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作品ID:1286
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


プロローグ

目次 次の話

プロローグ



 目の前を流れるあの大きな河は、一体どこで生まれたのだろう……



 いくつの谷を抜け、

 いくつの滝を作り、

 いくつの川と出会い、別れていったのだろう……



 そして……

 どこへ流れていくのだろう……





 ここは中部地方のある山間(やまあい)の小さな村。

 ゴールデンウィークも終わり、爽やかな五月の風が新緑の中を吹き渡る自然豊かな所。

 先日の季節外れの大雨で唯一のアクセスルートである主要国道が寸断され、陸の孤島と言える状態と化しているが、村自体には災害の爪痕もなく、田植えの終わった田に映る太陽、あぜで草を刈る農家の姿を見ているとまさに平和そのものだ。

 この長閑な村で、機械部品メーカー入社二ヶ月目のごく平凡な新入社員:高山大河((タカヤマ タイガ)、二十三歳は一人苦戦していた。



 彼はため息を吐きながら、今日は厄日だと思っていた。



(はぁぁ。全く、こんなド田舎まで来て、三時間以上納品待ちか……)



 夕方になって、ようやく納品してもらえたが、電話で状況を説明しただけで上司には叱られる。

 急いで車を走らせているが、唯一残っている道は国道開通前に使用していた旧道だけで、街灯もなければ、舗装状態も酷い。更にガードレールが切れているところもある。

 車を走らせること三十分、遂に山道の途中で日が完全に落ちてしまった。



 学生時代に車を持っていたわけでもなく、会社に入ってからのここ一ヶ月間が運転経験のほとんどで、こんな山道で余裕を持って走らせる技量はない。

 工場を出る時に入れた状況報告の際に、少し冷静になった上司から今日中に会社に入れれば問題ないと言われたことだけが唯一の救いだった。



 彼は対向車の来ない真っ暗な山道を、安全第一のためノロノロと車を走らせていた。



 更に三十分ほど走っていると、彼の膀胱が満水のサインを出し始めた。



(こんなところにトイレはないし、コンビニもないだろう。とりあえず、車を止められるところを見つけて、立ちションでもしようか)



 そう思った時、ちょうどいいタイミングで、すれ違いスペースを見つけた。

 彼は背に腹は代えられないと車を降り、用を足すことにした。

 すれ違いスペースに車を止め、崖で用を足す。

 すっきりしたところで車に戻ろうとした時、ヘッドライトの光が歪んでいるように感じた。

 疲れているのかと目を擦るが、歪みは徐々に波紋のようになって広がっていく。そして、彼はゆっくりと自分に近づいてくるように感じていた。

 彼がその“歪み”から遠ざかろうと、数歩下がった時、彼の足元にも歪みがあることに気付いた。

 そして、“何だ!”と思う間もなく、遊園地のフリーフォールのような落下からくる無重力感が襲い、彼は叫び声をあげていた。



「あぁぁぁ!」



 彼は自分の叫び声を聞きながら、地面に落ちる衝撃に身構えていた。だが、その衝撃はなかなか訪れず、おかしいと思った時、突然真っ白な光に包まれた。

 彼の意識はその瞬間に途絶えてしまった。





 何時間たったのだろう。

 既に夜が明けたのか、周りは朝の光に包まれていた。

 彼はようやく意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。

 かなり長時間気を失っていたようだと思ったが、落下の記憶が蘇り、怪我を負っていないか自分の体を慌てて確認し始めた。

 一通り確認したが、目立った怪我はなく、擦り傷が少しある程度で行動に支障はなかった。



(ケガはないし、ひとまず安心だな)



 そして、無駄だと思いながら携帯を取り出してみたが、アンテナは立っていない。

 “圏外”との表示が空しく出ているが、その下の待ち受け画面の時計では既に日付が変わっており、最後の記憶から既に十二時間以上経っていた。



(不味い。絶対課長に叱られる……とりあえず車に戻ることが先決だ)



 怪我をしていなかったことから、まだ楽観的に考えている彼はまだ気付いていなかった。



 これが彼の長い異世界生活の幕開けであるということを。

後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/04 21:23
更新日:2012/12/06 08:56
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

目次 次の話

作品ID:1286
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