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作品ID:1345
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第三章「街道」:第11話「渡河」

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第3章.第11話「渡河」



 エーベ河は川幅千フィート=約三百m。この辺りでは最も大きな川だ。

 ノイレンシュタットから西の隣国スヘルデ商国との物資の通商路にもなっており、川幅が広く、この世界の架橋技術では橋の建設が困難なことから、ノイレンシュタット以降の下流には恒常的な橋は架けられていない。



 ノイレンシュタットから北上するためにはエーベ河を渡河する必要があるが、渡し舟を使うやり方では大量の物資の輸送は難しい。

 そのため、ここドライセン王国ではノイレンシュタットの西に浮き橋を架けて対応している。



 浮き橋は両岸から四百フィートずつ伸ばされた半固定式のものと、中央部分の二百フィートの移動式のものに分けられ、中央部分は船の往来時に移動させることで水路を確保している。



 水路の確保は午前十時から午後二時までとされ、その間に船が往来し、その他の時間は橋が架けられ陸路が確保されるルールになっている。

 浮き橋は平舟の上に幅二十フィートの木の板を並べたもので、北上用と南下用の二本の橋が架けられる。このため、すれ違いによる事故が起きることはない。



 俺たちが浮き橋の前に到着すると、荷馬車、人力の荷車十数台が順番待ちをしていた。

 安全のため、前後の間隔を三十フィート以上あける必要があるため、どうしても朝は渋滞になるそうだ。



 三十分ほど待っていると、俺たちの番が回ってきた。

 浮き橋はそれほど揺れているようには見えないが、渡っている人を見るとかなりふらついていることから、思ったより歩きにくいのだろう。

 マックスが不安そうな俺にアドバイスをくれる。



「浮き橋を渡るのは初めてか? 自信がないなら馬から下りて引いていった方がいいぞ」



 この二週間くらいの旅行で乗馬のスキルは確実に上がっているが、さすがに乗ったまま渡る自信はない。アドバイス通り馬を引いて渡ることにした。

 浮き橋は思っていたより揺れは少ない。しかし、土台になっている船が変わると揺れ方が変わり、意外に足を取られる。僅か三百mを十分近くかけて、ようやくといった感じで渡りきった。



 対岸に着き、後ろを振り返ると、ケヴィッツ商会の荷馬車が渡り始めているのが見えた。さすがに慣れたもので危なげなく浮き橋を渡っていく。



 午前八時にエーベ河を渡り、パルヒムの町に向けてクロイツタール街道を北上していく。

 エーベ河の北側には丘陵地が広がり、丘を避けるように街道が作られている。

 丘には麦とジャガイモが作られ、所々に牧草地もあり、牛や羊が草を食んでいる。

 のどかな田園風景を楽しみながら、隊商は街道を順調に進んでいく。

 途中で何度も休憩を入れながら、予定通り午後五時頃パルヒムに到着する。

 宿に着くと、御者たちは荷馬車を裏庭に運び、馬車馬を厩舎に連れて行く。

 俺たちも自分の馬を厩舎に連れて行き、汗を拭いてやり、水・飼葉を与えてから、ようやく俺たちも宿に入ることができた。



 マックスが護衛メンバーの役割を指示していく。



「エンリコさんたちの護衛は夕食時から就寝までを俺とタイガがやる。荷馬車については、寝るまでは御者たちが交代で番をする。その後の警備は最初がゲルト、次がニック、最後がゼップルの順番でいく。何か問題はあるか」



 だれからも質問はなく、すぐに解散する。



「タイガ、今日は俺と相部屋だ。荷物を置いたら直ぐにエンリコさんのところに行く。ああ、装備は外すなよ。食事はエンリコさんたちの横のテーブルで取るが、酒はなしだ」と注意事項を交えて指示を出してくれた。



 俺の持つ貴重品は魔導書も含めてすべて身に着けているので、着替えなどの荷物が入った皮袋2つとバックパックをベッドの上に置くだけで荷物の搬入は完了する。

 荷物を入れ終えた俺たちは、二人でエンリコたちの部屋に向かった。

 入ってきた俺たちを見て、エンリコが食事に行くと伝えてきた。



「今からヴィムと二人で食堂に行く。ご苦労だが護衛を頼むよ」



 エンリコ、ヴィムの二人に続き、俺たちも食堂に向かう。食堂はかなり賑わっており、四十人から五十人くらいが食事をしている感じだ。

 まだ、酔っ払っている者はいないが、ひっきりなしに酒の注文は入っている。



 俺は緊張しながらエンリコたちの横のテーブルに座り、食事を取り始める。



「タイガ、あまり緊張しなくていいぞ。こういう護衛は初めてか?」



「ああ、行商人の護衛をしたことはあるが、小さな村を回っていたから、宿で襲われる心配はなかったしな。飯も一緒に食っていただけだから、ちょっと面食らっているよ」



 マックスは俺の緊張感を取ろうとしてくれているのか、軽い口調で話しかけてくれる。



「普通、食堂で何か起こることなんてほとんどないよ。せいぜい酔っ払いが暴れるくらいだから、普通にしていたらいいぜ」



 マックスたちの手際を見て思ったことを口にしてみた。



「マックスたちは大分慣れているようだけど、こういった護衛を長いことやっているのか?」



「うん。五年くらいはやっているかな。護衛クエスト自体はあまり報酬がいいわけじゃないんだが、護衛中の宿泊や飲食代が出るのが良くってね」と周りに目配せしながら俺に答えてくれた。



「なるほどね。それでこれだけ手際がいいんだ」



「護衛専門はランクの割りに稼ぎは良くないんだ。まあ、エンリコさんのところの専属みたいになっているから安定しているのがいいってところかな」



 マックスは自嘲気味に昔の話をしてくれる。



「これでも昔は五人でシュバルツェンべルクの迷宮に入ったりもしたんだよ。まあ、自分たちの限界と言うか、壁みたいなものが越えられなくてね。それで迷宮探索を諦めたのさ」



「まだ、若いのにおっさん臭いことをいうなよ。俺はこれから迷宮に挑むつもりなんだ。暇な時に色々教えてくれると助かる」と軽く頭を下げる。

 彼は「俺でよければ知っていることは教えてやるよ」と笑いながらそう言ってくれた。



 マックスの言う通り、何事もなく夕食は終わるが、エンリコたちは食堂で情報交換に励んでいる。どこに商売のネタが落ちているかわからないから、こういう情報収集は大事なのだろう。

 俺は酒を飲んで盛り上がっている食堂の片隅でハーブティを啜りながら、エンリコたちの方を見て警戒だけは怠らないようにしている。



 しかし、緊迫した状況でもなく暇を持て余すので、マックスとシュバルツェンベルクの迷宮の話をして時間を潰していく。



 シュバルツェンべルクの迷宮は、大陸西部域の三大迷宮の一つに数えられる迷宮で現在百五十階層まで探索が進んでいる。

 迷宮では階層毎に特定の魔物が出現し、五階毎に強力な魔物が次の階層への階段を守っている。

 迷宮内の魔物は倒されると光になって消滅していくため、毛皮や牙などの換金できる部位は取れない。しかし、魔石という石を残すそうで、それをギルドで換金し収入にできるそうだ。

 この魔石の他にも、金貨や宝石、装備類が入った箱が落ちていることがあり、それも収入の一部になる。

 迷宮は十日に一回、内部の構造が変わるので、地図が役に立たない。その代わり、取り尽くされた宝箱が復活するので、浅い階層でも宝箱が無くなることはないそうだ。

 五階層毎の強力な魔物を倒した次の部屋が転送部屋になっているため、一度でもその魔物を倒したことがあれば、入口から瞬時に転送で移動できる。

 俺は「まさにRPGの世界だな。転送や宝箱、ボスの部屋……」と考え、「これで迷宮内にショップでもあれば完璧なのだが」と思い、マックスに聞いてみたが、さすがにショップまではないとのことだ。

 話を聞き、シュバルツェンべルクに行くのが楽しみになってきた。



 エンリコの情報収集も終わり、部屋に戻る。俺たちの部屋はエンリコたちの部屋の前なので歩哨に立つ必要はない。



 俺たちも部屋に戻り、宿で用意してもらった湯で体を拭く。

 夜に自由時間があれば訓練をしようと思っていたのだが、クロイツタールまでは早朝の訓練だけで我慢しよう。



 翌朝、夜明けとともに起床し、顔を洗ったあと裏庭に行く。

 不寝番のゼップルが荷馬車のところに座っていた。

 俺は眠そうに欠伸をしている彼に「不寝番、お疲れさん」と声を掛ける。



「おはよう、タイガ。早起きだな。何か用か?」



「いや、朝の訓練をしようと思ってね。空いている時間が朝くらいしかないから」



 彼は少しからかうような口調で、



「ほう、真面目なことだ。俺も両手剣を使うから見ていてやるよ」



「助かるよ。気になったところがあったら、何でも言ってくれ」



 俺は背中のツーハンドソードを取り出し、素振りを開始する。体が温まったところで我流だが一応型の確認とイメージトレーニングを兼ねたシャドートレーニングを行う。

 彼は俺の剣を見ると少し表情を引き締めるが、すぐにアドバイスをくれる。



「タイガ、なかなかいい動きじゃないか。突きの後に入れている横薙ぎの時に軸足がぶれているから注意して振ってみろ。もう少し軌道が安定するぞ」



 ゼップルに言われた通り、軸足である左足に注意し、突きの後に回転して入れる横薙ぎの一撃をやってみる。

 思った通りの軌道を描き、剣を振り抜くことができた。



「ありがとう。いつも少し軌道が上下していたから狙ったところから少し外れていいダメージが与えられなかったんだ。他にも何かあれば何でも言って欲しい」



「俺はそんなにいい腕じゃないから、あまり期待するなよ」



 三十分ほどで自主トレーニングを終え、汗を流すため水場に向かおうとすると、



「タイガ、その剣を見せてくれないか。かなりいい剣に見えたんだが」



 俺は剣を彼に渡しながら、「ああ。この剣はオステンシュタットのディルクっていう鍛冶師の作だ。ディルクって知ってるか?」



「ディルクかぁ。もちろん知ってるぞ。それにしても、すごい鍛冶師の剣を持ってるな。ドライセンブルクのデュオニュースと並び称されるほどだぞ、オステンシュタットのディルクは」と嘆息を交えて剣を見ている。



 俺はその辺りの事情に疎いため、「へぇ、そうなんだ。ただの口の悪いドワーフかと思っていたよ」と正直な感想を言ってしまう。

 彼はおいおいと言った感じで頭を振りながら、「ディルクは多くの冒険者に使ってもらうためにかなりの数を打っているそうだが、それでも気に入られないとどれだけ金を積んでも譲ってもらえないって有名だぞ」と教えてくれた。

 俺はそんなものかと思いながら、ゼップルが剣を眺めているのを見ていた。

 彼はしばらく剣を眺めた後、軽く一振りする。俺が振るより鋭い風切り音がする。

 俺はさすがにCランクの冒険者だと感心していた。



 朝食時も俺とマックスがエンリコたちの護衛だが、何事も起こらない。

 午前七時、今日の目的地ファーレルに向け出発する。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/18 22:08
更新日:2012/12/18 22:08
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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