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作品ID:1136
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神算鬼謀と天下無双

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前書き・紹介


第七話 思惑と思案

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   第七話 思惑と思案



 エーベルン王国王都、エルラーン。

 しかし、現在は王都としての機能は無く、ドゴール王国エーベルン侵攻軍本拠地である。

 今、ドゴール軍は北方、南方、さらには西方の部隊にまで、王都に集結するよう緊急命令を下していた。

「…………まさか、このような事態になるとはな。第三軍が功を焦り、壊滅するからこのような事になる!」

 怒気を荒げてその男は言い放った。

 遠征軍第二軍司令官、ラーリオ将軍である。まだ、彼は三十八歳。勇猛果敢な戦いでその名を挙げている将軍である。

「……面目次第もございません」

 レノーク城をエーベルンに奪還された後、レノーク城守備兵と共に解放されたヨークは、疲れきった表情で答えた。

「ラーリオ。ここで愚痴を述べて、ヨール殿を責めても仕方あるまい。今は、過去の反省に基づき、今後どのように動くか考えるべきだ」

 遠征軍第一軍副司令官、タクラン将軍が諌める様に言った。

「……タクランの言うとおりだ。責任の追及は本国の連中に任せればよかろう」

 遠征軍第一軍司令官、ゲルガ将軍がそれに同意した。

 二人は同期の仕官であり、共に四十五歳。数々の戦場と共に潜り抜けた将である。

「それよりも、敵が本格的に反抗に及んだ事が問題だ」

 ゲルガ将軍が言うと、一人の若い将軍がそれに同調した。

「その通りです。ゲルガ将軍。バルハ城砦から敵の動き、考え方、戦術が一変しました。敵に優れた知恵者が加入した事。これは大きな問題である言えるでしょう。それに、我々は北方、南方から戦略的撤退をしました。敵の兵力はこれから増すでしょう。しかし、それでも我等は兵力で勝っております」

 同調したのは、遠征軍第四軍司令官、テョリス将軍である。彼は遠征軍の中で最年少の二十五歳という若い将軍であった。

「黙れ若造! たった一人に戦局全体を変えられてたまるか! ここは、全戦力を率いてレノーク城を攻撃し、一挙殲滅すべきだ!」

「ラーリオ将軍らしい考えだと思います。しかし、ここは慎重に本国の考えを確認すべきでは無いでしょうか? また、本国からの増援を待つべきかと」

 テョリスの言葉にラーリオは拳で机を殴った。

「本国の考えだと!? では、我々は無能という事か!? 敵より二倍以上の戦力でありながら、その敵に臆するというのか!」

「臆すると言うのは敵に対して怯える事。慎重ではありません。私は慎重に敵の動向と本国の意向を照らし合わせようと言っているのです」

 テョリスが言うが、それを止めたのはゲルガであった。

「テョリス。君は慎重で堅実な戦いをする事はこの場の誰もが知っている。私はそれを高く評価しているつもりだ。しかし、本国に増援を要請するのは如何なものか」

「ゲルガ将軍の言うとおりだ。テョリス、君は些か慎重すぎる。それでは勝機を失うぞ?」

 タクランが言うと、テョリスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

「……しかし、まずは戦力を再編成する必要があるだろう」

 そう言ったのは遠征軍第二軍副司令官、ソスラクス将軍であった。

「まずは、第一軍、第二軍は無傷なのでこのまま、第三軍の生き残りと、第四軍を統合する必要があるでしょう。ヨール将軍はテョリス将軍の副司令官でよろしいかな? バルハ城砦で第四軍副司令官であったザーム将軍が戦死されたのでちょうど良いだろう。兵力は……一万で宜しいかな?」

「ソスラクス将軍! それは、どういう事ですか!?」

 テョリスが言うと、ソスラクスは笑みを浮かべた。

「慎重な貴殿がこの王都を一万の兵と共に守備してくれれば、我々は残る十二万の軍勢を率いて安心して敵に向かう事ができる。まさか、ここを空にする訳にもいくまい?」

 テョリスは表情には出さなかったが、憤慨していた。

 第四軍はまだ三万の兵力を有している。これに第三軍の生き残り兵を加えると三万数千。まだ、戦力として機能する。だが、第一、第二軍にその大半を渡すという事だ。つまり、手柄を全て他の将軍に獲られるという事だ。

「恐らく、敵もすぐには動く事はないだろう。空白となった北方、南方を安定させてから……。まぁ、一ヶ月という所だろう。我等もそれだけの期間があれば戦力の再編成を実行する事ができる」

「お待ち下さい」

 立ち上がって言ったのはヨールであった。

「彼等と戦い、彼等の強さを体感した者の意見として聞いて頂きたい。私は彼等の知恵者は途方も無く深慮遠謀の持ち主だと思います。テョリス将軍の言葉に従い、本国からの増援を待ち、敵がどのような策略で立ち向かおうと力で叩き潰す事が可能な状況にすべきです!」

「ヨール。お前の敵に対しての畏怖は分かる。だが、ここで本国から増援を要請しては、我々は揃って無能者の烙印を押され、南方か、北方の果てに飛ばされる事になるだろう」

 ソスラクスが言うと、ヨールは言葉に詰まった。

「では、我々は一ヵ月後、敵の動きに合わせて十二万の兵を持って、敵を迎撃する。この戦でエーベルンを叩き潰し、我等は栄光を勝ち取るだろう」

 ゲルガの言葉で会議は瞬く間に終了を告げ、会議室にはテョリスとヨールだけが残った。

「…………テョリス殿。私は貴方の意見に賛同します。敵は油断ならない恐るべき敵です」

「感謝するヨール将軍」

 テョリスは感謝などしていなかった。逆にヨールや他の将軍達の無能を侮蔑していた。どう考えても敵の知恵者は容易ならざる敵だ。せめて十万、いや、五万も増援があれば、自身が敵軍に張り付いて動きを止め、他の軍が敵根拠地を徹底的に叩き潰せば、それでこの戦は終わるというのに……。

 テョリスは敵に対して怯えも恐れも感じていなかった。敵は崖端で爪先立ちしている状況である事は変わりないのだ。

 エーベルンの弱点は無数にある。まず、兵力数は限界まで集めても十万……いや、八万に届かない。一方、此方は現有兵力で勝っていながら本国から増援を呼ぶ事が出来る。そして、周辺領主が悉くドゴールから鞍替えしたばかりだという事だ。一度裏切った領主を若い国王は全面的に信じる事はしないだろう。つまり、そこに隙が生まれる。

 エーベルンの最大の弱点。それは、現在は勢いで勝っているだけに過ぎないという事だ。つまり、長期戦を行い圧倒的戦力で威圧を繰り返せば、勢いは削げ落ち、労せずしてエーベルン軍は内部から崩れ去る。

 勝てる要素は無数に有るのに、何故それを突く事が出来ないのか。

 年齢故か、他の将軍達は自分を軽んじている。もし、自分が全軍の総司令官であるならば、既にエーベルンなど滅ぼし、次の標的であるエーベルン西方のノートリアムに攻め込んでいる。

「俺はこのような所では決して終わらないぞ。この戦に勝たなければならない。このままでは我等は戦わずして本国から責任を追及されるぞ」

 テョリスは背伸びをすると、目を輝かせた。

 テョリスには野心があった。今は亡き父が将軍であった経緯で副将として活躍していたが、その職を受け継いで二十五歳という若さで将軍になった。だが、それでもまだ満足するつもりは無い。いつか元帥となり、そして…………。

「ヨール将軍。貴殿は私に付いて来るか?」

「……私は貴方の副官です。何処へでも」







「……こ、これは……」

 エルラーンでドゴール将軍達が会議をしていた同時刻、秀孝は衝撃を受けていた。今までの人生の中でこれほどの衝撃を受けた事があっただろうか!

 これは、素晴らしい。

 まさに職人の技としか言いようが無い!

「美味い!」

 秀孝は嬉々として目の前に並んだ料理に舌鼓を鳴らしていた。

「お客さん、そんなにウチの料理が気に入ったのかい?」

「ああ! これは美味い! この店の飯は美味いと聞いて来たのだが、これは納得だ! なぁ、呂布!」

「うむ、これは確かに美味だ」

 秀孝と呂布。エーベルンを窮地から救った英雄二人は、レノーク城下にある大衆食堂でのんびり食事をしていた。

 普段は城内で食事をしているのだが、兵士達の噂の店である美味いランキング一位に輝いた店を忙しい合間を縫って訪れていた。

「そこまで褒められると照れちまうね。ほい、これはおまけだ」

 店主は褒められたのが余程嬉しかったのか、一品追加してくれた。

「店主、感謝する」

 呂布が感謝する間に、秀孝は既に皿に箸を伸ばして……

「待て」

 しかし、呂布の箸が立ち塞がった。

「な、何をする、呂布」

「お前、先程の皿でも先に手を付けていただろう。次は、我だ」

 拮抗する箸。しかし、力では呂布が圧倒している。

「くっ! 力で押し込もうというのか! し、しかし、俺には裏技がある!」

 秀孝は左手を伸ばした。そして、その手には箸が握られていた。

「貴様、両手に装備だと!?」

「臨機応変と呼べ! 先に手をつけないと、呂布が食い尽くす前に!」

 皿の上で必死の攻防戦が繰り広げられた。

 両手に箸を持ち、変幻自在の動きの秀孝!

 圧倒的力と、武芸で鍛えられた反射神経でそれを防ぐ呂布!

「むっ!」

 呂布が一瞬視線を料理から逸らした。

「え?」

 秀孝はつられて同じ方向に視線を向けた。そして、すぐに視線を戻す。だが、そこには料理が皿ごとなかった。

「っ! 陽動か!」

 呂布は視線を逸らしながら空いていた左手で皿を掴んでいた。そして、秀孝が視線を戻している間に料理を口の中に運んでいた。

「くっ! ま、またしても…………」

「ほぉふぅじぃほぉひょうほひゃ(食事も勝負だ)」

 呂布はしてやったりとした表情で勝利宣言を告げた。

「…………何やっとるんだお前達は」

 呆れた顔で言い放ったのは久秀である。

「おや、久秀殿。貴方も食事ですか? どうです、一緒に」

「結構だ」

 久秀はそう言うと、席に座った。

「で? わざわざ俺を探しに来たのか?」

 秀孝が言うと、久秀は首を横に振った。

「お前では無く、お前達だ」

「俺達?」

 秀孝が不思議そうに首を傾げた。呂布も秀孝に何か用事があるかと思ってずっと黙っていたのだが、自分にも用事があると言われ驚いていた。

「……面白い人物を見つけたぞ。四人……いや、正確に伝えれば六人だ。楯岡からの連絡だ」

 久秀が声を小さくする。

「俺達と同じ、異界の者か?」

 異界の者。秀孝は別世界から来た者達を便宜上そう呼んでいた。

 異界の者の捜索は道順に一任していた。情報収集の傍らでき得る限り……という条件であったが。見事、見つけてくれた。達人としてその名を残す実力者として、改めて秀孝は評価した。

「二人は傭兵希望者。残り四人は旅の途上で、この城下にいるらしい。呂奉先、お前が良く知っている人物だ」

「我が良く知る人物?」

 呂布は少し迷った。心当たりが多すぎて検討がつかない。知っている人物だけでも百を越える。

「とりあえず、ワシの名でこの者達を城に呼んでいる。すぐに城に戻るが良い」

「了解」

「承知」

 二人はそれぞれ返事をして、急いでテーブルの上に残る料理の争奪戦を開始した。

「ゆっくり食え」

 久秀はその様子を見ながらぼやいた。



 食事を終えて、三人はすぐにレノーク城に戻った。

 玉座の間に入ると、ライネ、リューネ、バルバロッサ、エドガー、アルト、フェニルが待っており、リューネの傍にはヒエンが控えていた。

「一同、お待たせ致した」

 久秀が言うと、一同は軽く頷く。

「で? その人物は?」

 秀孝は待ちきれないのか、その目を輝かせていた。

「待て待て。おい、客室にいる客人達を呼んで参れ」

「はっ!」

 衛兵の一人が返答して直ぐに呼びに行く。

 しばらくすると、衛兵が戻ってきた。

「失礼します! お客様をお連れ致しました」

 衛兵がそう言って、客人を玉座の間に招き入れた瞬間であった。まだ幼いと言える。十歳ぐらいであろうか、女の子が呂布向かって走ったのである。

「父上!」

「輝! 輝じゃないか!」

『……………………え?』

 一同、驚きの表情と共に、幼い女の子を抱きかかえて涙を浮かべる呂布の姿を見つめた。

「母上! 母上! 父上が、父上が生きておられます!」

 女の子が振り返ったそこには、二十歳前半であろうか、これは、絶世の美女と言える。美しい、という言葉しか中々秀孝の頭には浮かばないが、超絶の美女が静かに立っていた。

「厳氏!」

 呂布は輝と名乗った女の子を片手で抱いたまま、その女性に歩み寄ると静かに抱きしめた。

 それは、もう二度と会うはずがなかった。時代に翻弄されて消滅した家族の時間であった。

 あれ? 

 秀孝が首を傾げる。

 二十そこそこの年齢で十歳くらいの子供? 年齢が合わない。おかしい。

 いや、これは現代の考え方だからだ。

 古今東西、娘が十二歳から十四歳。つまり、ある程度身体ができているなら ば、嫁に出すのが『普通』である。

 これは、両親の都合というのが割合大きい。

 つまり、こういう事だ。

 娘がいい年齢になった。性格も良く、顔もイケメン男と恋仲になった。結婚したいと申し出やがった。許さん! ぶっ殺す! 当たり前だ。

 娘がいい年齢になった。四十歳越えた少し太ったおっさん。でも、国内で有力な権力者。娘がいる。でも、奥さんを亡くしたばかり。狙い目である。娘を嫁がせる。繋がりができる。万々歳。

 これが、当時では普通の考え方であり、常識なのだ。

 まぁ、常識なんてものは時代背景や宗教、価値観などでいくらでも変わる。

現代の女性からは考えられないかもしれないが、例えで言うならば、ステータスと言える。

 つまり、超高級ブランドのバッグ、財布、靴を好き放題買ってくれて、超高級の外車を乗り回し、年収一億の高収入、東京大学卒の高学歴で将来を期待されている二十代後半のエリートと結婚しました。というのと、四十歳越えた少し太ったおっさんだけど国内で有力な権力者と結婚しました。というのは同義語で同じステータスなのである。

 少しズレた感覚であると思ってしまうが、おおよそそんな感覚であると思って頂ければ良いだろう。

 無論、愛こそ全てという女性も居ただろうが、九割以上は親の都合で無視される。

 言いたいのは十歳の子供が居て、すっげぇ美貌で、最高のプロモーションを持つ巨乳の若妻と三十過ぎている呂布がいちゃついている光景は何の問題も無いのだ。

 そう、なにも問題は無い。

 ナニモ、モンダイハナイ。

 ………ちっくぅしょうめぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!

 してないからな! 嫉妬なんてしてないんだからな! 誤解するなよ! 絶対だぞ! 泣いてない! 俺は今、心の中で泣いてないからな! 羨ましいなんて思ってないんだからな!!

 秀孝の他人には絶対知られたくない心の葛藤を察した訳では無いだろうが、暫く抱き合った夫婦は名残惜しむようにゆっくりと離れた。そして、呂布は後に控える二人の部下に目を向けた。

「…………呂布様」

 三十代後半であろうか、エドガーに背丈は及ばないまでも、がっちりとした体格の男である。武人らしく、鎧兜を纏っているが、歴戦の勇士だとハッキリ分かるほどその鎧兜は使い込まれていた。

「呂布様! また、またこうして……こうして再びお仕えする事が叶うとは! 天は、天は我が願いを成就せり! この陳宮! 心が震えておりますぞ!」

 こちらは四十代であろうか。涙を流しながら歓喜の声を挙げている。こちらは武人ではなく、文官の服装をしている。

「…………高順。陳宮。お前たち、こうしてまた会えるとは思わなかった」

 呂布は娘を下ろすと、床に膝を付き、両手を組んで頭を下げる二人の忠臣の肩にそっと手を置いた。

「……呂布が啼く……か。鬼の目にも涙……。いや、鬼神の目に涙……か」

 秀孝は呂布が見せる初めての表情に驚いた。

 だが、それも驚いたのだが、二人の部下にも驚いた。これほどの固い絆で結ばれる主従関係とはどのように作られるのだろうか?

「……感動の再会の途上で申し訳ないが、呂布。そろそろ我等にも紹介してくれないか?」

 ライネが本当に申し訳なさそうに言うと、呂布は輝と厳氏の手を握り、ライネの前に進み出た。

「高順、陳宮、お前達も来い」

 呂布に言われ、二人の将も同様にライネの前に進み出た。

「ライネ様、紹介致す。我が妻、厳と、我が娘、輝になります。お前達も名乗れ」

「はっ! 呂布様の家臣、姓はコウ、名はジュン、字をセイハクと申します」

「同じく、呂布様の家臣にて、参謀を務めておりました、姓はチン、名キュウ、字をコウダイと申します」

 無論、二人に関して秀孝は知識を持っている。

 高順清伯。威厳があり、寡黙で、一切酒を飲まず、また贈り物を受け取らない、清廉潔白な人物として記録されている。攻撃した敵を必ず打ち破る猛将だったため、高順とその部隊は『陥陣営』という異名をとった。曹操に破れ捕縛された際も、何も言わず黙って斬首された。その戦い振りと、潔さは魏の諸将に絶賛される。普通貶めて書かれる敵側の記録書、魏の王粲等が編纂したと見られる『英雄記』において、高順の武勇と人格は賞賛されている。

 陳宮公台。智謀はあるが、決断が遅いと評されている。若き曹操の危機を救い、そのまま家臣として仕えるが、曹操を恐れ、呂布の武に魅せられ、呂布にその人生の全てを捧げる決意を固め、曹操を裏切る。後生の創作と考えられるが、曹操はその智謀と命の恩人である事を惜しみ、何度も陳宮を説得したが受け入れなかったとされる。処刑される時も堂々とし、曹操は涙してその死を見届けたという。

「…………奥方と子は呂布が養えば良いとして、部下二人はどうするのだ? 我が客将として迎えても良いが?」

 ライネが提案すると、呂布は答えずに二人を見つめた。

「そのお気持ちだけで結構でございます。我が忠義と魂はただ、呂布殿に捧げております」

「この陳公台も同じでございます! 呂布様! また、この私を傍に置いてくだされ!」

「…………そうか。では……」

 ライネが呂布の部下として、即ち一兵卒としてそのままにしようとした時、秀孝がライネの前に進み出た。

「お待ち下さい。この二人は将として多大な功績を残した人物です。ライネ様の客将として迎え入れ、呂布の補佐を命じれば問題なかろうと思いますが。いざとなれば呂布と共に軍を率いて戦って頂ければ。エーベルンは人材不足です。はっきり言いまして、ネコでもネズミでもしっぽで構わないので手を貸して頂きたい状況です」

「なるほど。では、そうしよう。高清伯、陳公台。両名を我が客将として迎え、呂布の補佐を命じる」

「ありがとうございます」

 秀孝は微笑みながら頭を下げた。

「………………さて、我等も自己紹介してもよろしいですかな?」

 ずっと後方、玉座の間の中央で事の成り行きを黙って見守っていた男女の内、男がゆっくりと前に進みながら言った。

「そういえば、六人紹介すると申していたな、久秀」

「はっ」

 ライネもすっかり忘れていたようだった。

「失礼した。いささか大騒ぎだったのでな」

 ライネが謝罪すると、男は黙ってゆっくりと頭を下げた。気にしないで欲しいという事か。

「親子の感動の対面を邪魔するほど、私も我儘ではないしの」

 女の方も対して気にしていない様子であった。

「名を聞こうか」

「はっ! 私は姓をタケダ、名をノブシゲと申します」

「私はナカハラ、名をトモエと申す」

 秀孝は思わず目が点になった。

 武田信繁。戦国時代の武将。甲斐武田氏十八代当主、武田信虎の子で、武田晴信の同母弟。つまり、武田信玄の実弟である。官職である左馬助の唐名から『典厩(てんきゅう)』と呼ばれ、嫡子・信豊も典厩を名乗ったため、後世『古典厩』と記される。武田二十四将においては武田の副大将として位置づけられている。文武に長じ戦国最強と讃えられた武田軍団の副大将。清廉、誠実、温厚な性格で血気に逸る者達を静かな物腰で説いたと記されている。

 ちなみに、真田幸村の本名である真田信繁の信繁は、彼から取られている。

 中原巴。名が知られているのは、もう一つの名前である巴御前であろう。御前とは、高い地位にある人物の妻に付けられる名称である。平安時代末期の信濃国の武将とされる女性。字は鞆、鞆絵とも。信濃国の豪族、中原兼遠の娘で、源義仲の愛妾。樋口兼光、今井兼平の妹。色白く髪長く、容顔まことに優れたり。と、記録に残るが、特筆すべきはその抜群の武勇である。次々と襲い掛かる平氏、源氏、両者のあらゆる腕に覚えがある自称豪傑達を戦場で、それも実力で打ち倒した女傑である。その武勇は宇治川の戦いで敗れ落ち延びる木曽義仲に従い、最後の七騎、五騎になっても討たれなかったという。

「……秀孝。この者達もその名を知られた者達か?」

 ライネが言うと、秀孝は大きく頷いた。

「ああ、間違いなく。武田信繁殿は……リューネの補佐として迎えられるのが宜しいかと。中原巴殿は……うん、ライネ様直属の護衛が宜しいかと存じます」

「待て! そのような大事、勝手に決めるな!」

 秀孝の提案に反論したのはリューネだった。

「私には既にヒエンという補佐がいる! それに、姉様の護衛など、信用できる者でなければ軽々しく任せられるものか!」

「……と、我が妹は言っているが?」

 ライネが言うと、秀孝は少し考えた。

「……いあ、まぁ、リューネの言いたい事も分かるし、一理あるか……。しかし……」

「しかし?」

「はい。武田信繁殿は、兄である武田信玄を当主とした名将、猛将、勇将、智将揃いにして最強と讃えられた武田家臣団の副大将でした。丁度、ライネ様、リューネ様のご関係と同じですので、何かしろ学べる事があろうかと。それに、中原巴殿ですが、彼女が生きた時代。彼女に勝てる者は只一人もおらず、一騎当千の猛者として名高い人物。女性同士という事もあり、男では何かと不便な事も解消されるのではないかと考えたのですが……。失礼、拙速でした」

「……ああ、なるほど。確かに私も着替えの最中は護衛を全て下がらせている」

 ライネは納得した様子だった。

「リューネの件もそうだな。確かに、ヒエンは優秀な副官ではあるが、支える者であり、導く者ではないな」

「姉様! しかし、それではヒエンの立場がありません!」

「二人でお前を支えればよかろう。……さっきからお前は何故そうも突っかかる。反対の為の反対ならば、私は聴く耳を持たないぞ」

「っ! 失礼します!」

 リューネはそう言い残して部屋を立ち去った。リューネに続いてヒエンも従った。

「……ふむ。気難しい年頃で、無礼な姿を見せた。許されよ」

 ライネが新たな客将達に言うと、誰一人それを咎める者はいなかった。

「ライネ様、失礼ですが席を外します」

 そう言ったのは信繁である。

「リューネを追いかけるか」

「はい。リューネ様と話をしてみます。…………失礼を承知で申し上げますが、まるで昔のまだ青い未熟な頃の私を見ているようでした。まだ幼子なれど、将来的な器は大きいと感じました」

「…………秀孝の眼力は慧眼すべきだ。では、改めて信繁に命じる。我が妹リューネの二人目の副官として支えてやってくれ」

「承知」

「巴と申したな」

「はい」

「我が護衛を命ず。私に付いて来い」

「かしこまりました」

「呂布。今日はもう休め。家族水入らず、何かと話す事もあろう」

「……はっ! 御気遣い感謝致します」

「秀孝、王都奪還の為の作戦はまだか?」

「……草案ができかかっている所……かな。もう少し時間が欲しい。失敗は許されないから、色んな角度から検証を重ねたい」

「わかった。できる限り急げ。久秀」

「はっ」

「今の呂布の部屋では、家族全てが納まるまい。それに、二人の部下も。呂布の家を見繕え。金は私が出す。また、他の者の部屋も見繕え」

「承知致しました」

「バルバロッサ、エドガー、アルト、フェニル」

『はっ!』

「一刻も早く部隊編成と調練を完了させよ。秀孝の作戦が出来上がり次第、動くぞ」

『了解致しました!』

「よし、ではこれで解散とする」

 ライネの言葉でこの場をお開きとなった。







 エーベルンは新たな将を加え、王都奪還の為に着々と準備を進めていた。

 しかし、ドゴール遠征軍も迎え撃つ為に同じく準備を進めている。

 両軍が激突するまでであるが、つかの間の平和がエーベルン国内に広がっていた。しかし、それは一時的なものであるという事は誰の目にも明らかだった。

後書き


作者:そえ
投稿日:2012/08/11 03:12
更新日:2012/08/11 03:12
『神算鬼謀と天下無双』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。

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作品ID:1136
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