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作品ID:1292
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第一章「ベッカルト村」:第6話「治癒師」

前の話 目次 次の話

第6話「治癒師」



 狩りを終え、獲物をぶら下げながら村に戻ってきた。

 理由は判らないが、村全体がざわついている気がした。

 横を見ると、ギルもそう感じているようで、少し心配そうな顔をしている。

 家に戻ると、ギルの奥さんのリサがその原因を教えてくれた。



「トニーのところのベルティが倒れてきた木に挟まれて腕の骨を折ったそうよ。かなり酷いケガみたい」



 この世界の医療技術レベルがどの程度か知らないが、日本なら即、救急車で搬送されるレベルだろう。



 この村の医療レベルを確認するため、「なあ、ギル。この村に治癒師っているのか」と尋ねた。



「いや、治癒師はこんな小さな村には普通いないんだ。この村には薬師のばあさんしかいない」



 俺は咄嗟に治癒魔法のことを思い出し、ギルに話を振ってみた。



「俺をそのトニーとか言う人の家に案内してくれないか。あまり自信はないが、少しは役に立つと思う」



 ギルも俺が治癒魔法を使えることを知っていたが、使ったことが無いという俺の言葉で少し遠慮していたようだ。

 すぐに案内してくれるとの事で、ギルと二人でトニーの家に向かった。



 ギルの話ではトニーは樵でベルティはトニーの長男で十三歳。父の手伝いを良くしているそうで、樵の仕事をしている時に事故にあったのではないかということだった。



 五分ほどで、トニーの家に到着した。

 ベルティは頭に大きな裂傷があり、右腕の二の腕の部分を添え木で固定している。良く見ると右腕はまっすぐになっておらず、明らかに問題がある。

 薬師の老婆が治療しているが、これが限界のようだ。

 ギルがトニーに俺のことを説明しているが、それに構わず、「すまない。俺に診させてくれ」といって、ベルティに近づいていった。



 薬師とトニーはよそ者ということで警戒するが、ギルの説明を受けて脇に避けてくれた。

 俺は鑑定を使いベルティの状態を見てみる。



 ”右上腕部複雑骨折。HP回復後、STR,DEXマイナス補正三〇%”と出ている。



 このままでは後遺症が出るようだ。トニーに治療の許可を確認する。



「このままではベルティの腕がまともに使えなくなる。トニーさんだっけ。報酬は要らないし失敗しても責任は取れないが、治療してもいいか」



 憔悴した顔のトニーは藁にもすがる気持ちなのだろう、すぐに承諾してきた。



「あんたが何者か知らんが、ギルが信用してみろっていうから信用する。どうみたってこのままではベルの腕は直らねぇ。あんたに任すよ」



 彼は力なくそう言うと冷や汗でびっしょりとなっているベルティの方を見つめていた。



「わかった。全力でやってみる。ギル、トニーさん手伝ってくれ」



 ギルとトニーに治療の手順を説明し、手伝ってもらう。



「治療の手順なんだが、まず添え木の包帯を一旦緩める。それからどちらか片方が体を押さえ、もう片方が腕を引っ張り真直ぐにする。その間に俺が治癒魔法を掛ける。うまく行けばそれで腕は真直ぐになるはずだ。ベルティが痛がると思うが、力一杯やってくれ。ベルティ。死ぬほど痛いがすぐに終わる。我慢してくれ」



 ベルティは痛みでほとんど聞こえていないが、ギルとトニーは頷く。

 準備完了と判断し、添え木の包帯を緩め、二人に合図をしてベルティの腕を引張って伸ばす。

 ベルティは大声で悲鳴をあげるが、俺は悲鳴を無視してベルティの腕に右手をかざし、治癒魔法の呪文を唱え始める。

 一度も使ったことはないが、なぜか頭の中に呪文が浮かんでくる。



「かの者の体内に宿りし魔力よ。治癒の力となり受けし傷を癒せ」



 かざした俺の右手から光が出て行き、ベルティの腕に吸い込まれていく。

 ベルティの表情は少し楽になったようで、ギルとトニーに力を緩めるように指示する。

 すぐに添え木を付け直して固定。鑑定で確認すると複雑骨折の表示はなくなり、”右腕上腕部不完全骨折”となっていた。



(不完全骨折? ひびのことか)



 とりあえず頭の裂傷にも治癒を掛けておき、腕の方にもう一度治癒を掛けてみたが、治癒が発動しない。

 俺のMPはまだ十分あるのにと思っていたら、ベルティのMPがゼロになってベルティは気絶していた。

 呪文にもあったように被治療者の魔力を治癒力に変えているようでこれ以上は無理のようだ。

 周りを見ると声が出ない状態で固まっている。



「トニーさん。ベルティの腕はとりあえず治りそうだよ。まだ完全に骨が付いていないので添え木はしたままで」



 不安そうなトニーを見て、「今は魔力切れで気絶しているけど、そのうち起きると思うよ。頭のケガは治しておいたから包帯は外しても問題ないと思う」と安心させるように付け加えておく。



「明日の朝、もう一度治癒を掛けたら完全に直るはず。また明日来るのでそれまでは絶対無理させないように」と言ってから、ギルに「それじゃ、帰ろうか」と言って立ち上がった。



 そのまま家を出ようとした時、トニーが泣きながら俺の手を取り、



「本当に助かった! 俺が見てもベルの腕はもうだめだと思っていたんだ……俺の不注意でケガをさせちまったから、ベルが不憫で……仕方なかったんだ。ありがとう! できる限りの礼をさせてくれ! なあ、頼む!」



 俺としては初めて使った治癒魔法だったので、実験台というか賭けみたいなものだった。それで礼をされるのも何だか気が引ける。



「俺は昨日ギルに助けられた。その礼を兼ねて村のために治療しただけだよ。気にしないでくれ」



 泣きながら礼を言うトニーに対して、もう一度「気にしないでいい」といってから、俺たちはトニーの家を後にした。

 そして、まじまじと俺を見たギルが「本当に治癒魔法が使えたんだな」と言ってきた。



「俺も使えるとは思っていなかったよ。初めて使ったにしてはうまく行ったと思うよ」



 ギルは初めて使ったという俺の言葉を聞いて、



「本当に初めてなのか。それにしちゃ呪文もすらすら言えていたように見えたが」



「俺自身驚いているよ。これで少しはこの村にいさせてもらえるかな」



 ギルは笑いながら、



「当たり前だ。さっきも言ったが治癒師は貴重だ。逆にこの村から出ていかないでくれって言われるぞ」



「まあ、その時はその時だ。帰って仕事を済ましてしまおう」



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/05 20:41
更新日:2012/12/06 08:56
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1292
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