小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:1389
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(68)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(305)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第四章「シュバルツェンベルク」:第18話「Cランク昇格」

前の話 目次 次の話

第4章:第18話「Cランク昇格」



 アンデッドエリアの攻略を開始してから五日目。

 ミスリルコーティングの補修などがあり、現在四十四階で足踏みしている。

 ダグマルと相談した結果、二日使って、一日再コーティングというパターンがいいだろうとの結論になった。

 本来なら今日はアンデッドエリア攻略の予定だったが、昨日魔石の換金のためギルドに寄った時に、明日が昇格試験と告げられ、今日は朝からギルドにやってきている。



 ギルド長が簡単な挨拶をし、Cランク受験者を紹介していく。



 受験者は俺を含め六人。

 俺以外は同じパーティで、ロングソード+盾が二人、ハルバート使いが一人、ロングボウ使いが一人、ショートスピアを使う治癒師が一人の五名。全員レベル二十で二十歳前後だ。



 パーティのリーダー、ロングソード使いのラルスが挨拶に来た。



「ラルスだ。今日一日だけだが、よろしく頼む」



 俺も「よろしく」と手を出し、握手を交わす。



 試験官のフィリップという五十歳のギルド職員が今日の試験内容を説明していく。

 臨時パーティでオーク十匹以上の討伐することが合格条件だ。

 今日中に終わらなければ、明日も継続して実施可能だが、夜営する必要はなく、宿に戻ることも可能だ。

 なお、試験官が確認しているところでのみ討伐実績としてカウントされる。

 これは過去に不正があったためだそうだ。



 午前八時、フィリップの「開始」の声とともに昇格試験が開始される。



 ラルスはオークの出没情報を入手するため、ギルドの受付に行く。他のパーティメンバーはそれぞれ必要な装備を確認している。



(手馴れたものだ。対策本があるのかな? ノイレンシュタットで手に入れた魔術士の参考書みたいな「Cランク昇格試験絶対合格! シュバルツェンベルク編」とか……)



 そんなことを馬鹿なことを考えながら、俺は手持ち無沙汰だったので、邪魔しないよう黙ってラルスの後ろをついていくことにした。



 受付嬢から得た情報では、一昨日、シュバルツェン街道沿い約三マイル=四・八km西の地点でオークの目撃情報があったとのこと。

 ラルスはメンバーを集め、シュバルツェン街道沿いを進むことを提案。俺を含め全員の同意を得て出発する。



 俺はいつもの通り、ディルクの剣を背負い、防寒用のマントと背負い袋を装備しているだけだが、ラルスたちは、ロープやら尖らせた杭やらを持っている。

 俺は疑問に思い、ラルスに意図を尋ねる。



「その杭とロープで罠でも作るのか?」



「ああ、この時期のオークは腹を空かせているから、いきなり大量に現れることがある。ロープと杭である程度、数を制限できるように仕掛けを作る」



(なるほど、十匹以上倒さないといけないが、逆に二十匹も三十匹も出てきたら困るということか)



 俺には、オークは五、六匹で行動するイメージしかない。



(こういう情報収集も試験の確認内容に入っているのかな? ラルスたちは本当に準備がいい)



 町を出発して一時間半、目撃情報のあった場所に到着した。

 街道は既に森に入っている場所で、見通しは悪い。

 ラルスたちは五人で相談しながら、街道から外れて森の中に入っていく。俺は周囲に警戒しつつ、ラルスたちの後ろをついて行く。



 風の月(十二月)の下旬ということもあり、うっすらと雪が積もっている森の中を五人のパーティ、試験官のフィリップ、俺の七人で進んでいく。



 ラルスは目的の場所を見つけたのか、全員に停止の合図をし、残りのメンバーで罠を設置し始める。



(予め下見でもしたような手際だな。しかし、周囲への警戒心が薄すぎないか?)



 目的地を一直線に目指すのはいいが、森の中を無造作に入っていく姿に一抹の不安を覚える。罠については、手伝うことがないので、周りの警戒をするとラルスに伝える。



 罠の設置は一時間程度で終わり、次は誘き出しとのことで、火を熾し、肉を焼き始める。

 肉の焼けるいい匂いが立ち込め、俺の腹もグゥーと鳴る。



 肉を焼き始めて三十分後、森が少しざわつき始める。

 お馴染みの「グァガァァ!」というオークの咆哮が聞こえ始めた。

 ラルスが全員に「来るぞ!」と声を掛け、全員武器を準備する。



 俺は鑑定を使い、周囲を警戒。南側から七、八匹のオークが確認できた。

 俺は大声で「南側。八匹!」と叫ぶ。



 ラルスは俺に「前衛を頼む」と声を掛け、自らも前衛中央に陣取る。



 二分ほどでオークの群れがはっきりし、まずロングボウ使いが先制攻撃を掛けていく。



 一匹のオークの腹に矢が刺さるが、「グガァ!」と怒りの声を上げただけで、そのまま進んでくる。



(今のところ順調だな。オークロードどころかウォーリア級もいない。各個撃破で殲滅できそうだ)



 オークの群れは攻撃を受けたことで走る速度を上げ始める。

 俺たちまであと十mくらいに近づいたところでロープに足を引っ掛け、三匹が転倒する。雪の下の隠した杭に刺さったオークはいないようだが、これによりオークの足並みが乱れ、八匹での一斉攻撃は防ぐことができた。

 残った五匹はそのまま突っ込んでくるが、二匹が埋めてある杭を踏み、足にダメージを負い、更に二匹のスピードが落ちる。

 三匹に減ったところで、こちらの前衛と接触。オークは咆哮を上げ、棍棒を振り回してくる。



 俺は右端に配置されていたので、目の前の一匹を、叫び声を上げされる暇を与えず、剣の一閃で首を刎ね飛ばす。

 ラルスともう一人のロングソード使いもオークの腕や足を攻撃し、確実にダメージを与えていく。



 ロープで倒れた三匹が追い付き、三匹とも俺のほうに向かってきた。

 俺は少しだけ右にステップし、剣を振る余地を作ると、俺の思惑通り三匹で取り囲むようにして襲い掛かってくる。

 俺の思惑に乗せられた三匹を迷宮での戦闘と同じように、同時攻撃を掛けて一気に殲滅する。

 残りの四匹はラルスたちがダメージを与えていき、俺が手を出すこともなく、すべて絶命させた。



「さすが、噂の”剣鬼の弟子”だな。あっという間に四匹か!」



 ラルスは感嘆の声をあげ、俺の肩を叩いてくる。



「ラルスこそ、見事じゃないか。全く危なげない戦いだったよ」



 他のメンバーと手分けして、オークの討伐証明部位を切り取る。オークの死体は邪魔にならないところに集めておく。



(後二匹か、ここで待ち伏せても大丈夫かな)



 匂いに誘われたオークだけならいいが、オークの血の匂いに雪狼やらオーガやらが出てこないとも限らない。

 念のため、ラルスにその旨を伝えるが、ラルスは待ち伏せることを選択するとのことだった。



 打って出てもリスクが減るわけじゃないから、確実におびき寄せられ、罠もあるこの場所で待ち伏せる方が有利だろうと自分を納得させ、近くの倒木に腰をかけて休憩する。



 三十分後、また森がざわつき始めた。

 西側から大きな人型の魔物がやってきた。

 鑑定で確認すると、



  オーガ:

   身長8フィート(2.4m)ほどの大型の食人鬼

    HP1500,AR35,SR3,DR3,防御力70,獲得経験値500

    両手棍棒(スキルレベル10,AR80,SR30),アーマーなし



「オーガだ! 西からオーガが一匹近づいてくる!」



 ラルスたちに戦慄が走る。

 ラルスは一瞬迷い、俺に「オーガだが、いけるか」と聞いてきたので、俺は「いける!」とだけ答え、前に出る。



 オーガは初めて見るが、全身剛毛に覆われ、やや猫背の姿勢で丸太のような棍棒を手に持っている。

 身長八フィート=二・四mと鑑定に出ていたが、近づくにつれ、その巨大さに気圧されそうになる。



 ロングボウ使いが矢を射るが、剛毛でほとんどダメージを与えられない。オーガの方もほとんど気にせず、大股で近づいてくる。



 ラルスとロングソード使いも俺のすぐ後ろについてきている。



「ラルス。俺が相手をする! 周りの警戒と牽制だけ頼む!」



 最後は叫ぶように声を上げ、オーガに突っ込んでいく。



 オーガは体格そのままに低く重い叫び声を上げ、巨大な棍棒を“ブォーン”という音をさせて振り下ろしてくる。



 当たれば三割くらい体力を持っていかれるだろうその一撃は、モーションが大きく、避けるのはさほど難しくない。



「当たらなければどうということはない」



 どこかで聞いたようなセリフを吐きながら、強撃と狙撃のコンボで膝を切り裂く。

 斬られた痛みに「グルゴァァア!」と咆哮を上げるオーガ。

 渾身の一撃なのだが、さすがに2割も体力を削れない。このペースでも六、七回の攻撃で倒せるから、後は油断しないことだけを心掛ける。



 数度の攻撃で満身創痍になったオーガを見て、ラルスたちが参戦してくる。



「下がってくれ、ラルス! まだ、危険だ!」



 ラルスは聞こえていないのか、無視しているのか、オーガに向けてロングソードで攻撃を掛け始める。前衛三人が前に出てきたため、俺が入る余地がなくなり、仕方なく後退する。



(何なんだ? 無理に割り込まなくてもいいのに……)



 納得いかないものの、ラルスたちの攻撃を後ろから眺めつつ、周囲の警戒に入る。



 ラルスたちはオーガに少しずつダメージを与えていくが、オーガはまだ三割以上体力を残している。

 オーガの振るう巨大な棍棒がいきなり横薙ぎに振られる。



 ブォオンという音の後にバァギーンという音が聞こえ、ラルスがラウンドシールドごと吹き飛ばされた音だと気付く。

 ラルスの横にいたハルバート使いも振り抜かれた棍棒を避けようとして失敗し、左腕に棍棒を受け、同じように吹き飛ばされていく。

 戦闘不能になった二人を庇うように、もう一人のロングソード使いが間に入り、後衛の二人に指示を出している。



「クソッ! こっちに来るな! ラルスたちを後ろに連れて行け!」



(拙い!あの一撃は止められない!)



 俺は慌ててオーガに詰め寄り、攻撃を掛けるが、オーガの攻撃の方が一瞬早く、ロングソード使いを吹き飛ばしてしまう。



(クソッ! こうなるのは判っていたんだよ!)



 俺は倒れている三人とは逆の方向からオーガに攻撃を掛けていく。

 ラルスたちから引き離すという思惑通り、オーガは俺の方に向かってきた。



 後はオーガを倒すだけ。

 腰や太ももに確実にダメージを入れて、三分ほどで片が付いた。



 ラルスたちは、俺がオーガと戦っている間に治癒師の治療を受け始めていた。



「何で割り込んできた! 俺一人で十分だっただろうが!」



 俺は怒りを込め、ラルスに詰め寄る。



 ラルスは少しばつが悪そうに、



「すまん。一人に戦わせるのは試験官の印象が悪くなるかと思って……」



「無理をする方が印象は悪いだろうが!……判ったよ。但し、二度とごめんだぞ!」



 納得はいかないが、まだ試験中なのでとりあえず矛を収めておく。



 オーガ一匹がオーク二匹分に当たらないか試験官のフィリップに確認すると、



「今のところ、合格は君だけだよ。五人はオーガの討伐に寄与していないどころか、邪魔しただけだからね」



 ラルスたちは、少なくともあと二匹のオークを倒す必要があるようだ。

 治療の結果、前衛三人は完治までは行っていないが、戦闘に支障がない程度までには回復している。



 ラルスにどうするか聞くと、



「タイガが良ければ、もう少しここでオークを待ちたい」



 俺もまだ時間も早いし、付き合うことにした。



 オーガとの一戦から一時間、なかなかオークは現れない。

 オーガの匂いを警戒しているのかもしれない。

 ラルスたちも同じことを考えていたようで、「移動する」と伝えてきた。



 森の中を彷徨うこと二時間。ようやくオーク五匹を見つけ、討伐に成功。

 フィリップに確認すると全員合格とのことで、ようやく町に帰ることができた。



 ギルドに戻り、フィリップからギルド長へ結果の報告があり、ギルド長から正式にCランクへのランクアップの通知を受ける。

 受付でカードを更新し、冒険者になって百九十六日目にしてCランクに昇格した。



 ギルドからの帰り道、ラルスたちから謝罪があった。



「迷惑をかけた。すまん」



 五人が一斉に頭を下げてきたので、



「まあ、俺はケガもしていないし、結果オーライということでもいいか。一つだけ教えてくれ。準備がすごく良かったんだが、何でなんだ?」



「それなりの謝礼をして、Bランクの先輩に教えてもらったんだ」



(なるほど、大学の過去問の継承みたいなものか。金を取るからちょっと違うか?)



 ラルスたちと別れた後、気になったことがあったので、フィリップに話を聞きに行った。

 聞きたかったのは、なぜシュバルツェンベルクでは試験官が同行するのかということで、不正防止ならどこのギルド支部でも同じはずなのにおかしいと思ったからだ。



 フィリップの答えは、



「やはり気になるかい。君にならいいだろう。本当の理由は……」



 フィリップの話を要約すると、

 シュバルツェンベルクでDランク、Cランクに昇格する冒険者はフィールドでの経験が浅く、試験で無理をして何人も死んでいる。

 迷宮では、階層ごとに決まった種類、数の魔物しか出てこない。相手が判っているし、想定外のことは起こりにくい。

 一方、フィールドでは、今回のようにオークを相手にするはずが、オーガが出てきたり、十匹でいいのに二十匹も出てきたりすることがある。

 フィールドでの経験があれば、索敵を怠らないのだが、ダンジョンの経験しかない冒険者は索敵が苦手で、討伐に夢中になり過ぎて大群に囲まれたり、強敵に気付かなかったりするそうだ。

 つまり、迷宮の冒険者は戦闘という点では能力が高いのだが、その能力も一定の条件下でしか発揮できない。汎用性のない冒険者ということになる。

 一生迷宮に潜っているのならいいが、ランクを得るということはフィールド系の討伐、護衛のクエストも受けられるということで、ギルドとしても中途半端な能力の冒険者のせいで犠牲を出したくないというのが本音だそうだ。



(なるほどな)



 確かに迷宮の敵は何が出てくるか判るから準備も楽だし、ミスさえしなければ突発的な事故もない。その点、フィールドではDランクの冒険者にオークロードが襲いかかってきたりするから、危険を察知する能力が高くないといけない。

 それを考えると戦闘力のダンジョン派、総合力のフィールド派ということになるのだろう。

 今回のラルスたちの行動を見ても、事前に情報を入手して準備したにも関わらず、思い通りに事が進まなくなった途端、動きがおかしくなっていった。この辺りのことを心配しているのだろう。



 フィリップの言葉にはなかったが、ギルドとしては、総合力を付けてもらった方がいいので、ダンジョンに来る冒険者はフィールドでの経験を積んだ者になるよう低層階の魔石の買い取り価格を極端に下げ、駆け出しの冒険者が逃げ出すようにしているのだろう。



 重要なことではないが、もう一つ気になっていたことがある。

 フィリップのことだ。彼はベテラン冒険者のような無頼漢ではなく、しゃべり方も丁寧でどうも場違いな感じがしていた。

 失礼かなとも思ったが、話を聞いてみたら、元々騎士の家の三男で継ぐべき家督もないので冒険者になり、Bランクまで上がった時、兄たちが相次いで亡くなったため、仕方なく一時家督を継いだそうだ。

 長男の息子、彼の甥が成人したのを機に家督を譲り、冒険者に戻ろうとしたが、体力的に厳しいだめ、ギルドの仕事を手伝うようになった。



(人当たりがいいから、若い冒険者の試験を担当するのにちょうど良かったんだろうな)



 フィリップに礼を言ってから、訓練場に向かう。

 ノーラたちにCランク昇格の話をするとリアクションがすごそうなので、今日のところは黙っておくことにした。

 一応師匠であるミルコにはCランクへの昇格を報告するが、「そうか」の一言で終わってしまった。



(もう少しなんかあってもいいと思うけど、逆にミルコから祝福されたら、引いてしまうんだろうな)



 そんなことを考えながら、Cランクになったギルドカードを胸に宿に帰って行った。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/29 15:50
更新日:2012/12/29 15:51
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

前の話 目次 次の話

作品ID:1389
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS