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作品ID:627
こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約5918文字 読了時間約3分 原稿用紙約8枚
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「BLOOM─超能力犯罪対策係─」を読み始めました。
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / R-15 /
BLOOM─超能力犯罪対策係─
作品紹介
突如世界に現れた「超能力《サイキック》」と呼ばれる謎の病。その患者が起こす超能力犯罪が社会問題になった世界での、物語です。
ダークな世界観をお楽しみ下さい。
ダークな世界観をお楽しみ下さい。
二年前の事だ。アメリカ、ニューヨークの郊外にて、ある事件が起きた。その事件とは、人が多く集まるスーパーマーケットで、中規模の爆発が起きたというものだった。死傷者は十数名、その他にも大勢の人が病院に運ばれるなど、世界各国に報道された。
しかし、この事件の真髄はその犯人だった。犯人は、地元のスクールに通う十代の少年。彼は日頃から勉学に励み、友達に慕われる、優秀な学生だった。しかし、少年は普通の少年ではなかったのだ。
その事件において、犯行現場からは凶器と思しき物は発見されず、一時はそれで世間を騒がせたが、その後の報道で世界は凍り付いた。
現場に設置されていた防犯カメラの映像によると、少年は家族と一緒にスーパーマーケットに来ていた。そして、野菜売り場に来たところで少年の様子が急変。突然体を抑え、もがく様にその場で暴れだすと、その直後、少年の体はまるで爆弾の様に、爆音を発して爆発したのだ。そのあまりにも常識外れな光景に、世間は言葉を失った。一方、世間ではデマではないかという冷やかしの声も流れた。
しかし、その事件を発端に、世界中でこの事件のような常識を外れた事件が次々に起こったのだ。フランス、イギリス、オーストラリア、中国、ロシア。そして、ここ日本にも。世界中はこの怪事件の恐怖に包まれた。そして、ロシアの研究機関があるとんでもない報告を世界に発信した。それは、世界中で発生した一連の怪事件の犯人全てに、共通の病気が見つかったというものだった。ロシアの研究機関はその病気をこう名付けた。
「超能力《サイキック》」と。
*****
「柳田先輩。捜査一課からうちらに捜査依頼来てますよ」
そう言って対策室に入って来たのは、後輩の萩原だ。その手には茶封筒と、幾つかの書類が抱えられている。
「先週から立て続けに起きてる新宿の連続放火事件あるじゃないですか。あれの犯人が超能力者《サイキッカー》じゃないかってんで、こっちに依頼が回って来ましたよ」
萩原は、部屋に置かれたホワイトボードまで行くと、これまで捜査一課が調べてきた事件についての書類を一枚一枚磁石で貼っていった。
この世界に「超能力者《サイキッカー》」と呼ばれる人種が現れて二年前。世界はすっかり変わってしまった。
「超能力者《サイキッカー》」とは、二年前に突如発症した謎の病「超能力《サイキック》」に感染した患者の事で、現在世界の人口の20%を占めている。そして、その「超能力《サイキック》」とは何なのかというと、「常識を超えた特殊な力に目覚める」という何ともふざけた病気で、患者はそれぞれ特有の特殊能力を使えるようになるというのだ。その例に、二年前前のニューヨークの事件の少年は「超能力者《サイキッカー》」として認められ、彼の「超能力《サイキック》」は「発火能力《パイロキネシス》」と呼ばれるようになった。その他にも、「念動力《サイコキネシス》」や、「瞬間移動《テレポーテーション》」など、様々な「超能力《サイキック》」の症状が観測されている。
たが、いくら全人口の20%といっても彼らを甘く見てはいけない。「超能力者《サイキッカー》」と呼ばれる彼らは特殊能力が使えるというだけで、体に異常をきたしているわけではない。寧ろ、健康体である者の方が多いくらいだ。そんな彼らは、今や「人類の進化系」などと呼ばれ、一部では神のように崇め奉られている。
しかし、彼らも所詮は人間。常識破りな力を得たところで、その力の強大さに溺れ、犯罪に手を染める者が後を絶たない。そんな「超能力者《サイキッカー》」が起こす犯罪の捜査、解決を任されているのが、警視庁超能力犯罪対策係である、俺柳田と、萩原という訳だ。俺らの二人の他にもメンバーはいるが、対策室にいるのは基本俺ら二人だけだ。
「以上の結果から、犯人と思われるのは栢山良平、25歳。都内広告代理店で働く普通のサラリーマンです」
それまで事件の経緯や、捜査一課の捜査記録を説明してくれていた萩原は、最後に犯人と思われる青年の写真をホワイトボードに貼った。
細い瞳が特徴的な、どこにでも居るような青年という印象。超能力者の難儀な点は、突然発症する病気な為、性格や人格などが一切関係ということだ。ただ、突如手に入れたその力に溺れるかどうかというだけで、超能力犯罪に犯人の素性はあまり関係してこない。それが、この犯罪の厄介なところだ。
「という訳で柳田さん。さっそく、栢山が勤めている広告代理店に聞き込みに行きましょう」
元捜査一課の後輩は荷物をまとめると、俺の支度を急かしてきた。
*****
「栢山君か。それなら最近見てないね。丁度一週間くらい来てないね。だって彼、インフルエンザに罹ってるって連絡してきたからね。そろそろ、復帰してくる頃だと思うんだけど」
赤坂のビル街に佇む広告代理店で、萩原と俺は栢山の上司と話をすることが出来た。
「彼は普段どんな人でしたか?」
手帳をメモに、萩原は熱心に聞き込みを続ける。これ以上聞いたところで、捜査一課が既に聞いているのだから何も期待出来る収穫はないだろう。そう思い、俺は栢山のデスクを物色し始めた。
「ちょっと、柳田さん!何勝手に人の机漁ってるんですか!」
萩原の忠告を他所に、きちんと整理された書類を適当に取り出すと、パラパラと中身を確認していった。
「刑事さん、何回も言ってますけど、栢山君は放火をするような人ではありませんよ?きっと、何かの間違いだと思いますけど」
上司にそこまで言われるとは、この栢山という男は本当にこの事件の犯人なのだろうかと思えてしまう。そう思った矢先、ペン立ての中に歪なボールペンを見付けた。それは、人がいくら強く握っただけでは変形しないような、丁度右手で握った時に親指と人差し指が当たるところだけ、やけに凹んだボールペンだった。
「先輩?どうかしたんですか?」
俺を心配そうに覗き込む萩原を横目に、俺はすぐ様対策室に戻った。
「えっ?!柳田さん!?いきなり帰らないで下さいよ!」
*****
ホワイトボードに並べられた今回の放火事件の現場を眺める。どれも半径500m以内と、狭い範囲での犯行となっている。
「柳田さん・・・、せめて僕に何か言ってから動いて下さいよ・・・。いつも自分勝手に行動するんですから・・・」
俺は咄嗟に栢山の自宅を萩原に尋ねた。
「自宅ですか?それなら、さっきの上司曰くここら辺な筈ですけど」
そう言って指さしたのは、犯行現場範囲からほど近い場所だった。
「現場から近いから栢山が疑われてる訳ですし。別にたいした事じゃないと思うんですけど」
俺はすぐ様これまでの事件の日を確認した。すると、最後に事件が起きたのは一昨日の午前1時。オフィスビルが一棟半焼する事件だった。その前はその二日前、その前はその三日前。現在の時刻は午後7時。今からならまだ間に合う。そう思い、俺足早に対策室を飛び出た。
「だから柳田さん!行くなら、行くって言ってくださいよ!」
*****
栢山が住むというアパートの前で、俺らは張り込みを始めた。桜が咲き始めた頃だというのに、夜になると冬のように冷える。こんな事なら、コートを来てくればよかった。
「全く、張り込むならそう言ってくださいよ。何も準備しないで張り込むなんて、正気じゃないですよ、全く」
そう愚痴をこぼす萩原だが、手に持ったコンビニの袋から缶コーヒーを取り出す。
「柳田さんのも買ってきました。別に、いらないならいいんですよ?俺が飲みますから」
照れ臭そうにコーヒーを差し出す萩原にお礼を告げると、コーヒーを受け取った。それはありがたい事に温かいコーヒーで、俺が寒がっているのを見かねて買ってきてくれたのだろう。流石は俺の後輩だ。俺はさっそくカンを開け、温かいコーヒーを体内に取り込んだ。次第に体は温かくなり、体の震えも収まってきた。飲み干した空き缶を左手に持ち替えた瞬間、それまで仄かに温かったスチール缶は突然高温となり、握っていられないほどの温度になると、思わず手を離してしまった。
「柳田さん!あれ!栢山です!でも、何か、様子がおかしくないですか?」
赤く腫れた左手に息を吹きかけながら、萩原が指さす方を見ると、そこには覚束無い足取りで歩みを進める栢山の姿があった。その姿を見た瞬間、俺はあの日の事を思い出してしまった。
*****
俺には家族がいた。無愛想な俺には勿体ないくらいの美人な奥さんに、元気が有り余った5歳の息子がいた。奥さんとは警察学校に入る前からの付き合いで、卒業後二年の同棲の後籍を入れた。子供はその二年後、母子共に健康な状態で産まれてきた。俺はその子に「陽太《ひなた》」と名付けた。明るく、健康で、それでいて、優しい人になれるように、そう願いを込めてその名前をつけた。
しかし、悪夢は突然訪れた。
ニューヨークでの事件があった半年後、俺は警視庁の捜査二課でとある事件の捜査をしていた。その日も遅くまで仕事が長引き、家に帰る頃には日付を越えていた。俺は、家族を起こさないようゆっくり扉の鍵を開けると、小さくただいまと呟いて中に入った。すると、おかしな事に家の中はサウナの様に熱気が立ち込めていたのだ。何事かと思い慌てて台所に向かうも、火は出ておらず。ガスの元栓もしっかりと締まっていた。そうなると、家の外か。そう思い台所から外に出ようとした瞬間、2階から何かが崩れた音が聞こえると、奥さんの悲鳴が聞こえてきたのだ。俺は一目散に2階に駆け上がり、悲鳴が聞こえて来たのは、普段陽太が眠る子供部屋だった。
「どうした?!」
俺が扉を開けたその瞬間だった、凄まじい爆発音と共に俺の体は家の外まで吹き飛ばされてしまった。薄れゆく意識の中見たのは、燃え上がる我が家と真っ黒に焦げた奥さんの死体だった。
後日、病院で目を覚ました俺は、奥さんと陽太の死を同僚の警官から告げられた。二人を失った悲しみに暮れていた俺に、同僚はこう言った。
「鑑定の結果から、お子さんの陽太くんは「超能力者」であったことが判明しました」
俺は何も知らなかった。まさか、まさか息子がそんな事になっているだなんて。その時の俺は事件の捜査で連日遅くに帰ることが多く、陽太とまともに顔を合わせていなかった。それなのに、俺が最後に見た陽太の姿は、涙を浮かべ、体から爆発を起こしている、そんな哀しい姿だった。陽太は明るい子なんだ。優しい子なんだ。それなのに、何故あの子があんな事にならなければならなかったのか。何故あんな思いを陽太にさせてしまったのか。同僚の話では、陽太には「超能力」の予兆が現れていたらしい。俺の奥さんが何度か陽太を病院に連れて行っていた記録が残されていた。俺は何も出来なかった自分の全てとを恨んだ。
そして、「超能力」という、原因不明の病を心の底から恨んだ。愛する家族を奪い、俺から生きる意味さえも奪ったおぞましい病を。
俺はこの時、初めて「超能力」をこの世から無くしてやる。そう考えたのだった。
*****
「柳田さん!大丈夫ですか?!柳田さん!?」
ぼうっとしていたのか、俺は萩原の声に意識を取り戻した。
俺はすぐ様栢山の方を見る。奴は未だにふらふらとアパートの前を歩いている。
「柳田さんどうしますか?」
俺達、超能力犯罪対策係には幾つかの特権が与えられている。その一つに、「犯人が超能力者であると認められた場合、令状無しにその者を逮捕出来る」というものがある。つまり、栢山が今俺達の目の前で超能力を発動した瞬間、俺達は栢山を捕らえることが出来る。しかし、当の栢山はそれらしい動きを見せず、ただ虚ろに徘徊するだけだ。
「後一歩なんですけどね」
萩原がそう呟いた次の瞬間、突然栢山は呻き声を挙げると、全身から炎を吹き出し、全身火だるまになったのだ。
「わぁぁ!!柳田さん!!発火能力《パイロキネシス》が出ちゃっいましたよ!!」
全身に炎を纏う栢山。しかし、その表情はどこか悲しそうにも見える。
「ア、ツイ・・・タス、ケテ・・・タス・・・ケ・・・」
炎の中で、栢山はそう呻いた。その声はまるで獣のようで、とても辛そうだった。
「タスケテ・・・」
すると、栢山の瞳から一粒の涙が頬を伝ったのが見えた。それを見た瞬間、俺は腰に着けていたハンドガンに握り締め、栢山に銃口を向けていた。
「まさか、柳田さん!?打つつもりです?!」
俺は引き金に手を掛け叫んだ。
「お前はこいつが助かるとでも思うのか?!お前だって分かってるだろ!?こいつはな!もう死んでるのと変わらないんだよ!!だったらな、せめて苦しめないで、楽な死に方をさせてやるのも俺達の仕事じゃないのか?」
引き金に当てた人差し指は痙攣しているかのように震えている。
「タスケテ・・・タスケテ・・・」
「なあ、何で超能力なんてものがあるんだ?こんなもの、人を悲しませるだけの呪いの力じゃねえか───」
俺達超能力犯罪対策係には、末期の超能力者に対して、発砲が認められている。
*****
それから二日後、俺は萩原と共に栢山の実家を訪れていた。遺族である彼らに今回の事件のことを説明し、俺自らが栢山良平の命を絶ったことを報告しに来たのだ。萩原が事件の説明をすると、栢山の御家族は落ち着いた様子で話を聞いてくれた。そして、俺が深々と頭を下げると、栢山のお父さんに背中を優しく叩かれた。
「倅は、きっとあんたに感謝してますよ」
そう言って俺のスーツを握り締めたその手は、確かに震えていた。
超能力という常識を超えた力。それは、一体何の為に生まれてきたのか。その答えは、きっと念動力《サイコキネシス》を使っても分かりはしないだろう。
しかし、この事件の真髄はその犯人だった。犯人は、地元のスクールに通う十代の少年。彼は日頃から勉学に励み、友達に慕われる、優秀な学生だった。しかし、少年は普通の少年ではなかったのだ。
その事件において、犯行現場からは凶器と思しき物は発見されず、一時はそれで世間を騒がせたが、その後の報道で世界は凍り付いた。
現場に設置されていた防犯カメラの映像によると、少年は家族と一緒にスーパーマーケットに来ていた。そして、野菜売り場に来たところで少年の様子が急変。突然体を抑え、もがく様にその場で暴れだすと、その直後、少年の体はまるで爆弾の様に、爆音を発して爆発したのだ。そのあまりにも常識外れな光景に、世間は言葉を失った。一方、世間ではデマではないかという冷やかしの声も流れた。
しかし、その事件を発端に、世界中でこの事件のような常識を外れた事件が次々に起こったのだ。フランス、イギリス、オーストラリア、中国、ロシア。そして、ここ日本にも。世界中はこの怪事件の恐怖に包まれた。そして、ロシアの研究機関があるとんでもない報告を世界に発信した。それは、世界中で発生した一連の怪事件の犯人全てに、共通の病気が見つかったというものだった。ロシアの研究機関はその病気をこう名付けた。
「超能力《サイキック》」と。
*****
「柳田先輩。捜査一課からうちらに捜査依頼来てますよ」
そう言って対策室に入って来たのは、後輩の萩原だ。その手には茶封筒と、幾つかの書類が抱えられている。
「先週から立て続けに起きてる新宿の連続放火事件あるじゃないですか。あれの犯人が超能力者《サイキッカー》じゃないかってんで、こっちに依頼が回って来ましたよ」
萩原は、部屋に置かれたホワイトボードまで行くと、これまで捜査一課が調べてきた事件についての書類を一枚一枚磁石で貼っていった。
この世界に「超能力者《サイキッカー》」と呼ばれる人種が現れて二年前。世界はすっかり変わってしまった。
「超能力者《サイキッカー》」とは、二年前に突如発症した謎の病「超能力《サイキック》」に感染した患者の事で、現在世界の人口の20%を占めている。そして、その「超能力《サイキック》」とは何なのかというと、「常識を超えた特殊な力に目覚める」という何ともふざけた病気で、患者はそれぞれ特有の特殊能力を使えるようになるというのだ。その例に、二年前前のニューヨークの事件の少年は「超能力者《サイキッカー》」として認められ、彼の「超能力《サイキック》」は「発火能力《パイロキネシス》」と呼ばれるようになった。その他にも、「念動力《サイコキネシス》」や、「瞬間移動《テレポーテーション》」など、様々な「超能力《サイキック》」の症状が観測されている。
たが、いくら全人口の20%といっても彼らを甘く見てはいけない。「超能力者《サイキッカー》」と呼ばれる彼らは特殊能力が使えるというだけで、体に異常をきたしているわけではない。寧ろ、健康体である者の方が多いくらいだ。そんな彼らは、今や「人類の進化系」などと呼ばれ、一部では神のように崇め奉られている。
しかし、彼らも所詮は人間。常識破りな力を得たところで、その力の強大さに溺れ、犯罪に手を染める者が後を絶たない。そんな「超能力者《サイキッカー》」が起こす犯罪の捜査、解決を任されているのが、警視庁超能力犯罪対策係である、俺柳田と、萩原という訳だ。俺らの二人の他にもメンバーはいるが、対策室にいるのは基本俺ら二人だけだ。
「以上の結果から、犯人と思われるのは栢山良平、25歳。都内広告代理店で働く普通のサラリーマンです」
それまで事件の経緯や、捜査一課の捜査記録を説明してくれていた萩原は、最後に犯人と思われる青年の写真をホワイトボードに貼った。
細い瞳が特徴的な、どこにでも居るような青年という印象。超能力者の難儀な点は、突然発症する病気な為、性格や人格などが一切関係ということだ。ただ、突如手に入れたその力に溺れるかどうかというだけで、超能力犯罪に犯人の素性はあまり関係してこない。それが、この犯罪の厄介なところだ。
「という訳で柳田さん。さっそく、栢山が勤めている広告代理店に聞き込みに行きましょう」
元捜査一課の後輩は荷物をまとめると、俺の支度を急かしてきた。
*****
「栢山君か。それなら最近見てないね。丁度一週間くらい来てないね。だって彼、インフルエンザに罹ってるって連絡してきたからね。そろそろ、復帰してくる頃だと思うんだけど」
赤坂のビル街に佇む広告代理店で、萩原と俺は栢山の上司と話をすることが出来た。
「彼は普段どんな人でしたか?」
手帳をメモに、萩原は熱心に聞き込みを続ける。これ以上聞いたところで、捜査一課が既に聞いているのだから何も期待出来る収穫はないだろう。そう思い、俺は栢山のデスクを物色し始めた。
「ちょっと、柳田さん!何勝手に人の机漁ってるんですか!」
萩原の忠告を他所に、きちんと整理された書類を適当に取り出すと、パラパラと中身を確認していった。
「刑事さん、何回も言ってますけど、栢山君は放火をするような人ではありませんよ?きっと、何かの間違いだと思いますけど」
上司にそこまで言われるとは、この栢山という男は本当にこの事件の犯人なのだろうかと思えてしまう。そう思った矢先、ペン立ての中に歪なボールペンを見付けた。それは、人がいくら強く握っただけでは変形しないような、丁度右手で握った時に親指と人差し指が当たるところだけ、やけに凹んだボールペンだった。
「先輩?どうかしたんですか?」
俺を心配そうに覗き込む萩原を横目に、俺はすぐ様対策室に戻った。
「えっ?!柳田さん!?いきなり帰らないで下さいよ!」
*****
ホワイトボードに並べられた今回の放火事件の現場を眺める。どれも半径500m以内と、狭い範囲での犯行となっている。
「柳田さん・・・、せめて僕に何か言ってから動いて下さいよ・・・。いつも自分勝手に行動するんですから・・・」
俺は咄嗟に栢山の自宅を萩原に尋ねた。
「自宅ですか?それなら、さっきの上司曰くここら辺な筈ですけど」
そう言って指さしたのは、犯行現場範囲からほど近い場所だった。
「現場から近いから栢山が疑われてる訳ですし。別にたいした事じゃないと思うんですけど」
俺はすぐ様これまでの事件の日を確認した。すると、最後に事件が起きたのは一昨日の午前1時。オフィスビルが一棟半焼する事件だった。その前はその二日前、その前はその三日前。現在の時刻は午後7時。今からならまだ間に合う。そう思い、俺足早に対策室を飛び出た。
「だから柳田さん!行くなら、行くって言ってくださいよ!」
*****
栢山が住むというアパートの前で、俺らは張り込みを始めた。桜が咲き始めた頃だというのに、夜になると冬のように冷える。こんな事なら、コートを来てくればよかった。
「全く、張り込むならそう言ってくださいよ。何も準備しないで張り込むなんて、正気じゃないですよ、全く」
そう愚痴をこぼす萩原だが、手に持ったコンビニの袋から缶コーヒーを取り出す。
「柳田さんのも買ってきました。別に、いらないならいいんですよ?俺が飲みますから」
照れ臭そうにコーヒーを差し出す萩原にお礼を告げると、コーヒーを受け取った。それはありがたい事に温かいコーヒーで、俺が寒がっているのを見かねて買ってきてくれたのだろう。流石は俺の後輩だ。俺はさっそくカンを開け、温かいコーヒーを体内に取り込んだ。次第に体は温かくなり、体の震えも収まってきた。飲み干した空き缶を左手に持ち替えた瞬間、それまで仄かに温かったスチール缶は突然高温となり、握っていられないほどの温度になると、思わず手を離してしまった。
「柳田さん!あれ!栢山です!でも、何か、様子がおかしくないですか?」
赤く腫れた左手に息を吹きかけながら、萩原が指さす方を見ると、そこには覚束無い足取りで歩みを進める栢山の姿があった。その姿を見た瞬間、俺はあの日の事を思い出してしまった。
*****
俺には家族がいた。無愛想な俺には勿体ないくらいの美人な奥さんに、元気が有り余った5歳の息子がいた。奥さんとは警察学校に入る前からの付き合いで、卒業後二年の同棲の後籍を入れた。子供はその二年後、母子共に健康な状態で産まれてきた。俺はその子に「陽太《ひなた》」と名付けた。明るく、健康で、それでいて、優しい人になれるように、そう願いを込めてその名前をつけた。
しかし、悪夢は突然訪れた。
ニューヨークでの事件があった半年後、俺は警視庁の捜査二課でとある事件の捜査をしていた。その日も遅くまで仕事が長引き、家に帰る頃には日付を越えていた。俺は、家族を起こさないようゆっくり扉の鍵を開けると、小さくただいまと呟いて中に入った。すると、おかしな事に家の中はサウナの様に熱気が立ち込めていたのだ。何事かと思い慌てて台所に向かうも、火は出ておらず。ガスの元栓もしっかりと締まっていた。そうなると、家の外か。そう思い台所から外に出ようとした瞬間、2階から何かが崩れた音が聞こえると、奥さんの悲鳴が聞こえてきたのだ。俺は一目散に2階に駆け上がり、悲鳴が聞こえて来たのは、普段陽太が眠る子供部屋だった。
「どうした?!」
俺が扉を開けたその瞬間だった、凄まじい爆発音と共に俺の体は家の外まで吹き飛ばされてしまった。薄れゆく意識の中見たのは、燃え上がる我が家と真っ黒に焦げた奥さんの死体だった。
後日、病院で目を覚ました俺は、奥さんと陽太の死を同僚の警官から告げられた。二人を失った悲しみに暮れていた俺に、同僚はこう言った。
「鑑定の結果から、お子さんの陽太くんは「超能力者」であったことが判明しました」
俺は何も知らなかった。まさか、まさか息子がそんな事になっているだなんて。その時の俺は事件の捜査で連日遅くに帰ることが多く、陽太とまともに顔を合わせていなかった。それなのに、俺が最後に見た陽太の姿は、涙を浮かべ、体から爆発を起こしている、そんな哀しい姿だった。陽太は明るい子なんだ。優しい子なんだ。それなのに、何故あの子があんな事にならなければならなかったのか。何故あんな思いを陽太にさせてしまったのか。同僚の話では、陽太には「超能力」の予兆が現れていたらしい。俺の奥さんが何度か陽太を病院に連れて行っていた記録が残されていた。俺は何も出来なかった自分の全てとを恨んだ。
そして、「超能力」という、原因不明の病を心の底から恨んだ。愛する家族を奪い、俺から生きる意味さえも奪ったおぞましい病を。
俺はこの時、初めて「超能力」をこの世から無くしてやる。そう考えたのだった。
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「柳田さん!大丈夫ですか?!柳田さん!?」
ぼうっとしていたのか、俺は萩原の声に意識を取り戻した。
俺はすぐ様栢山の方を見る。奴は未だにふらふらとアパートの前を歩いている。
「柳田さんどうしますか?」
俺達、超能力犯罪対策係には幾つかの特権が与えられている。その一つに、「犯人が超能力者であると認められた場合、令状無しにその者を逮捕出来る」というものがある。つまり、栢山が今俺達の目の前で超能力を発動した瞬間、俺達は栢山を捕らえることが出来る。しかし、当の栢山はそれらしい動きを見せず、ただ虚ろに徘徊するだけだ。
「後一歩なんですけどね」
萩原がそう呟いた次の瞬間、突然栢山は呻き声を挙げると、全身から炎を吹き出し、全身火だるまになったのだ。
「わぁぁ!!柳田さん!!発火能力《パイロキネシス》が出ちゃっいましたよ!!」
全身に炎を纏う栢山。しかし、その表情はどこか悲しそうにも見える。
「ア、ツイ・・・タス、ケテ・・・タス・・・ケ・・・」
炎の中で、栢山はそう呻いた。その声はまるで獣のようで、とても辛そうだった。
「タスケテ・・・」
すると、栢山の瞳から一粒の涙が頬を伝ったのが見えた。それを見た瞬間、俺は腰に着けていたハンドガンに握り締め、栢山に銃口を向けていた。
「まさか、柳田さん!?打つつもりです?!」
俺は引き金に手を掛け叫んだ。
「お前はこいつが助かるとでも思うのか?!お前だって分かってるだろ!?こいつはな!もう死んでるのと変わらないんだよ!!だったらな、せめて苦しめないで、楽な死に方をさせてやるのも俺達の仕事じゃないのか?」
引き金に当てた人差し指は痙攣しているかのように震えている。
「タスケテ・・・タスケテ・・・」
「なあ、何で超能力なんてものがあるんだ?こんなもの、人を悲しませるだけの呪いの力じゃねえか───」
俺達超能力犯罪対策係には、末期の超能力者に対して、発砲が認められている。
*****
それから二日後、俺は萩原と共に栢山の実家を訪れていた。遺族である彼らに今回の事件のことを説明し、俺自らが栢山良平の命を絶ったことを報告しに来たのだ。萩原が事件の説明をすると、栢山の御家族は落ち着いた様子で話を聞いてくれた。そして、俺が深々と頭を下げると、栢山のお父さんに背中を優しく叩かれた。
「倅は、きっとあんたに感謝してますよ」
そう言って俺のスーツを握り締めたその手は、確かに震えていた。
超能力という常識を超えた力。それは、一体何の為に生まれてきたのか。その答えは、きっと念動力《サイコキネシス》を使っても分かりはしないだろう。
後書き
最後まで読んで頂きありがとうございます。
一人でも多くの方に読んで頂けたら幸いです。
感想、評価よろしくお願いします。
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