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作品ID:1364
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第四章「シュバルツェンベルク」:第2話「特訓」

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第4章.第2話「特訓」



 翌朝、目が覚めるとカスパーたちは帰りの護衛のため、すでに出発していた。

 別れの挨拶をしたかったが、ここに泊まっている限りは時々会えるだろうと、次に会うときを楽しみにすることにした。



 今日の予定は、武術指導のミルコに会うことを第一とし、会えなかった場合は迷宮に入ってみることとしている。



 朝食をとった後、ギルドの訓練場に向かう。

 ギルドの訓練場は、ギルド支部の直ぐ裏側にあり、山シギ亭からは歩いて十分程度。

 訓練場は雨でも訓練ができる全天候型の施設と屋外スペースとがあり、全天候型のほうは、大きな倉庫といった建物で三〇m×五〇mくらいの広さがある。

 中に入ると、既に十人以上が訓練に励んでいた。



 指導者らしいベテランの冒険者にミルコについて聞いてみると、奥の方でいすに座って酒を飲んでいる老人を指差される。

 年齢は六十歳くらいと聞いていたが、見た目は七十歳を優に過ぎている感じで、背も両手剣使いにしては低く、俺とそんなに変わらない。

 近くによると酒臭く、朝からかなり飲んでいるようだ。



(アル中の爺さんかよ。外したかもしれないな。受付嬢がやめておけって言うはずだ)



 念のため、鑑定でミルコの能力を確認してみると驚いたことに、レベルは五十九。今まで会った中で最高のレベルだった。



(公爵様よりレベルが高いのか……スキルはどうかな?)



 鑑定を使い、ステータスとスキルを確認していく。

 そして更に驚くことになる。

 彼の両手剣のスキルは六十五、剣だけでは全く相手にならなかったクロイツタール公爵より十五も高い。



(この爺さん、凄過ぎだ! しかし、何でこんなにやる気が無いんだろう?)



 酔っぱらって話はできそうにないが、折角来たので「すいません。ミルコさんですか?」と一応声をかけてみた。

 彼は面倒臭そうに片目を開け、「なんだ、てめぇ! 気持ちよく酒飲んでるのに邪魔するんじゃねぇ!」と怒鳴り、再び酒を煽る。



 俺は一応下手に出ることにし、「両手剣の指導をしてくれるって聞いたんですが、間違いですか?」と慎重に尋ねてみる。



 彼は俺の体を一瞥し、「おめぇみていな、ひょろっとした奴が両手剣だと。はっ、冒険者も落ちたもんだ」と馬鹿にしたように薄く笑っていた。



 俺は高レベルの先輩だと思い敬語で話し掛けたが、あまりの対応に段々苛立ちが募ってくる。

 そして、敬語が面倒になり、「で、指導はしてもらえるのか。それとも立つこともできねぇのか。なら邪魔だから別のところで飲んでくれないか」



 俺がそう言った瞬間、ミルコはいきなり立ち上がり、「なんだと! 俺の指導を受けられるか試してやる!」と怒鳴り、酔っ払いにしては意外としっかりとした足取りで壁に向かう。

 壁にかけてある訓練用の木剣を二本取り、一本を俺に投げてよこした。



「今から俺と打ち合え! 十分後に立っていられたら、剣を教えてやる」と俺を試すように睨みつける。

 俺も「そっちは大丈夫なのか。かなり酒が入っているが」と挑発する。



「うるせぇ! お前如きひよっこ相手なら後十本飲んでも問題ないわ!」と喚きだしたので、



「判った判った。それで十分後に立っていればいいんだな。それまでは何度倒れてもいいんだよな?」



 俺の言葉にミルコは一瞬濁った眼が見開かれるが、すぐに元の酔っ払いの表情になる。



「十分後に自分の足で立てりゃ、それで良しとしてやらぁ。その代わり骨の二、三本は覚悟しておけよ」



と物騒なことを言ってくる。



(骨を折られるのは勘弁して欲しいな。まあ、最後に治癒で治せば何とか立ち上がれるだろう)



 その時、俺は甘く考えていた。



 周りを見ると、野次馬が遠巻きにし始めるが、ミルコが、



「てめぇら、見せもんじゃねんだ! それともこいつの後に俺と手合わせするか」



と睨みつけると野次馬たちは潮が引くようにいなくなった。



 俺は「これで目立たず治癒が掛けられる」と考えるが、彼の腕を甘く見過ぎていたことに後で後悔することになる。



 彼は、「いくぞ! 若造!」と叫び、かなり長めの両手剣を水平に構え、突っ込んでくる。

 座っていた時は小さく見えた彼の体が、剣を構えた瞬間大きく見える。

 酒を飲んでいたとは思えないほどのスピードで突っ込んでこられ、最初の攻撃を受けただけで、一瞬にして右肩、左わき腹、右腕、左太ももに打ち込まれてしまう。

 防具の上から木剣を打ち込まれたのだが、一太刀が重く、骨に響く感じだ。



(痛ってぇ!なんだよ、この爺!)



 俺は目の前にいる酔っ払いに怒りを覚えながら、この状況を打開しようと打って出るが、こちらの攻撃はミリ単位でかわされてしまう。そして、その悉くにカウンターを決められてしまう。



(なんで当らねぇんだよ!)



 さっきの鑑定で回避スキルが五〇だったことを思い出し、「これが超一流の剣士なのか?」と自分の未熟さを思い知らされる。



 始まってから二分もしないうちに腕が痺れ、剣を取り落としてしまう。

 その直後、鳩尾に強烈な突きが飛んできた。



 俺は「グゥェ! オゥェ! ゲボォ!」と胃の中のものを吐きだし、痛みと苦しみのため、地面を転げ回っていた。



 その姿を見た彼は興味を失ったのか、ゆっくりと椅子に戻り、すぐに酒を飲み始める。

 その姿が目に入り、「くっそ!舐めやがって! 俺だって修羅場を潜り抜けてきたんだ! 絶対立ってやる!」と心の中で叫びながら、何とか呼吸を整えて自らに治癒魔法を掛けていく。



「我の体内に宿りし魔力よ。治癒の力となり我の受けし傷を癒せ」



 治癒魔法により回復した俺は剣を拾ってゆっくりと立ち上がった。

 さすがに鳩尾への一撃は回復しきれないが、腕の痺れなどは回復できていた。

 俺はミルコの態度が癪に障り、



(まだやれる! こうなったら指導なんかどうでもいい。十分間これを続けてやる!)



と当初の目的を忘れていた。



 酒を杯に注いでいるため、彼はこちらに気付いていない。

 俺は、「まだ終わっちゃいねんだが、疲れちまったか。続きをやろうぜ」と強がってみせる。



 彼は目を細め、「ほう。少しは根性があるようだな。じゃ本気で行くぞ」と言って、嵐のような連続攻撃を再び放ってきた。

 そしてその攻撃はまたしても俺の体に吸い込まれていく。



 二分後、側頭部に当った一撃で意識が飛び、顔から地面に倒れこんでしまう。

 倒れる瞬間、戦いとは関係ないことが頭に浮かんでいた。



(パンチドランカーって治癒魔法で治るのかな? まあいいか……少し気持ちよくなってきた……ボクサーがいいパンチをテンプルに食らうと天国を見るって話は本当だな……)



 何分倒れていたのかわからないが、少し意識が戻ったので再度治癒魔法を掛け、剣を杖に立ち上がる。

 今度はミルコも見ていたようで、「あと三分だ。今と同じように意識を失くしたら、終わりだな」と言ってきた。



(三分くらい意識がなかったのか。まあいい。頭への攻撃に注意すれば腕が折れても我慢してやる)

 魔力が減ってきたので、最低限の治癒しか掛けられていない。顔はかなり腫れているだろうし、喉もおかしいが、俺は意地になって彼を挑発する。



「さっさと攻撃してこいよ。それとも酒が切れて動けないのか」



 この時俺は剣で防ごうとか避けようとかそういった意識はなかった。

 立っていることだけに意識を集中させ、彼の斬撃をすべて受けるつもりになっていた。

 彼は無言で更に斬りかかり、肩、脇腹、太もも、膝と容赦なく木剣を打ち込んでいく。



 俺は二分くらい耐えた後、再度倒れこむが、今度は意識だけを必死に繋ぎとめておく。

 声が出るようになったところで最低限の治癒魔法を掛け、再び剣を杖に立ち上がった。



「十分だ。約束通り指導してやろう。だが、俺のやり方に文句があろうが、すべて従ってもらうぞ。明日八時にここに来い」



 俺はその言葉に「判った。それから……」と言ったところで膝を着く。

 彼は俺が何を言いたいのか判らず、「それから、なんだ?」問い返す。

 俺は飛びそうになる意識の中で、「俺の名前は、タイガだ。覚えてお……」と言ったところまで覚えているが、この先の記憶がない。



 夕焼けの赤い光が差し込み、俺は意識を取り戻した。周りを見ると宿の部屋で、俺はベッドに寝かされていたようだ。



 ベッドから起き上がりながら、体を確認すると一応手当ては行われているようで骨折等も無かった。



 八時間くらい寝ていたようで、魔力が回復していた。まだ痛む打撲に治癒魔法を掛け、状況を確認するため食堂に下りていった。

 降りてきた俺を見て、宿の女将が心配そうに声を掛けてきた。



「大丈夫かい。あのミルコがボロボロになったあんたを担いでやってきてさあ、”こいつの部屋に案内しろ”っていうんだよ。仕方が無いから、部屋に案内したら、”明日からもこういう状態で帰ってくるから今から慣れておきな”って。あんた、本当に大丈夫なのかい」



 俺はどう答えていいのか判らず、「大丈夫だと思います……」とだけ小声で答えておいたが、心の中では、



(この状態がデフォルトかよ! 被虐主義じゃないんだから、こういうのは勘弁して欲しいよ)



 治癒でほとんど治っているが、朝飯は吐いてしまったし、昼飯は食ってないしで、腹が減って力が出ない。

 少し早いが夕食をとり、浴室で体の状態を確認するが、大きなあざや傷跡はなかった。

 今日は昼間に気絶して寝ていたのだが、やはり気絶と睡眠は違うようで、何となく回復していないような気がする。

 明日からのことを考え、やや憂鬱になるが、今日は早く寝て明日に備えることにした。





 翌日から、ミルコの特訓が始まった。

 やり方は至ってシンプルで、彼との模擬戦だけだ。



 さすがに昨日のような無茶苦茶な攻撃はないが、それでも一時間に一回くらいは地面にキスをしてしまう。



「今の打ち込みはなんだ? ばあさんが匙でスープをすくってんじゃねぇんだ。ふらふらさせねぇで、気合入れて最短距離で打ちこまねぇか!」



「おめぇの目はどこに付いてんだ。正面の攻撃も見えねぇのか」



「おめぇの攻撃はなんだぁ、餓鬼が棒振ってるのと変わんねぇぞ。そんなもん目瞑っていても避けれるわ」



 などとボロクソ言われながら訓練が十時間続く。もちろん休憩はなく、食事の時間すらない。

 ミルコ曰く、腕が上がらなくなるまで剣を振ると、本物の剣士とそうで無い者の違いがはっきりするそうだ。

 貴族様の剣術ごっこなら、休憩を入れてじっくり覚えればいいが、命がけの冒険者の剣はそれではいけないそうだ。

 今回の件で一番の後悔は、「冬にしておけば良かった」だった。



 水分補給もなしで十時間ぶっ通しの訓練。

 まだ真夏とそんなに気温が変わらない金の月(九月)の初め頃だ。喉が渇くとかいうレベルではない。

 父が言っていた昭和の時代の運動部の練習でももう少し気を使ったんじゃないだろうか? 正直、熱中症で倒れるんじゃないかと本気で心配し、自分のステータスをちょくちょく確認していた。



 この特訓を五日間続けた。精神耐性が無ければ、精神が壊れていただろう。



 ギルドでは、俺が一週間もつか賭けをしていたそうで、ミルコが一人勝ちしたそうだ。

 賭けの対象が賭けても有効なのか?と思ったら、彼が「文句があるなら、タイガの訓練と同じことをやってやる。いつでも言って来い」と言って賭けが有効になったそうだ。



 この特訓で、両手剣のスキルは十六から十七に、回避が十一から十三に上昇。その他に治癒魔法も八から十一に上がっている。剣術の訓練なのに治癒魔法が一番上がっているのはおかしい気がするが、毎日魔力切れ寸前まで治癒を掛けているので当然の結果だと思う。



 六日目の朝、訓練場に向かうとミルコが先に待っていた。



「今日から技を教える。俺がやるのを見て覚えろ」



といって、ミルコの華麗な連続攻撃の型を見せられる。



 俺は唖然とし、「こんなもん、一回見ただけで覚えられるか!」と思ったが、携帯電話の動画撮影を利用することを思いつく。

 ガラスの製造技術が発達していないこの世界では大きな鏡はなく、自分の動きが確認できない。動画なら自分の型の確認もできるので、携帯を使うことに決めた。



「なあ、ミルコ。済まないが、もう一回見せてくれないか。ちょっと試したいことがあるんだ」



「試したいことって何だ? まあいい。よく見ていろよ」



 彼はそう言うと先ほどと同じ連続攻撃の型を披露する。

 俺は携帯でその姿を撮影していく。

 画面を見ると、一発でうまく撮れている。再生すると彼の足捌きや目線なども確認でき、うまくいきそうだとほくそ笑んでいた。

 その姿を見た彼は、俺が何をしているのか気になって、



「何してたんだ? その道具はなんだ?」



「見せてやってもいいが、誰にも言わないでくれよ。世界に一つしかない魔道具なんだから、盗まれたら大変だ」



といって、今撮った動画を彼に見せる。



「こ、これは、俺じゃねぇか! 俺の姿をどうやってここに閉じ込めたんだ。なあ、タイガ、こいつは大丈夫なんだよな?」



と珍しく弱気な感じで俺に聞いてくる。



「ああ、大丈夫だ。これは高速で絵を描く道具だ。よく見ていろ。たくさんの絵を繋いで動かしているだけだから、魂が吸われるとか呪われるとかはないから大丈夫だ」



 動画をコマ送りにして見せ、ミルコに説明する。

 ミルコは納得していないようだが、有用性は理解したようだ。



 次に俺の動きの撮影だ。

 椅子の上にバックパックを置いてその上に携帯を置く。試し撮りをするとアングル的にはいまいちだが、何とか俺の動きとミルコの動きの違いは判る。



 動画撮影を何度も繰り返して訓練すること一日。何とかミルコの型に近くなってきた。



「俺はよ、この型を覚えるのに一月掛けたんだ。魔道具の助けを借りたとしても、お前は一日で覚えちまうのかよ……」



 彼にしては力なく、そうつぶやいている。



 一ヶ月は掛けるつもりだったようで、相当悔しかったようだ。

 残りの基本の型も毎日覚え、一ヶ月で彼の基本攻撃パターンを覚えることができた。





 彼の訓練に集中していたため、秋分の日の収穫祭にも気付かず、既に爽やかな秋風が吹く空の月=十月になっていた。

 この一ヶ月の訓練ではレベルこそ上がっていないが、スキルはかなり上がっている。



 高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV13

  STR984, VIT847, AGI923, DEX960, INT3858, MEN1808, CHA785, LUC775

  HP735, MP1808, AR3, SR3, DR3, SKL241, MAG108, PL30, EXP120803

  スキル:両手剣20(複撃1)、回避15、軽装鎧10、共通語5、隠密9、探知6、

      罠5、追跡6、体術8、乗馬8、植物知識9、水中行動4、

      上位古代語(上級ルーン)50

  魔法:治癒魔法12(治癒3、解毒1、精神ダメージ回復1、麻痺回復1)

     火属性12、水属性1、風属性2、土属性1



 両手剣のスキルに複撃というのが入っていた。

 同時に複数へ攻撃できる特別スキルのようだ。そう言えば、ギルの弓にも狙撃ってのが付いていたような気がする。スキルが二十になると、おまけか何かが付くのかもしれない。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/24 15:15
更新日:2012/12/24 15:15
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1364
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