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作品ID:639
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「ライトノベル」です。
文字数約8990文字 読了時間約5分 原稿用紙約12枚
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小説の属性:ライトノベル / S・F / 感想希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし /
タイムマシンと奇跡の子
作品紹介
タイムトラベルの先にある、不思議な世界。
その世界は、あまりにも殺風景だった。ただ砂と地平線が広がる、砂漠であった。
平凡な男、ラクオは突然現れた光景に、ただただ立ち尽くすだけだった。
ラクオの後ろには、巨大な機械が放置されていた。ラクオをこの世界へ運んだ機械は稼働する様子もなく、煙をあげるのみだった。
事の発端は、数時間前に遡る。
ラクオは、「タイムマシン発表会」に招待された。勿論、平凡なラクオが発明したものではなく、抽選でチケットが当たったものだった。
会場は、タイムマシンを信じない科学者と、夢の目撃者になりたい一般人でごった返していた。過去に開発はされていたものの、タイムマシンの開発は失敗に終わっていたため、期待半分、諦め半分だった。ラクオは一般人側で、半信半疑でその時を待っていた。
そして、その時はやって来た。開発者の永遠にも思えるような長い理論説明の後、実験に参加するゲストが選ばれた。そのゲストこそが、ラクオだった。
そこで会場の人間が納得すれば良かったのだが、そうはいかなかった。初の実験台に選ばれたラクオに対しての憎悪を露わにして、壇上へあがろうとするものまで出てきた。
ラクオは暴動が収まるまで避難しようとしたが、そんな彼に不運が舞い降りた。誰かの手が彼の腕を引っ張り、タイムマシンの方へ引きずり込んだ。ラクオはそのまま、タイムマシンに乗り込む形になった。
そこに重なるように、タイムマシンが誤作動して、勝手に起動してしまった。ラクオは、設定されていた「5年後の世界」へ飛ばされてしまった。
時間は戻って現在。
ラクオは、タイムマシンの起動ボタンを何度も押すが、機械が彼に応える様子はない。5年後になんか来るんじゃなかった。彼は1人で毒づくが、タイムマシンが逆上するはずもなかった。
彼は、叩けば直る、という素人丸出しの暴論を思いつき実行するが、目の前の機械が反応を示す様子はなかった。
(どうするかな……)
ラクオが頭を掻きながら困っていると、遠くから誰かがやってくるのが見えた。ラクオは、その人に助けを求めようと、両手を大きく振り合図を送った。
直後、ラクオの頭上を、一発の銃弾が駆け抜けた。銃弾は、そのまま彼の後ろにあったタイムマシンに直撃した。タイムマシンはそれが致命傷となり、小爆発を起こした。銃は、ラクオの方へやって来る人影の方向から発砲されたものだった。
すぐに2発目がやって来た。2発目は明らかにラクオを狙ったもので、彼の心臓を狙うような軌道で発砲されたものだ。ラクオは咄嗟に右へ避けていたので、どうにか助かった。
人影が、こちらへ向かって走って来ているのが見えた。ラクオは、炎上しているタイムマシンの反対側へ周りこみ、息を潜めた。彼の心臓は、映画のような展開と、ほんの少しの中二病心で疼きかつてないほど跳ね上がっていた。
この先どうするか考えていると、1人の男がバイクに乗ってやって来た。男は、ラクオの近くにバイクを停めると、彼のラクオの手を取って、バイクの方へ引っ張った。
「こっちへ来い!」
「え!?」
男は、問答無用でラクオをバイクの後ろに乗せると、前に乗り込みそのまま発進させた。急すぎる展開についていけないラクオは、とりあえず男の背中にしがみつき、バイクから落ちないようにした。
先ほど銃を発砲してきたとみられる人物が、タイムマシン付近までやって来た。その人物は全身真っ黒のライダースーツで、黒いヘルメットを被っており、ラクオがバイクで逃げていく様子を見ると、数発弾丸を放ってきた。しかし、ラクオたちの乗っているバイクには命中しなかった。ヘルメットの人物は、命中しなかったことが分かると、バイクの方を向き、そのまま突っ立っていた。
ラクオを乗せたバイクは、砂漠地帯を抜け森林地帯にやって来た。ラクオは、ヘルメットの人物が追ってこないことを確認すると、バイクの運転主に呼びかけた。
「助けてもらって恐縮なんですが、あなたは誰ですか?」
反応がない。ラクオは男の肩を叩き、もう一度質問を投げかけた。すると、男はバイクを運転したまま、彼の質問に言葉を返した。
「お前、名前を訊くときは自分から名乗れって言われなかったか?」
「あ、すいません。僕の名前はラクオです。それで、あなたは……?」
男は少し間を置いて、ラクオ、と名乗った。そして、気まずそうに目をそらした。
バイクの後ろに乗っていたラクオの中で、一瞬時間が止まった。バイクを運転していた未来のラクオは、彼の反応を確認し、続けた。
「お前のリアクションはよく分かる。顔も似ていないかもしれないが、お前は俺だ」
5年後のラクオは、過去からやって来たラクオが落ち着くまで、一度バイクを止めて、降りて待つことにした。
数分後、思考が整理された過去から来たラクオの第一声は、これだった。
「タイムパラドックスは、起きないんですか?」
未来のラクオは、過去の自分の意外に冷静な反応に戸惑いつつも、質問に答えた。
「あ、ああ。まあ、タイムマシンが出来た時点で、そんな人智に収まる域の話じゃなかったってことだ」
過去から来たラクオは、彼の微妙な反応に不信感を抱きつつも、それ以上は追究しなかった。
今目の前にいる未来の自分は命の恩人なのだ。下手に疑って、さっきみたいな状況に置き戻されても、自分が困る。過去からの訪問者のラクオは、引き下がる以外に方法はなかった。
未来のラクオは、彼が納得したのを確認すると、バイクに彼を乗るように指示し、バイクを再び発進させた。
バイクは2人のラクオを、森林地帯の中でもさらに奥深くまで運んだ。運転席に座っている未来のラクオは、後ろにいる過去の自分には何も告げなかった。
やがて道が開け、ログハウスが建っている空間に出た。建設から時間が経っているせいか、全体がこげ茶色に近い色をしていた。周りには、切り株があり、このログハウスを使う際に使用したことが分かった。
未来のラクオは、バイクをログハウスのすぐ近くに止め、過去の自分にもバイクを降りるよう指示した。
未来のラクオは、そのままログハウスの中へ入っていった。過去から来たラクオも、彼の後を追うようにして、中へと入った。
「ゲホッ」
中に入った瞬間、2人は咳をして口を手で押さえた。ドアを開けた衝撃で、室内にあった埃が舞ったためだ。
部屋は埃が積もっている以外は整理整頓されていた。本が綺麗に並んだ本棚、ピンと張った革のソファー、ひび1つないガラス製の円型テーブルなどが、おしゃれに配置されている。本の手前には、未来のラクオと女性が一緒に写った写真が飾られていた。しかし、ガラス製の写真立てが割られており、女性の顔ははっきりと見えるわけではなかった。
過去から来たラクオは、部屋の主が自分とは正反対の几帳面な性格であることを感じ取り、少し居心地が悪く感じた。彼は、未来の自分が顎でソファーに座るよう言っているのを見ると、ソファーの上にある埃を払い、腰をかけた。
そういえば。過去から来たラクオは、先ほど自分に降り注いだ災難を思い出した。
「さっきのヘルメットの人誰なんですか?」
「あれは多分、『奇跡の子』に関係しているんじゃねえか?」
「『奇跡の子』?」
未来のラクオは、過去から来たラクオが何も分からないのが分かると、『奇跡の子』に関しての説明を始めた。
「『奇跡の子』ってのは、カルト集団のようなもんだ。存在するかも分からねえが、『奇跡の子』を怒らせないためのパトロールみてえなことをしてるわけだ」
過去から来たラクオは、完全に理解はしていなかったが、とりあえず、なるほど、と返事をした。未来のラクオは、それを看破していたが、補足説明をすることはなかった。彼は、ポケットからライターとタバコを取り出し、火を付けた。
過去から来たラクオは、その様子を見て、嫌な顔をした。顔つきは変わったものの、嫌煙家だったはずの自分がタバコを吸う姿を見るのは、複雑だった。
未来から来たラクオは、タバコの煙を吐きながら質問をした。
「それで、お前は過去に帰りたいのか?」
「え、ああ。まあ、そうですね」
過去から来たラクオは、質問には答えたものの、その後の可能性は期待していなかった。時間が経っているとはいえ、自分に解決できるような問題ではないことは分かっている。
しかし、未来のラクオは、意外な一言を放った。
「分かった、じゃあ協力するよ」
「え?」
百聞は一見に如かず。未来のラクオはその言葉を思い出し、腰を上げ、本棚の方を向いた。一冊の本を取り出し、過去から来たラクオに手渡した。本には、『時空移動理論入門』と書かれていた。表紙はボロボロで、紙も茶色に焼けていた。
作者のカースという名前を見て、過去から来たラクオはタイムマシン理論の名前が、「カース理論」と名付けられていると説明されたことを思い出した。
本を受け取った過去から来たラクオは、本を開いた。そこには、タイムマシンが時間を超越する理論やその作り方などが、事細かに書かれていた。未来の自分はこれを理解したのか。本を眺めていたラクオは、自分の成長に誇らしい気持ちになった。
未来のラクオは、自信たっぷりな様子で、過去から来たラクオを見つめていた。そんな彼に対し、眺めていた本から顔をあげたラクオは、親指を立てた。
「それじゃ、決まりだな。早速買い出しだ」
「はい!」
こうして、ラクオ2人による、タイムマシン作成が始まった。
最初に、素材集めから始めることにした。森を抜けた先にある機械部品を取り扱う専門店で、タイムマシンに必要な部品を調達した。
途中、ラクオたちは『奇跡の子』を名乗る謎の集団に遭遇した。タイムマシンを破壊したヘルメットの人物ではなかったが、似たようなライダースーツを着用していた。
彼らは、ラクオたちを疑ってかかった。そんな部品を使って、何を作るつもりだ。過去から来たラクオは良い言い訳を思いつかなかったが、未来のラクオが咄嗟に、より早く走れる乗り物を作るつもりだ、と述べた。
『奇跡の子』の集団は、特に深掘りをすることはなく、2人から去っていった。
その後、タイムマシンは順調に進み、数か月後、タイムマシンが完成した。ラクオが使ったタイムマシンと全く同じ形をしていた。2人はハイタッチだけでなく、ハグをして喜びを分かち合った。
やっと過去へ帰れる。5年前に帰ることが出来る。過去から来たラクオが感涙していると、小屋のドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ちょっと見てきます」
過去から来たラクオは、ドアの方へ行きドアノブに手をかけ、ドアを手前に引いた。すると、ヘルメットを被ったライダースーツの人間が、彼の目の前に銃を向けて立っていた。
招かれざる客は、自分に応対したラクオの姿を確認すると、発砲した。ラクオは、間一髪で避けたが、頬をかすったため、傷口から血が滴った。
呑気にソファーに座っていた未来のラクオは、上着のポケットから銃を取り出し、客に向けた。
「逃げろ、ラクオ!」
『ニガサナイ』
ヘルメットの人物の変声機を使った声には、何かに対する激しい憎悪が含まれていた。過去から来たラクオは、未来のラクオが座っているソファーの近くへ行き、ドアとは反対側の肘掛の方へ身を潜めた。
未来のラクオは、ヘルメットの人物から視線をそらさずに、過去の自分に銃を投げ渡した。過去から来たラクオは、一瞬慌てたが、どうにかキャッチをした。
ヘルメットの人物は、次の標準を未来のラクオに合わせていた。未来のラクオは、両手をあげて苦笑いの、降参アピールをした。
「待った、とりあえず落ち着けよ」
『ユルサナイ』
「なんの話だ?」
ヘルメットの人物は、少しずつ未来のラクオへ迫る。2人の距離はじりじりと詰められていく。未来のラクオは、過去から来たラクオに目配せで、号令と共に発砲しろ、と指示を出した。
そして、ヘルメットの人物がある距離に来た瞬間、未来のラクオは、大声で叫んだ。
「今だ! 撃て!」
未来のラクオはその場でしゃがみこんだ。ヘルメットの人物の目に、それと入れ替わりで過去から来たラクオが銃を構えているのが見えた。銃を構えたラクオはそのまま、ヘルメットめがけて発砲した。
弾の勢いは、防弾性のヘルメットに殺され、突き刺さる形で止まった。ヘルメットの人物は開いたままのドアの近くまで吹き飛んだ。
未来のラクオは、ヘルメットの人物が怯んだのを見逃さなかった。彼は、ヘルメットの人物に飛び掛かり、身体を押さえつけヘルメットを剥ぎ取った。
ヘルメットから出てきたのは、茶色の長髪が綺麗な女性だった。年齢は未来のラクオの推測で、15、6歳だった。ラクオが何より驚いたのは、その顔が未来のラクオにそっくりなことだった。女は、眉間に皺をよせ、未来のラクオを睨み付けていた。
「触らないで!」
彼女は一瞬だけ緩んだラクオの拘束から抜け、両腕で彼を突き飛ばした。ラクオは、尻餅をつく形で押し飛ばされた。銃を撃った方のラクオは、2人を交互に見て困惑した。
自分は一人っ子であり、生き別れた妹や姉がいるわけでもない。従姉妹はいるが、目の前にいる女性とは、似ても似つかない。勿論、子供という説も、全く心当たりがなかった。
ラクオたちが放心状態の間に、茶髪の少女は、ドアに吹き飛ばされた際に放り出してしまった銃を拾いに行った。銃を手に取ると、未来のラクオに再び標準を定めた。
「あんたは絶対に許さない! お母さんと私に詫びながら死になさい!」
「お母さん!?」
過去から来たラクオは、思わず声をあげて驚いたが、未来のラクオは言葉を失っていた。そして、何かを思い出したのか、ある名前を言った。
「お前まさか、マジナの……?」
「ようやく思い出したのね、このクソ親父! けど、もう遅い!」
少女がトリガーに指をかけて、引き金を引こうとした次の瞬間、ライダースーツを着た十数人が、ドアが開いていた小屋に押しかけてきた。少女は思わず怯んでしまい、発砲するタイミングを失ってしまった。
ライダースーツを着た集団、『奇跡の子』は、小屋の奥にあった忌まわしき機械を見ると、ざわざわと騒ぎ出した。
『何で、タイムマシンがこんなところに……?』
『お前も知ってるのか!?』
『そう言うお前こそ、何で知ってるんだ!』
過去から来たラクオは、目まぐるしく転ずる状況に、頭がついていけなかった。ただ、唖然と状況が変わる様を見ているだけだ。
この騒ぎは、少女が天井に向けて放った一発によって鎮まった。全員の視線が自分に注目したのを確認すると、全員に届くように大声で話し始めた。その表情は、諦観したような乾いた笑顔だった。
「いい機会だから教えてあげるわ、この世界の秘密を」
「や、や、やめろ!」
声を上げたのは、『奇跡の子』たちであった。未来のラクオも、何やら気まずそうな顔をしている。過去から来たラクオは訳が分からず、疑問符を浮かべるばかりだ。
少女は、過去から来たラクオの方を向いた。そして、『奇跡の子』たちの制止も聞かず、少女は真実を話し始めた。
「この世界の住人は皆、タイムトラベラーなのよ。私を除いてね。そして、全ての元凶はその男――カース」
「カース……?」
少女は、かつて未来のラクオと名乗った男、カースを指差した。過去から来たラクオは、彼の様子を見たが、彼は否定もせず、言い返すこともなかった。
『奇跡の子』の内の1人が、少女に向かって叫んだ。
「な、な、何を根拠にそんなこと言っているんだ!?」
「あなたたちのその反応が、確固たる証拠だわ。それに、あなたたちが愛してやまない『奇跡の子』は、目の前にいるのよ?」
「『奇跡の子』!?」
「ええ。だって、この時代に唯一生まれた、時空を超えた子だもの」
少女は、『奇跡の子』の集団が驚く様子を、鼻で笑った。その後、すぐに怒りに表情を戻し、カースに中指を立てた。
「このクソ親父は、私欲のためにタイムマシンを開発し、タイムトラベラーがたどり着くこの世界を作り出してしまったの。それに加え、絶対に会えない時代の女性と子供を作った。それだけじゃなく、お母さんを捨てたわ!」
全員の視線が、カースへ向けられた。カースは、冷や汗をかきながら、目を泳がせている。しばしの沈黙が場を支配した。
その様子にしびれを切らした少女が、一発発砲した。弾は、カースの頬を掠り、ガラス製の写真棚に飾ってあるカースの顔に突き刺さった。
自分の娘の覚悟を察したカースは、一度深呼吸をして覚悟を決めた。贖罪しなければならないのであれば、方法は1つだけしかない。
「……分かった、責任を取ろう。ただ、死ぬ前にやることがある」
「やること? 逃げる気?」
「そうじゃない」
カースは、自身が著した『時空移動理論入門』を取り出した。少女は彼の意図が分からず、首を傾げた。
「片道切符のタイムマシンで、全員を元の時代に帰す。そして、この本を燃やす。そうすれば、誰もタイムマシンを開発できなくなる。それで、問題はないはずだ」
少女は少し考え、カースの解決方法が合理的であることを確かめた。そして、彼とラクオの2人に、カース発案の作戦の実行を命じた。
そこからは、全員で協力することになった。
『奇跡の子』である少女――ミラと、『奇跡の子』を名乗る集団は、全員で呼びかけを行い、この世界に生きる人間をカースの小屋へ収集した。ラクオとカースは、片道切符のタイムマシンの大量生産に取りかかった。そして、1つ完成するごとに1人、元の時代へと返していく作業を繰り返した。
ラクオは、ふと浮かんだ疑問を、ミラにぶつけることにした。
「そういえば、ミラさんのお母さんはどこに行ったの?」
「お空よ。もう死んだわ」
ミラは、カースの方を向いて、大きく舌打ちをした。その音を聞いたカースは、申し訳なさそうな顔をしながら、作業を続けた。
そして、2年後。この世界に飛ばされたタイムトラベラーは、最後の2人になった。ラクオとカースだ。先にタイムマシンに乗ることになったのは、ラクオだった。
タイムマシンに乗り込んだラクオに、ミラは声をかけた。彼女は、怒りの表情ではなく、罪悪感があるような顔をしていた。
「1つだけ謝らせて。あなたを襲ったのは、あなたもこいつと同じだと思ったからなの。本当に、ごめんなさい」
「……大丈夫だよ。怪我もなかったしね」
ラクオは頭の中で、この世界に来てからの記憶を振り返りながら答えた。最初は理不尽に感じていたが、映画のような経験を出来たのは、今ではいい思い出だ。
2人のやりとりを見ていたカースが、俺も謝りたいことがある、と切り出した。
「ラクオ、騙してすまなかった。偽名を名乗ったのは、お前の夢を壊したくなかったんだ」
「いえ、大丈夫です。楽しかったですから」
ラクオの言葉に嘘はなかった。タイムマシンの理論は理解できなかったが、タイムマシン開発に関わることが出来たのは一生の誇りになるはずだ。
ラクオを乗せたタイムマシンが、宙へ浮かび準備態勢に入る。数秒の間を置いて、消えた。転送は成功したようだ。
残された2人の間に、気まずい沈黙が流れた。カースは、あらかじめ作っておいた自分用のタイムマシンの最後のメンテナンスを始めた。
作業をするカースの背中の後ろに、ミラが立った。ミラは、何かを言いかけたが、言葉に出すのを躊躇い、踏み出せずにいた。
言葉を発したのは、カースの方だった。
「元の時代に帰って、タイムマシンの資料を全部消したら、俺は自殺する」
「えっ」
突然の話に、ミラはついていけなかった。その反応が意外だったのか、カースはミラの方を振り向いた。その複雑な表情を見て、娘に対する愛おしさを覚えた。
自分には、説明する義務がある。そう感じたカースは、理由を説明した。
「最初にタイムマシンを開発したのは、俺だ。俺が死ねば、この世界に来た人間は、俺以外にいなくなる。つまり、マジナが生き返るはずだ。お前がいなくなってしまうのが残念だが、それが俺の贖罪だと思う」
「お父さん……」
ミラは、自分の父親がそこまでやる人間だとは思っていなかった。許したわけではなかったが、少し見直した。
母が言っていたよりは、いい人だったようだ。母が惚れたのは、こういうところだったのかもしれない。
カースは、最後のメンテナンスを終え、タイムマシンの搭乗口を開いた。ミラは、何か一言言おうとあたふたしていた。そうこうしているうちに、搭乗口が閉じてしまった。
タイムマシンが宙に浮いて、彼を転送する直前、カースが口パクで『ごめんな』と言った。それを見たミラは、遅い、と叫んだが、次の瞬間には、タイムマシンはそこにはなかった。
これで良かったのだ。ミラは、天にいる母に確かめるように、空を仰いだ。そして、流れてきた涙を人差し指で拭い、父が去った跡地に静かに言った。
「ありがとう」
彼女は、この歪んだ世界から解放された。
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