小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:1383
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(72)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(345)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第四章「シュバルツェンベルク」:第14話「女冒険者達」

前の話 目次 次の話

第4章.第14話「女冒険者達」



 ギラーの店を出た頃には日も傾き始め、商業地区内の人通りも少し変わってきた。

 シュバルツェンベルクに到着した荷馬車がそこかしこに往来し、昼間よりも活気が溢れてきている。



 夕食になりそうな串焼きや土産にする菓子を買ってエルナに会いに行く。



 色街に入る頃には、冬の短い夕日も落ち、辺りはすっかり暗くなっている。だが、さすがに色街、どんどん人は増えていき、人込みを掻き分けるように、エルナのいる店に向かう。



 娼館に入り、女将に土産だと言って菓子を渡し、エルナが空いているか聞くと、「大丈夫ですよ」とすぐにエルナを呼んできた。



「ちょうど一ヶ月振りかな」



「本当に久しぶりね」と言って俺の腕を取る。



 小部屋に入ると早速料理を取り出し、



「一緒に食べる? ここで食べてもいいんだよね?」



「別にいいけど……ここでいきなり食べ始める人って初めて見たわ」と呆れている。



 鳩くらいの大きさの鳥の炙りと豚肉の串焼き、ジャガイモなど根菜のスープ煮などとワインを取り出し、小さなテーブルの上に並べていく。



「すごいご馳走ね」



「今日はいろいろあったから、ちょっと自棄食いかな」



 料理を並べ終わると壁近くに掛けたある燭台をテーブルに置く。

 大き目の蝋燭の光が料理を照らし、



(まるでクリスマスみたいでロマンチックだな)



と思ってしまう。



 大学時代はクリスマス直前に唯一付き合っていた彼女に振られ、こういう雰囲気で食事をしたことはない。

 こっちの世界に来て蝋燭の灯りの下での食事には慣れたのだが、女性と二人きりというのは初めてだ。

 少し気恥ずかしい思いもしたが、二人で料理を突っつき始めるとそんな雰囲気もなくなり、普通の飲み会の乗りになってしまった。



「ねぇ、いろいろあったって何があったの?」



 俺は午前中に東の池に遠乗りに出たこと、その後ノーラたちに会い引き取ったこと、屋敷を買ったことなどを話していく。



「タイガって本当にお金持ちなのね」



「一発当てて大金持ちになったんだ。そのおかげで苦労しているけどね」



 少しだけ複雑な顔をしたエルナは、



「ふーん。そんなものなのね。まあ私には関係ないけど」



(ちょっと酒が入って調子に乗ったかな。金が無くて売りに出されたエルナには嫌味に聞こえるよな)



 彼女は突然顔を近づけ、「で、その子たちをどうするの?」とノーラたちのことを興味津々に聞いてくる。

 目は好奇心に輝き、早く教えてという顔で迫ってくる。



「とりあえず、コツコツ借金を返してもらうさ。明日にでもどの程度の腕か見ようと思っているけど」



「えーっ! 五人も若い子囲っておいて、何もしないの! ねぇ、タイガってあっちは駄目な人?」



「そうでもないけど。あいつらは妹って感じがして……」



「妹がいるんだ。どんな子?」



「いや、覚えていないんだ。何となく妹がいればあんな感じかなと思って……」



 少し罪悪感を覚える。

 エルナは納得していないようだが、「ふーん」と言っただけでそれ以上詮索してこなかった。



 その日も食事とおしゃべりに終始し、結局そのまま娼館を出る。

 最初のときに抱かなかったから、どうもその気になれない。話している方が楽しいし、抱いてしまうとこの関係が崩れるかもと思うとなかなか手が出せない。



(こういうのを”ヘタレ”って言うんだよな)



 少しだけ自嘲気味にそう思ったが、彼女と話すのは楽しいので今の関係でもいいかと思いながら宿に帰った。





 翌日、ノーラたち5人は逃げ出すこともなく、ギルドの訓練場にやってきた。



 訓練場の隅の方で待たせておき、ミルコが来るのを待つ。

 彼はゆっくりとした足取りで歩きながら、昨日の休日の話を持ち出してきた。



「昨日はどうした。また、女でも買ったか?」



 俺は少し返答に困ったが、意を決して彼に事実を伝える。



「ああ、えっと五人ほど買っちまった」



 彼は足を止め、俺をまじまじと見つめた後、豪快に肩を叩いてきた。



「五人もか。おめぇ見た目以上に絶倫だったんだな。俺が若ぇ時でも三人相手が精一杯だったぜ。はっはっはっ!」



 俺は”三人もかよ”と突っ込みたいところだが、そんな余裕も無く、しどろもどろで説明を始める。



「いや、ちょっと違うんだ。本当に買っちまったんだ」



 彼の頭にクエスチョンマークが現れたので、五人を手招きして呼ぶ。



「この五人の借金を肩代わりする代わりに奴隷契約を結んだんだ」



 彼はノーラたちを一瞥すると、すぐに呆れ顔になる。



「隷属の首輪もなしにか? こいつら逃げ放題じゃねぇか。時々おめぇの考えてることが判んなくなるわ。まあいい。さっさと訓練を始めるぞ」



 俺は五人に向かって、



「ということだ。後はいつも通りにしてくれ。俺は訓練があるから六時過ぎまでここにいる」



 そう言って、ノーラたちに好きにさせる。



(そうだよな。証文も何にもなしだから、逃げちまえるんだ。家まで買って二千G以上をどぶに捨てたことになるのかな)



 初めはそんな雑念が湧き上がるが、ミルコの訓練が始まると、すぐにそんな余裕はなくなり、訓練に没頭する。





一方、ノーラたち5人は、訓練場の隅で深刻な顔で話を始めていた。



「ミルコの言ったことってできるの?」



 いまいち理解できていないカティアがノーラに尋ねている。



「そうね。隷属の首輪も無いし、借金の証文も無いわ。私たちとタイガ様の間だけの口約束になるわね」



「タイガ様って……そうね。私たちのご主人様だもんね。そう呼ばなくちゃいけないね」



とレーネが呟く。



 真面目な顔をしたノーラが四人に向かい、



「私たちは自分の不注意で売られそうになったの。それをタイガ様が助けてくれたのよ。いくら口約束だからって、逃げ出していいと思う? そんなことをするくらいなら、私は自分で奴隷になってお金をタイガ様に返すわ」



「そうね。みんな一緒にいられるのもタイガ様のおかげ。ねぇ、ノーラ。自分で首輪を着けない?」



 少し紅潮した顔でアンジェリークがそう提案する。



「いい考えだけど、あの方がどう思われるかわからないし、隷属の首輪って結構いい値段なはずよ。今持っているお金はタイガ様のものだから、勝手に使うわけにはいかないわ」



「今日の夜、タイガ様に相談に行かない?」



「そうね。そうしましょうか。じゃ、迷宮に入ろっか」



 五人はいつもより気合が入った様子で迷宮に向かっていく。



 ノーラたちは、現在二十三階まで進んでいる。

 だが、オーク三匹と戦うのが限界でここ二ヶ月、このフロアから先に進んでいない。



 今日も気合は入っているが、二十三階で五回ほど戦闘を行うと、いつもと同じように前衛二人のダメージが大きくなっていく。

 二人の体力を回復させたため、治癒師のレーネの魔力は既に限界に近づいている。



 疲れ切った五人は、階段のところで一時間くらい休憩してから、転送室に戻り始め、帰りにオークを十五匹倒し、転送室から迷宮を出た。

 今日の成果はいつもより少しだけ多く、オーク五十二匹。それでも稼ぎは銀貨七枚と銅貨八十枚で一人当たりにすると銀貨一枚と銅貨五十六枚にしかならない。



 彼女たちの泊まっている宿は、低ランク冒険者用のかなり安い宿で一人一泊二食に弁当付きで四S。それでも五人では一日当たり二十S必要になる。



 彼女たち資金が尽きてくると、十六?二十階でコボルトウォーリアたちを倒しにいき、二百匹≒二十S分とキング一・五Sに宝箱五Sを加えた二十七Sくらいの稼ぎで糊口をしのいでいた。



 今の彼女たちの実力では、大河が言っていた月二Gは全く到達できない金額である。

 大河は自分が月に五十G以上稼いでいることから、レベル十二程度でも月に三、四Gくらい稼いでいると考えており、その程度なら楽勝と思っていた。



 ノーラたちは午後4時頃に限界を迎え、疲れ切った表情で迷宮から出てきた。まだ約束の時間には早かったが、タイガの訓練を見ながら、待つことにしたようだ。



「すごいわね。なんで今のが避けれるのよ」



「あの二人、絶対おかしいわよ。あんな動きをしたら、剣なんか絶対振れないもん」



「すごく綺麗ね。剣舞を舞っているみたい」



などとミルコとタイガの訓練風景を見ながら、疲れを忘れてキャアキャアと話している。



 ミルコとタイガが訓練している場所は、普段、人が少ない一画なのだが、五人もの若い女性が来ていることで、いつもとは違った雰囲気になっている。



 彼は怒ったような困ったような顔で、「今日はもう上がりだ!」と宣言する。



 俺はまだ余裕があったので、「まだやれるぞ。なんでだ?」と聞くと、



 彼は首を振りながら、



「あの嬢ちゃんたちの所為で気が散る。訓練にならねぇ」



 彼は心底疲れた顔をしていた。

 俺が「なるほどねぇ。”鬼”も若い女には弱いか」とからかったら、いきなり俺の頭を目掛け、強撃を打ち込んできた。

 慌てて回避し、「っと、なにするんだよ」と叫ぶと、

 彼は逆切れ状態で、「うるせぇ! さっさと上がれ! 明日から迷宮だ」と叫び返してきた。

 これ以上からかうと命に関わる。



「ん、判ったよ。それじゃ、これで上がるわ」



 俺は汗を拭くと、いつもより早い五時前に訓練場を後にした。



 なぜか目を輝かせたノーラたちが俺を追いかけてきて、



「タイガ様。待ってください」



「タ、タイガ様って、タイガでいいよ。で、なんだ?」



 いきなり様付けで呼ばれて狼狽した俺は、少し噛みながら、呼び方を変えさせようとするが、彼女たちはそのことに気付いた様子もない。



「あの……相談があるんですが……」



 俺の言葉は軽くスルーされてしまった。

 良く見ると五人とも疲れた顔をしている。



(迷宮で頑張ったから疲れたのだろう。ここで話すより宿の方がいいな)



「じゃ、飯食いながらでもいいか。六時に山シギ亭に来てくれ。」



(一時間しかないか、女の子の準備の時間には短すぎたかな? この世界の標準ってやつがわかんねぇから、後で聞いておこう)



 俺は山シギ亭に帰り、いつものように入浴を済ませて、主人のモリッツに五人分の料理の追加を頼み、食堂で待つ。

 五人は訓練場にいたときと同じ装備のまま時間通りに現れ、俺と同じテーブルに着く。

 疲れはさすがに取れたのか、少し顔色は良くなっているが、どうも落ち着きがないようにも思える。



 俺は料理とともに飲み物を頼んだ後、相談が何か聞いてみた。



「で、相談ってなんなんだ」



と聞くが、ノーラは少し顔を赤らめたまま、なかなか話し始めない。



「えーと……」



(昨日はもっとバンバン言うタイプだと思っていたけど、違うのか?)



「もう、じれったいわね。」と言って、アンジェリークが代わって話し始める。



 使い慣れない敬語を使うため、所々おかしいが、俺はその内容に驚き、耳を疑ってしまう。



「えっと、私たちってタイガ様の奴隷よね、じゃなくて、ですよね。で、今の私たちって、その証(あかし)が何も無い状態なんです。それで、隷属の首輪を着けてもらおうかと思ったんですが、勝手に首輪を買うわけにも行かないし、それでタイガ様に相談に来たんです」



「だから、タイガ様は止めてくれ。タイガでいいから」



 未だ様付けを止めないアンジェリークにそういった後、



「相談ってそんなことかよ。首輪なんかしなくていいよ。俺、そんな趣味ねぇし。あん時は奴隷って言ったけど、そんなつもりじゃなかったんだよ。まあ、借金は返してもらうつもりだけど」



「でも、それじゃ私たちはタイガ様の何なんですか?」とクリスティーネが上目遣いで聞いてくる。



 まだ少女らしさを残す大人しい感じの女性に上目遣いで話しかけられ、「少し潤んでいるとび色の瞳でそれは反則だろう」と思い、少し動揺してしまう。



「そうです。私たちはタイガ様に買ってもらったのにその証がないのはおかしいです」



と大人しいと思っていたレーネまでがなぜか強く主張している。



(様付け決定? 俺の言うこと聞いてる?)



 俺はだんだんこのテンションについて行けなくなり、とりあえず“様”付けだけでも止めさせようと、



「まず、様付けは止めてくれ」と頭を下げて頼んでみるが、どうも聞いている感じがしない。

 そして、どうして、そんなに首輪を着けて貰いたいのかと考え、ある考えが思い浮かぶ。どうも仲のいい女子がグループで盛り上がり、舞い上がっているという感じではないかと。



(冷却期間をおけば落ち着くんだろうけど、再燃させないようにしないと)



 隷属の首輪は、奴隷の行動を制限する魔道具であり、主人に対して敵対的な行動が取れない、命令に服従しないと苦痛を感じるなどの効果がある。なお、人頭税対策などで、安易に奴隷になったり、開放したりできないよう一度着けたら最低一年間は外せない仕様になっている。



「判ったよ。なんか考えておくから。それに隷属の首輪って一度着けたら一年間は外せないんだろ」



 もうちょっとよく考えろよと思いながら、この話を続けると余計に意地になりそうなので、強引に話を変える。



「ところで、今日は迷宮に入ったんだろう。今何階まで行っているんだ」



「二十三階です。今日もオークを五十二匹倒しました」



 ノーラが少し自慢げに今日の成果を報告してきた。



(五十二匹? 百五十二匹の間違いじゃなくて? 五十二匹だと八Sくらいにしかならないじゃないか。どんな宿に泊まっているのか知らないけど、宿代も出ないんじゃないか)



「それで、やっていけるのか? 五人の収入でそれだと宿代も厳しそうなんだが」



「はい。オーク相手だと厳しいので、三日に一回だけです。後は十六階から二十階のコボルトウォーリアとかを相手にしています」



 俺はその話を聞き、自分が思っているほど冒険者の金回りは良くないことに気付く。



(コボルトウォーリア、アーチャー、シャーマン、キングと合わせても多くて三十Sだぞ。宿代で消えるんじゃないか。俺が言った月二Gってかなり無茶な要求だったのか? というか、俺が規格外すぎるっていうカスパーたちの話は本当なのか?)



「なあ、明日一緒に迷宮に入っていいか。実力を見たいんだが」



 俺は彼女たちの現状を確認するため、一緒に迷宮に入ることを提案する。

 すると、五人は顔を見合わせた後、ノーラが代表して、了承を伝えてきた。



「判りました。楽しみにしています」



 その後、五人は明日のことを考えたのか、楽しそうな明るい声になっていく。

 俺は少し憂鬱な気分になり、



(こっちは楽しめそうに無いんだが)



と考えていた。



 料理が出てきたので、その後は雑談に終始する。



 五人は全員クロイツタール公爵領出身で、二年前の冬至祭の後にノーラとレーネの姉妹は冒険者になるためにクロイツタール市に出てきた。一方、同じ村の出身のアンジェリーク、クリスティーネ、カティアの三人はクロイツタール騎士団に憧れて、クロイツタール市に出てきたところで、偶然であったノーラたちと意気投合し、冒険者になったそうだ。



(それでクロイツタール騎士団のエンブレムを見て、態度が変わったのか。どこかで誤解を解いておかないといけないな)



 最初の半年はクロイツタールでEランクの依頼をこなしていたが、戦いが苦手だったこと、ある程度貯金も貯まったことから、迷宮で修行するためにここシュバルツェンベルクにやって来た。

 その後は、ギルドの訓練でレーネに治癒魔法の才能があることがわかり、二ヶ月間の初期訓練を行ってから、迷宮に挑み始めた。

 十階を過ぎた頃から、クロイツタールで手に入れた装備では厳しくなり、ギラーから三十Gを借りて、装備を充実させた。

 装備を充実したことで、二十階まで順調に進むことができたが、オークが現れる二十一階以降で二ヶ月以上停滞している。

 借金の返済期間が近づいたことから、ギラーのところに支払いの延期を頼みに行ったところ、借金が千G以上になっていると聞かされ、昨日の騒ぎになったとのことだ。



(なるほどね。典型的な若い冒険者の失敗例か。自分たちだけの力で生きて行こうと、無理をして最終的に悪い奴の食いものになっている。クロイツタールでもう少し我慢できていればここまで深刻な状況にならなかっただろうに。それともクロイツタールは魔物の討伐が進んでいるからC、Dランクのクエストが少ないのかな)



 そんなこと考えながら、食事を進めていく。



 俺が感じた五人の印象は、



 ノーラは責任感が強く、他の四人のために頑張ろうとする努力家といったところ。今回の一件でかなりの心痛があったようで、安堵している様子がありありと見える。無理をしてリーダーをやっている感じもするし、時々見せる表情からも誰かに甘えたい、依存したいと思っているように思える。



 アンジェリークはボーイッシュな見た目の通り、歯切れのいい口調で話す。騎士団に憧れているからキャラ作りの可能性もある。ノーラをそれとなくサポートしているところを見ると意外に細かい配慮が出来るタイプかもしれない。



 カティアの印象は明るいキャラを前面に出す盛上げ系。おっとりとしたクリスティーネをネタにパーティを盛上げている感じがした。感情の起伏が激しいのか、思い込むとそっちに行って戻ってこないような危うさも感じる。



 クリスティーネは見たまんまの天然おっとり系だ。よく転ぶとか、ドン臭いとかはないのだが、迷宮で大丈夫なのだろうかと思うほどのんびりしているように見える。今回の件でも何気なくノーラをフォローしているようなので、思ったほど天然でもないのかもしれない。



 レーネはクリスティーネと並ぶ天然系。いざとなれば甘えられる姉と一緒ということもあり、五人の中では一番、素で過ごしている感じがする。五人の中では妹(そら)を一番思い出させる存在だ。



 食事も終わり、追加でデザートに甘いものを頼むと、五人が一斉に俺を睨んできた。



(なんだ? 女の子は甘いものが好きなんじゃないのか?)



 俺はその行動に動揺し、そんなことを考えていた。

 だが、よく見ると、睨んだわけではなく、目を見開いて唖然としていただけのようで、シロップ漬けの桃のようなフルーツが出てくると、言葉を発することなく、一斉に食べ始めている。



 あっという間に食べ終わると、満足そうな顔の五人が声を合わせて、



「「ああ?おいしかった!」」と声を上げている。



 周りの冒険者たちが一斉にこちらを見たため、ちょっと恥ずかしい。



(そんなにうまいもんじゃないんだがなぁ)



 まだ顔が緩んでいるノーラが代表して、



「一年以上甘いものなんて食べていないんです。本当にありがとうございました」



「それは良かった。まあ時々は一緒に食べようか」



「「はい!!」」



と五人が大きな声で返事をする。



 五人が宿に帰ると、どっと疲れがやってきた。



(高校時代、大学時代と女子の後輩との接点がほとんどなかったからなぁ。こういうのって無茶苦茶疲れるわ)



(その点、エルナと話をすると癒されるなぁ。次の休みもエルナのところに行こう)



 俺はのんびり出来たエルナのところを思い出していた。





 ノーラたちは自分達の安宿の五人部屋に戻り、今日の出来事について、話をしていた。



「タイガ様って、変わった人だけど、いい人よね。それにあのエンブレム、絶対クロイツタール騎士団のものよ。間違いないわ」



 騎士団フリークのアンジェリークがそう断言する。



「うん、公爵様とか言ってたし、絶対そうね。それに剣の腕もすごいし、頭もいいし。最後にはギラーを味方にしちゃうんだから」



 同じく騎士団に憧れていたカティアは目をきらきらさせて少し遠くを見ている。



「そんなに男前じゃないけど、優しそう。それに、今日だって、あんなに訓練で汗をかいたのに、夕食の時は全然汗臭くないし、絶対、食事前に体を洗ったのよ。私達に気を使ってくれたのかも……」



 夢見がちなクリスティーネが手を組みレーネに話しかけている。天然系のレーネはクリスティーネの話を聞かず、



「今日の晩御飯おいしかったよね、今度はいつなのかな」



「こら。レーネ! そういうことは言わないの!」



 姉のノーラが妹をたしなめている。



「でも、私達って、もしかしたらラッキーだったのかもね」



 少し顔を赤らめたノーラがぼそっと呟いていた。



 昨日は絶望のどん底にいたはずだが、一日で忘れられる能天気さに誰一人気付くことなく、盛り上がった女子五人のガールズトークは、更に続いて行く。





 その頃、グンドルフはグロッセート王国とヴェルス王国の国境付近、アトス山脈の南側の深い森の中にいた。



 グロッセート王国内はカロチャ村で手に入れた村民カードで比較的自由に移動ができたが、村民カードでは正規ルートで国境を越えることができない。

 正規ルートで国境を越えるためには、冒険者、傭兵、商人、吟遊詩人などの各ギルドに所属するか、国の正式な許可が必要となる。



 冒険者など国境を越える職業のギルドでは、ギルドカード発行の際の魔力パターンを各国で共有している。

 魔力パターンなどのデータはカード発行用の魔道具内にある魔石に蓄えられ、各国の本部に送られる。本部で集計されたデータは、他国の本部、自国の支部に送付されるため、犯罪者などが偽名で登録しようとしてもできない仕組みになっている。



 当然、本部に集計される時間と本部から送付される時間がタイムラグとなるため、すぐ偽名で登録すれば登録は可能だが、タイムラグ自体が国内であれば一ヶ月程度、国外でも最大三ヶ月程度であるため、すぐにこの手段は使えなくなる。



 グンドルフはプルゼニで配下にした手下をカロチャ村出身の傭兵として傭兵ギルドに登録させ、街での情報収集に当らせていた。

 その手下たちからの情報を元にヴェルス王国に潜入しようとしている。



「お頭、この情報屋の話では、ここからヴェルスに抜ける間道があるって話で」



 グンドルフは手下が指さす貧相な顔の情報屋を睨みつけながら、



「この先で間違いねぇんだな。それでヴェルスの警備隊の動きは」



「へ、へい。間違いございやせん。警備隊はこの時期ここにはきませんぜ。旦那」



「よし、無事抜けられたら約束の金をやる。先導しろ!」



 情報屋に先導されたグンドルフ一行は、雪深いアトス山脈の森の中を一晩かけて走破した。



「よし、これでヴェルスだ。稼ぎながら進むぞ!」



 グロッセートの情報屋はグンドルフに向かい「旦那。褒美をくだせぇ」と手を出している。

 グンドルフはにやりと笑い、「おう、褒美をやろう」と、腰の双剣をきらめかせる。

 情報屋は腕を斬り落とされ、白い雪の上に鮮血を撒き散らした上、手下に止めを刺される。



 情報屋の死体はその夜に降った雪により、きれいに隠されていった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/28 14:27
更新日:2012/12/28 14:27
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

前の話 目次 次の話

作品ID:1383
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS