてきたのだ。現在、そのカギは合鍵を二つ作り、俺と悪友二人の計三人が所持している。ちなみに、そのあと生徒会長は先生方に怒られ、生徒会長職の没収まで話が言ったが、なんとかセーフになったようである。もし、そのせいで会長がクビになっていたらさすがに、俺らにも罪悪感がこみ上げてきて非常に嫌な思いをするところであった。俺たちもその時は一安心したものである。まあ、そんなこんなで俺たちは屋上に出入りができる。ここは、涼しいし、先生らになかなか見つからないし、何よりも景色が綺麗だ。遠くに見える山々とその先にかすかに見える海。青い空に真っ白な雲が広がり、清々しい世界を映しだしている。この景色がなくならない限り、卒業しても俺は忍び込んででも、ここに来るだろう。
「そろそろ戻ろうぜ」
悪友の一人-真岡尊が俺ら二人-俺と立花葵に声をかける。気付くと、時間は2時半。休息時間の終了時刻であった。
「次の時間は国語だ。あの盛岡先生だぞ。さすがにサボれないよな。また二時間も説教を受けるのは嫌だぜ。」
と、葵。そう、国語の盛岡は怖いのである。何度、説教を受けたことか。急いで俺らは教室に戻った。すると、入り口には二人の女子が立ちふさがっていた。江上と最上だった。なぜか怒っている。急いで、教室に入りたいのに。こういうときに限って、クラス委員と生活委員が説教に来るのだ。
「あなたたちはなんでいつもそうなの!授業直前にのこのこと戻ってきて!早く席に着きなさいよ!」
最上がかすれた声で叫ぶ。が、それが悪かった。授業のためにやってきた盛岡に見つかった。「廊下で騒いだ」という理由により、まったく喋っていない俺らと、興奮気味の女子二人-江上と最上の計五人は三十分程度廊下で説教を受けた。廊下で騒いでいるのはどちらだろうか…。よく分からなくなってくる。そうして、早めに屋上を出たものの、結局盛岡の説教を受けてから国語の授業が始まるのだった。
明くる日、教室に入るといつもよりもざわざわとしていた。席に座り、近くにいた前の席の真岡に「何かあったの?」と尋ねる。すると、真岡ではなく、なぜか近くにいた菅田が、「実は転校生が来るらしいんですよ」とやけに丁寧に答えた。いや、そういう口調のやつなのだ。なんかイラつく。理由は特にない。俺はこの菅田が苦手なのだ。
「伊吹、その転校生かわいいといいなー。」
と、真岡が俺に声をかけてくる。言ってなかったかもしれないが俺の名は八十島伊吹だ。出席番号29番。このクラスの最後だ。
「伊吹、転校生って空いてる席に来るからお前の隣じゃね?かわいいといいな。俺にも喋らせろよ。」
そう、このクラスは女子が14人。男子が15人。俺は男子の最後で、なぜか担任が席に関して「出席番号で」とこだわったため、俺の隣はいなかった。真岡の言う通り、そいつの名前に関係なく、俺の隣が、そいつになるだろう。しかし、何かを勘違いしている気がする…。のどの上まで来ているのに、何かが分からない。ひっかかる。
「おーい、なんの話をしてるのー」
そう言いながら俺の席にやってきたのは立花。席は少し遠いが、おしゃべりをする為に、朝はいつもここに来る。
「転校生が来るらしいから伊吹の隣に座るだろう、って話。かわいいといいなー。」
「転校生がかわいいなんて、アニメと小説の中だけの話じゃないか?」
「でも、一応願うのが男というものよ。」
「真岡が男を語るとはな。驚きだぜ。」
真岡と立花の会話が弾む。そして、何かが引っかかる。うーん。…。あ、わかった。俺も真岡も立花も転校生は女だと勝手に勘違いしていた。女子の人数が少ないから、きっと女子が転校してくるという予想を持っていた。あぁ、ばかだ。男子かもしれなかった。隣に来るのは男子かも…。ノリが悪いやつだといやだな。そう思いつつ、「男かもしれない」ということを真岡と立花に伝えると、二人とも今気づいたと大きく驚き、悲しみの表情を浮かべた。
「そう、だった…。無念。」
真岡はそう言って、床に倒れた。その頭を江上が、またいで前へと歩いていった。あやうく踏みそうな感じだった。
「江上がスカートだったら良かったのにな。」
その様子を見て立花が真岡にそう声をかけるが真岡は立ち上がりながら「江上だから興味なし」と答えた。そして、三人でけたけたと笑っていた。すると、チャイムが鳴った。急いで、立花が自分の席に向かい走っていった。途中で教室に落ちていたバナナの皮に滑って転んでいた。謎の光景である。菅田もすでに戻っていたらしい。そういえば、途中からいなかったかもしれない。チャイムが鳴り終わると同時に先生とこの学校の制服を着た女の子が入ってきた。彼女は堂々とクラスを見ながら、自己紹介をした。悠月明日香、というそうである。悠月、ゆうづき。夕月じゃないんだな、珍しい名前だな、なんて思いつつ彼女のことをよく見ると…かわいい。この学校の女子はどうも、静かな奴が多い。転校生でありながら、堂々と入ってきた彼女の様子に驚いていてその美貌に気づかなかった。肩あたりまで伸びた美しい茶髪。目線は少し強く、勇ましく、でもどこか不安を帯びている。そんな表情だと思う。ああ、いい。そして、悠月はこちらへとやってきた。こんな理想的な美少女が隣だなんて…。そのとき、俺は彼女に惚れてしまったのだ。恋をしたのだ。
別にこの学校にかわいい子がいないわけではない。いや、むしろ多いと思う。でも、全員大人しすぎる。大概の男子にはこれがまたたまらないようであるが、俺は強気な女子の方がいい、と思う。少し変わっているかもしれない。でもそんなことは関係ない。自分のタイプは人に決められたくない。さて、その日から授業を受けていくと、彼女の強気な様子は明らかだった。発表の回数も随一。大きな声で、全体に。「発表が少ない」と怒られることが極端に減った気がする。席が隣ということもあり、たくさん話した。言葉にとげがある。悪口が入ってくるのだ。ちなみに、「不良」ではなく、「悪ガキ」だ、と述べたときには「子供っぽい」「幼稚だ」「馬鹿のすること」などと返された。しかしそれすらも苦ではなく、「彼女について、もっと知りたい」と思うようになっていた。その日、久々に部活に行くと、他のクラスのやつらが、悠月に関して噂をしていたようだった。ボールを取りに行く最中に少し耳に入ってきた会話が、
「一組に来た転校生の悠月ってやつ、すげーかわいいらしいぜ。」
「らしいな。でも、性格がとげとげしいらしいよ。発表回数も多いとか。」
「あぁ…。それは残念だな。やはり、石野が一番だな。あいつの女の子っぽさは完全体だな。」
やはり、一般人には彼女の良さが分からないらしい。でも、それでいい。彼女に好意を抱くのは俺でいい。彼女にとげとげしく当たられるのも、時折見せる柔らかい笑顔も俺だけのものになればいいのに。あぁ、これが独占欲というやつか。俺も恋をするようになったんだな。
その日の夜、俺はなかなか寝つけなかった。頭にどうしても彼女の顔が浮かんでくる。そして、ふと笑みがこぼれる。かわいい。そして、顔を強く横に振る。寝る前まで考えているとなんだか気持ち悪い。さっさと寝よう。目を閉じ、必死に脳内から「悠月」を振り払った。
次の日、朝教室に入ると隣に悠月がいた。普通におはよう、と声をかけると、「うるさい」と返ってきた。ふ、予想通りのかわいい子だこと。そのまま、いつも通り、真岡や立花としゃべっていた。今日の四時間目は音楽、だから屋上でさぼるか。なんて、悪友2人に声をかけてると悠月から「さすが、不良」と言われた。それに対して、俺は「不良じゃねーよ。ただの『悪ガキ』だ。」とだけ返した。そして、周りの皆は驚いている。なぜかって?それは俺が「不良」って言われると、いつも問答無用で相手を殴るからだ。たとえ、先生でも殴る。反射的に身についたものだから殴らない、というのは難しい。それが殴らなかったというのだから驚きだ。たぶん、これだけでみんなは-転校してきたので俺の生態を良く知らない悠月以外は俺が彼女に好意を抱いていることに気づいてしまうだろう。まあ、いっか。そんなこんなで、一から三時間目を受け、(二時間目は国語だったからまじめに受けた、彼女はその様子を笑っていた。)昼飯の後は屋上でさぼり、そのまま、休息時間は景色を見ながら過ごし、その景色をいつか悠月に見せたいな、なんて思っていた。勘のいい真岡からは「今、この景色をあいつに見せたいとか思ってるだろ」と、核心を突かれてしまった。明日には、学年中に俺の気持ちが広まっていそうだな。なんだか、俺の生活が彼女で染まりつつあるな。恋ってこんなに大変なのか。面倒くさいといつもなら感じそうだ。どうもそれを感じないのが『恋』というものらしい。
彼女が来て何日か経って。真岡や立花と共に屋上で授業をさぼっているときだった。屋上の扉が開いた。立花と真岡に鍵をかけてないのか小さく聞くと、真岡が忘れたかも、と答えた。真岡を軽く殴りつつ、急いで貯水塔の陰に隠れる。先生だったらまずい。鍵を没収されるかもしれない。そう、びくびくしていると屋上に現れたその人間はこちらに向かってきて、その本性をさらけ出した。そいつは最上だった。席が真岡の隣、俺の斜め前、悠月の前である。先日、盛岡に起こられた原因の張本人でもある。彼女は俺と互いによく見える位置まで来ると、話を始めた。単刀直入に。
「いつになったら、あなたは悠月さんに告白をするの?」
「…。」
予想していなかった、というか考えていなかった。告白をするなんて。俺は今回初めて恋をした。初恋だ。だから、そういうことに疎いのだ。
「彼女のことを好きなんでしょ。だったら、思いを伝えればいいじゃない。」
確かに、そうかもしれない。明らかに俺は彼女に惚れている。出会ったその日から。しかし、告白…。告白って…。だって、告白、だろ?うーん…。
「そんなことも伝えられないの?この不良が!」
彼女の頬が赤くなった。とっさに俺が彼女を殴ってしまっていたようだ。「不良」といわれると体が敏感に反応して、相手のことを殴るという習性がしっかりとできているようだ。癖だから仕方ない。謝ろうとすると、それより先に彼女が話し出した。
「前、いつか彼女が不良ってあなたのことを読んだとき、あなたは不良じゃねーよとしか言わなかったわよね。でも、あたしに対しては殴った。他の子に対しても殴る。あの森岡先生にだって殴った。あの子だけ、特別。」
ああ、そうだ。
「思いを伝えることは悪いことじゃないと思うわよ。あの子に告白してみればいいじゃない。」
「…。」
さっきから俺は一言も発していない気がする。いや、この雰囲気がそうさせているのだ。
「言いたかったことはこれだけよ。じゃあね、不良さん。」
また、体が反応して殴りかかったがそこにすでに、彼女は居なく、空を殴っていた。気づくと彼女は扉を出て行くところだった。少し沈黙。最上も立花も俺を気遣ってか、無言でいる。そうして五分くらいして、待つのは得意じゃない真岡がしびれを切らして「で、どうするんだ、伊吹?告るのか?」とからかい気味に聞いてくる。それに俺は答えられなかった。確かに俺は好きだ。彼女のことが、悠月のことが大好きだ。でも、告白をして振られて彼女に嫌われたらどうだろう。俺は生きていけるだろうか。否。そんなみじめな姿で生きていたくはない。決してプライドが高いわけではないが、「振られる」ことにはどうも体が拒絶反応を示すようだ。初体験だからかもしれない。
次の日。最上とも、悠月とも話しにくかった。どちらも席が近いのに。悠月は落ち着かない様子の俺に、「どうしたの?」と珍しく優しい声をかけてくれた。しかし、「告白」に戸惑う俺は適当に返事をし、屋上でサボる時間を徐々に増やしていた。告ると、振られるかもしれない。でも、OKされるかもしれない。俺は何日か経ったある夜に心を決めた。告白を振る常套句があるじゃないか。「友達でいようよ」、たとえふられても、「友達」でいられるなら、十分幸せだ。告白するか。屋上で。俺の聖地、「屋上」で。あの景色を見れば悠月もOKしてくれるかもしれない。そこまで考えて、その日は眠りに就いた。
次の日は土曜日だった。告白の緊張で朝早く起きようとしたのが失敗だった。緊張しすぎて、曜日を確認していなかった。のんびりと過ごしつつ、告白の文句を考える。「好きです、付き合ってください。」「初めて見たときから好きでした!」「あなたの全てに惚れました。僕と付き合いましょう。」。現代風の「つ、つきあってあげてもいいんだからね。」とか…。いや、これは男子のせりふではないな。一人で苦笑いをする。色々と考えたが、どれも合わない気がする。あのとげとげしさに、これでは勝てない。と、色々と一日かけて迷いに迷った。なんと、自分でも驚くことに、一日では足りず、日曜日も考えることになった。そして、結論は…。色々考えるより、直球勝負で、「好きです。付き合ってください。」に決めた。最上も思いを伝えろ、としか言っていなかったわけだし。色々と考えるのは得意ではないのだ。
そんなこんなで、緊張しながら迎えた月曜日。ついに告白当日だ。朝、彼女に「おはよう」と声をかけた後に少し近づき、「休息時間に屋上に行く扉に来て」と耳打ちした。彼女は小さくうなずき、なぜか睨んできた。そして、悪友二人に今日も四時間目はさぼろうぜ、なんて声を掛けといた。二人とも快諾してくれた。それからの三時間は緊張しかしなかった。これから告白するとなると、授業になんか全く集中できない。(いつもは集中しているの?という質問は禁止でお願いします。)さぼった四時間目の間は告白の練習を立花・真岡と共に行っていた。少しでも緊張をほぐしたい、と思ったが逆効果だった。どんどん緊張してきた。振られたらどうしよう。四時間目が終わった後の休息時間には悪友2人には隠れていてもらい、彼女を迎えた。もう、これ以上後戻りはできない。泣いても笑ってもこれで終わりだ。彼女がやってきて、正面に立つ。目を合わせる。笑顔をつくる。
「どうしたの?変な顔をして。」
笑顔が失敗したようだ。口を戻して、真顔。
「何?変顔大会?変なことに巻き込むのね。」
もう、決めた。顔なんて関係ない。言ってしまおう。
「実は、俺はあなたのことが好きです。付き合ってください。」
「…。」
やはり、ふられたか、と思っていると、
「何冗談言っているの?」
と笑われた。俺はその笑い声を遮って、
「本気なんだよ!俺は本当にあなたのことが好きなんだ!悠月、付き合ってくれ。」
悠月は黙っていた。少し俯いているから、顔は良く見えない。
「へ、返事は?」
おどおどと俺は尋ねる。緊張の一瞬、長く感じるものだ。彼女は顔を上げた。その顔の目にはうっすらと水が溜まっていた。もしかして、笑い泣き…。馬鹿にされているのか…。それも仕方ないか…。
「眠くて泣いちゃった。」
「え?」
「いや、冗談だよ。」
彼女はそう言って、また黙った。なぜこんなに焦らすのだろうか。
「結論、もらえないかな?」
俺はもう一度声をかける。すると、彼女の顔は赤くなっていた。そして、その真っ赤な顔がコクリとうなずいた。どういうことだ。ダメ、ということか。やはりそうか。あたり、ま、…。心の声を遮って、悠月が言う。
「い、いいよ。」
「…。」
や、やったぞ。遂に彼女が…。
「よっしゃああああ!」
あまりの嬉しさに俺は叫んだ。校庭にいた何人かがこちらに視線を移していたらしいがそのときの俺はそんなことは気にしていなかった。俺のその様子に彼女は照れたようにうつむき、そして顔をあげたときにはもう、いつものとげとげしい悠月に戻っていた。
「うるさい、教室に戻るわよ、伊吹。」
「え?伊吹?伊吹って呼んだ?」
これまで彼女は名字でさえ、俺のことを名指ししたことがなかった。すべて、「あなた」か「おまえ」だったのだ。それがいきなり下の名前だ。さすがに、それは照れる。けれど嬉しい。
「うーるーさーいーよ。帰るの?帰らないの?どっちなの?」
「わかった、帰ろう、明日香。」
空は青く澄んで、明るく二人を照らしていた。そして、僕らの学校生活は新しく始まるのだった。
後書き
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