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作品ID:1350
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第三章「街道」:第14話「クロイツタール公爵」

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第3章.第14話「クロイツタール公爵」



 翌朝、いつもの通り朝の訓練をした後、体を水で洗い、朝食に向かう。



 マックス達も今日はゆっくりしているようで、シリルだけが朝食を食べていた。



「おはよう、シリル。他のみんなはまだ寝ているのかい」



「おはよう。ああ、いつもクエストが終了した翌日は昼頃までゆっくりしているんだ。俺は腹が減ったから食べに来ただけで、またベッドに戻るつもりだよ」



 確かにいつもの鋭い眼ではなく、かなり眠そうな目をしている。



 朝食を終え、今日の謁見の準備をする。いま持っている服で一番いいものを取り出し、装備とともにを身に付けていく。



 準備も終わったので、ケヴィッツ商会に向かうとエンリコとヴィムが献上品の確認をしていた。



「おはようございます。少し早かったですか?」



「おはよう、ああ、もう少しで準備が終わるから、その辺に座って待っててくれ」



 十分ほどで献上品の確認も終わり、公爵家の館、クロイツタール城に向かう。

 エンリコもヴィムもかなりいい服を着込んでおり、気合が入っているように見える。



(王国の重臣中の重臣、三公爵の一人に会うとなれば、気合も入るか)



 俺は自分の格好を見て、不安になり、「俺、こんな恰好で来てしまったけど大丈夫ですか?」と聞くが、



「ああ、大丈夫だよ。冒険者らしい格好の方が公爵様は喜ばれるだろう」と答えてくれるが、いつもより素気ない返事のように感じた。



(いつも会っていると言っている割にエンリコさんも緊張しているな。ヴィムを公爵に紹介するからなのか?)



 商会から、城までは馬車で十分ほど掛かるそうだ。

 俺はクロイツタールの街を眺めながら、馬車に揺られている。

 この街はジャルフ帝国と言うドライセン王国の最大の敵国に対する前線を支える重要なところだ。

 そのため、城壁は高く、その中にある公爵の居城クロイツタール城も屋敷と言うより戦闘用の城になっている。

 実際、クロイツタール城はジャルフ帝国側、すなわち北側にあり、城が街を囲む城壁の一部となっている。高い尖塔が等間隔に並び、北側の敵国を威圧しているようにも見える。



 城門に到着すると、少しだけ待たされるが、事前に連絡してあったようですぐに城の中に通される。

 城の中は外から見た印象通り、重武装の騎士たちが闊歩し、城壁にはクロスボウを持った弓兵も多く見られる。

 一番大きな建物は下部が白い石で組まれ、上部はレンガで造られた実用的な建物だが、中庭には芝生を植えた広場があり、歴史を感じさせる古城の趣を持ち優美な感じさえする。



 馬車を厩舎近くに止め、献上品を城の使用人たちに預けると、俺たちは控室のようなところに通される。

 俺は徐々に緊張が高まり、就活の面接の待ち時間を思い出していた。そして、何か気を紛らすことはないかと控室をきょろきょろ見回していた。だが、控室は小さめの部屋で特に面白いものはない。



 緊張しながら十分ほど待つと、ヴィムだけが呼び出されて部屋を出ていった。



「ヴィムだけ呼び出しって、なんかあったんですか?」とエンリコに聞くが、



「さあ、なんだろうな」とあまり関心を示さない。



 俺は、理由もわからず、息子が一人呼び出されたら、心配するはずなのにと不審に思うが、彼から話しかけがたい雰囲気が出ており、黙っていることにした。



 ヴィムが出て行ってから、三十分後、ようやく俺達も呼び出される。

 控室からきれいな絨毯が敷かれた廊下を進み、謁見の間に通される。と思っていたら、広い謁見の間ではなく、公爵の執務室と思われる部屋だった。

 部屋には王国北部の地図が壁に掛けられているだけで、装飾らしいものはほとんどない。

 地図の反対側の壁にある”剣を持つ鷲”の紋章の軍旗が唯一の装飾と言える。



 執務室の奥には、公爵であろう四十代半ばの眼光の鋭い武人と、その後ろにやや細身の四十歳くらいの男性が立っていた。

 公爵は腰に長めのロングソードかバスタードソードをさげ、服の上からでも未だ鍛えていることが判る。後ろに立つ男も所作に隙がなく、相当腕の立つ武人なのだろう。



 エンリコと俺はすぐに跪き、彼が俺のことを紹介している。



「公爵様、いつも御贔屓にしていただきありがとうございます。本日は公爵様の“大切なもの”をお届けでき、私もほっとしております」



 クロイツタール公爵は武人らしい太くよく響く声で彼を労う。



「うむ、今回は面倒なことを頼み、手間を掛けさせたな。儂の“大切なもの”を確かに受け取った」



(何のことだ? 全然話が見えない。こういう自分だけ蚊帳の外って状況、結構嫌いなんだよね。さっさと帰らしてもらえないかな)



 俺は含みのある言葉の応酬にここに来たことを後悔し始めていた。



「ここにいるタイガが護衛をしてくれなければ、公爵様の大切なものを失っていたかもしれません。公爵様よりお言葉を授けてやっていただけないでしょうか」と突然、エンリコは俺を公爵に紹介していた。



「ああ、タイガと言ったな。護衛としての活躍、エンリコより聞いておる。よく守ってくれた。礼を言うぞ」



 俺は頭を下げながら、



(エンリコさん、不意打ちはやめてほしいよ。しかし、打合せておけばよかったなぁ。ここで答えてもいいんだろうか?偉い人に直接話すのはタブーとか無かったっけ?)



と考えていた。



「タイガ君、直接お答えしても大丈夫だから」



 俺の心の声が聞こえたのか、エンリコが俺に囁く。

 仕方なく、公爵に対しできるだけ丁寧な言葉を使い、言葉を返す。



「公爵閣下、過分なお言葉ありがとうございます。しかし、私は自分の任務に従っただけで、任務を達成できたのも私の力だけではございません。他の冒険者仲間がいたからこそ、護衛の任務を達成できたと思っております。私への過分なお褒めのお言葉はご容赦願います」



(緊張して敬語が無茶苦茶だ。本当に俺だけの力じゃないんだし。しかし、なんで俺だけここに来てしまったんだろう)



 俺のような冒険者風情の生殺与奪ができる重臣と話していることに今更ながら気付いた。

 それに対し、公爵はまた意味の判らない言葉を発し、俺を混乱させる。



「ほう、そなたは無欲なのか、それとも警戒しているのか。うぅむ、今回の輸送の本当の意味を聞いていないからか」



(本当の意味?)



「今回、エンリコが運んだのは、儂への献上品ではない。儂の息子ヴィルヘルムを内密に連れてくることが本当の依頼だった。ヴィルヘルム、入って来なさい」



 俺達の後ろから、誰かが入ってくる音がする。

 そして、俺達の前で跪き、



「公爵様に申し上げます。私はまだ、自分が公爵様のお子、ヴィルヘルムであるという事実を受け入れられておりません。私はノイレンシュタットの平民、ヴィムでございます」と隣で、恭しく、だが苦々しさも交えた口調でヴィムが話している。



「ヴィルヘルム様。突然のお話で混乱されているのでしょうが、公爵様は十数年の間、お母上とヴィルヘルム様を探し続けておられたのです。なにとぞ、公爵様のお気持を汲んでいただきますようお願いします」とエンリコがすかさずフォローを入れる。



(ヴィムは、公爵の庶子なのか。今回の任務は公爵の庶子をノイレンシュタットから領地であるクロイツタールに迎えることだったんだな。しかし、こういうのって契約違反じゃないのか? 危険度が段違いだろ)



 公爵は、ヴィルヘルムに横に来るよう言い、「すぐに父と呼べとは言わん。だが、お前が儂の子であることは事実だ。その事実だけは認めてほしいのだがな」



 ヴィムは、無言で公爵の横に立っている。



 公爵は急に政治家の顔になり、ヴィルヘルムのクロイツタール入りの真相を話す。



「これで今回の任務がどういうものだったのか、おおよそ判ったかな。ヴィルヘルムを見つけた後、すぐにでもドライセンブルクの我が館に迎えようとも思った。しかしだ。ただの平民として暮らしていたヴィルヘルムにいきなり貴族社会に馴染めというのは無理がある。それに儂にも少なからず、政敵がいる。その政敵にヴィルヘルムの存在を嗅ぎつけられると厄介だった」



 俺は黙って頭を下げたまま、公爵の話を聞いている。



(だから、秘密裏にクロイツタールに呼んだのか。確かにいきなりドライセンブルクで公爵家の庶子として紹介されるのは酷だよな)



「幸い、今回の襲撃は儂の政敵が手を出してきたのではなく、馬鹿伯爵の単なる嫌がらせだ。一回目の襲撃はかなり際どかったようだがな」



 公爵が馬鹿伯爵という時、苦々しい表情になったことに気づく。



(ウンケルバッハの森の襲撃は危ないじゃ、済まないだろう。皆殺しにするつもり満々だったような気がするぞ。ウンケルバッハ伯爵とクロイツタール公爵との間の確執は噂以上ということかな)



「エンリコから聞いたが、ウンケルバッハの森での襲撃では、そなたの活躍が無ければ護衛は全滅し、ヴィルヘルムにも危害加えられる恐れがあったそうではないか。エンリコはどのような戦いだったか、どうしても詳しくは語ってくれんがな」



(エンリコさんは公爵相手でも約束を守ってくれているんだ)



「そう言えば、そなたの剣はディルク師の業物で、デュオニュース師の武器も所有しているそうではないか。あのドワーフ二人に認められた男がどのように戦ったか、話してくれんか」



「閣下、私は不意の襲撃を受けて頭に血が上っており、戦いの様子を覚えておりません。護衛の長、マクシミリアンの指示に従って戦っただけでございます」



 公爵は破顔し、「ほう、この儂相手に売り込みをせんとは、益々気になるの。ダリウス、そなたもそう思わんか」と後ろに控える細身の男に語りかける。



「はい、私も気になりますな。タイガ殿、わが名はクロイツタール騎士団副長ダリウス・バルツァー。我が騎士団は入団希望者が多く、大した腕でもないのに口だけ達者なものが多くてな。閣下も私も辟易していたのだよ」



 俺は自分が失敗したことに気付き、心の中で慌てていた。



(うわ! 日本人の癖でつい謙遜してしまったけど、逆効果だったかな? できれば、俺のことは無視してくれる方がいいだけどなぁ)



 俺自身、今のところ目立ちたくないと言うのが本音だから、この流れを何とかして断ち切りたいと思っていた。だが、周りに援護してくれる味方はなく、唯一味方になってくれそうだと思っていたエンリコも、



「タイガ君。公爵様もバルツァー様も信用しても良いお方です。正直にお話しした方がよいと思いますよ」と小声で俺に話しかけてくる。



 俺は隠し通すことは無理そうなので素直に話そうと思い、話し始めた。



「閣下。バルツァー様。少し話は長くなりますが、よろしいでしょうか」と言ってから、盗賊のグンドルフに追われていること、魔法を使えること、襲撃時の戦闘の様子などを話していく。



「儂もダリウスもこのことは漏らさないと騎士として剣に誓おう。グンドルフは我らも捕まえようと手を尽くしたが、結局逃げられたからな。盗賊団を潰してくれたことには礼を言わねばならん」



「いえ、私も成り行きでこうなっただけでございます」



「成り行きか。そう言われてしまうと我が騎士団の立つ瀬がないな。まあいい、ところでタイガ。そなたの戦い方を儂に見せてくれんか。ダリウス、騎士団の訓練場は空いておるか。今から使うぞ」



 俺はまた話の展開について行けず、



(ええっ! なんでいきなりそういう方向に話が進む!)



と心の中でパニックになっていた。



「閣下。本日は野外演習の予定ですので、非番で自主的に訓練を行っているもの以外、使っておるものはおらぬかと」



 俺の内心などお構いなしに話はどんどん進んでいく。



「そうか、それは都合がよい。タイガ、よいな」



(ドワーフの鍛冶師といい、公爵といい、この世界の人間はこっちの都合はお構いなしか。まあ、仕方がないか)



 そう思ってあきらめ、「はぁ。判りました。お供します……」と呟き、公爵、バルツァー副長に伴われ、俺は城内にある訓練場に向かった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/20 20:52
更新日:2012/12/20 20:52
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1350
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