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作品ID:88

こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約8904文字 読了時間約5分 原稿用紙約12枚


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レーゾンデートル

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 黄色い人工太陽が笑ってる。

笑っているんだ、本当の太陽を失ってしまって、自らの作った物にしか頼れない僕たちを笑っている。主人はいつもそういって、人工の太陽から目をそむけていた。

昔、人はたくさんのものを創り出していた。作れることがうれしくて、どんな事でもできてしまうのがうれしくて、たくさんの自然のものを壊して全てを人工の物に変えていったという事を主人は僕に教えてくれた。

そして主人は、自分たち人間でさえ、代わりのものを創り出してしまった事も僕に話してくれた。

人工知能と本物の人間の遺伝子、機械で作られた骨組み、その遺伝子から作られた本物の肉体、埋め込まれた機械の電波信号によって理想どおりに作れる性格、それらを完璧なものとして作られたのが、僕たちアンドロイドだ。

人の姿をし、人と同じように振舞う。

ある者は死んだ我が子と同じ容姿、性格をしたものを。ある者は自分の望んだままの美しさと従順さを持つ完璧な理想のガイノイド(女性のアンドロイド)を。

そして人々は子供を作る事をやめた。

自分たちの理想どおりのアンドロイドを愛してしまったから。自分の思い通りになる、そんなものを愛してしまったから。

アンドロイドを初めて作ったのが主人の祖父に当たる人で、たくさんの資産が彼の元には入ってきた。主に技術提供によるもので、その頃にはもうアンドロイドは人々の生活の一部となってしまっていて、そんなアンドロイドを作り上げた彼を、人々は神だと崇めていたが、彼自身は常に苦しんでいた。彼は死んでしまった主人の母、つまり娘のガイノイドを創り出そうとしていた。でもそれは、生涯かかっても出来る事はなかった。

主人は、失敗作のうち捨てられたガイノイドの残骸を見るたび、生々しい腕や血などに恐怖心を抱き、アンドロイドが大嫌いになった。

けれど、僕を作ったのはそんな主人だった。

主人は主人の祖父に受け継いだ高い技術力を持っていた。そして自らもメカニックの才能があるらしく、普通数人がかりで作り上げてしまうアンドロイドを一人で作り上げるスキルを持っていた。企業の依頼でアンドロイドを作ることはよくあることだったが、好んでアンドロイドを作る事はめったになかった。

そして、自分のそばには僕以外のアンドロイドをおく事はなかった。

血を見る、肉を見る、グロテスクで汚いものを幼い頃から見ながら、嫌悪してアンドロイドを作り続けるのはどうしてだろう?僕を作り上げたのはどうしてだろうか?それが分からないのは、僕がアンドロイドだからだろうか?

 出来上がったばかりの僕は主人に手をひかれて大きな屋敷の中から連れ出された。

外には煌々と光る人工太陽、人工の芝生、薬品の匂いが充満していて、できたばかりの神経で伝わってくるのは生ぬるい風と主人の冷たい指の感覚。

あたりに家はなく、ただ木もはえていない、芝生の平らな土地だけで、風の盾となるものなんてないから体全体を撫ぜる風は主人と僕を包んで通り抜けていく。

主人はずっと無表情のまま、僕の手をぎゅっと握り締めていただけだった。黄色く光る人工太陽をずっと見つめている主人には、表情はなかったけど、寂しげで不安そうな気持ちだけは伝わってきた。

主人は僕の顔を見上げると大の大人ほどある、僕の顔を掴もうと手を伸ばしてきた。僕は膝を折り主人の手が届くほど低く身を屈めた。主人の手がゆっくりとまるで触れてないのではないかと思うほど優しく僕の頭を掴むとゆっくりと太陽のある方向へ首を曲げさせられた。

黙ったままの固く閉じた口がゆっくりと開いたかと思うと、主人は僕の前で初めて少し擦れた声を出したのだ。

「・・・俺、太陽嫌いなんだ。俺は照らされないと生きていけないなんて、そんな事・・・そんな事はないんだ。決してそんな事はないんだ。だって俺はずっと一人きりで生きてきたんだから。」

主人のそばには誰もいなかった。身の回りの手伝いをするのは僕だけだった。でも、それさえこの人が作ったのなら僕はこの人が思う「二人」には換算されないのだ。

主人はやさしく僕の耳に触ると、僕の完全なる機械の部分、耳の裏側にある電波が発信される機械が埋め込まれている固い閉ざされた蓋を指で開けた。

そこは生身の肉体とも繋がっていて、少し血で湿っていた。主人の指に血がつくと主人は痛々しそうなその機械を、目をつぶって引き千切った。その瞬間酷い痛みが僕を襲ったがそれは一時的なもので、ゆっくりとすぐに痛みは安らいだ。

主人はすぐさま蓋をして、血のついた指を芝生で拭った。風が柔らかく僕たちを包んで、主人はじっと僕を眺めていた。

何故か分からない、感情がないに等しいこの人は、顔で表情を読み取るよりも。言葉よりも表情よりも何よりも僕には伝わってくる何かがあったのだ。

「これで自由になれた。」

呟いたのは主人の方で、何がなんだか分からない僕は血で固まりそうな蓋を指で押さえてきちんと閉めなおした。

主人は気まぐれだった。

時々、僕を殴りつけては泣いたり、毛布に包まっては震えてみたり、やることなすこと理解できたものじゃない。

最初は見せなかった表情もだんだんと化けの皮が剥がれるように見せるようになって、ふ「お前はいいよな。」とたまに吐き捨てるように僕にいう。

何がいいものかと僕は思う。

主人が捨てたあの機械には、主人がこんな状態の時どうすればいいかの答えが入っていたというのに、非力でどうしようもない、見ているだけで何もできない僕が、いいものかと悪態だってつきたくなる。実際につく。

「僕は好き勝手に泣いたり、震えたり、暴れたりする人のほうが羨ましいです。」

主人はそんな僕を見て睨んでいるように笑う。意味不明だ。

「そんな時何もできない僕の気持ち・・・考えてくれた事ってありますか?」

僕はそんな主人に怒りをぶつけるようにして言い放つが主人は決まってこういうのだ。

「機械に気持ちなんてあるわけないだろ。」

そういって口の橋と端を思いっきり持ち上げてこれ以上ないほど憎らしく笑うのだ。

僕はその主人を見るたび「どうしてあの機械を僕から取ってしまったのか」と問いただすけど主人は耳を塞いで教えてくれた事は一度もなかった。

ある日のことだった。主人に技術提供を頼みに来たアンドロイドの企業が尋ねに来た。

「どうぞ」

僕はドアを開いて中に招き入れると無表情の主人がそこにいた。

主人は僕以外にあまり表情を見せない。僕にも初めは表情を見せなかった。そうやって隠してるんだと思う。主人はあまりにも臆病者だから、自分の事を自分の信頼してるもの以外に見せたくはないんだ。

「本日は新しいアンドロイドの開発について技術援助していただきたく思い、お伺いいたしました。」企業の人は時々主人を見て驚いたりする。まだ子供じゃないかと驚くのだが、彼の技術力の高さからすぐに子供であること忘れてしまうのだ。

「それでは資料をお願いします。」

主人は冷めた言い方でいった。主人はアンドロイドを作るに当たってその目的、用途それらをしっかりと見極めて、皆に害のある者は絶対に断る。それは祖父の代からのこの家の決まりごとらしかった。

主人はじっと資料に目を通した。しかししばらくすると眉をピクリと動かし、「お断りします」と言い放ったのだ。企業の人はそれがどんなに民衆に望まれているのかを訴えていたが主人が受け入れる事はなかった。

企業の人はしぶしぶ帰っていった。主人はまた毛布を被って震えていた。

どんな事を、頼まれたんだろう?僕は見当もつかないで震える主人のそばから離れずに、ベットの下に座り込んでいた。

「命を作れるガイノイドを作れだってさ。そんなの・・・俺たち人間がいる意味をなくしてしまうじゃないか・・・。」

怖れるように呟いた言葉を僕は忘れもしないだろう。だってそれが実現すれば僕にとってはうれしいことだった。同列に並べない、二人に換算されない、この人の孤独の一部になってしまっている僕にとってそれは生きている意味になると思った。

僕たちアンドロイドにとって人間との違いなんて生殖能力があるかないかの違いになってきているもの。もしそうなってくれれば、僕は主人と対等に並べる気がしたんだ。そうしたらもう、こんな気持ちで主人を見る必要もなくなるんだ。ずっと・・・そう思っていた。

「それは、いいことじゃないですか。人もアンドロイドも皆仲良く暮らしていける。みんなが幸せになれる。アンドロイドに愛をした人間も、人に恋したアンドロイドもちゃんと報われる世になるんですよ?」

僕は何も考えず主人に言い放ったが主人は、とても嫌そうな顔をして・・・そして泣きそうな顔をして、僕にこう言った。

「お前、本当にそう思うのか?・・・それは違うよ。機械は恋なんてしない。都合よく振舞うだけの機械に人間は本当の恋なんてしない。ただ心の穴を埋めるためだけに恋に恋して好きだというのさ。・・・もし、機械が生命体を授かることができたのなら、有能でもなんでもない、ただ造ったというだけの僕達人間に居場所なんてなくなるんだ。・・・僕はそれが怖い。」

主人はそういうと毛布に包まって震え出した。

僕はそれでも命を作り出せるアンドロイドは夢だった。本当に彼と対等に並べる気がしたから。

その頃の僕は主人の気持ちを汲み取れるほどちゃんとしたアンドロイドじゃなかった。それは望むのはやっぱり、あの機械を主人から取り外されたせいで、少しだけ他のアンドロイドよりもわがままになっていたからかもしれない。

「機械は嘘つきだろ?思ってもない事いうだろ?都合よくしか振舞わないだろ?だから本当に俺を必要としてるかなんて分からないじゃないか、俺がいないと自分の存在理由がなくなるから、だからお前だって俺のそばにいてくれるんだろ?・・・だから俺は一人ぼっちなんだ。」

呟く言葉が痛すぎて時々耳を塞ぎたくなる。お願いだからそんな自虐的に自分を傷つけないで欲しい。

僕は子供を生むガイノイドを作って欲しかった。そうすれば、そうして人とアンドロイドが対等に並べば、主人の孤独も少しは安らぐ気がしたんだ。そしたら僕もここにいる意味が少しはあるのかと思えるじゃないか、そうすれば自分の非力さに憤りを感じることもなくなるじゃないか、・・・でも主人はそれを望まない。いつも気持ちばかりが先走って逆に傷つけてしまう。

どうして僕からあの機械を取ってしまったのだろう?作り出したときは、ちゃんと埋め込んでくれたのに・・・どうしてなんだ?

「どうして、あの機械を僕から取ってしまわれたのですか?」

主人はいつものように耳を塞いで、僕を無視した。

 主人は大嫌いな研究室に閉じこもって何かを作っていた。何を作っているのかさえ教えてはくれない、ただガイノイドを作っているようで、パーツがあちらこちらに落っこちている。それは他の人間から見たらグロテスクで不気味な物だろうけど、主人はとても嫌そうな顔をすれけどそれを存外に扱ったりはしなかった。大切に大切にそのガイノイドを作り上げていた。

けれど、主人は完成まであと一歩というところで、ガイノイドを作る事をやめてしまった。

「どうして作るのやめてしまったんですか?」

ガイノイドは十四歳ぐらいの若い少女のガイノイドで、企業から頼まれた物ではないことが分かった。でもそれならどうしてこのガイノイドを作ったのか、どうしてやめてしまったのか、主人のアンドロイド嫌いは筋金入りで、好んでアンドロイドやガイノイドを作ったりはしなかったのに。それなのに気味の悪そうな顔はするけど、それでも、大切に大切に作り上げようとする主人が僕は不思議でたまらなかった。

「なぁ、普通子供を生む歳ってどのぐらいだ?」

主人は目の冷めるようなどろどろの苦いコーヒーを飲みながら僕に聞いてきた。

「十六?三十後半ぐらいではないでしょうか?」

「なぁ、十四歳で子供って生むのか?普通・・・。」

主人はどろどろのコーヒーをガイノイドの腕が置いてある机に置くと、椅子を回して僕の方を真剣に見た。

「普通はその歳で子供を生む事は、女性の体ができていないのでかなり危険です。きちんとした親がいる家庭では、まず生ませようとはしないでしょう?」

主人は僕がそういうのを聞くと、泣きそうな顔で

「やっぱりな・・・。」

といって自虐的に笑った。

それから数日して、主人は僕に庭に出るようにいった、そして呼ぶまで戻ってくるなと言われたのだ。僕はよく分からずに言われるまま外に出た。夜になっても朝になっても戻って来いといわれることはなかった。心配になった僕は主人のいる屋敷に戻ると玄関から、つんと灯油の匂いがした。心配になった僕は急いでドアを開けると廊下中灯油がまかれていた。

僕はそれを見ると、主人が何をする気なのか分かった。

僕は走って研究室まで向かった。灯油の撒かれた廊下は滑りやすく、走りにくかったがそんな事かまってられなかった。おそらく主人は屋敷ごと燃やして自分も死ぬ気なんだと分かったから。なんで?わからない、でも止めなくちゃ、その気持ちだけで僕は走った。

研究室に着くと息を切らし、灯油のタンクを引きずった主人が座り込んでいた。

「何を・・・やっているんですか・・・?」

僕がそういうと主人は自分の頭上にタンクを持ち上げて灯油をかぶった。主人の小さな体や服はしっかりとそれを吸い込んだ。

「やめてくださいっ、お願いです。やめてくださいっ」

僕はそういうと、主人は机においてあったマッチを手にした。まるで僕がいないかのように無視して主人は死のうとしている。僕は素早く主人に近づくと、手にしていたマッチを奪い取った。

「何してるんですかっ、どうしてこんな事・・・。」

怒鳴るようにしていうと主人は無表情で僕にいった。

「・・・おかしいと、思ったんだ・・・。」

独り言のように呟くと主人は僕に事の事情を話し出した。

「あのガイノイド、あれは母さんなんだ・・・。母さんは十四歳で死んだと祖父に教えられた。でも、普通生まないんだろ?その歳で、子供なんて。だから調べたんだ。じいさんが母さんを作ろうとした資料を基に、あのガイノイドと作った。本当はあの企業が来るまでそんなことしようとなんて思わなかった。昔から分かってたんだ、若過ぎるってことは自分でも・・・でも自分がどうやって生まれたなんてこと、そんな事を知ってしまうのは自分が何者か知ることだから・・・正直怖かったんだ。でも、子供を作るガイノイドって聞いてわかったんだ。知りたい自分がいる、知って安心したい自分がいる事を。でも、それは間違えだった。調べるべきじゃなったんだ。あのガイノイドを作ってわかったのは、俺は本当の母さんの子供じゃない。本当は母さんの遺伝子を持つガイノイドの子供だって・・・。」

「えっ・・・そんな・・・。」

僕はなんていえば分からず、ただ主人を見つめることしかできなかった。主人は冷めた目でタンクを離すと思いっきり蹴り飛ばした。そして泣きそうな声で頭を抑えながら僕にいったんだ。

「実際にあったよ、祖父が作ったそのガイノイドに。綺麗な人だった。ホルマリン漬けになってたけど・・・。」

そういうと主人は卑屈に笑いながら涙を浮かべ、僕に服を握り引っ張り、僕を力技でしゃがませ、僕の耳元でこう言った。

「祖父は子供が欲しかったんだよ。死んでしまった母さんの生きている証を残したかったんだよ。祖父の日記を読んだんだ。そこには異常なほどの祖父の気持ちが痛いほど書かれていた。本当に母さんを愛してたんだ。異常なほど愛してたから。だから自分でダメだと分かっていて作り上げたんだよ。子供を生むガイノイドを。おれはそのガイノイドの子供、だから俺は人間じゃないんだ。といってもそのガイノイドはちゃんと母さんの遺伝子を持っていて、母さんの知り合いの生身の男性の精子から作られたらしいから。人工的に作られた子供ってだけかもしれないけど、確かに人間と違う部分もあるからどっちかって区別はできないけど、本物の人間が親じゃないって点で言えば、お前と同じアンドロイドなんだよ」

「・・・アンドロイド?」

僕は一気に頭の中がぐちゃぐちゃになった。あんなに同列に並びたかった、あんなにも願っていったことがあっさりと一緒だったなんて。それを哀しめばいいのか、喜ぶ事はあまりにも無責任な気がして、うれしい気持ちとそれが後ろめたい気持ちとで心が汚染されてどうして言いか分からないで僕は口つぐむしかなかった。

「だから全部嘘だったんだ。・・・今まで抱いてきた気持ちも、母さんとの繋がりも、全部嘘だったんだ。耐えられないよ、そんなの無理だ。全部嘘だったなんて・・・。機械の電波信号だったなんて、リモコン一つで変わってしまうことだったなんて、そんなの・・・そんなの耐えられない。・・・耐えていけないっ。」

主人は叫ぶようにしていうと近くにあったナイフを手にして、自分の首に当て、僕にこう言った。

「命令だ、俺が死んだらこの屋敷を燃やせ。あんなものはこの世にあってはならないんだ。俺と一緒に燃やすんだ。」

声をこわばらせ、そういった主人の目には強い意志のようなものが見え隠れしていた。

「嫌です。」

口にした瞬間僕自身びっくりした。そんな主人に向かって、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったから。

「機械の癖に・・・主人に逆らうのかっ」

見たこともないほど、怒りに満ちた声で主人は僕を凄んだけど、僕の心の中には主人の望む答えと違う答えがあった。

「逆らいます。だってあなたも機械なんでしょう?」

「でも、お前を作ったのは俺だ」

「だったらなおさら、無理です。」

言葉はすらすら出た。今まで傷つけないように大切にしようと決めていたのに、ひどいことかもしれない、死なせてやるのが一番なのかもしれない。それなのに言葉は僕の意思に関わらず出てくる。

「じゃ、どうして僕を作ったんですか?どうしてあの機械を僕から取ったんですか?いうことを聞かせたいのなら無理やり強制させることができるあの機械をどうして僕から取ってしまったんですか?」

主人はナイフを首に押しつけたまま無言で僕から目をそらした。

「・・・言いたくない。」

「言ってくださいっ」

僕は初めて主人に怒鳴った。主人はビクッと僕の声に驚き、目を泳がせて、しばらくしてちゃんと語り出した。

「・・・・・・・・・一人が、嫌だったんだ。祖父も死んでこんなに広い屋敷で一人ぼっちになった。泣こうが喚こうが、暴れようが誰も何も言わない。・・・誰でもいいから、そばに居て欲しかった。できるならそれは、金を払うからそばにいてくれるんじゃなくて、自分から望んで俺のそばにいてくれる奴がよかった。自分に都合のいい奴じゃなくて、嘘をつかない奴が欲しかった。思い通りになる機械にそばにいて欲しいんじゃなかった。だってそんなのは一人なのと変わらない。分かるだろ?今のお前なら、はいしか言わない生き物なんていない。電波信号でそばにいてくれるなんてそんなのは嫌だったんだ。」

主人がそういった瞬間、それじゃ、僕は望まれてこの人の傍にいるように作られたのか、そう思った。そしてそれと同時に非力だと思って虚しい思いしていた気持ちが、嘘のように晴れた。

「あなたが寂しいというなら僕はあなたのそばにいます。」

言いたくなった。言ってあなたはひとりじゃないって言いたくなった。僕がいる意味、僕が作られた意味、それは僕が主人に望んでいたことだったことがうれしかったんだ。

「俺が死のうとしてるからだろ!?だからそんな事いうんだ。お前だってそうなんだろ?だってお前、俺がいなきゃお前が存在してる理由なんてないじゃないか。自分のためなんだろ?俺のためじゃないんだろ?だったらいいよ、もう、もう何も言うな、・・・言わないでくれよ。」

主人はそういうと首にナイフを押し付けたまま膝を折って座り込んだ。

「あなたは僕に屋敷から出て行けといってくれたじゃないですか。僕を一緒に燃やさないように、庭にいろと言ってくれたじゃないですか。それは何でですか?アンドロイドでも感情はあるんですよ、あなたが与えてくれたんですよ。僕はあなたと同列になりたかった。あなたのそばにいて一人じゃないって思わせたかった。ずっと僕のことなんてどうでもいいんだって思ってた。でもあなたは僕に外にいろといってくれた。それは何故ですか?それはあなたの気持ちからじゃないんですか?・・・僕はあなたに死なれると困るんですよ。だってあなたが言うように僕の存在理由はあなたなんですから。」

僕がそういうと主人は持っていたナイフをカランと床に落とした。そしてボロボロと涙を零して「この嘘つき野郎、嘘だ、そんなの嘘だ。そんなの信じない、俺は何も信じない」と卑屈な事を言って赤くなった目をごしごし拭いた。優しい主人。本当は偏屈なだけで優しい人なんだ。

「主人、生きてください。何もあなたが死ぬ必要はないじゃないですか。大丈夫です。そのガイノイドと資料だけを燃やせば、それであなたがアンドロイドだなんて誰も気付きませんよ。だってあなたはガイノイドが産んだだけで本当にただの生身の人間なんだから。」

存在理由がなければ人も機械も生きていけないほど弱いものだったりする。特にこの主人は弱くて泣いてばかりで、時々自殺なんてしてしまう大変な人だ。だからそばに誰か傍にいてあげないとダメなんだ。多分それが僕のうまれた理由。

後書き

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作者 Niru
投稿日:2009/11/29 17:47:47
更新日:2009/11/29 17:47:47
『レーゾンデートル』の著作権は、すべて作者 Niru様に属します。
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作品ID:88
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