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作品ID:1302
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第二章「ゴスラー市」:第2話「初めての人殺し」

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第2章.第2話「初めての人殺し」



 フーゴと馬車を進め、あと三十分くらいで目的のマイヤー村に着くというとき、荷馬車の前に二十歳前後の若い三人組の男たちが道をふさぐように現れた。

 フーゴは馬車を止め、男たちの方に向かって、穏やかな表情を崩さず、「そこを通るんだ、どいてくれないか」と声をかけるが、真中にいる一番体の大きい男が威嚇するように大きな声でしゃべり始めた。



「ここを通るんだったら、通行税を置いていってもらおうか。荷馬車と有り金全部だ!」



 俺は“何ともストレートな要求だ。通行税とかいう必要はないんじゃないか”と半ばあきれながら男たちを見ている。



 その言葉にフーゴは驚きの表情を見せる。彼もこんなに村に近いところで強盗に合うとは思っていなかったようだ。



 俺は強盗にどう対処するか考える時間が欲しかったので、彼に話を引き延ばしてくれと目で合図を送った。

 彼も理解したようで、強盗たちと交渉を始める。



 俺はその隙に鑑定を使い、相手がどの程度なのか見ることにした。

 三人ともレベル五程度で、不思議なことに持っている武器とスキルが一致していない。

 俺は、“こいつら初めて強盗をするルーキーだな”と考え、魔法で先制攻撃を掛ければ三対一でもなんとかなるだろうと考えた。



 盗賊たちはマントを着た俺をただの旅人だと勘違いしたようで、俺にはほとんど注意を払っていない。



 俺はフーゴの時間稼ぎの間にファイアボールの呪文を静かに唱え、真中の男に向かい、奇襲を掛けることにした。

 呪文が完成し、俺の右手に二十cmくらいの火の玉ができるが、盗賊たちはその光景に驚くだけで、何も対処できない。俺は真中にいる男に目掛けて、その火の玉を放つ。

 距離はわずか数メートルしかなく、男は避ける暇もなく、顔面にファイアボールは受け、大きく悲鳴を上げた後、地面に転がってのたうち回っている。

 他の二人は、魔法で攻撃を受けたことすら理解できていないのか、武器も構えず棒立ちになっている。

 俺は、“こいつら本当にド素人だな”と思うが、容赦するつもりはない。

 折角くれたチャンスを生かすため、更にもう一発ファイアボールを撃ち込むことに決めた。

 発動までに一分以上掛かったが、二人はまだ放心状態から回復していない。レベル的には俺より上なので、このチャンスを逃さず、右側の男にファイアボールを放った。

 二人目の男は迫りくる火の玉が現実のものと思えないのか、茫然と見守り、その攻撃をもろに受け、悲鳴を上げ、同じように転げ回っている。

 二人目が斃れたのを見て、唯一無傷の男は怖気付いたのか、顔面が蒼白になっていく。

 その男は、気持ちとしては逃げたいのだろうが、二人を見捨てず、やけくそになって攻撃を掛けるか、それとも味方を見捨てて逃げるか、悩んでいるようで、完全に動きが止まっている。

 俺はここで逃がすつもりはないので、馬車の荷物に差しておいた剣を引き抜き、三人目に悠然と、そして静かに近寄っていく。

 レベル的には相手の方が上だが、ファイアボールを見せ付けられ、完全にパニックに陥っており、近づいてくる俺が恐ろしいのか、闇雲に剣を振り回している。

 パニックに陥った強盗の攻撃は避ける必要もないくらい無茶苦茶で、俺は冷静に強盗と少し距離を取り、相手が疲れるのを待つ。

 その強盗は二分もすると剣を振り回し疲れたようで、手を止め肩で息をしている。

 俺は冷静に相手を見据えながら、愛剣を突き刺すように小さく振り、強盗の首に剣を打ち込んだ。

 頸動脈を断ち切ったのか、ホースから勢いよく水が飛び出す時のような音を立てながら、血が勢いよく吹きあがり、空気が漏れるような悲鳴を上げながら、強盗は崩れるように倒れていく。



 俺は荷馬車の横で見ているフーゴに声をかけ、「まだ生きている奴もいるけど、どうしたらいいと思う?」と尋ねる。

 彼は感心したように、「ギルさんが言っていたけど本当に強いんだね」と言った後、俺が強盗の処置を尋ねたことを思い出し、「ああ、強盗は縛り首だから態々助ける必要は無いと思うよ」と答えた。

 人の良さそうな彼も強盗に対しては思うところがあるようで、思ったより冷やかに止めを刺すことを提案してきた。その言葉を聞き、俺はこの世界と元の世界の違いを見たような気がした。



 これは彼が冷たいのではなく、この世界ではこうするのが一般的なのだろう。確実に処刑されるのが判っているのなら、途中で逆襲されるリスクを減らす意味でも殺しておく方が合理的だということなのだろう。



 彼の提案通り、生き残りに止めを刺すため、魔法で倒した二人の強盗を見ていく。俺は慎重に足で強盗を仰向けにし、息があるか確認もせず、首に剣を突きさしていった。

 二人の強盗はわずかに断末魔の叫びを上げるが、すぐに静かになる。

 そして、その時俺は初めて人を殺したことに気付いた。



 俺は心の中でこう感じていた。

 生命の危険を強く感じたわけではない。

 強烈な憎しみもなかった。

 突き動かされるような殺意もなかった。

 それなのに人を殺めてしまったと。



 本当に人の命を奪っても良かったのかと自分に問いかけてみるが、精神耐性のおかげなのか、かなり冷静に考えることができる。

 所詮強盗。

 生かして連れて行くにしても逆襲の機会を与えることになる。

 役人に突き出しても強盗は即処刑されることが多いという。

 それならここで殺しておいた方が、よっぽど手間が省ける。

 合理的な判断として強盗を殺しておくことが正しいと結論付けた。



 ここまで考えて、俺は自分に少しだけ驚いていた。

 強盗を人間として見られなくなっていること、そして、それがおかしいと思わないことに。



 俺は若干寂しさを感じるものの、それ以上の感情は何も湧き上がってこない。

 これも精神耐性スキルのおかげなのだろうか。

 人間としてこれでいいのかと思わないでもない。だが、強盗を助けて自分や自分が守りたい者が殺されるのは本末転倒だという思いしか浮かんでこない。

 これ以上考えても仕方が無いと割り切り、このループする思考を強引に打ち切った。



 改めて強盗たちの死体を見ると、一部が焼け爛れ苦悶の表情を浮かべた顔、血塗れの防具や服。

 スプラッター映画のワンシーンを見ているようだ。

 昔の俺なら映画でも目を背けていたはずだ。今は自分が同じことをしても特に感慨も無く冷静に血塗れの死体を見つめられている。

 もし、精神耐性のスキルを持っていなかったら、こっちがパニックになって逆に殺されていたかもしれない。



 フーゴにこの死体をどうしたらいいか聞くと、このまま放っておくと魔物のえさになるので、マイヤー村が近いから、運んだしまった方がいいと言われる。

 俺は強盗たちの装備を外し、懐の持ち物をすべて回収したあと、荷馬車の後ろに載せた。

 さすがに荷馬車に血が付くと悪いと思ったので、頭側を外に出すようにして積み込むことにした。

 荷馬車を走らせた後、ふと後ろ見てみると、街道に赤い線が引かれているのに気付く。その線は次第に細くなり、そして何も後を残さなくなった。それは強盗たちの生き方に似ていると俺は思った。



 再出発して三十分、血の匂いに誘われた魔物に襲われることなく、無事マイヤー村に到着した。

 フーゴがマイヤー村の顔役のところに話をつけに行ってくるそうなので、俺は荷馬車でおとなしく待っていた。



 十分くらい経ったころ、フーゴが四十前の男と共に小走りで戻ってきた。

 フーゴと共に来た男が、「強盗の死体を見せてくれ」と言ってきたので、荷馬車から降ろしておいた死体を見せる。

 その男は「やっぱりか。こいつらはうちの村のゴロツキどもだ」と苦い顔をしている。



 話を聞くと、ゴスラーにでも行って冒険者にでもなれと二日前に村から追い出したそうだが、ゴスラーには行かず、村の近くで強盗を働いて糊口を凌ごうとしたようだ。



 俺はその話しを聞き、「で、こいつらの死体をどうする。あと、殺されそうになった俺達への賠償は?」と死体の処理と村としての責任について交渉する。



 男は即断できないのか、「詳しい話は明日の朝まで待ってくれ」と言った後、「とりあえず、こいつらの持ち物はすべてあんたたちのものだ。当然、死体はこっちで処分する」と少し決まり悪そうにしている。



 俺もフーゴも依存はなく共に頷く。

 その男は「フーゴ、済まなかった。今からでも商売はできるか?」とフーゴに話しかけた。

 フーゴも「こっちは、そこのタイガさんに守ってもらっただけだから、いつも通り商売をさせてもらうよ。」と言った後、手馴れた様子で、村の中央にある広場で商売を始めた。

 彼の準備が終わった頃、村人が続々と集まり、彼と交渉を始めている。俺は“さすがに行商人は逞しい”と感心していた。

 最初のうちは彼の商売を見ていたが、それほど面白いわけでもないので、広場の端の方に行き、強盗たちの装備品を検めることにした。

 ロングソード一本、ツーハンドソード一本、ハンドアックス一本、ダガー二本、スローイングナイフ三本、ハードレザーアーマー一式、レザーアーマー一式、レザーガントレット一式、バックパック三個、ロープ、火打石、松明その他もろもろ。

 ハードレザーアーマーはかなり状態がよく、俺の体に合いそうだ。

 ツーハンドソードも今のものよりかなり大きいものの質はよく、特に損傷もないのでこれも貰っておこう。

 ロングソードは曲がっているし、ダガーも錆びているなど、状態のいいものは少ない。スローイングナイフは革のベルトとセットなので一応貰っておく。

 その他の装備で使えそうなものだけ手元においておき、後はこの村か、ゴスラーで売ってしまうつもりだ。



 仕分けも終わり、フーゴに売り払う予定の装備類について相談する。

 彼は助けてもらったお礼に無料で仲介をしてくれるそうで、村人とどんどん交渉していってくれた。

 俺は自分がうまく交渉できるとは思っていなかったので、大助かりだった。さすがに武器と防具は売れなかったが、その他の道具類はほとんど売れ、結構な金額の現金が手に入った。

 売上は銀貨二〇枚分ちょっと。これで現金が銀貨八〇枚分くらいになったので、十日は楽に、無理をすれば十五日は食っていける。

 まだ武器と防具があるので、もう少し楽になるだろう。



 フーゴの商売も終わり、村の居酒屋兼宿屋に向かう。

 ベッカルト村は小さすぎてこういった宿はなかったが、大抵の村には居酒屋と宿屋が一緒になったところがあるそうだ。

 一泊夕食付で銀貨五枚とかなりリーズナブルだが、今回はフーゴが出してくれるため、出費はない。

 酒も銅貨二、三枚で出されるようだが、知らない土地で酔っ払うのは危険なので止めておいた。

 今日殺した強盗の縁者が夜中に襲ってこないとも限らない。寝ずの番をする気はないが、酔って動けなかったでは話にならない。



 今日は慣れない馬車の旅だったので夕食を取ったらすぐに部屋に戻り、早めに寝ることにする。

 部屋は狭いが思っていたよりきれいでちゃんとした寝台も備えてあった。

 こっちの世界に来ていつも藁の上で寝ていたので十数日振りのベッドだ。疲れが出たのか、部屋に戻り体を拭いたところですぐに眠りに落ちていった。



 翌朝、フーゴと朝食を取っていると、昨日の男がやってきた。

 この男はこの村の村長の息子だそうで、フーゴに言わせると実質的な村長だそうだ。

 ゴロツキ達の親族と話を着けてきたとのことで、現金は銀貨五十枚分、その他に麦や豆など数袋を用意したので、それで勘弁してほしいとのことだ。

 フーゴに聞いたところ、役人に盗賊を突き出すと、盗賊が処刑されるだけでなく、盗賊の親族にも罰金が科せられることもあるそうで、その金額もかなり高いとのこと。これで、こちらが納得すれば向こうにもメリットがあるとのことだった。



 俺は彼にどうするか聞くが、彼は今後の商売のこともあるので、俺がよければこれで手を打ってほしいと言ってきた。

 俺も別段恨みがあるわけでもないため、村長の息子にこれで手を打つと伝える。

 朝食を食べ終わった頃、現金と食料の入った大きめの袋が届けられた。

 俺はフーゴと山分けしようとしたが、「僕は助けてもらっただけで、何もしていないから」と言って受け取らない。

 更に、「普通護衛が全部受け取るものだよ。食料が邪魔なら、買い取らせてもらうけど」と言ってくれた。

 彼に百kg以上ある食料を銀貨二十枚で買い取ってもらい、銀貨七十枚が俺のものになった。



 銀貨が百五十枚もあるとかなりの重量なので、彼に両替してもらう。彼も小銭の方がいいそうなので、半金貨二枚と銀貨百枚を交換した。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/08 16:05
更新日:2012/12/08 16:09
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1302
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